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やっぱり好き
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二週間前、ドアを叩く音で目を覚ました義経はなにが起こったのか分からず視界に広がる天井を見つめた。覚醒する頭は少しずつ昨夜の記憶を鮮明にし、義経は飛び起きた。
「っ!…いったぁ…!! 」
飛び起きた瞬間、腰に鈍痛が走り思わず声を上げ腰をさすると自分の体が綺麗にされ見覚えのある服を着させられていることに気付き、その瞬間、顔が熱くなった。同時に鮮明になったばかりの生々しい記憶がさらに追い打ちをかける。
「…そうだ……オレ…昨日……」
両手を頬に当て叫び出しそうになる義経だが、叩かれ続けている上に自分の名前を呼び続ける声にはっとして慌ててドアに向かった。
「おはようございます…!すみません…」
「おはよう、義経君。寝坊しちゃった?」
義経の顔を見て安心したように微笑むスタッフに義経はバツが悪く顔を見られないように俯いたまま数度頷いて答える。
「義経君は僕が家まで送っていくから準備出来たら声かけてね」
「オレだけ…?あのっ!チカは?」
「親慶君なら明け方に他のスタッフの車に乗って先に帰ったみたいだよ?」
本人から聞いてなかった?と不思議そうな顔をするスタッフさんに驚きを隠しつつ話を合わせ、帰宅の準備をするために部屋に戻ると真っ先にスマホを手に取った。先程のスタッフからと思われる着信が複数回並び、その下には親慶からのメッセージを告げる表示があり義経はおそるおそるそれを押した。
『悪い。急用が出来たから先に帰る』
短い用件だけのメッセージに義経は肩を落とした。
チカは昨日のこと………後悔してる…?
それからのことを義経は良く覚えていなかった。待機していてくれているスタッフのために急いで荷物をまとめようと鞄を開けると洗面台などに置いていたはずの私物が鞄に仕舞われ帰り支度がほぼ済んでいた。混乱しながらも鞄の中から服を取り出すとすぐに着替え、着ていた服を畳んで鞄へしまった。そしてスタッフのところへ行き自宅へ送り届けてもらった。
帰宅してからアイスショーの練習が始まるまでの数日間、親慶からの連絡はなく。義経からも連絡出来ないままでいた。
練習が始まり毎日顔を合わせることになっても、親慶は先に帰った理由を説明することどころが声をかけてくるも、視線すら合わせることもなくただ時間が過ぎていった。
義経もこの二週間、悩みながらも普段通りを装ってきたが解決の糸口さえ見えないこの状況に無意識に溜め息を溢す。
「なぁに溜め息ついてんだよ、義経」
「神楽コー………じゃなかった神楽、くん…」
「慣れねぇな、呼び方…」
「ずっとコーチだったからね…」
自販機が数台並ぶ休憩スペースに一人座って背中を丸めていた義経は力なく笑うと神楽は義経の頭を軽く小突いた。
結局、復帰会見後、親慶と義経のコーチを辞した神楽は同じ立場だからと自分のことを現役時代の呼称で呼ばせることに統一した。が、義経はどうしても呼び慣れず、つい今までどおり『神楽コーチ』と呼んでしまう。
「親慶から大体の話聞いたんだけど…」
「…はな、し……って…?」
どきっ、と心臓が跳ねるのを感じた義経はごくりと喉を鳴らし、複雑な感情のまま上目遣いで神楽を見つめた。
「お前達二人が気まずい理由?」
触れられたくない傷跡を塩を纏わせたナイフでえぐられてしまえば、それは簡単に致命傷へと変わり義経は体中から血の気が引いた。
「っ!ぁ、どこまでっ…!!」
「…多分、今お前が想像した全部…」
「や、やだっ!!」
