迷宮踏破の前に。

サーモン

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第2章 少女たちを雇います。

花売りの少女

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 迷宮を出てきたらすでに日も沈みかけていた。
 初めて暗くなるまで迷宮にこもってクタクタだ。

 リズの活躍により1日で5万以上も稼げた。

 お金はレベリングをした結果なだけで、目的はレベル上げだったのだが……。

 このまま稼げば8日でまた新しい奴隷を購入できるな……。

 夢が膨らむ。




 今日は時間がないので、宿屋の酒場で食事をした。
 まさか2日連続でここにくるとは思わなかった。

 出店の料理が肉中心でレパートリーがないのも悪い。


「リズも今日は疲れただろう、一緒にお酒を飲むか」

「私は結構ですニャ~、ご主人様が酔っ払った時の看病をするニャ~」
「看病っていっても……、ここの宿屋に泊まってるんだが……、また記憶がないうちに何かをする計画でもしているのか」
 リズがビクッっとした。そして機械仕掛けみたいにぎこちなく、首をこちらに向けた。
 図星だったか……。

 リズは頭をかかえて。
「バレてたニャ~、どうしようニャ~」
 リズさん、心の声がダダ漏れだ。

「お、お花を摘みに……、行ってくるニャ~」
 トイレに逃げの一手を決めるつもりか。

 そうはさせない。リズの首の後ろを掴む、通称〈ネコ掴み〉。
 リズの体の力が抜けてダラーンとなる。
 顔をこちら側に向けると。
「怒らないで欲しいニャ、反省しているニャ、ご主人様に捨てられたらもう生きてはいけないニャ」
 涙を流して懇願された。リズの相手をするのはかなり大変だもんな……。

「一緒にお酒を飲んでくれたら許すぞ」

 リズの顔が一瞬輝いて、すぐにまたこの世の終わりになった。
「私はお酒が飲めないニャ、飲んだらすぐに寝ちゃうニャ」
 酒を飲むと寝ちゃうタイプか。

「んじゃお酌してくれればいいよ」
「はいニャ~」

 そして俺は、いつかリズにお酒を飲ますことを心に誓った。(これはまた別のお話?)



 酒場で計画がバレたせいか、昨日と違いリズは真面目に俺の背中を拭いてくれた。
 調子にのっていなければ、リズは普通の子なのだ。

 ただ……、ベッドの中のリズは昨日の方が魅惑的だったのは内緒だ。
 今日はこれ以上嫌われないように細心の注意を払っている感じだった。


 迷宮で疲れて、宿で疲れて、リズは大丈夫だろうか……。





 翌朝のリズはやっぱりなんだか本調子ではなかった。
 筋肉痛? 動きがぎこちない。

 転職してレベルダウンしたのと、一気にレベルアップしたのとで体が疲れているようだ。

 俺の時はそんなことなかったんだけどな……。
 考えてみたら、極フリだから、筋力も体力も大して変動していなかった。



 リズが疲れているため、今日は1日休みにした。

 精神的にも疲れていそうだから、抱きしめてなで回した。
 やっぱりリズをなでていると癒される。
 リズもなでられて幸せそうだ。
 WinWinってやつだな。

 顔のしまりがなくなって、フニャ~ってなってるな。
 久しぶりにあごの下もなでてみるか。

「そこは反則ニャ~」

 あごの下の方が気持ちいいらしい。

 なでなで、なでなで、反応がいちいち楽しいな。

「これ以上はダメニャ~」

 ……。

 …………。

 リズはトイレでパンツを履き替えていた……。


 ごめん……。朝から……。あごの下は当分しないでおこう……。





 朝食をとってから2人で町を散策することにした。

 リズが俺の手を睨んでいる。
 なんだか、しっぽも逆立っているような……。

 頭を触ろうとしたら、逃げられた……。
 ショックを受けていると、今度はリズが慌てだした。ちょろインめ。

 やっぱりリズの頭は最高だ。

「ベッド以外ではあごの下をなでないで欲しいニャ~」
 と耳打ちしてくるリズは素晴らしい。
 正直今すぐなでたい。ベッドに戻るか? いや、時間帯は言ってないが、夜限定だろうな……。
 今夜が楽しみだ。


 朝食の後だけど〈肉の串焼き〉を1本ずつ食べる。
 リズとこれを食べると、くちも手もベトベトにして食べていたリズを思い出せていいんだよ。
 っと教えたらリズにポコポコとネコパンチをされた。なんだか少し気持ちがいい……。
 あれはよっぽど恥ずかしい出来事だったらしい。


 リズの服を選ぶ。
 今回は少し高くても良かったんだけど、リズはいろんな服を着たいから、安くて大量がいいそうだ。
 ついでに布とか皮とか鎖とか裁縫道具を買った。いったい何を作る気だ?
 リズって手先が器用なのだろうか? 不安だな……。


 次はリズの2体目のテイムモンスターだ。

 でも今回はまだ保留でいいか……。
 俺のレベルがあと1個で4体目を従えれるからその時に一緒に何かをテイムすればいい。
 称号のためにも少し乱獲して売る予定だ。情が移る前に売らないと俺はきっと売れない。


 最近パンダ様のレベルアップが遅くなっている。
 適正レベルを超えているのかな? レベルアップまで残りいくつの表示はないし、種族、素質で必要経験値が違うし、これは調べられないな……。


 リズといつもの場所で日向ぼっこしていると。
「お花はいかがですか」
 急に少女に話しかけられた。

 リズの目が切なそうだ。リズも小さい頃に同じことをしていたらしい。
 リズは孤児だからお金を稼がなくちゃいけなかったし、その日食べる物も苦労していたんだった。

 今でこそ俺の膝の上でのんびり日向ぼっこしているが、この世界の住人からしたら貴族じゃないのに、贅沢な時間の使い方をしている。
「いくらだ」
「5モールです」

「1つもらおう」
「ありがとうございます」


 リズの頭に付けてやる。
 なんか合わない……。



 服に付けてやる。
 やっぱりなんか合わない……。



「あと2つもらって、宿の部屋に飾ろうか、水の手入れはリズがしてくれ」
「わかりましたニャ~」

「え~っと、10モールになります」
 お金を払ってリズに持たせる。


 花売りの少女は別のお客さんを探しに行った。

 やっぱりリズは花売りの少女を自分に重ねているようで、ずっと目で追っている。
「これであの子は今日何かを食べれるニャ」
 今日を乗り切らなくては明日はこない。
 あの子にとっては、今日を乗り切るためにあの15モールはどうしても必要なのだ。

 俺たちにとっては絶対に必要な15モールではなかったとしても……。


 今日はお節介を焼くことにするか……。
「リズ、お願いがあるんだが……」
「なんでしょうか」

「あの少女と少女と一緒にいるであろう子に〈野菜スープ〉をごちそうしよう」
 リズにとって意外だったのか、とてもビックリされた。
「いいんですか」
「100人、200人いたら無理だが、10人ぐらいなら大丈夫だろう。聞いてきてくれ」
「聞いてきますニャ~」

 テンプレではあるが、俺はそれでもやることにした。

 みすぼらしい格好をした少女が4人になった。
 売り子だけは他の3人と比べるとキレイにしている程度だ。
 売り子が1人、その間に花を集める少女が3人といったところだ。

 治安がいいとはいえ、家はなく、南側の貧民街で生活しているようだ。
〈野菜スープ〉を1杯ずつ与えると、無言で食べていた。
 リズと目が合う。



 ……。



 …………。



 俺とリズも〈野菜スープ〉を買って食べた……。



「リズ、これから……」
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