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Special ② (聖奈さん♡)
綺麗な花には棘がある①
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聖奈様に書いて頂きました。
拘束/くすぐり/羞恥/玩具/言葉責/連続絶頂
攻→亜蘭/視点
受→桜花
◇ ◆
「あ~~~っ腹減った~~~!!」
「俺も~~~」
俺が桜花センパイにイタズラしだしてからというもの、早朝叩き起こされてはしょっちゅう朝練と称してめちゃくちゃにランニングをさせられていた。渚を巻き込んだあの小説事件からは仲良く一緒に特訓をさせられているおかげで体力と肺活量は飛躍的に上がったはいいものの、ようやく皆が起きだして朝食の時間になる頃には俺と渚だけこの通り既にクタクタになって食堂に現れるのだ。
「あー俺大盛りで!今クッソ腹減ってっから無限に食える!誰かさんのせいで!」
「俺も亜蘭ほどじゃないけどいっぱい盛っといて!」
トレイを持ちながら食事係の子に大声で注文すると、『またかぁ』というように苦笑いを浮かべながらご飯を山盛りよそってくれた。おかずは流石に一人分が決まっているので無理は言えないが、余った時にはこっそり貰っているのは内緒だ。漫画盛りのようなお茶碗をトレイに載せて席をどこにするか二人でウロウロ迷っていると、眠そうな目を擦りながら同じく席を探している千隼が目に入ったので声をかけた。
「よー千隼チャン!一緒に飯食わね?」
「おはよー亜蘭、渚…って何その盛り盛り!それ頼んだらいけるわけ?!というかよくそんな朝っぱらから食べられるね…」
いきなり声をかけられて振り向いたらコレだったので、比較的よく食べる渚をしょっちゅう見ている千隼も目を丸くして俺のご飯を見つめていた。
「寝ぼすけなおこちゃまと違って意識高い俺達はアサカツしてんのー。クソ走ってシャワー浴びて飯食って後はもう寝るだけ~」
「いや今からおはようございますだろ。そんなんだからいつも座学の時爆睡して頭思いっきりはたかれんだよ」
呆れた顔をした真面目エリートの正論を朝からぶつけられながらも、俺達ヤンチャ組は負けじと反論する。いや、年下に諭されて余計にカッコ悪いだろという話だけど今はランニング後の開放感からなのか、ただなんか騒ぎたいだけだ。
「うるせー人間の本能に従って生きてんだよ!つーか渚だって寝てる時あんのに何でいつも俺ばっかり怒られんだ?!」
「俺は亜蘭みたいに堂々とよだれ垂らしながら寝ないもん!気づかれないように上手く寝る!」
でかい声で喋り合いながら隣同士に座った俺と渚は、朝っぱらからよくそんな元気にぎゃあぎゃあと騒げるなと周りから呆れられた目で見られているが大体風呂で一緒になった時もこんな感じだ。組織の中でも特にやんちゃな二人がすっ裸になってふざけ合っているのも日常茶飯事としてハイハイまたですかとやり過ごされている。
そんなやりとりをしながらやっと席を決めて座ろうとすると、今まさにキラキラと爽やかなオーラを纏った桜花センパイがさらっと食堂に入ってきたのだ。いつもは後輩達と時間をずらして来ることが多いのに今日はまたどうして…と気まずく思いながらチラチラと横目で見ていると、食事を受け取ったセンパイは迷わずこちらの席に向かってきた。
「千隼くんおはよう。亜蘭くんと渚くんとはさっきまでも会ってたけどね、隣座って良いかな?」
「お、おはようございます。ど…どうぞ!」
いきなり声をかけられた千隼は滅多に会話することのない桜花センパイにテンパっているのか、ぎこちない動作で隣の椅子を引いてあげていた。渚は俺の隣、千隼は斜め前に座っていたのでちょうど正面にセンパイが来てしまい、俺・渚・千隼・桜花センパイというなんとも珍しい組み合わせのテーブルが完成してしまった。
しっかり手を合わせ「いただきます」と呟き箸を取るセンパイの所作は食事の時まで完璧で、味噌汁飲んでるだけでサマになるとかなんなんだよと思いながらも、正直こういう普通の場で真正面は何故か少し気恥ずかしくなる。俺から近づく時はそんな恥ずかしいなんて微塵も思わず、むしろセンパイの慌てる顔を拝んでやろうとさえ思うのにどうしてなんだろう。いやいやテーブルなんだから対面して当たり前だ!と理由をつけながらも、なんとなくちゃんと目を合わせたくなくて盛られたご飯をガツガツ流し込む。
「たくさん食べるのは良いことだけどしっかり噛まないと駄目だよ」
俺が色々無駄に考えてるこんな時でも小言を言ってくるセンパイに少し顔が熱くなり、逆に何でアンタはそんな優雅に食えんだよ!とモグモグと口を動かしながら反論してやった。
「食べながら喋らないの。あとお箸で人を指さない。ちびっ子達も見てるでしょ?」
「んぐっ…あ~ご指摘どうも以後気をつけますー。渚ぁ~俺のマネすんなよ喉詰まるからな」
ついさっきまで嫌と言うほど走らされ文句を垂れながらも顔を合わせていたセンパイともこうやって改めて食事をしていると少し別人のように思えてくる。…別人って何だ?さっきまでと一緒だろと、何考えてんのか自分でもよく分からない俺はまた何か小言を言われないように飯だけを見つめながらお茶碗を手に取り残りのご飯を胃にかき込んだ。するとそんな俺の様子をぼけーっと見てた渚が一言。
「なー亜蘭なんか顔赤くない?いっぱい食うけど流石にいつもそんな慌てて食わないじゃん。どーしたの?大丈夫?」
「ーーッ!?」
いきなり飛び出た、悪気は無いんだろうけど今それ言うなよ発言に俺は目を開きおもいっきりむせて咳き込んでしまった。コイツ、前から思ってたけどナチュラルノンデリだよな。
「あ~あ~言ってる側から亜蘭が喉詰まらせてんじゃん!ほら水水!」
「ごほっ…な、渚お前ちょっと空気読む勉強した方がいいぞ…ごほっ…まぁお前はそのままの方が良いか…」
コップを渡してくれた渚はどこまでも真っ直ぐな目で俺を心配している。顔が赤くなってたのは体調が悪いのかとでも思ってくれたのだろうか。もはやこういう鈍感で素直すぎる所も皆から愛されてんだろな、と俺は諦めてありがたく注がれた水を飲み干した。斜め前の千隼もあせあせと気まずそうに俺と渚を見ながらティッシュを数枚取って渡してくれるが、そんな俺達のやりとりを見ながら相変わらずセンパイはクスクスと口に手を当てて上品に笑っており、くそっ…そもそもアンタのせいなんだからな…とこっそり歯を食いしばった。
(ここに来ておとなしく手を出さずにしてきた半年間は何言われてもうるせーとしか思わなかったし、ただいちいち注意してくる煩い先生ぐらいにしか思ってなかったのに。何で俺は今顔赤くなってんだ?…てゆーか、何で今アンタのせいだとか勝手に思っちゃったワケ?)
咳き込みもおさまって冷静にさっきまでの自分を判断すると、更にグルグルと思考がまとまらず折角の美味しい飯の味がしないような気がして考えるのをやめた。これ以上顔に出したら三人から揶揄われそうな気がする!
「ご馳走様でしたっ。んじゃ俺は先部屋に戻らしてもらうんであとは三人でどーぞ!」
「えーほんと今日どしたの亜蘭?いつもみたいにずーっとダラダラ喋っ…」
だからそーゆーこと言わなくていいの!と思わずツッコミたくなるような頭にハテナマークを付けている渚と慣れないメンバーのテーブルに取り残され『えぇ…お前が先帰るのかよ』といった顔で俺を引きとめようとする千隼を後にして普段中々片付けない食器も速攻で返しに行き、そそくさと食堂から逃げるように退散したのであった。
「アイツ用事なんて無いだろ。せっかく集まったんだからもうちょっと俺達と喋っていけば良いのになー」
「…半分ぐらいは渚のせいかもな」
「えぇ?!俺なんもしてないじゃん!」
意味が分からないといった顔をした渚と千隼の会話と、それに対しても微笑ましく笑っている桜花センパイがチラリと見えたような気がするが振り向くのもカッコ悪く、特に用事もないのに自室に走って戻った。渚が言うように本当は俺ももっと皆とダベっていたかった筈なんだけど…なんか、なんか悔しい!
(俺にも散々責められてるハズなのにあの余裕な顔がさぁ…?そんないつも澄ました態度とられたら『私は全然いやらしい事には興味ありませんよ』みたいな聖人ぶってる仮面を剥がしてやりたくなるんだよなァ…)
部屋に戻るなりボスンとベッドにダイブした俺は仰向けに寝転がりながらそんな想像を勝手に膨らませていた。他の奴らが何してようがどーでもいいやとしか気にならなかったし適当に楽しく過ごしてりゃいいやとばっかり思ってたけど何なんだよこのモヤモヤしたやつは。
(あの冷静なセンパイが涙目でおねだりしてくる姿最っっ高に可愛かったな…センパイのああいう乱れたトコ知ってんのって俺だけなのかな。任務でも殆ど失敗したこと無いらしいし、お気に入りみたいな教え子の柚木さんは自分から仕返しとかしなさそうだし。でも一緒にセンパイを擽ってる時かなり楽しそうだったよなぁ)
一人きりの空間で一度考え出すと余計にソワソワしてくる。俺があの人を間近で責めている時の異様な熱や高揚感、瞬きももどかしい程離せない視線。それはきっと他のどいつでも味わえないんだろう。何度だって体感したいし、むしろ例えるならいくら食っても食っても余計に腹が減るようなーーそんな感覚。俺は天井を眺めながらポツリと呟いた。
「何なんだろうなぁ」
胃はいっぱいで眠いのに、何かに飢えている。
その何かを満たしたくてたまらない。さっき目の前からわざわざ逃げてきたのに思い浮かぶのはそのことばかりでもどかしさが増える一方だ。
(そういや桜花センパイは今日一日オフだったか。俺もこの後簡単な雑用こなしたら午後からフリーだから丁度…)
俺は自分でも分かる程ニヤリとして一つの策を思いついた。勿論決して褒められたものではないやましい案だがどうにも収まらない己の欲求を満たすためにはいたしかたないと自己中極まりない理屈を付け、これから有意義な時間を過ごすべくベッドから飛び起きた。
(朝の雑用ついでに訓練部屋にある道具も勝手に漁ってやろうか。見つかったら掃除してましたぁとでも言やぁいいし)
先程まで午前中だけの仕事も面倒臭く、このまま眠ってしまいたくて仕方なかったのにやる気になった途端一気に目が冴えてくる。…そのやる気は使い所間違ってるっちゃ間違ってんだけど、俺にとっては何よりも燃える理由らしい。
未だにこのモヤモヤしたのは何なのかハッキリとは分かんねーけど…よし!この間も再訓練だとか言って俺にめちゃくちゃしてきたし、ちょーっと仕返ししてあげたいなと思ってたところだ。少しばかり強めのイタズラを仕掛けても問題ないんじゃないか?
「自分がしたことをやり返されても文句言えないですよねぇセンパイ…?あはは、今度はどんな顔見せてくれんのかな。楽しみで仕方ねーや」
自分しか居ない部屋で大きく独り言を呟いて笑い、これからの妄想を膨らませながら俺は音符マークが飛んで見える位ルンルンで朝の雑用に出かけたのだった。
◇ ◆
「セーンパイ。今日お休みでしたっけぇ?」
廊下を歩いている最中偶然を装ってひょこっと後ろから顔を出した俺に桜花センパイはさして驚いた様子もなく、後ろにいる事は分かってたよとでも言いたげな落ち着いた声で対応した。
「どうしたの亜蘭くん?朝食の時はせっかく可愛い後輩達と喋ろうと思っていたのに一人だけ先に帰っちゃって残念だったな。けどあの後普段あまり関わる事の無い千隼くんと渚くんとはゆっくりお話できたけどね。たまには違う人と一緒に食事するのも悪くないと思ったよ」
へぇそりゃ良かったですねーと棒読みぎみの作り笑顔で答えた俺は早速今日の作戦を仕掛けることにした。
「この前は再訓練どうもありがとうございました~。おかげでセンパイのやり方学べましたぁ」
「そう、それは良かった。今は役職についた後輩達がしっかりしてくれてるから俺が直接訓練するのは久々だったけど、やっぱり自分自身の技術も磨いておかないとなと思ったね。…で、亜蘭くんからまたいきなり話しかけてくれたのはどうして?避けられてるかなと朝からちょっと不安だったんだけど」
何か言いたいんでしょというようにこちらを向いた流れるような優しい目線。…まただ。この吸い込まれるような眼を向けられると今朝みたいなよく分からない何だか恥ずかしいような気持ちになってしまう。思わず呑まれそうになる自分をグッと抑え言葉を切り出した。
「さっき朝の仕事終わって俺この後予定無いんですけど、もし桜花センパイも予定ないなら…その…再訓練また付き合って欲しいなーって思ってて…センパイの指導は…えーっと…ためになるから…?」
後頭部を掻きながら、俺はわざと控えめな声で遠慮しがちに目線を逸らし呟いた。この人なら俺の演技なんて簡単に見破ってくるだろうが少しでも興味を引ければそれで良い。
「…へぇ、君がまたそんなこと提案してくるとは予想外過ぎるけど。朝も特別にランニングの特訓してたのにまだそんなやる気があるとはね。いいよ、俺も今日予定無くてどうしようか迷ってたから付き合ってあげる」
絶対に何か企んでるだろうと渋られると思っていたが、あっさりすぎる承諾に思わずキョトンと間抜けな顔をしてしまった。それを見てふふっと意味ありげに笑う桜花センパイ。
「俺も柚木くんの休日にこっちから訓練に誘ったこともあったしね。後輩のお願いはできるだけ聞いてあげたいよ」
「え~お休みなのにわざわざありがとうございます~。断られると思ってたのになぁ。じゃあ早速俺の部屋来てもらっても良いですか?出来るだけ片付けてあるんでぇ」
すんなりと事が運び心の中でガッツポーズをしている俺は、あくまでも今から先輩に訓練をしてもらうというテイを忘れずニヤケ顔を表に出さないよう少し緊張した雰囲気を出しながら自室まで案内した。…やろうと思えば今から理由つけて断ることも、無理矢理俺が引っ張ったとしても振りほどける程の実力差はあるはずなのにいつも通りの顔で素直に俺の後をついてきてくれる。ちょっとは怪しいと思わないのか?
「俺のベッド使おうと思ってるんですけどそれでいいっすか?」
「うん。君の好きなようにどうぞ」
部屋の前まで来て扉に手をかけても疑いの一つ聞き返してこない。…分かっててわざと乗ってやってる強者の余裕ってヤツ?そうだとしたらナメられてるみたいでちょっと燃えるけどなァ。
「はいどうぞー、いつも叩き起こしに来てくれる時にチラッと見てるとは思いますけど俺の部屋こんな感じになってまーす。あ、適当にどっか座って待ってて下さい。俺服脱いで準備するんで」
「本当にちゃんと片付けてあるんだね。偉い偉い」
ドアを開けて先に入ったセンパイは、こんな昼間にしっかりと俺の部屋に入ったことが無いからか無防備にキョロキョロと興味深く部屋を見渡していた。…今、ドア側を背にしてるのは俺。このまま鍵をかければ密室になる。後ろに注意が回っていない。抵抗するのに若干反応が遅れるであろう今がチャンスーー。
ガチャリと素早く内鍵を閉めるやいなや、死角からセンパイの両手をぐっと後ろに引きあらかじめ訓練部屋から拝借し隠し持っていた手錠で拘束し、そのまま力任せにベッドに押し倒した。
「…!」
まだ自由な足で蹴りをくらわされるかと思い集中して身構えたがどうもセンパイにしては手応えがなさ過ぎる。受け身も取らず柔らかなベッドにうつ伏せで倒れ込まされたまま怒鳴るどころか抵抗という抵抗をしてこない…そして代わりに放たれた一言は。
「…ま、こんなことだろうとは思ってたよ」
それを聞き、逆に俺の気持ちは安定した。本当に最初から騙されてんならチクっと心が痛むけどさぁ…ハッ、やっぱ甘く見られてんの?
「じゃあなんで途中で逃げなかったんすか?そんな余裕出されるとなんか余計に燃えるんですけど?俺相手なら多少油断しても大丈夫って思ったの?」
「…ふふっ。朝から君があまりにも顔に出すぎるから見てるのが面白くてね。演技も下手すぎるし、このままついていったらどうなるのか単純に気になって。ま、大体こんな感じの想定内の結果だね」
うつ伏せで後ろ手に拘束されながらも余裕のあり過ぎる態度を見て自分の心は完全に火がつく。今の言葉で本当に体温が一瞬で上がったように自らの熱も感じた俺は、そういう事なら遠慮することは無いと完全に吹っ切れてセンパイに覆い被さり、耳元へ口を寄せた。
「まだそんなにナメられてんなら心外っすねぇ。センパイが俺にアンアン泣かされたり必死でおねだりしてきたことも忘れちゃいましたぁ?じゃあもう一度忘れないようにしーっかり教えてあげ…」
「ナメてなんかないよ。馬鹿にもしてないし君は半年で凄く成長してくれたと思う。ランニングも頑張ってくれてるし、こうやってすぐヤンチャしたり生意気な所もあるけどそれを含めて君らしいよ」
その言葉で更に俺は混乱する。寝込みを襲ったりスノードームに入れた時は多少なりとも焦ったり反抗的な顔を見せてくれたのに今日はここまでしてどうしてそんな態度が取れるんだ。もっと焦って、不安そうに縋る目で俺を見つめて欲しい。強気な態度が崩れる瞬間を、俺にもっと見せて欲しい。
「この状況でよくそんな冷静に喋れますね。俺の事褒めてくれんのは…その…まぁ正直に嬉しいっすけど。今から何されるとか焦らないんですか?センパイの焦った顔すげー見たくて期待してたんですけど?」
「うん、君はそういうの好きなの知ってるから逆に落ち着いて対応してるの。俺も毎回学習してるからね、はい。じゃ、気が済んだならこれ外してくれない?」
ガチャガチャと手錠を鳴らすセンパイの顔は本当に落ち着いているように見え、演技かもしれないが何だか余計にその顔をめちゃくちゃにしてやりたくてやりたくて仕方ない。今にも手が出そうになるところを、もう少し対話して焦らすかと自分で自分の手を抑える。
「…は?煽ってんですか?これで気が済むわけ無いでしょ?自分から罠にかかりにきたんだから何されても文句言えないですよね?あーあ。再訓練の仕返しでちょっと擽ってあげようと思ってただけなのにそーんな事言ってくるんじゃ俺も強めに予定変更しちゃいますよ?」
「ねぇ、さっきから疑問形の語尾ばっかりになってるし焦ってるのは君の方かもね。こんなまどろっこしいやり方せずに正面から俺に襲いかかる程の勇気は無かったのかな?…あと、今更だけどこの手錠君のじゃないよね、どっから持ってきたの?正直に答えたら俺にこういう事した罰は見逃してあげるよ」
ここでぷつっと耐えていた俺の我慢に早くも限界が来てしまい、うつ伏せになったセンパイの臀部にのしかかってしっかりと体重をかけ直し、両手で脇腹をいきなり強めに擽ってやった。
「ーーーっ!!」
「こんな時でもごちゃごちゃお説教かましてくるセンパイは今いらないんですよね~。ほーら、センパイは笑ってた方がずっと可愛いでちゅからね~」
バタバタと手錠で止められた手を必死に動かし、声を抑えながらビクビクと震える身体を見ていると思わずこちらの笑みが溢れ、愛おしい気持ちになってくる。…ああ、モヤモヤに隠れていた飢えが満たされていくのを感じる。そう、この感じ。これが欲しかった。
「~~っっ…!やめな、さいっ…!んんっ…今なら、まだっ…あははっ、許してあげる、からっ…!」
「余裕ぶっこいてた演技なのか演技じゃないのかセンパイは俺と違って上手過ぎて分かりませんけどぉ、知ってて逃げなかったセンパイが悪いんじゃないですか?この前の再訓練で教わった成果も見せてあげますから、半年前の俺のテクニックと同じだと思わない方が良いですよ?」
服の裾に手をかけ、捲り上げられる範囲で上着とインナーを捲るとセンパイの透き通るような白い素肌が現れた。少し火照っているせいかほんのりと赤みを帯びており、男ながら見惚れるほどの美しさがある。思わずペロッと舌なめずりをして、今度は腰のくびれを揉むように手を沿わせる。
「…や、やめ…!」
「やめるわけないっしょ?」
やっと焦りを見せてくれたことに大いに満足し、ノッてきた俺はすぐさまぐにぐにと腰の筋肉をほぐすように揉んでやる。
「~~~っはははは!!嫌っ、やめなさいっ!~~ッ”!!や、いゃはははははっ…!」
「ほら~笑い声抑えられてないじゃないっすかぁ。俺には我慢しろって命令しながら自分は出来ないんですかぁ?ほらほらぁ?」
「…!くくっ…、ん”っ、ッ…!ふぐっ…や、め…!」
流石に上司としての面子を保ちたいのか、俺が指摘すると一層身体を強張らせてベッドに顔を埋めながらふるふると耐え始めた。そんな必死に頑張る姿も唆られてたまらない。もっと見ていたいが、その頑張りが瓦解する所も楽しみすぎて乗せていた体重を太腿にずれて移動させると、腰を擽っていた指を離して今度はズボンに手をかけ、下着ごと引っ張りぺろんとお尻を露出させてやった。
「ーー何やってんの…ッ!!」
埋めていた顔を上げてガバっと振り向き、体勢的にも苦しそうにこちらに半分ほど顔を向け睨んできた。はらりと髪のかかった顔は先ほどよりも明らかに赤くなっており、目も少し潤んでいる。俺の擽りが効いたのか、尻を丸出しにされるのが余程恥ずかしいのか。どちらでも俺にとっては好都合で、そのまま見せつけるようにサワサワとお尻を優しく擽ってやる。
「ん”…っ!…ふふっ…!っ、あっ…あ…そこ、は、恥ずかしい…から、んんっ…!」
上半身を擽っていた時とは違う、もじもじとした艶めかしい反応を魅せてくるので俺も少し昂ってしまう。そういや桜花センパイは恥ずかしいことをしたり言わせたりしたら感度が上がったっけ。
「引き締まってるけど柔らかくてすげー触り心地良いですよ?触る度にぴくぴく震えてるのも可愛いし。あ、もしかしてお尻擽られるの弱点ですかぁ?自分が弱いからって後輩にもこういう訓練してたり?」
今度はこちょこちょと尻の上で十本の指を踊らせてやる。すると面白い位に全体がビクビクと跳ね、抑えきれていない笑い声と甘い声が混じったものが漏れ出てくる。
「~~~ぁはははっ!…っ、ゃあっ…め…そこ…!~~ッ”ッ”!!」
「ほんっとセンパイの反応可愛くて仕方ないっすね。俺が来るまでセンパイって今まで攻める側ばっかで実は攻められたこと無かったんじゃないですか?もしかして敵組織に捕まってイタズラされたのも俺が初めて?だったら嬉しいなぁ…ねぇさっきから質問してるんですけど一つぐらい答えて下さいよぉ」
俺を浮き上がらせそうなほど力強く暴れる脚に体重をかけ制御しながら尻を色々な方法で擽り続ける。何とか刺激から逃れようと苦悶し捩れる上半身はしっとりと汗ばんできており、さっきまでの余裕ある態度は何だったのかとフフッと笑ってやった。
「ねーセンパイわざと捕まりに来た割にはよわよわ過ぎません?これも想定内の結果なんですかぁ?なーんにも答えてくれない子には身体に聞かないとな~」
「…っ煩い!いい加減黙…あはははははっ!!」
質問に全然答えてくれない上に未だ命令口調で反抗してくる罰として、瞬時に尻から脇腹に両手を移動させ指を食い込ませるように思いっきり擽ってやった。お尻で感じさせるような擽りから、擽ったさだけのキツい刺激に変わったことで最初に脇腹を狙った時よりもずっと激しく悶えてくれている。
「ッ~~ぁはははは…!やめなさ…っははははは!!」
おそらく桜花センパイは風見センパイのように元々擽ったさに耐性が有る方じゃないんだろう。刺激を感じやすい身体を自分で努力してここまで強くしてきたんだろうか、などとふと考えながらあまりにも暴れまくる上半身を押さえるように後ろから全身で覆い被さる。俺より小柄なセンパイの肺を圧迫し過ぎないようにかける体重に気をつけながらも脇腹をグリグリといじめ続けてやると、笑い声の中にすすり泣くような声が混ざり始める。
「…も”、わかったからっ…ひぐっ!ひ、ひゃははははっ…それ、やめでっ…!んあぁっ…!」
覆い被さるポジションになったことで覗けるようになったセンパイの顔を見てやると耳まで赤く染まっており、ぎゅっと閉じた目からはポロポロと涙をこぼしている。その下のベッドシーツは涙と涎でぐっしょりと濡れており、俺が横から覗き込んでいる事にやっと気付いたセンパイはふいっと逆方向に顔を背けた。それをいいことに俺は耳元に息がかかる程口を近づけてねっとりと囁いてやる。
「セーンパイ。擽られるの気持ちいい?」
耳を責められビクッと分かりやすく反応した火照る身体にフフッと俺の口からも歓びが溢れた。…ああ、このまま耳を責めまくってやろうか。それとも俺に懇願してくるまで弱点を集中的に責めてやろうか。それとも…
俺は一旦手の動きを止め、体力が削がれたことで随分弱くなってしまったセンパイの脚の力を感じながら次の楽しみ方を思案した。その間やっと与えられた休息に息を整えることで必死になっているセンパイ。今なら俺が完全に離れたところで大して反撃出来ないだろう。うつ伏せでというのも征服感があって中々良かったが、やっぱり恥ずかしい格好にして正面から責めてやりたい。そうだな、時間はたっぷりあるのだから…こんな序盤で消耗されきってしまっては面白くない。
「真面目すぎて責められてる間は質問に答えない癖がついちゃってるんですか?まーそれはいいけど勿論センパイならまだまだ全然平気ですよね?センパイは俺がどんだけ泣き叫んでも止めてくれなかったし、俺も手加減するつもり無いんで最後までしっかり付き合ってもらいますよ。だって、君の好きなようにどうぞって言ってくれましたもんね?」
「……」
反論の為に声を荒げたところで無駄に体力を消費するだけだと判断したのだろうか、かなり息も心臓の鼓動も落ち着いたセンパイはギリッと歯を鳴らし、乱れた前髪の隙間から殺気を含んだ眼差しをこちらに向けてきた。
…あー、そうそう。そういう強気な態度、やっと取ってくれんじゃん?