一瞬で首まで赤く染めた義経は羞恥に耐えられなくなり、逃げ出そうと立ち上がったところで神楽に腕を掴まれ強く引かれると簡単にその腕の中に捕まってしまった。状況が理解出来ない義経だったが神楽の腕の中で暴れるのは躊躇われたため大人しく神楽の出方を待った。逃走を諦めた義経を見て神楽は数回、落ち着かせるように義経の背中を叩いてやる。
「………こういう時ってさ…赤飯炊くべきか?」
「なっ?!なんでそんなこと言うのっ!!」
「悪い、悪い!お前があんまり可愛くて意地悪したくなった」
本気なのか冗談なのか分からない神楽の提案に少しだけ落ち着きを取り戻していたはずの義経の顔は再び真っ赤に染まり上がり、やはり逃げようと神楽の胸を押すが体格差では敵わず抵抗は封じ込められてしまう。
「そんな意地悪するためにオレのところに来たの…?」
恨めしく涙目で睨み付けると先程まで笑っていたはずの神楽は優しく微笑み義経の頭を撫でた後、義経の顎に人差し指を添えて自分を見上げるように顔を上げさせる。
「…神楽くん…?」
二人の間に流れる空気が変わったことを感じた義経は身じろぎせず意図的に重ねられた視線を逸らすことなくじっと神楽を見つめる。
「…俺にしとくか?」
「……ぅ?え?」
「俺だったらあいつみたいにお前を一人だけ残して帰る事なんてしないし、責任はちゃんと取るぜ?」
「…」
「身長と顔はあいつには勝てねぇかもしれねぇけどフィギュアの元絶対王者で気心知れた仲だし、条件は悪くねぇだろ?」
「な、なに言ってるの……?」
およそ普段の神楽からは想像できない口説き文句に義経は再び神楽の胸を押してみるがやはり意味はなく、視線も逸らせない。神楽の親指が意思を持って義経の唇をなぞると小さく肩を震わせ熱い吐息が漏れた。
「このまま、少しじっとしてろ…」
「え…?」
突然、耳元で囁かれ、意味が分からない義経がそのまま見上げていると神楽は口元だけで笑みを作っていた。
「あんな薄情な奴なんかより俺の方がお前の事分かってるし、大事にする」
「っ…」
少しだけ大きくなった声に義経の頭にはますます疑問符が浮かぶが神楽はその様子も面白そうに口元の笑みを強くした。
二週間前、ドアを叩く音で目を覚ました義経はなにが起こったのか分からず視界に広がる天井を見つめた。覚醒する頭は少しずつ昨夜の記憶を鮮明にし、義経は飛び起きた。
「っ!…いったぁ…!! 」
飛び起きた瞬間、腰に鈍痛が走り思わず声を上げ腰をさすると自分の体が綺麗にされ見覚えのある服を着させられていることに気付き、その瞬間、顔が熱くなった。同時に鮮明になったばかりの生々しい記憶がさらに追い打ちをかける。
「…そうだ……オレ…昨日……」
両手を頬に当て叫び出しそうになる義経だが、叩かれ続けている上に自分の名前を呼び続ける声にはっとして慌ててドアに向かった。
「おはようございます…!すみません…」
「おはよう、義経君。寝坊しちゃった?」
義経の顔を見て安心したように微笑むスタッフに義経はバツが悪く顔を見られないように俯いたまま数度頷いて答える。
「義経君は僕が家まで送っていくから準備出来たら声かけてね」
「オレだけ…?あのっ!チカは?」
「親慶君なら明け方に他のスタッフの車に乗って先に帰ったみたいだよ?」
本人から聞いてなかった?と不思議そうな顔をするスタッフさんに驚きを隠しつつ話を合わせ、帰宅の準備をするために部屋に戻ると真っ先にスマホを手に取った。先程のスタッフからと思われる着信が複数回並び、その下には親慶からのメッセージを告げる表示があり義経はおそるおそるそれを押した。
『悪い。急用が出来たから先に帰る』
短い用件だけのメッセージに義経は肩を落とした。
チカは昨日のこと………後悔してる…?
それからのことを義経は良く覚えていなかった。待機していてくれているスタッフのために急いで荷物をまとめようと鞄を開けると洗面台などに置いていたはずの私物が鞄に仕舞われ帰り支度がほぼ済んでいた。混乱しながらも鞄の中から服を取り出すとすぐに着替え、着ていた服を畳んで鞄へしまった。そしてスタッフのところへ行き自宅へ送り届けてもらった。
帰宅してからアイスショーの練習が始まるまでの数日間、親慶からの連絡はなく。義経からも連絡出来ないままでいた。
練習が始まり毎日顔を合わせることになっても、親慶は先に帰った理由を説明することどころが声をかけてくるも、視線すら合わせることもなくただ時間が過ぎていった。
義経もこの二週間、悩みながらも普段通りを装ってきたが解決の糸口さえ見えないこの状況に無意識に溜め息を溢す。
「なぁに溜め息ついてんだよ、義経」
「神楽コー………じゃなかった神楽、くん…」
「慣れねぇな、呼び方…」
「ずっとコーチだったからね…」
自販機が数台並ぶ休憩スペースに一人座って背中を丸めていた義経は力なく笑うと神楽は義経の頭を軽く小突いた。
結局、復帰会見後、親慶と義経のコーチを辞した神楽は同じ立場だからと自分のことを現役時代の呼称で呼ばせることに統一した。が、義経はどうしても呼び慣れず、つい今までどおり『神楽コーチ』と呼んでしまう。
「親慶から大体の話聞いたんだけど…」
「…はな、し……って…?」
どきっ、と心臓が跳ねるのを感じた義経はごくりと喉を鳴らし、複雑な感情のまま上目遣いで神楽を見つめた。
「お前達二人が気まずい理由?」
触れられたくない傷跡を塩を纏わせたナイフでえぐられてしまえば、それは簡単に致命傷へと変わり義経は体中から血の気が引いた。
「っ!ぁ、どこまでっ…!!」
「…多分、今お前が想像した全部…」
「や、やだっ!!」
一瞬で首まで赤く染めた義経は羞恥に耐えられなくなり、逃げ出そうと立ち上がったところで神楽に腕を掴まれ強く引かれると簡単にその腕の中に捕まってしまった。状況が理解出来ない義経だったが神楽の腕の中で暴れるのは躊躇われたため大人しく神楽の出方を待った。逃走を諦めた義経を見て神楽は数回、落ち着かせるように義経の背中を叩いてやる。
「………こういう時ってさ…赤飯炊くべきか?」
「なっ?!なんでそんなこと言うのっ!!」
「悪い、悪い!お前があんまり可愛くて意地悪したくなった」
本気なのか冗談なのか分からない神楽の提案に少しだけ落ち着きを取り戻していたはずの義経の顔は再び真っ赤に染まり上がり、やはり逃げようと神楽の胸を押すが体格差では敵わず抵抗は封じ込められてしまう。
「そんな意地悪するためにオレのところに来たの…?」
恨めしく涙目で睨み付けると先程まで笑っていたはずの神楽は優しく微笑み義経の頭を撫でた後、義経の顎に人差し指を添えて自分を見上げるように顔を上げさせる。
「…神楽くん…?」
二人の間に流れる空気が変わったことを感じた義経は身じろぎせず意図的に重ねられた視線を逸らすことなくじっと神楽を見つめる。
「…俺にしとくか?」
「……ぅ?え?」
「俺だったらあいつみたいにお前を一人だけ残して帰る事なんてしないし、責任はちゃんと取るぜ?」
「…」
「身長と顔はあいつには勝てねぇかもしれねぇけどフィギュアの元絶対王者で気心知れた仲だし、条件は悪くねぇだろ?」
「な、なに言ってるの……?」
およそ普段の神楽からは想像できない口説き文句に義経は再び神楽の胸を押してみるがやはり意味はなく、視線も逸らせない。神楽の親指が意思を持って義経の唇をなぞると小さく肩を震わせ熱い吐息が漏れた。
「このまま、少しじっとしてろ…」
「え…?」
突然、耳元で囁かれ、意味が分からない義経がそのまま見上げていると神楽は口元だけで笑みを作っていた。
「あんな薄情な奴なんかより俺の方がお前の事分かってるし、大事にする」
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