35 / 41
Live
mode
しおりを挟むそして正月期間のハレの日が終わりケの時間に戻るが、去年とは明らかに異なる凜さんという鮮やか色を帯びた刺激的な日常生活を俺は過ごす。
友達からという言葉が凛さんから出たものの、今まで付き合ったどの彼女以上に濃い時間過ごしただけに、そんな清らかで穏やか関係に戻れる訳もなく、誰よりも可愛く、そしてパワフルで、二人きりの時はエロい凛さんにドキドキされまくっている。
黒猫にいる時は愛する透さんがいるからその姿を見て嬉しそうだし、杜さんや澄さんとの会話も楽しんでいるようだけど、二人きりになると百%いや二百%のパワーで俺にだけに構ってくる。それが面倒くさいと思う事もなく、嬉しいと思ってしまう俺もかなり凛さんに参っているのかもしれない。
しかし同時に感じるのは、自分の未熟さ。スーツ姿の凛さんや、凛さんが離す仕事についての話から感じる大人な世界。そこに少し距離を覚えるのは確か。
そして凛さんへの興味から外務省職員という仕事へ関心も膨らんでいく。
「英語で話すしかない外国人との方が 日本語で会話している上司より、まともに対話出来るってどう言う事なんだろうね。建前は不要だとは思わないけど建前だけの会話ってなんか嫌」
そう言いため息つき凛さんは俺の作った目玉焼きとトーストだけという簡単過ぎる朝食をつつく。俺は目を細めて見つめる。
「何? 仕事の愚痴で退屈だった?」
凛さんは俺の長袖Tシャツを着た姿で首をかしげてくる。
「いえ、愚痴と言いつつ凛さん仕事楽しそうにしているなと思って。外務省でそうやって色々頑張って働く凛さんがカッコイイなと」
そう言うと凛さんは真っ赤になって顔を横に振る。
「そんな事ないわよ、私なんて口うるさく面倒くさい部下だと思われているよ。
でも、楽しいのは確か! やりがいあるし刺激的だし」
そう言いながら凛さんは明るく華やかな顔で笑った。その笑顔が眩しい。
「楽しそうですよね。外務省の仕事。凛さんに会うまで漠然としか分かってなかったけど、色々話を聞いている内に面白いなと思いました」
思った以上に多岐に渡り、各名国の情報収集に加え日本の広報としてのイベントの開催など。凛さんは通訳だけでなく着物でコンパニオン的な事までと様々な事しているようだ。確かに和服姿の凜さんなら、日本をいい感じにアピール出来るのかもしれない。先日正月の時、着なれていたし、目の前で颯爽と着物を慣れた手付きで身に付ける様子も素敵だった。
「面白いよ。世界を感じる。
でもスマートに人と向き合えるから、ダイちゃんの方が上手く色々やっていけるのかもね」
凛さんは猫のように目を細めて俺を見つめてくる。その、視線がこそばゆい。
「ダイちゃんもおいでよ! 一緒に働いちゃう?」
凛さんは簡単にそう言った。その時はただ笑って『どうだろ? 俺に向いているかな?』と笑ってそんな返事を返したが、凛さんのその言葉はスゥ~と俺の心に入って行き、俺の中で何かを芽生えさせていく。
学校が始まり就職課に足を向けてみて国家公務員試験について調べてしまったのも遠くない先にある就職活動が気になったかから。そして個人的に国家公務員に関する説明会にも参加して、ハッキリと想いが膨らんでくるのを感じた。
就職先を彼女の言葉がキッカケで目指しても良いのか分からないけれど、チャレンジする価値のある仕事に思えた。しかしまだ二年の段階で公言するのは恥ずかしいので密かにそれに向けて参考書を揃え勉強を始める事にした。凛さんも仕事が忙しいようで毎週会える訳でもなかったけど、電話や、メールでは対話できるし、俺も色々することあったので寂しくはなかった。頑張れば頑張るだけ凛さんに、近づけた気になるのも楽しかった。
そうやって俺なりのペースで凛さんとの関係を進めようと密かに頑張っていた。そんな時だった黒猫に一人の中年男性がやってくる。
年齢は五十代くらいで上質のスーツの良く似合うダンディーで渋い大人の男性。挨拶する俺に落ち着いた感じで頷き、視線をバーカウンターの方に向けて目を細めて口角を上げる。普通そうすると笑って見える筈なのだが、そんな柔らかさはない。整っていて落ち着いた顔立ちの為かなんか存在感がある。髭と眼鏡と杜さんは個性がありインパクトあるのに比べ、その男は身嗜みもちゃんとしていて清潔感もある。しかしなんか眼つきが悪いわけではないのに目力があり印象に残るひとだった。そう思っていたらいつの間にかカウンターから出てきた澄ママが、顔を嬉しそうに綻ばせその男性に抱きつく。俺はその行動に内心慌てる。
その相手は慌てるではなく、澄さんを優しく受け入れ渋い低い声で何か親しげに囁いている。俺は恐る恐る杜さんに視線を動かす。案の定杜さん面白くはなさそうだが睨みつけるわけでもなく顔を顰め溜息をつく。表情を引き攣らせながらも笑顔を作り、その男性に自分の前の席を進める。超常連専用席に人を誘うわりにその表情は硬い。
「寛(かん)さんご無沙汰しています。珍しいですね。こちらにいらっしゃるとは」
杜さんは目の前に座ったその男にそう挨拶している。敬語を使っている所からも仲良しには見えない。
