傷を舐め合うJK日常百合物語

八澤

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ソーシャルゲーム、無課金 02

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 ゲームをインストールしてから一週間が経過した──。

「え、ゲットできないの? だってネットで調べたらダンジョンで入手可能って書いてあったのに……」
「その攻略サイトは企業運営で適当に作ってるからデタラメしか載ってないわ。今後はこっちの有志で編集しているサイトを確認しなさい」
「ふーん、了解……」
「あとその編成は何? 高コストで無駄ばかりじゃない」
「そうなの? でもこの子SRだから強いよ~」
「そうだけど、ただ能力は高いけどスキルは片方役に立たないし何よりコストが重いわ。控えの子と交代させて……って全然レベル育ってないわね。スキルも殆ど育てていないし」
「え、こっちの方が強いの?」「今回のイベントダンジョン攻略に関してはこの二人のシナジーでダメージ軽減した方が楽に進めるわ」
「じゃあ……育てようかな……う~ん、でも時間かかるし」
「コンクエ(Consign Questの略)で随時経験値稼げるでしょ。スタミナ消費するけど地道に潜るよりかは時間短縮できるわ」
「それでもどのくらいかかる?」
「上級コンクエにはまだ参加できないみたいだから、まぁ三日も経てば大丈夫よ」
「三日、三日かぁ~。ってかさ、サクラ……」
「何?」
「私、別に今のダンジョン攻略は目指してないから……いいかな」
「いいの? イベント報酬キャラと装備はどちらも使えるし、スキルもパーティに組み込みやすいのに」
「その……私は……クマたんをゲットできれば、それでいいのです、はい……。あとはログインボーナスとたまにガシャ回すくらい……」

 レイは申し訳なさそうにスマホの画面を私に見せる。そこには、先日私が手に入れたクマたんのスクリーンショットが表示されている。私はゲームをインストールした後、攻略サイトやネットの掲示板、SNSを駆使して色々調べ上げ、あっという間にクマたんを手に入れた。当初はクマたんの画像をレイに渡したら、ゲームはもう辞めるつもりだった。しかし、それなりに戦力を組み立て、攻略ペースも掴めてきたところで辞めるのはなんか勿体なく感じ、気がつけば毎日楽しく遊んでいた。

「そう。あ、お昼のクエストが配信されてるわね」

 昼休み、私たちはいつもの校舎の隙間を訪れて昼食を食べていた。
 私は右手にパンを持ち、左手にスマホを掴みながら操作する。

「サクラ、最近寝てる?」
「もちろん」
「なんか顔ちょっと疲れてない? クマも出てるし」
「12時にはベッドに入っているわ」
「どうせその後ゲームしてるんでしょ。遅くまでゲームしちゃ駄目だぞ」
「だって日が変わった瞬間にクエストが配信されるのよ。消化しないと後々面倒になるわ。まぁ、コンクエは数時間ごとに変わるから、その後夜中起きる必要もあるけど……」
「え、夜中に?」
「3時頃に追加されるじゃない。数分だけ起きて編成したメンバーを送り込んで寝る」
「うわぁ……絶対体に悪い」
「で、次の配信が朝5時。これは寧ろ早起き出来て三文の得。クエスト消化後は授業の予習もできるし」

 有効性を語るもレイは浮かない顔をする。

「……か、課金とかしてるの?」おずおずと聞いてきた。
「ううん、無課金でどこまで攻略できるのか、なんかそっち方面でやる気出ちゃって」
「そう」
「なんでホッとした顔するの?」
「だってもう廃課金者です~みたいな語り方するんだもん」
「別に私なんてまだまだライトユーザーよ。課金してないから運営側からしたら疎まれるタイプのプレイヤーね。ってかガシャ回すのも毎日のログインボーナスやクリア報酬を貯めておけば10連回すのも簡単じゃない。ストーリーもキャラを強化して装備を整えておけばSSRじゃなくても対応できる」