→
拘束/くすぐり/羞恥/玩具/言葉責/連続絶頂
攻→亜蘭/視点
受→桜花
◇ ◆
「あ~~~っ腹減った~~~!!」
「俺も~~~」
俺が桜花センパイにイタズラしだしてからというもの、早朝叩き起こされてはしょっちゅう朝練と称してめちゃくちゃにランニングをさせられていた。渚を巻き込んだあの小説事件からは仲良く一緒に特訓をさせられているおかげで体力と肺活量は飛躍的に上がったはいいものの、ようやく皆が起きだして朝食の時間になる頃には俺と渚だけこの通り既にクタクタになって食堂に現れるのだ。
「あー俺大盛りで!今クッソ腹減ってっから無限に食える!誰かさんのせいで!」
「俺も亜蘭ほどじゃないけどいっぱい盛っといて!」
トレイを持ちながら食事係の子に大声で注文すると、『またかぁ』というように苦笑いを浮かべながらご飯を山盛りよそってくれた。おかずは流石に一人分が決まっているので無理は言えないが、余った時にはこっそり貰っているのは内緒だ。漫画盛りのようなお茶碗をトレイに載せて席をどこにするか二人でウロウロ迷っていると、眠そうな目を擦りながら同じく席を探している千隼が目に入ったので声をかけた。
「よー千隼チャン!一緒に飯食わね?」
「おはよー亜蘭、渚…って何その盛り盛り!それ頼んだらいけるわけ?!というかよくそんな朝っぱらから食べられるね…」
いきなり声をかけられて振り向いたらコレだったので、比較的よく食べる渚をしょっちゅう見ている千隼も目を丸くして俺のご飯を見つめていた。
「寝ぼすけなおこちゃまと違って意識高い俺達はアサカツしてんのー。クソ走ってシャワー浴びて飯食って後はもう寝るだけ~」
「いや今からおはようございますだろ。そんなんだからいつも座学の時爆睡して頭思いっきりはたかれんだよ」
呆れた顔をした真面目エリートの正論を朝からぶつけられながらも、俺達ヤンチャ組は負けじと反論する。いや、年下に諭されて余計にカッコ悪いだろという話だけど今はランニング後の開放感からなのか、ただなんか騒ぎたいだけだ。
「うるせー人間の本能に従って生きてんだよ!つーか渚だって寝てる時あんのに何でいつも俺ばっかり怒られんだ?!」
「俺は亜蘭みたいに堂々とよだれ垂らしながら寝ないもん!気づかれないように上手く寝る!」
でかい声で喋り合いながら隣同士に座った俺と渚は、朝っぱらからよくそんな元気にぎゃあぎゃあと騒げるなと周りから呆れられた目で見られているが大体風呂で一緒になった時もこんな感じだ。組織の中でも特にやんちゃな二人がすっ裸になってふざけ合っているのも日常茶飯事としてハイハイまたですかとやり過ごされている。
そんなやりとりをしながらやっと席を決めて座ろうとすると、今まさにキラキラと爽やかなオーラを纏った桜花センパイがさらっと食堂に入ってきたのだ。いつもは後輩達と時間をずらして来ることが多いのに今日はまたどうして…と気まずく思いながらチラチラと横目で見ていると、食事を受け取ったセンパイは迷わずこちらの席に向かってきた。
「千隼くんおはよう。亜蘭くんと渚くんとはさっきまでも会ってたけどね、隣座って良いかな?」
「お、おはようございます。ど…どうぞ!」
いきなり声をかけられた千隼は滅多に会話することのない桜花センパイにテンパっているのか、ぎこちない動作で隣の椅子を引いてあげていた。渚は俺の隣、千隼は斜め前に座っていたのでちょうど正面にセンパイが来てしまい、俺・渚・千隼・桜花センパイというなんとも珍しい組み合わせのテーブルが完成してしまった。
しっかり手を合わせ「いただきます」と呟き箸を取るセンパイの所作は食事の時まで完璧で、味噌汁飲んでるだけでサマになるとかなんなんだよと思いながらも、正直こういう普通の場で真正面は何故か少し気恥ずかしくなる。俺から近づく時はそんな恥ずかしいなんて微塵も思わず、むしろセンパイの慌てる顔を拝んでやろうとさえ思うのにどうしてなんだろう。いやいやテーブルなんだから対面して当たり前だ!と理由をつけながらも、なんとなくちゃんと目を合わせたくなくて盛られたご飯をガツガツ流し込む。
「たくさん食べるのは良いことだけどしっかり噛まないと駄目だよ」
俺が色々無駄に考えてるこんな時でも小言を言ってくるセンパイに少し顔が熱くなり、逆に何でアンタはそんな優雅に食えんだよ!とモグモグと口を動かしながら反論してやった。
「食べながら喋らないの。あとお箸で人を指さない。ちびっ子達も見てるでしょ?」
「んぐっ…あ~ご指摘どうも以後気をつけますー。渚ぁ~俺のマネすんなよ喉詰まるからな」
ついさっきまで嫌と言うほど走らされ文句を垂れながらも顔を合わせていたセンパイともこうやって改めて食事をしていると少し別人のように思えてくる。…別人って何だ?さっきまでと一緒だろと、何考えてんのか自分でもよく分からない俺はまた何か小言を言われないように飯だけを見つめながらお茶碗を手に取り残りのご飯を胃にかき込んだ。するとそんな俺の様子をぼけーっと見てた渚が一言。
「なー亜蘭なんか顔赤くない?いっぱい食うけど流石にいつもそんな慌てて食わないじゃん。どーしたの?大丈夫?」
「ーーッ!?」
いきなり飛び出た、悪気は無いんだろうけど今それ言うなよ発言に俺は目を開きおもいっきりむせて咳き込んでしまった。コイツ、前から思ってたけどナチュラルノンデリだよな。
「あ~あ~言ってる側から亜蘭が喉詰まらせてんじゃん!ほら水水!」
「ごほっ…な、渚お前ちょっと空気読む勉強した方がいいぞ…ごほっ…まぁお前はそのままの方が良いか…」
コップを渡してくれた渚はどこまでも真っ直ぐな目で俺を心配している。顔が赤くなってたのは体調が悪いのかとでも思ってくれたのだろうか。もはやこういう鈍感で素直すぎる所も皆から愛されてんだろな、と俺は諦めてありがたく注がれた水を飲み干した。斜め前の千隼もあせあせと気まずそうに俺と渚を見ながらティッシュを数枚取って渡してくれるが、そんな俺達のやりとりを見ながら相変わらずセンパイはクスクスと口に手を当てて上品に笑っており、くそっ…そもそもアンタのせいなんだからな…とこっそり歯を食いしばった。
(ここに来ておとなしく手を出さずにしてきた半年間は何言われてもうるせーとしか思わなかったし、ただいちいち注意してくる煩い先生ぐらいにしか思ってなかったのに。何で俺は今顔赤くなってんだ?…てゆーか、何で今アンタのせいだとか勝手に思っちゃったワケ?)
咳き込みもおさまって冷静にさっきまでの自分を判断すると、更にグルグルと思考がまとまらず折角の美味しい飯の味がしないような気がして考えるのをやめた。これ以上顔に出したら三人から揶揄われそうな気がする!
「ご馳走様でしたっ。んじゃ俺は先部屋に戻らしてもらうんであとは三人でどーぞ!」
「えーほんと今日どしたの亜蘭?いつもみたいにずーっとダラダラ喋っ…」
だからそーゆーこと言わなくていいの!と思わずツッコミたくなるような頭にハテナマークを付けている渚と慣れないメンバーのテーブルに取り残され『えぇ…お前が先帰るのかよ』といった顔で俺を引きとめようとする千隼を後にして普段中々片付けない食器も速攻で返しに行き、そそくさと食堂から逃げるように退散したのであった。
「アイツ用事なんて無いだろ。せっかく集まったんだからもうちょっと俺達と喋っていけば良いのになー」
「…半分ぐらいは渚のせいかもな」
「えぇ?!俺なんもしてないじゃん!」
意味が分からないといった顔をした渚と千隼の会話と、それに対しても微笑ましく笑っている桜花センパイがチラリと見えたような気がするが振り向くのもカッコ悪く、特に用事もないのに自室に走って戻った。渚が言うように本当は俺ももっと皆とダベっていたかった筈なんだけど…なんか、なんか悔しい!
(俺にも散々責められてるハズなのにあの余裕な顔がさぁ…?そんないつも澄ました態度とられたら『私は全然いやらしい事には興味ありませんよ』みたいな聖人ぶってる仮面を剥がしてやりたくなるんだよなァ…)
部屋に戻るなりボスンとベッドにダイブした俺は仰向けに寝転がりながらそんな想像を勝手に膨らませていた。他の奴らが何してようがどーでもいいやとしか気にならなかったし適当に楽しく過ごしてりゃいいやとばっかり思ってたけど何なんだよこのモヤモヤしたやつは。
(あの冷静なセンパイが涙目でおねだりしてくる姿最っっ高に可愛かったな…センパイのああいう乱れたトコ知ってんのって俺だけなのかな。任務でも殆ど失敗したこと無いらしいし、お気に入りみたいな教え子の柚木さんは自分から仕返しとかしなさそうだし。でも一緒にセンパイを擽ってる時かなり楽しそうだったよなぁ)
一人きりの空間で一度考え出すと余計にソワソワしてくる。俺があの人を間近で責めている時の異様な熱や高揚感、瞬きももどかしい程離せない視線。それはきっと他のどいつでも味わえないんだろう。何度だって体感したいし、むしろ例えるならいくら食っても食っても余計に腹が減るようなーーそんな感覚。俺は天井を眺めながらポツリと呟いた。
「何なんだろうなぁ」
胃はいっぱいで眠いのに、何かに飢えている。
その何かを満たしたくてたまらない。さっき目の前からわざわざ逃げてきたのに思い浮かぶのはそのことばかりでもどかしさが増える一方だ。
(そういや桜花センパイは今日一日オフだったか。俺もこの後簡単な雑用こなしたら午後からフリーだから丁度…)
俺は自分でも分かる程ニヤリとして一つの策を思いついた。勿論決して褒められたものではないやましい案だがどうにも収まらない己の欲求を満たすためにはいたしかたないと自己中極まりない理屈を付け、これから有意義な時間を過ごすべくベッドから飛び起きた。
(朝の雑用ついでに訓練部屋にある道具も勝手に漁ってやろうか。見つかったら掃除してましたぁとでも言やぁいいし)
先程まで午前中だけの仕事も面倒臭く、このまま眠ってしまいたくて仕方なかったのにやる気になった途端一気に目が冴えてくる。…そのやる気は使い所間違ってるっちゃ間違ってんだけど、俺にとっては何よりも燃える理由らしい。
未だにこのモヤモヤしたのは何なのかハッキリとは分かんねーけど…よし!この間も再訓練だとか言って俺にめちゃくちゃしてきたし、ちょーっと仕返ししてあげたいなと思ってたところだ。少しばかり強めのイタズラを仕掛けても問題ないんじゃないか?
「自分がしたことをやり返されても文句言えないですよねぇセンパイ…?あはは、今度はどんな顔見せてくれんのかな。楽しみで仕方ねーや」
自分しか居ない部屋で大きく独り言を呟いて笑い、これからの妄想を膨らませながら俺は音符マークが飛んで見える位ルンルンで朝の雑用に出かけたのだった。
◇ ◆
「セーンパイ。今日お休みでしたっけぇ?」
廊下を歩いている最中偶然を装ってひょこっと後ろから顔を出した俺に桜花センパイはさして驚いた様子もなく、後ろにいる事は分かってたよとでも言いたげな落ち着いた声で対応した。
「どうしたの亜蘭くん?朝食の時はせっかく可愛い後輩達と喋ろうと思っていたのに一人だけ先に帰っちゃって残念だったな。けどあの後普段あまり関わる事の無い千隼くんと渚くんとはゆっくりお話できたけどね。たまには違う人と一緒に食事するのも悪くないと思ったよ」
へぇそりゃ良かったですねーと棒読みぎみの作り笑顔で答えた俺は早速今日の作戦を仕掛けることにした。
「この前は再訓練どうもありがとうございました~。おかげでセンパイのやり方学べましたぁ」
「そう、それは良かった。今は役職についた後輩達がしっかりしてくれてるから俺が直接訓練するのは久々だったけど、やっぱり自分自身の技術も磨いておかないとなと思ったね。…で、亜蘭くんからまたいきなり話しかけてくれたのはどうして?避けられてるかなと朝からちょっと不安だったんだけど」
何か言いたいんでしょというようにこちらを向いた流れるような優しい目線。…まただ。この吸い込まれるような眼を向けられると今朝みたいなよく分からない何だか恥ずかしいような気持ちになってしまう。思わず呑まれそうになる自分をグッと抑え言葉を切り出した。
「さっき朝の仕事終わって俺この後予定無いんですけど、もし桜花センパイも予定ないなら…その…再訓練また付き合って欲しいなーって思ってて…センパイの指導は…えーっと…ためになるから…?」
後頭部を掻きながら、俺はわざと控えめな声で遠慮しがちに目線を逸らし呟いた。この人なら俺の演技なんて簡単に見破ってくるだろうが少しでも興味を引ければそれで良い。
「…へぇ、君がまたそんなこと提案してくるとは予想外過ぎるけど。朝も特別にランニングの特訓してたのにまだそんなやる気があるとはね。いいよ、俺も今日予定無くてどうしようか迷ってたから付き合ってあげる」
絶対に何か企んでるだろうと渋られると思っていたが、あっさりすぎる承諾に思わずキョトンと間抜けな顔をしてしまった。それを見てふふっと意味ありげに笑う桜花センパイ。
「俺も柚木くんの休日にこっちから訓練に誘ったこともあったしね。後輩のお願いはできるだけ聞いてあげたいよ」
「え~お休みなのにわざわざありがとうございます~。断られると思ってたのになぁ。じゃあ早速俺の部屋来てもらっても良いですか?出来るだけ片付けてあるんでぇ」
すんなりと事が運び心の中でガッツポーズをしている俺は、あくまでも今から先輩に訓練をしてもらうというテイを忘れずニヤケ顔を表に出さないよう少し緊張した雰囲気を出しながら自室まで案内した。…やろうと思えば今から理由つけて断ることも、無理矢理俺が引っ張ったとしても振りほどける程の実力差はあるはずなのにいつも通りの顔で素直に俺の後をついてきてくれる。ちょっとは怪しいと思わないのか?
