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まこ

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Special ②

CROSS OVER ②

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俺達が手塩にかけて完成させた拘束台、もとい拷問器具は無事お客様の施設に届いたらしい。今朝連絡のメールが来ていた。
てっきりここらで正体を明かして、実はSMクラブに置いてまーすみたいな内容だと思っていたが、敵だの対訓練用だのといった語句が並んでいるので、彼らはどこまでも本気らしい。…まぁ、俺にとってはどっちでも良いのだが。あまりこういったストイックな人達とは関わらない方が良さそうだな…と、ほんの少し心の中でできた不安を掻き消した。

夜中、まだ会社にいた俺と篠田くんは連絡メールを見ながら感想を言い合っていた。

「随分世界観がしっかりしてんだなーと思ったよ。こんなお礼メールにまで演技の気を抜かないなんてな」
「え~でも本当だったら僕達、世界救うお手伝いしちゃってますね!誰も知らない影から世界を支える…なんてカッコいいじゃないですか!」

はいはい篠田くんはどんな時でもポジティブで良いねぇ~。羨ましいよ、とあしらうとS心が動いたのか、つっかかってくる。

「なーんでそんな信じてあげないんですかぁ?なんかすっごいえらーい組織みたいなのにぃ?…あーそっかぁ!未南さんワルい事してるから怖いんだぁ~!消されちゃうからー!」

夜中のテンションなのか、篠田くんは俺をイジメる時の顔になりニヤニヤしている。

「…っ別に怖いなんて思ってるわけねーだろ!あとどっちかって言うと悪いことしてるのは大体お前の方だしお前が狙われる方なんだからなバーカ!そんな組織存在してたまるか!俺は先に寝るぞ!おやすみ!」
「それ映画だったら絶対死ぬフラグですよ~」
「う、うるせぇ!んなわけねーよっ!」

俺は仮眠室でバサッと横になると、いつもはそのまま直ぐ寝られるのだがなんとなく不安で寝付けず、毛布を頭からかぶるようにして丸まって寝てしまった。

次の日、あんな恐怖のメールが届いてるとも知らずに。


◇ ◆


「み、未南さん!上司から見せてもらったんですけどこのメール!」
熟睡できず眠い目を擦りながらデスクに来ると、篠田くんがパソコンを用意して何やら急かしている。
何だ、何かのクレームか?とボーッとしながら目をやると。

【こんにちは、先日納品していただいた大型拘束台を受け取りました組織の者です。この度は誠にありがとう御座います。我々の希望に沿って制作していただいた台が想像を超える見事な作品で非常に感動しているとともに、担当製作者のお二人にも多大なる感謝の気持ちをお伝えしたくメールをさせていただきました。

詳細は明かせませんが、私達は拷問やそれに対応する訓練をしております。しかし、昨今勢力情勢が不安定であり、私達の組織も優秀な技術者を入れるべきだ、と声が上がっています。

つきましては、この様々な機能の付いた素晴らしい拘束台こそ実際に実演した方が早いとお聞きしましたので、製作していただいたお二人を、説明を含め特別講師としてお呼びさせていただきたく存じます。車でお迎えに上がりますので、場所は…】

長々とご丁寧にどーも…と最初は流し読みしていたが、そこまで読んだ俺はバッチリと目が覚めてしまった。おいまじか。え、まさか勝手に話進めてんの?

…あ、そういやうっすらリモコン調整してる時にそんな話を冗談で話してた記憶がある。まさかあれ本気にした?

「これ上司がメール受け取ってすぐ了承したらしいですよ。今日のお昼ごろ待ち合わせ場所のここで待っとけって」

篠田くんは場所のメモを見せると、そそくさとノートパソコンやら資料やらを鞄に詰めだした。

「は!?普通こういうの本人の許可取ってからじゃね?!しかもお昼ってもうすぐじゃねーか!おい!俺は嫌だぞこんな共同生活やら拷問ごっこしてるSMクラブに行くの!」

俺はでかい声を出しながら上司の勝手な行動を嘆いた。しかしどうやったって過ぎた現実が変わることはない。

「昨日のフラグが回収されたんですよ~。というか未南さん頑なに否定してますけど僕は本当に国を守る秘密組織の方だと思っています。あんまり向こうで失礼な事言うと本当に消されるんじゃないですかぁ?
…それに、最後まで読んで下さいよ」