 ──この時は、まだそう思っていた。
 ──心のどこかで、無料でできるのに課金するなんて馬鹿じゃない、と廃課金者を嘲笑っていた。

「授業中もやっちゃ駄目だよ」
「当たり前。授業の合間に起動してるわ」
「だったらいいけど……いやこれは危険な匂いがプンプンします」

☆★☆★

 二日後──。
 
 炎上してる……。
 ネットの掲示板から公式SNSのリプ欄も全てが罵詈雑言と誹謗中傷で溢れかえっていた。普段は「運営さん頑張れ~!」って感じで微笑ましいのに……。

 まぁ、正直なところ、その気持ちは理解できる。
 何故なら、次のイベントで実装される新規キャラクターの性能が異常だから……。まず、レア度はSSRなのに出撃コストがそこまで高くない。このゲームは高レアキャラは能力値やスキルが高い代わりに出撃コストも高く、ただ強いキャラだけでパーティを組んでいるとスタミナがすぐに消えてしまう。それがバランス調整を担っていたのに破綻していた。次に、能力値も不必要と囁かれるエーテル防御だけが少なく、他がそれなりに高く……と無駄が少ない。トドメに、固有スキルは味方の攻撃力を倍加させるのだけど、その発動を単体でこなせてしまう。他にも同等に攻撃力UPのスキル持ちは存在するけど、発動に手間がかかったり、コストが重いと制限が課せられているのに、新キャラは設定を間違えたんじゃない? と疑うほど簡単に発動させてしまう。このゲームは様々な構成を練ることが可能なのも一つの特徴だったのに、今はパーティに合う以前に、このキャラを中心にしたパーティを作るべき、と断言されていた。

 ──壊れキャラ、だった。

 更には次回実装予定のダンジョンは高難易度化が発表され、つまり新キャラ必須となる。今までは自分の好きなキャラ、無課金でも時間をかければクリアできる! が謳い文句だったのに、あからさまに課金を促している。無課金ユーザーはお断りという態度、まぁ運営側からしたら当たり前なんだけどね。けど、色々邪推しちゃうし、なんか裏切られたような気がして、ちょっと不安になる。このままゲーム続けるのも辞めようかな……と一瞬過ったけど、新キャラを見た瞬間にまだ続けよう……と私は踏みとどまった。
 
 何故なら、新キャラは……可愛い。
 私でも知ってる有名なイラストレーターさんが描き、発表された段階で大絶賛だった(その後即座に炎上)。そして何より……似てるのよ、レイに。髪型や表情の雰囲気がそっくりでなんか目が離せない。私の仲間にしたい……と心の底から願う。
 欲しい……。
 ドキドキと胸が高鳴る。
 今の私のパーティに組み込めば穴が塞がるどころか今後の攻略もかなり安定する。育成のために止まっているストーリー攻略も進めることができるはず。
 絶対に、何が何でも……手に入れてやる、と強い決意が私の中で生まれた。

☆★☆★

 大炎上はしたけど、喉元通り過ぎればなんとやらでイベントが始まった。新キャラも能力が下方修正されることなく実装された。
 私はこの日のために、地道にコツコツとクリスタルを貯めた。70回もガシャを回せる。ピックアップ率も0.5%! いける──。
 が、結果は惨敗……。
 狙っていた新キャラは現れない。
 クリスタルの数が零を表示した瞬間、「あははっ」と乾いた笑いが溢れる。けど次の瞬間、どろっと体から何かが抜けていくような感覚を味わった。期間限定SSRが実装されて引けなかったとしても、まぁどうでもいいわね……と軽く流せたはずだったのに、この子の……レイにそっくりな姿が私にガシャへの欲望を突きつけた。

「サクラ! 今日も授業中弄っていたでしょ。先生に見つかったらスマホ没収だよ!」「コンクエ出すだけだから……」

 一分一秒が、欲しかった。
 僅かなクリスタルでも貯めないとガシャが回せない。

「はぁ、サクラ……」
「ん?」
「嵌りすぎだと思うよ。もう少しさ、余裕を持って」「だって期間限定なの。イベントが終わったら、この子は……多分二度と手に入らない」

 他作品とのコラボキャラの場合、一度イベントで手に入れ損なうと次いつ復刻されるのか不明とよく聴く。この子はオリジナルキャラだけど、今回ネットがこの話題で染まるほど問題を引き起こしたので、復刻イベントは相当先になると思われる……。ここで新キャラ……レイ……とそっくりのキャラを手に入れないと私は、私は……悔しくて泣きそう。なんかレイの友達を名乗ることも許されない、そんなおかしな不安に襲われた。

「課金、するの?」
「できればしたくない。けど溜まっていた石は溶かしたけど来ない。また集めてはいるけど……」
「あの……サクラはなんか課金しちゃいけないタイプな気がする」

 レイはため息混じりに言う。

「もうそこまで心配しないでいいわよ。大丈夫、別に出るまで回す! とかしないから」
「う~ん、でも今のサクラを見てると3000円払えば無料で10連回せるじゃない! とマジで言いそう」
「そこまでバカじゃないわ」

 私がせせら笑うと、レイはきゅっと手を掴んでくる。

「レイ?」
「あ、そんなに……新キャラ欲しいの?」
「えぇ、だって強いし。チートスキル持ちで能力も高いと完全な壊れキャラ。だけど、この子をパーティに組み込めたらこの先の攻略がぐっと楽になる」

 あと、レイに似てるから。
 口には出さないけど、心の中で唱える。そう思うと可愛くて可愛くて仕方がない。愛ボイスや被ダメのボイスも聴きまくりたい……レイの声色を脳内で再生させながら。

「……へ、へぇ、ふうん……」レイは突然目をパチクリとさせて動揺し始めた。
「急に変な声出してどうしたの?」
「そ、そのキャラってどんな子なの?」

 私がまとめサイトの記事を見せる。

「なんか魔法少女! て感じがするね」
「イラストも可愛いって既に人気あるのよ。イラスト投稿サイトにもたくさんある」
「うんうん。けど……なんか露出高くない?」
「ユーザー数は男性が多いんだから仕方ないわ」
「サクラはこの子可愛いと思う?」

 とても。
 ……レイに似てるから、なんて絶対に言わないけど、可愛いし、レイっぽいし、レイを私のパーティに入れたい! ってわけのわかんない状況に陥っているのももちろん内緒──。
 頷くと、レイは何故か嬉しそうに口元を緩めた。私の手を離し、笑顔を隠すように口元を抑える。「何笑ってるの?」
「なーんでもない。でも、課金しないように気をつけてよ。もう私はクマたんゲットできたからこれ以上口挟まないけど、高校生で課金して破滅とかヤバイからね」

☆★☆★

 イベント最終日。
 あと、数時間でイベントが終わろうとしていた。

「……そんな」

 手に持つカードの価値が一瞬で消え失せたことに理解が追いつかない。
 例えば、500円を払い、パンやおにぎり、あと飲み物を購入して飲食をしたとする。空腹や喉の渇きを癒やすことで『500円』の価値を実感できる。

 でも、この3000円で購入したポイントカードは、あっという間にただの紙切れになった。私に何も満足させることなく──。
 カードを裏返しにすると、10円玉で荒々しく削られたコードの後がある。もちろん私が削ったのに、本当に? と疑ってしまう。記憶を何度も掘り返すけど、私が購入した。そして一瞬で価値がゼロに変貌した。

 細々と集めたクリスタルを消化してもレイ(によく似たキャラ)が出ない私は、イベントの最終日に、コンビニへ向かい、一目散にポイントカードを掴むとそのままレジに直行して購入した。で、アカウントに登録した後に即座にゲームのショップで有償クリスタルを購入してしまった。
 深呼吸を一つ、二つ……して、ガシャを回した。

 出なかった。
 私にとっては全く価値のないキャラクターと装備が出て来る。さっきまで存在したはずの3000円は一瞬で消えてしまった。まるで、初めから3000円が存在していなかったような気持ちになる。

「う……はぁ……」と呼吸がおかしくなる。コンビニの飲食コーナーで一人呼吸を整えるように肩を揺らす。

 課金したら、まぁ流石に手に入るわね♪……と高をくくっていた。
 根拠のない思考回路だけど何故か私は信じていた。多少の課金は仕方ない、しかしこれさえ乗り越えたらレイが手に入る! と確信していた。が、あっけなく現実を突きつけられる。たった3000円って思われるかもしれないけど、私は今まで手元にあったお金が突然消え、何のリターンが無いことが信じられない。初めての感覚だった。ぞわぞわっと、嫌な予感が私に忍び寄る。恐怖を覚えた。なのに、あと……もう10回だけ回してみようじゃないと、声が頭の中から聞こえてくる。出るとは限らないじゃない! と反論も響くけどとても小さくて、早く回しましょう……という怒号に掻き消されてしまった。