「俺のベッド使おうと思ってるんですけどそれでいいっすか?」
「うん。君の好きなようにどうぞ」
部屋の前まで来て扉に手をかけても疑いの一つ聞き返してこない。…分かっててわざと乗ってやってる強者の余裕ってヤツ?そうだとしたらナメられてるみたいでちょっと燃えるけどなァ。
「はいどうぞー、いつも叩き起こしに来てくれる時にチラッと見てるとは思いますけど俺の部屋こんな感じになってまーす。あ、適当にどっか座って待ってて下さい。俺服脱いで準備するんで」
「本当にちゃんと片付けてあるんだね。偉い偉い」
ドアを開けて先に入ったセンパイは、こんな昼間にしっかりと俺の部屋に入ったことが無いからか無防備にキョロキョロと興味深く部屋を見渡していた。…今、ドア側を背にしてるのは俺。このまま鍵をかければ密室になる。後ろに注意が回っていない。抵抗するのに若干反応が遅れるであろう今がチャンスーー。
ガチャリと素早く内鍵を閉めるやいなや、死角からセンパイの両手をぐっと後ろに引きあらかじめ訓練部屋から拝借し隠し持っていた手錠で拘束し、そのまま力任せにベッドに押し倒した。
「…!」
まだ自由な足で蹴りをくらわされるかと思い集中して身構えたがどうもセンパイにしては手応えがなさ過ぎる。受け身も取らず柔らかなベッドにうつ伏せで倒れ込まされたまま怒鳴るどころか抵抗という抵抗をしてこない…そして代わりに放たれた一言は。
「…ま、こんなことだろうとは思ってたよ」
それを聞き、逆に俺の気持ちは安定した。本当に最初から騙されてんならチクっと心が痛むけどさぁ…ハッ、やっぱ甘く見られてんの?
「じゃあなんで途中で逃げなかったんすか?そんな余裕出されるとなんか余計に燃えるんですけど?俺相手なら多少油断しても大丈夫って思ったの?」
「…ふふっ。朝から君があまりにも顔に出すぎるから見てるのが面白くてね。演技も下手すぎるし、このままついていったらどうなるのか単純に気になって。ま、大体こんな感じの想定内の結果だね」
うつ伏せで後ろ手に拘束されながらも余裕のあり過ぎる態度を見て自分の心は完全に火がつく。今の言葉で本当に体温が一瞬で上がったように自らの熱も感じた俺は、そういう事なら遠慮することは無いと完全に吹っ切れてセンパイに覆い被さり、耳元へ口を寄せた。
「まだそんなにナメられてんなら心外っすねぇ。センパイが俺にアンアン泣かされたり必死でおねだりしてきたことも忘れちゃいましたぁ?じゃあもう一度忘れないようにしーっかり教えてあげ…」
「ナメてなんかないよ。馬鹿にもしてないし君は半年で凄く成長してくれたと思う。ランニングも頑張ってくれてるし、こうやってすぐヤンチャしたり生意気な所もあるけどそれを含めて君らしいよ」
その言葉で更に俺は混乱する。寝込みを襲ったりスノードームに入れた時は多少なりとも焦ったり反抗的な顔を見せてくれたのに今日はここまでしてどうしてそんな態度が取れるんだ。もっと焦って、不安そうに縋る目で俺を見つめて欲しい。強気な態度が崩れる瞬間を、俺にもっと見せて欲しい。
「この状況でよくそんな冷静に喋れますね。俺の事褒めてくれんのは…その…まぁ正直に嬉しいっすけど。今から何されるとか焦らないんですか?センパイの焦った顔すげー見たくて期待してたんですけど?」
「うん、君はそういうの好きなの知ってるから逆に落ち着いて対応してるの。俺も毎回学習してるからね、はい。じゃ、気が済んだならこれ外してくれない?」
ガチャガチャと手錠を鳴らすセンパイの顔は本当に落ち着いているように見え、演技かもしれないが何だか余計にその顔をめちゃくちゃにしてやりたくてやりたくて仕方ない。今にも手が出そうになるところを、もう少し対話して焦らすかと自分で自分の手を抑える。
「…は?煽ってんですか?これで気が済むわけ無いでしょ?自分から罠にかかりにきたんだから何されても文句言えないですよね?あーあ。再訓練の仕返しでちょっと擽ってあげようと思ってただけなのにそーんな事言ってくるんじゃ俺も強めに予定変更しちゃいますよ?」
「ねぇ、さっきから疑問形の語尾ばっかりになってるし焦ってるのは君の方かもね。こんなまどろっこしいやり方せずに正面から俺に襲いかかる程の勇気は無かったのかな?…あと、今更だけどこの手錠君のじゃないよね、どっから持ってきたの?正直に答えたら俺にこういう事した罰は見逃してあげるよ」
ここでぷつっと耐えていた俺の我慢に早くも限界が来てしまい、うつ伏せになったセンパイの臀部にのしかかってしっかりと体重をかけ直し、両手で脇腹をいきなり強めに擽ってやった。
「ーーーっ!!」
「こんな時でもごちゃごちゃお説教かましてくるセンパイは今いらないんですよね~。ほーら、センパイは笑ってた方がずっと可愛いでちゅからね~」
バタバタと手錠で止められた手を必死に動かし、声を抑えながらビクビクと震える身体を見ていると思わずこちらの笑みが溢れ、愛おしい気持ちになってくる。…ああ、モヤモヤに隠れていた飢えが満たされていくのを感じる。そう、この感じ。これが欲しかった。
「~~っっ…!やめな、さいっ…!んんっ…今なら、まだっ…あははっ、許してあげる、からっ…!」
「余裕ぶっこいてた演技なのか演技じゃないのかセンパイは俺と違って上手過ぎて分かりませんけどぉ、知ってて逃げなかったセンパイが悪いんじゃないですか?この前の再訓練で教わった成果も見せてあげますから、半年前の俺のテクニックと同じだと思わない方が良いですよ?」
服の裾に手をかけ、捲り上げられる範囲で上着とインナーを捲るとセンパイの透き通るような白い素肌が現れた。少し火照っているせいかほんのりと赤みを帯びており、男ながら見惚れるほどの美しさがある。思わずペロッと舌なめずりをして、今度は腰のくびれを揉むように手を沿わせる。
「…や、やめ…!」
「やめるわけないっしょ?」
やっと焦りを見せてくれたことに大いに満足し、ノッてきた俺はすぐさまぐにぐにと腰の筋肉をほぐすように揉んでやる。
「~~~っはははは!!嫌っ、やめなさいっ!~~ッ”!!や、いゃはははははっ…!」
「ほら~笑い声抑えられてないじゃないっすかぁ。俺には我慢しろって命令しながら自分は出来ないんですかぁ?ほらほらぁ?」
「…!くくっ…、ん”っ、ッ…!ふぐっ…や、め…!」
流石に上司としての面子を保ちたいのか、俺が指摘すると一層身体を強張らせてベッドに顔を埋めながらふるふると耐え始めた。そんな必死に頑張る姿も唆られてたまらない。もっと見ていたいが、その頑張りが瓦解する所も楽しみすぎて乗せていた体重を太腿にずれて移動させると、腰を擽っていた指を離して今度はズボンに手をかけ、下着ごと引っ張りぺろんとお尻を露出させてやった。
「ーー何やってんの…ッ!!」
埋めていた顔を上げてガバっと振り向き、体勢的にも苦しそうにこちらに半分ほど顔を向け睨んできた。はらりと髪のかかった顔は先ほどよりも明らかに赤くなっており、目も少し潤んでいる。俺の擽りが効いたのか、尻を丸出しにされるのが余程恥ずかしいのか。どちらでも俺にとっては好都合で、そのまま見せつけるようにサワサワとお尻を優しく擽ってやる。
「ん”…っ!…ふふっ…!っ、あっ…あ…そこ、は、恥ずかしい…から、んんっ…!」
上半身を擽っていた時とは違う、もじもじとした艶めかしい反応を魅せてくるので俺も少し昂ってしまう。そういや桜花センパイは恥ずかしいことをしたり言わせたりしたら感度が上がったっけ。
「引き締まってるけど柔らかくてすげー触り心地良いですよ?触る度にぴくぴく震えてるのも可愛いし。あ、もしかしてお尻擽られるの弱点ですかぁ?自分が弱いからって後輩にもこういう訓練してたり?」
今度はこちょこちょと尻の上で十本の指を踊らせてやる。すると面白い位に全体がビクビクと跳ね、抑えきれていない笑い声と甘い声が混じったものが漏れ出てくる。
「~~~ぁはははっ!…っ、ゃあっ…め…そこ…!~~ッ”ッ”!!」
「ほんっとセンパイの反応可愛くて仕方ないっすね。俺が来るまでセンパイって今まで攻める側ばっかで実は攻められたこと無かったんじゃないですか?もしかして敵組織に捕まってイタズラされたのも俺が初めて?だったら嬉しいなぁ…ねぇさっきから質問してるんですけど一つぐらい答えて下さいよぉ」
俺を浮き上がらせそうなほど力強く暴れる脚に体重をかけ制御しながら尻を色々な方法で擽り続ける。何とか刺激から逃れようと苦悶し捩れる上半身はしっとりと汗ばんできており、さっきまでの余裕ある態度は何だったのかとフフッと笑ってやった。
「ねーセンパイわざと捕まりに来た割にはよわよわ過ぎません?これも想定内の結果なんですかぁ?なーんにも答えてくれない子には身体に聞かないとな~」
「…っ煩い!いい加減黙…あはははははっ!!」
質問に全然答えてくれない上に未だ命令口調で反抗してくる罰として、瞬時に尻から脇腹に両手を移動させ指を食い込ませるように思いっきり擽ってやった。お尻で感じさせるような擽りから、擽ったさだけのキツい刺激に変わったことで最初に脇腹を狙った時よりもずっと激しく悶えてくれている。
「ッ~~ぁはははは…!やめなさ…っははははは!!」
おそらく桜花センパイは風見センパイのように元々擽ったさに耐性が有る方じゃないんだろう。刺激を感じやすい身体を自分で努力してここまで強くしてきたんだろうか、などとふと考えながらあまりにも暴れまくる上半身を押さえるように後ろから全身で覆い被さる。俺より小柄なセンパイの肺を圧迫し過ぎないようにかける体重に気をつけながらも脇腹をグリグリといじめ続けてやると、笑い声の中にすすり泣くような声が混ざり始める。
「…も”、わかったからっ…ひぐっ!ひ、ひゃははははっ…それ、やめでっ…!んあぁっ…!」
覆い被さるポジションになったことで覗けるようになったセンパイの顔を見てやると耳まで赤く染まっており、ぎゅっと閉じた目からはポロポロと涙をこぼしている。その下のベッドシーツは涙と涎でぐっしょりと濡れており、俺が横から覗き込んでいる事にやっと気付いたセンパイはふいっと逆方向に顔を背けた。それをいいことに俺は耳元に息がかかる程口を近づけてねっとりと囁いてやる。
「セーンパイ。擽られるの気持ちいい?」
耳を責められビクッと分かりやすく反応した火照る身体にフフッと俺の口からも歓びが溢れた。…ああ、このまま耳を責めまくってやろうか。それとも俺に懇願してくるまで弱点を集中的に責めてやろうか。それとも…
俺は一旦手の動きを止め、体力が削がれたことで随分弱くなってしまったセンパイの脚の力を感じながら次の楽しみ方を思案した。その間やっと与えられた休息に息を整えることで必死になっているセンパイ。今なら俺が完全に離れたところで大して反撃出来ないだろう。うつ伏せでというのも征服感があって中々良かったが、やっぱり恥ずかしい格好にして正面から責めてやりたい。そうだな、時間はたっぷりあるのだから…こんな序盤で消耗されきってしまっては面白くない。
「真面目すぎて責められてる間は質問に答えない癖がついちゃってるんですか?まーそれはいいけど勿論センパイならまだまだ全然平気ですよね?センパイは俺がどんだけ泣き叫んでも止めてくれなかったし、俺も手加減するつもり無いんで最後までしっかり付き合ってもらいますよ。だって、君の好きなようにどうぞって言ってくれましたもんね?」
「……」
反論の為に声を荒げたところで無駄に体力を消費するだけだと判断したのだろうか、かなり息も心臓の鼓動も落ち着いたセンパイはギリッと歯を鳴らし、乱れた前髪の隙間から殺気を含んだ眼差しをこちらに向けてきた。
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