長いお礼メールだったが、最後の方に

【ーー他の組織に目をつけられる前に、出来ればお二人を我々の組織にスカウトしたいと考えています。勿論そちらの会社を辞めていただく等ではございません。もし受けていただけるのであれば、開発費や報酬も惜しみませんのでひとつお考えください】

と書かれていた。
何この怪しさ満点メール。詐欺なんじゃない?行ったら襲われて帰ってこれなくなるパターンじゃない?俺そう思うんだけど、と言いかけたが篠田くんは真面目な顔をしながら。

「これ本当だったら会社にとってかなーり凄いことですよ。どうしても上司は僕達を彼らに会わせたいみたいですね。だから絶対行ってこいと」

…あの、これ何かあったら労災おりるかな?

上司からも篠田くんからの圧にも耐えられなくなった俺は、渋々準備を始めた。待ち合わせ場所はここからそれ程遠くない。

「さ、行きましょ。もう迎えにいらっしゃってるかもしれませんし」
「何かあったら篠田くんを楯にするから」

もう、意外とビビリですね~とからかってくるも、うるせーお前は逆に何でそんな平気なんだよ!と言い返し気を紛らわせるしかなかった。

暫くすると、メールに書いてあったナンバーの車が迎えに来た。…かなりデカくて真っ黒、もうこの時点で引き返したい。

しかし今更出来るわけもなく、とても丁寧な運転手の方に案内され車に乗せられた。中からも外からも窓は見えないようになっており、段々と膨らんでいく不安に俺はカチコチになって座りながらギュッと膝の上に手を置き、ついに緊張で一点を見つめながら微動だにしなくなった。

「…未南さん、急に電源停止したロボットみたいになってますよ…」

ボソッと篠田くんに指摘され、笑う所だと思うも笑えない。篠田くんキミはどうしてそんなに楽しそうなんだ。

「未南さん、今こちょこちょしたら笑いますかね」
「ヤメテ」
そんな事を時折呟きながら、どの位走っただろうか。車は目的地に到着したようだ。

「お疲れ様です。後は別の者が案内いたしますので」

降りると、何処かの地下駐車場だった。最後まで車の中では何も無かったことに安堵し、ありがとうございました、と運転手の方に一礼する。
すると駐車場にある扉からニコニコとした若い男性が現れ、ーーお待ちしておりました。未南さんと篠田さんですね。どうぞこちらへ、とすぐ中へ案内された。

もう引き返せないぞ。

俺は自分に言い聞かせ、二人で彼の後をついて行った。

「…もう少し先の部屋に拘束台を設置させていただいております。受講者数人を呼んでいますので、そちらで使い方の講習をお願いします。お二人に来ていただけると知り、実はまだ一度も使用しておらず…。自分もお披露目の場に居合わせることが出来て光栄です」

案内役の彼はとても俺たちのことを持ち上げ、褒めてくれる。…かなり警戒していたが、俺の杞憂なのか?
ーーそんな俺を見抜いたのか、篠田くんが話を切り出した。

「僕はメールいただいた時点から凄くここに来てみたかったんですけど、この人はすっごい緊張してて。あはは。秘密組織に消されちゃうんじゃないかって!」
「っおいそんな事言ってねーだろ勝手に創作すな!」

その篠田くんの言葉に、一気に空気が和やかになった。俺の引きつった顔が見てられなかったのだろうか。こういう時に篠田くんが居てくれると本当に有り難い。
いつもなんだかんだ言っているが、感謝している。

「そうでしたか。ふふっ、大事な方々を消すなんてとんでもございませんのでご安心を」

そんな話をしながら三人で歩き、幾つも扉を通り過ぎると、少し厚そうな扉の前に案内された。

「お待たせしました。こちらの部屋です」

扉をガチャッと開けると、俺達の作ったピカピカの拘束台が綺麗なまま置かれていた。
その台を前に、明るく清潔な部屋には数人が立っており、三人が入室すると一斉にこちらを向き「こんにちは」「こんにちは」とそれぞれ挨拶してくれた。俺達は台の横に行き、彼らと対面するように立つ。

「こほん。では本日新しい拘束台の講習に来ていただいた、製作者のお二人です。皆さん、しっかりとお話を聞くように。…では、簡単に自己紹介をお願いしてもよろしいですか?」

真剣に見られてる中ちょっと恥ずかしいな、と思いながらも俺から口を開いた。

「初めまして、未南といいます。こちらは後輩の篠田です。…今回はご依頼いただきありがとうございます。無事二人で完成させることが出来ました。説明書は付属させていただいておりますが、動作説明も含めこちらでお披露目させていただきます。どうぞ宜しくお願いします」

「初めまして、篠田です。未南さんとコンビで日々話し合い、ご希望に添えるよう全力を尽くしました。本日は僕の方から詳しい使い方を説明させていただきます。宜しくお願いします」

…事前に考えていた挨拶が飛ばなくて良かった。…と、かなり緊張している俺と全然緊張してなさそうな篠田くんの挨拶に、部屋の全員が大きな拍手をしてくれた。
…今の所、ちゃんと歓迎されてるっぽいな。

「初めまして、桜花と申します。本日はわざわざ遠い所ご足労頂きありがとうございます。この素晴らしい拘束台を作っていただいた技術者のお二人にお会いできて嬉しいです」

この部屋まで案内してくれた、優しそうな桜花さんという人は深々と頭を下げて礼をしてくれた。

「こちらこそ、お客様にお招きいただいて直接お教えできるのは光栄です。少しでも皆様の活動のお役に立てるよう作らせていただきましたので、精一杯実演させていただきます」

篠田くんはパソコンを拘束台の近くに置いてあるテーブルに置き起動すると、入力データを入れて最終調整を始めた。

…それはそうと、一つ大事な疑問が。俺は我慢できずコソッと質問した。

「あの…これはどなたかが拘束台に実際に乗られるんですよね?そう確かメールで聞いていたんですけど…かなりハードに作りましたんで衆人環視の中ではキツいかと」
「それは問題ありません。ーー由麗くん、こちらへ。」

「…はい」

そう言うと前に並んで立っていた子の一人がこちらへ来て自ら服を脱ぎ始めた。えっ、と一瞬思ったが予め決められていたのだろう。文句を言うことなく従った彼に普通に凄いなと感じた。
流石に下着は履いたままだが、そのまま台に固定され、かなり不安そうな顔をしている。ーーえ?ほんとは嫌なん?なんなんこの組織?やっぱやばいんじゃね?

「それでは今からこのボタンを押して開始します」

俺の再び浮かび始めた疑念をよそに篠田くんは、少し離れて台の前に並んで立っている組織の人達全員に見えるようにリモコンを見せ、数あるボタンの中からスタートボタンを押した。

ピピッ、と起動音がするとすぐに拘束台の側面からマジックハンドが何本も現れる。人間の物と同じ様に五本の指が付いており、傷はつけないが引っ掻く事位は出来る爪もリアルに付けた。まずは一番スタンダードな責めから見せるつもりだろう。

「!っ…」
手の動きを見て、台にガッチリ固定されている青年の顔が強張った。これを実際見れば誰だってそうなるだろう。俺はもっと声を上げてビビりそうなので、未だじっとしているこの子の精神力はかなり強そうだ。
流石、秘密の組織というだけあるのか。…まだそんな組織が存在するのか信じきれてないけど。

緊張している青年もよそに、篠田くんが続ける。

「ご協力ありがとうございます!先程こちらの、由麗くんのデータを元に設定を入れさせていただきましたので彼に効く動きになるでしょう。なんと自動コース設定が出来ますので離れていても勝手に動いてくれます!お忙しい皆様にピッタリですよね!」

(…おおっと。篠田くんが営業解説モードに入ったぞ?このノリ始めた篠田くんは止まらないぞ?大丈夫か?)
後輩に任せきる俺も俺なのだが、お客様とのトークや商品の売り込みに関して彼はかなりスキルが高い。…正直こんな不気味なとこ早く帰りたいっちゃ帰りたいし彼に全て任せよう。

「~~ん…っ…ぐっ…っあはははは!っ無理ですこれちょっとあはははは!!」

今まで宙を泳いでいたマジックハンドは一気に身体中にくっつき、いきなり全力で擽りだした。最初こそ我慢しようと頑張ってたっぽいが、俺たちが日夜必死に『拷問器具』として作っていただけある。今まで依頼された遊びの為の拘束台よりずっとハードな造りになっている。

