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第1章 僕にしか懐かないおキツネさま

第2話 借りてきた『美咲』

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「げ、傘無くなってる」

「幸ちゃん、よしよし」

美咲に、頭を撫でられる。

胸が早鐘を鳴らす。

もう、僕の心臓うるさい。

「美咲、やめて。僕泣きそうになる」

「胸貸す?」

「はぁ?」と叫びそうな声を殺す。

でも、胸の早鐘は止まるどころか加速していく。

「美咲、そんなこと無暗に言っちゃだめだよ」

「幸ちゃんだから、いい」

ほんとに辞めて、僕のライフは0よ。

最近の美咲もおかしい。

僕へのおかしなアプローチがある。

見た目はちんちくりん

「いたっ、ちょ、美咲!」

急に、美咲が僕の脛を蹴った。

え、ちんちくり!

また、蹴られた。

もしかして、心読まれて・・・る?

「幸ちゃん、顔にでる」

「はい、ごめんなさい」

「許す、でもつぎ考えたら毟るね」

こわっ、目が座ってるんだけど。

人一人殺したみたいな目してるんだけど。

「ちいさ・・・ごめん、ちがうちがう。毟るのやめて、父さんみたいになりたくない。じゃなく、僕はそのさ、美咲の・・・そのさ・・・好きだから」

「幸ちゃん、ロリコン?」

美咲は、自分で言って沈んでいった。

ハネ毛もすっごいぺったりしてる。

「ちがうよ、僕は美咲が好きなの」

「ありがとう、幸ちゃん」

パアアアアアという効果音があるならきっといま鳴ってるんだろうなってくらいに美咲の表情が明るくなった。

「美咲、傘貸して」

「私の無くなる」

「ごめん、ちがうちがう。傘入れて」

「いいよ、でも幸ちゃん背が高いから入れてあげれない」

「僕が傘持つからさ」

「ん」

美咲から、真っ赤な傘を受け取ると右手で傘を開いて持った。

美咲が、引っ付いてくる。

「えっと、近くない?」

「わたし、濡れちゃう」

「うん、そうだよね。仕方ないよね」

「うん、仕方ない」

そう言って、美咲はない胸・・・僕の足の甲に激痛が走る。

いや、ほんとなんでわかるの?

まじ、怖いんだけど。

「幸ちゃんは、わかりやすい」

「ごめん、なんでもするから許して」

「なんでも?」

「うん、なんでも」

僕たちは、しゃべりながら学校を後にしていく。

自宅までは、5分とかからずに着く。

美咲の言うハンバーガー・・・某有名は自宅を少し越したとこにある。

「あとで、幸ちゃんの悩み教えて」

「いいけど、ちょうど美咲にも関係するし」

「そうなの?でも、お腹と背中くっつきそう」

「はいはい、まずはお昼食べよう」

「うん、ハンバーガーハンバーガー」

美咲の表情がコロコロ変わる。

普段の仏頂面は、どこに行ったのやら。

僕にしか懐かない。

変わった子。

クラスにいる美咲は、借りてきた猫・・・置物。

そんな印象。

いつも一人ぼっちでいる。

1年の時は、その見た目から声を掛けられまくっていたけど。

一度それで不登校気味になった。

その時、僕が毎日引っ張っていった。

今思えば、懐かしいな。

それから、誰も美咲を気に掛けなくなった。

隣のクラスだろうが何だろうが僕の元にくる。

僕からしがみついて離れなくなる。

恐怖心は、芽生えてしまうと発芽するのはすぐだ。

おかげで、僕はめちゃめちゃやっかみに遭う。

もう、慣れたけどさ。

それに、この自然な美咲を見れるのは僕の特権だから。

美咲が、笑ってそばにいてくれたら僕はそれでなんだってできる気がする。

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