犬になりたい葛葉さん

春雨

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可愛いこの子

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「葛葉さん、何飲みますか?」
「レモンサワーで。あ、あと唐揚げ食べたいです」
 総務部と開発システムエンジニア部、合同の飲み会は予想以上に人が来ていた。彼女はエンジ部のの方にいて自身は総務部の方からなかなか抜け出せそうになかった。
(そういやお酒強いのかな)
 いかにも甘いお酒しか飲めません、って言いそうな顔だけど。と彼女の方へ聞き耳を立てながら程々にお酒を飲んでおく。どちらかと言えば強い方らしいので、彼女もそうならこっそり抜け出して2軒目に連れていくのもありだろう。
 そんなことを画策しながら、彼女の方をチラチラ盗み見ていると気付けば顔が真っ赤になっていた。周りにいるのは既婚者のおじさん社員、数名の独身男性、いつもは第1ボタンまでぴっちりと閉じられているシャツのボタンは2つ空いている。胸が大きい分、ちょっとでも上から覗けばすぐにでも谷間だって見えるんじゃ、なんて無関係のくせにソワソワしてしまう。
「葛葉さん、酔ってる?」
「ん~、そうかもしれないです。ふわふわして楽しいし眠いですね~」
「俺、送って帰ろうか?」
「最寄りでタクるんで大丈夫れす~」
 にこにこと愛嬌のある笑顔でそう返す彼女の元に、水の入ったグラス片手に近付きながら咳払い。
「葛葉さん、お水飲む?」
「のみま~す、あっつ~い」
 そう言いながらグラスを渡してさりげなく隣の席をキープ。割り込んでやった。口端から零れていく水がシャツにぺたりと張り付いて、そこはかとない色気に、これはまずい、と同性であるのを良いことに彼女の口元をそばにあったおしぼりで拭いてやる。
「ん、」
「葛葉さん、1人で帰れる?」
「ねむい……」
「あの、今日私の歓迎会っていうのは分かるんですけど、葛葉さん心配だから私が送って帰ってもいいですか?元々ずっと話してみたかったので……一緒の案件とはいえ、ほぼ接点も無いですし……」
 そうそばに居た彼女の上司へ告げると、既に船を漕いでいる彼女の様子を見ながら苦笑いすると、「よろしく」とだけ言った。こうして、私は葛葉さんをタクシーに詰め込んで彼女の家へ、と思ったのだがすっかり眠ってしまったので私の家へと連れ込むことになった訳だが。
「ん~……ねむい……」
 眠そうにフラフラとした足取りで家の中に上がる彼女は真っ先にソファへと向かう。そのままそこに腰掛けて凭れるとそこで寝ると言わんばかりに目を閉じる。メイク崩れてるはずなのに可愛い。
「葛葉さん、とりあえずシャツ脱いで……あー、メイクも落とさなきゃか……」
「やだ~……めんどくさい、できない、やって」
「え?」
「むりぃ、もうなぎ寝たいもん……ぬがして~?」
 私が女でよかったね。と言いたい。これで男ならどう考えたってここで一発やってる流れだ。仕方ない、と思いながら彼女の着ていたコートをぬがせて、その下に着ていたカーディガンを脱がす。
 少し大きめのカーディガンで隠されていたものの、ピッタリとしたシャツで胸の大きさが強調される。弾けんばかりに主張するボタンを外してやればレースのキャミソール。可愛い子って下着まで常に可愛いのかと思ってしまう。
「夏目さんって、面倒見いいんですねえ。わたし、4人兄弟のお姉ちゃんなんですけど、わたしよりおねーちゃんしてるねえ」
「泥酔してる酔っ払いに言われてもなあ。はい、下も脱いだらこっちにください」
「はーい」
 長女には見えない。
 どちらかと言えば溢れる末っ子オーラの方が今は強いと思う、ないしは一人っ子にしか見えない彼女を見つめながらボトムスを脱いで軽く畳まれたそれを受け取る。キャミソールの下に見えたパンツのサイドに紐が見えたのは見なかったことにした。あまりにもエロすぎる。
 そのまま自身の部屋着の中でも1番オーバーサイズだろうものを着せてあげると、胸で丈が短くなってしまった。パンツが見えるか見えないか、際どい、と思いながら下に履かせるのを辞めたのは下心だったのかもしれない。
「はい、メイク落とすからこっち向いて」
「んー」
「いい子」
「んへへ。褒められるのすき~」
「そうなんですか。可愛いですよ、今の葛葉さん」
「あいがと~。ん、ふふ、お世話されるのも好き。こうしてぜ~んぶ夏目さんがやってくれたらいいのになあ」
「……葛葉さんみたいに甘えられたら、みんな言うこと聞いちゃいますよ」
「そーお?なぎねえ、他人の犬になりたいんだよねえ。一生お世話されていきてた~い」
 一通りのメイクを落とし終えると、化粧をしてなくても普通に可愛かった。そのままスキンケアまで終わらせてやると、あ、と彼女が言ったかと思えば机の上に置きっぱなしの鏡を見ながらコンタクトを外す。
「え、それワンデー?」
「予備あるからへーき」
「そっか。終わったし先寝ていいよ、あ、それとも水とか飲む?」
「おみずのむ~」
 ふにゃ、と笑いながらそうねだる彼女に冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出す。どうせ開けれないだろうな、と思いながらキャップを開けて手渡すとペットボトルを両手で持って飲み出すから可愛いなと思った。
 もしかして、もしかしなくとも。葛葉さんのこと、私は割と好きかもしれない。最初は顔が好き、見た目が好み、ってだけだったけど。こうやって甘えてきて、褒められたらニコニコして、素直な子は好きだ。相性がいいんじゃないか、とさえ思えてくる。
 さっさと寝巻きに着替えて、メイクを落として自分もスキンケアを済ませる。その横で眠たげにする葛葉さんがこっくり、こっくり、船を漕ぎながらソファの上でじっとしていた。
「葛葉さん、」
「名前でいいよ~」
「じゃあ、凪紗さん。ベッド勝手に使ってていいよ。眠そうですし」
「んーん、いっしょにいく~」
「そ、うです、か」
「敬語もなしでいいよ、そえ苦手~」
 一緒に行くは可愛いがすぎる。あざとい、とはこういうことを言うんだろうし、見た感じ本当に酔っ払っているんだろう。
 手早くスキンケアを終わらせて立ち上がっては、彼女の両手を掴んで立ち上がらせる。思ってたより背が低い、そう感じながらそのまま手を引いてベッドに先に横にさせるとものの数分で聞こえる寝息。
 お酒弱いのも見た目通りで可愛いし、酔うと甘えたくなるタイプなのもお世話しがいがある。楽しくなってすよすよ寝るだけっていうのも無害だし可愛い。
(犬になりたい、なあ)
 私なら叶えてあげるのに。
 お金だってあるし、見た目も中身もストライクな彼女のお世話をするのは苦にならない。寝て起きたらそう打診してみよう、と思いながら眠りに着いた数時間後、「わん」と犬らしい返事をする凪紗を見つめながら新生活は楽しくなりそうだと口元を緩めた。
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