「っあ”ははははっ嫌だっやめてくだひゃはははは!!」

ウネウネとしなやかに動くハンドは設定した通り見事に動き、それぞれの部位に合わせてこちょこちょと擽ったり、優しく揉みほぐしたり、グリグリと指の腹で強い刺激を与えたりと様々なバリエーションを見せる。どれも堪らなく擽ったい刺激だ。俺がもしこんな拷問を受けるとしたら一日も耐えられないだろう。…ワルい事はすべきでない。

「こちら、追尾機能も付いていまして身体を捩ったり浮かせたりしても的確に設定した弱点を追うようになっています。全身ガッチリと幾つものベルトで固定してしまうと肌の表面積が小さくなってしまいますので、手足首だけの最小限の拘束でしっかりと大丈夫なように作っております。勿論、痛みで気を逸らせないよう枷にはクッション付きでーーー」
「んゃあああああはははっ!!!もっもう止めて”っ分かりましたから”ぁっ!!!」

篠田くんの饒舌な説明が途中で聞こえ辛くなる程、彼は大きな声で笑い悶え制止を訴えている。自分が彼の立場ならと思うと、篠田くんに泣いても謝っても止めてもらえなかった時の事を思い出し恐怖で体がきゅっとなってしまう。

…俺は自分がSの自覚があった。あったはずなのに。
こうやって自分の作った機械で責められる青年なんて見たら間違いなく、興奮するとまではいかなくとも、ニヤつくと思ってたのに。
自分が初めて責められる方を体験してしまったからかは分からないが、今は彼に同情と申し訳なさの感情しか浮かばない。

すると、俺達二人の横に立っていたーーたぶん前に並んでいるギャラリーの人達より立場が上なのであろう、桜花さんが口を開いた。

「由麗くん、大切な方が講習をされている最中ですよ?少し静かにして下さい」
「だっだから止めて下さいっはははは!!」

いやこの状況で静かにしろは無理だろ、というか普通に止めてあげろよ、と思うが今の俺にはそれを言葉に出す勇気がない。

「すみません、お話を遮ってしまって。すぐ黙らせますので」
そう言うと、桜花さんはどこからか黒いギャグボールを取り出し、躊躇いなく青年に着けようとする。もちろん笑い叫んだまま助けてと拒否するが、慣れた手つきであっけなくギャグボールが装着された。

「ん”ん”っ!うううう”っっっ!!んん”っ!!!」

目の前のとても可哀想な青年は涙をポロポロ流し、更に苦しそうにくぐもった悲鳴を上げた。手足をバタバタと暴れさせ、口枷の空いた穴から涎を垂らしながら必死に息を吸っている。

「お待たせしました。それでは講習の続きをお願いします」
「はい、それでは続いてこちらのボタンです。丁度これは、口を塞いだ人にも有効的な機能になってまして~!」

今この状況で普っ通ーに説明を再開できるコイツに「えぇ…」みたいなかなり引いた顔をした。隣の桜花さんも何事も無かったかのようにニコニコしてるし、ギャラリーの人達も誰も何も言ってこない。

君たち、人の心とかないんか?

そう思っていると、一旦マジックハンドは全て仕舞われ、ボタンに反応した台からはたくさんの筆がついたアームが出てきた。

「ふぅっ…ん…!んんっ…!?」
やっとマジックハンドによる擽りがなくなった所で、青年は息を整えようとするが、代わりに出てきた筆を見て絶望したような表情になる。

「こちらは優しく筆で責めることも可能になっています。酸欠で失神させたくない相手、またじわじわと追い詰めるようにしたい時に効果的です」

「…ーーっ、んんっ…ぐ…!」

筆が彼の体に優しく這い回ると、敏感になってしまった肌はピクピクと反応し、先程のような激しい叫び声はないが甘く我慢出来ないような声が漏れ出た。理性が戻り全員に注目されている事実を思い出したのか、かなり恥ずかしそうに目をぎゅっと瞑り、声を抑えるのに必死である。

「そしてご覧ください。これはこだわりの機能なのですが、筆先から少しづつローションが染み出すようになっています。ええと、媚薬というものは僕は実際見たことが無いんですけど、このローションに媚薬等を混ぜることも可能になっています!効果が倍増し、更に皆様のお役に立てることでしょう!」

おおっ、とギャラリーから声が上がり、桜花さんは「素晴らしいです」と小さく手を叩いた。

(TVショッピングでもやってるのかよ!)

この異常な空間の中で俺は的確にツッコミを入れた。心の中で。

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