 うん、
 うんうんうん──。
 よし……。
 ──あと10回だけ、回しましょう。
 出る、気がする。
 出なかったら……その時は……その時は、まぁ……もう……ううぅ……仕方ない、と……諦めるしか……ない──のかしら……いやぁぁ……でもぉ……ねぇ……うぅぅぅ。

 席から立ち上がり、ポイントカードコーナーへ赴こうとした瞬間、手首を掴まれる。
 ──レイに。
 いつの間にか、私の隣に座っていた。そういえば、学校帰りにいつものように一緒に下校し、途中のコンビニに寄ったんだった。記憶にない、というか、イベント最終日でまだ手に入れていない……という恐怖で感覚が著しく鈍っているようね。

「もう諦めようよ」
「イヤ」
「あれほど課金だけは絶対にしないじゃない! って豪語してたのに」
「次は出る、気がする」
「もう三枚も購入してるし……」
「……そうだっけ?」「そうだよ!」「レイの記憶違い」「サクラしっかりして! ねぇもうやめようよ。お金もったいないし」
「皆何万も課金するって言ってるわ」
「だからってサクラも課金していいわけじゃないでしょ。まぁ、サクラのお小遣いだからどう使おうが勝手だけど、でも……」
「次は来てくれる気がするの」
「それフラグだよ……」

 ──レイの言う通りだった。
 私の計12000円はどこかへ消えてしまった。まるで初めから存在しなかったように。
 一瞬だった。
 早すぎる。
 実感も、絶望感すら与えてくれない。仄かな哀愁だけを私にさっと置き去りにして過ぎ去る風のようだった。
 流石に課金して40連ガシャを廻したら出てくれる、そう信じていた。
 馬鹿だ、と思う。
 ホント、どうしようもない馬鹿……。
 でも……
 でも……
 あと、10連を一回だけ──。

「サクラ!」

 またレイに手を掴まれた。
 今度はぎゅっと。
 今まで感じたことのない、力強い感触が手首を覆う。ぴりぴりっと掴まれた部分が痺れる。心地良い感触だけど、今だけはちょっと不快に感じる。

「離して……。あと10連だけさせて。そうしたら諦めるから」

 嘘だった。
 もうなんか出るまで回すつもりだった。幸いお金はある。お小遣いは多分平均よりも多く貰ってるし、密かに貯めているのだ。ホントはガシャを回すために貯めていたわけじゃないけど、……今はそんなこと言ってられない。

「嘘だよ、私わかるもん」
「レイ……」
「──ねぇ、サクラ」

 レイはふぅ……とため息をついたあと、スマホを操作し、私が欲しいキャラクターを表示させる。

「何?」
「この子さ、……あ、あの……ね」

 レイはもじもじと体を動かし、頬を僅かに染めながら何かを伝えようとする。ふうぅ……と息を整えながら、恥ずかしがるレイの不思議な姿は珍しい。

「ん?」
「わ、私に……似てる……かなぁ~」「……突然何よ」「ほ、ほら~髪型とか、顔はちょっとアニメ過ぎるけど……」

 私はレイを無視して通り抜けようとしたけど、背後からぎゅっと体を拘束される。

「もうサクラにお金払わせたくない。発端は私なんだもん。私がサクラを巻き込んで……これ以上は、ダメだよ!」
「大丈夫もうレイは関係無いわ。責任は私にあるの。私が、このキャラクターを欲しい……ただそれだけのために課金する」
「ねぇ、課金しない方法はないの?」
「時間がないのよ」

 私はレイの腕の中で体を反転させる。
 レイと目が合う。
 鼻と鼻が触れ合う距離だった。近いわ──。「だから、離して──」

「サクラ……私は……課金とかしなくても……サクラの隣に居るから。だから……この際、私で……我慢できないの? あの……ほら、その子とそっくりなんでしょ?」

 えぇそうね、でも「レイは……前衛の攻撃力倍加バフ、使えないじゃない──」

 私の言葉がレイに突き刺さったのか、ぐっと呻くように震えた。
 私も自分が何を言っているのか、理解できない。
 けど、そう吐き捨てていた。

「ぐうの音も出ないよ。……その通り、そういうスキルは……無い、です……うん。──いや、サクラ」
「な、何?」レイは真っ直ぐに私を見つめる。震えながら。頬に赤みが刺している。
「なんか実は……あるか、も?」
「どういうこと?」
「サ、サクラの気持ちを読めるとか。手を繋ぐと──」「……ありがとう、レイ。私も、今だけはレイの気持ちが伝わってくる。でも、ごめんね」

 レイの拘束が緩む。
 そうよ、いくら現実のレイとゲームのキャラクターがレイそっくりでも、レイは……レイは……使えないの! スキル持ってない。パーティに組み込むことも、戦術を組み立てることだってできない。ごめん、レイ。私が悪いわ。バカとしかいいようがない。最悪。けど……もうここまで来てしまったの。どうしようもない。戻れない。一方通行だ。時間は有限だった。お金も……。

 私はレイを振り切るように一歩踏み出した。腕を伸ばして、カードコーナーから一万円のカードを掴もうとする。もうちまちま3000円買ってる暇は無い! けど、その時レイの足に私の足がひっかかり、一瞬の浮遊感を覚える。咄嗟に片足を伸ばしてバランスを保とうと、腕を振り上げてしまい、あっ! と思った時には私はスマホを宙に投げていた。

 ひゅんひゅん──と空を切りながら堕ちる私のスマホ。

 レイが見事にキャッチする。その瞬間、画面が光り始めた。レイはおずおずと私にスマホを見せる。……これは……ガシャを回した演出? レイが画面を掴んだ時に押してしまった──。
 一応有償ガシャ1回分が残っていたけど、10連することでSR一枚追加されるので、私は絶対10連分貯まらないと回さない。あぁ勿体無いじゃない! と憤りを感じた刹那、画面に虹色の輝きが灯る──。

 SSRの演出──。
 レイが恐る恐るスマホを私に掲げる。
 私はまるで何かに導かれるように、指先で画面に触れていた。ぽわんッ……と画面が揺らぐ往々しい演出が始まり、そして……

「うそ……」

 言葉が続かない。
 何故なら──「レイ!」「ど、どうしたの!」「ねぇ、ほら! 見て! すごい! 当たった! レイが来てくれた!」「……私?」「違う、えっとレイが引き当ててくれた! あ、あ、……ありがとう……ありがと……うぅ……うぅぅ……はぁ……」

 強い疲労感を覚えて、私は椅子に座り込む。椅子に凭れながら、体が震えている。ぷつぷつと泡が弾けるような快感が頭の中に広がっていた。これで……やっと解放されるのね。レイ(によく似たキャラ)が来ない日々は悪夢の時間だった。もし手に入れられなかったら……と思うとストレスで頭痛を感じるほどだった。苦しい日々だった。辛い時間だった。ごめんね、レイ。ごめん……。でもありがとう。感謝しかない。

「サクラ、大丈夫?」
「……なんか……ふわふわしてるわ」「サクラがこんなになるなんて。恐ろしい……」「うん……でも、ホントありがとう……。レイが、引き当ててくれた。ありがとう……」「今まで一番感謝されてる気がする……。とにかく、サクラが元通りになるならいっか」
「そうね……。最近の私、ホントどうかしていた。……ごめんね、非道いこと言ったりして」
「まぁ繊細な硝子ハートの私は散々滅茶苦茶とてつもなく傷ついたけど、私がサクラをそのゲームに引き込んだんだし、お愛顧ってことで」
「本当にごめんなさい」

 頭を下げると、レイは表情を緩めて笑顔を見せてくれた。そういえば、最近はレイの表情を見ていなかった。若干寂しそう。……私がゲームばかり視線を注いでいたため? すっと胸が冷えるような寂しさを感じた。狂った私をレイは見捨てずに見守ってくれたのに、私はそんなレイを無視して……ただレイにそっくりなキャラがほしかっただけなのに、レイへの想いは何一つ変わっていないはずだったのに──。

 ──このガシャを乗り越えた私は、少しゲームに冷めてしまった。一応ログインボーナスやイベントはこなすけど、以前のように毎日ゲームのことを考え、ゲームに合わせて生活することは無い。このままフェードアウトする、と思っていた。

 でも、次のイベントは、今回手に入れたレイ(によく似たキャラ)のSpec VUPが予定されている。限定Spec VUPのため、色々と素材や装備が必要になる。そのためには、また……乗り越えなくちゃいけないの、ガシャを──。

 ……ごめんね、レイ。
 先に謝っておくわ。


//終
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