「近くで集まりがあった。
寧ろ来るのが遅れて申し訳ない。君にはキチンと顔を合わせご挨拶に伺うべきだとは思っていたのだが、色々私も忙しくて」
その男性が真っ直ぐ杜さんと向き合い顔を合わせると杜さんは珍しく目をそらした。
「いえ、そんな挨拶なんて……先日もなかなか手厳しいお手紙まで頂きありがとうございます」
相手の男は、そんな杜さんを見てフッ目を細める。
「まあ、余計なお世話だったかな、君が一番分かっていた事だろうし」
杜さんは苦笑する。
「透くんにも同じ事言われましたよ」
男は視線を店内に巡らせある一点で視線を止め口角を上げる。視線を向けられた透さんは驚いた表情をするが笑みを作り、頭を下げる。
澄さんはというと、そんな妙な緊張感を漂わせている男達をニコニコと見つめている。俺は澄さんにコソッと声掛け料理の注文を通すと、澄さんは少し残念そうにその男性に視線を向けて、『後でユックリ話しましょうね!』と笑顔を向けてカウンターの中に戻る。微妙な空気の男性二人を置いて。俺は気になるけど、杜さんから渡されたドリンクを持ってカウンターから離れる。注文をとった透さんとすれ違う。透さんはその、男性に笑顔で頭を下げ挨拶して、二人に注文を通してから何やらその男性と話しているようだ。その様子を杜さんは落ち着きなさそうな様子で見つめてくる。そんな杜さんにニコリと透さんが笑いかけ、杜さんはその笑みに少し緊張感を解くような表情をみせるが、男の視線が向けられると強ばる。誰なんだ? あの杜さんを恐れさせる男性は。
高級感のあるスーツを着こなした感じもしかしてヤクザの幹部? シマの視察に来たとか? とも思うがそう聞く訳にも行かない。最近はこういうインテリな感じのヤクザが主流なのだろうか?
「すいません来ていただいたのにバタバタしてしまって」
カウンターに戻ると透さんとそんな会話をしていた。
「この店も随分客が増えて賑やかになったな。寧ろそれで安心した。俺は飲みに来ただけだ、気にするなお前はお前の仕事をしろ」
そう言われ、はにかんだような表情を見せる透さん、男はそんな透さんに少しだけ優しく見える顔をする。表情が無いわけでなくちゃんと目尻下げて口角上げているのに笑っているようには見えず相手を威嚇しているように怖い。只者ではない、裏の仕事をしてそうにも見える。 透さんは比較的平然と話をしていたが、少し緊張はしているようにも見える。澄さんだけは上機嫌でその男に話しかけていた。気になるが店も忙しいこともあり仕事に集中することにした。
※ ※ ※
mode 音階を形成する組織の事
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~
白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街は、パワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。就職浪人になりJazzBarを経営する伯父の元で就職活動をしながら働く事になった東明(とうめい)透(ゆき)は、商店街のある仕事を担当する事になり……。
※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に同じ商店街に住む他の作家さんのキャラクターが数多く物語の中で登場して活躍しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。
コラボ作品はコチラとなっています。
【政治家の嫁は秘書様】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々
饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。
国会議員の重光幸太郎先生の地元である。
そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。
★このお話は、鏡野ゆう様のお話
『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。
★他にコラボしている作品
・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/
・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/
おにぎりが結ぶもの ~ポジティブ店主とネガティブ娘~
花梨
ライト文芸
ある日突然、夫と離婚してでもおにぎり屋を開業すると言い出した母の朋子。娘の由加も付き合わされて、しぶしぶおにぎり屋「結」をオープンすることに。思いのほか繁盛したおにぎり屋さんには、ワケありのお客さんが来店したり、人生を考えるきっかけになったり……。おいしいおにぎりと底抜けに明るい店主が、お客さんと人生に悩むネガティブ娘を素敵な未来へ導きます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる