蒼き流れの中で

白い黒猫

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十六章 〜真実がひらくとき〜 カロルの世界

罪の記録

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 パッセルとの時間は年月にすると一年と少し。カロルの生きてきた時間のほんの一部でしかない筈。
 だからといってパッセルという存在が居なくなれば元の生活に戻るだけということはない。
 パッセルと出会ってなかった時には無かったデッカイの穴が空いてしまいそれが全く塞がらない。
 元々そこに何があったのかは分からない。その空いてしまった空間を何で埋めれば良いのかも分からない。

 涙なのか? 怒りなのか? 

 葬式から一月程経つが、カロルはその穴を持て余していた。色々アレコレ考え事もしたくないから黙々と書庫の中で仕事をする。

 先日イービスか今の環境で学べという意味は少し分かってきた。ここで書類に触れる事も学びのチャンスだったのだ。
 ファイルには種類があり、白いファイルに入っているのは軽犯罪者。緑のファイルは軽犯罪を複数回行っており要監視対象犯罪者。黄色のファイルは重犯罪を、起こした犯罪者で拘束罪もしくは死罪となったもの。
 そして赤のファイルに入った書類。それは原理主義者として処分されたと者の記録。
 カロルが今集中して読んでいるのは、この赤いファイルの資料。それを時間の空いた時に読む。
 その事でヤツらの事が朧気に見えて来る。どこまでも自分本位で姑息で愚かなヤツらだと分かる。
 よく使うのが自分では手を下さず、関係ない人に近付き騙し罪を犯させるのがよく使う手。
 自分の兄だったというニヒルも、ヤツらが接触してマレのあらぬ噂を吹き込み凶行に走らせていた。接触していたという男の資料を読みその事を知った。
 ニヒルという男は、ソーリスを救うためにあのような行動をした。だから最初あそこまで誇らしげだった。ソーリスに否定されるまでは。そして今、ニヒルのその名は黄色いフォイルに収められている。
 読めば読むだけ分かるのは原理主義者の行動は卑怯な手が多いとう事。まぁ今の体制に正面からぶつかっても、軽くいなされ倒されるだけだからそうするしかないのだが、カロルとしてはそういったコソコソした所も許せない。
 カロルの心に怒りが再び沸き起こる。気分を落ち着けるために深呼吸をする。

 ふと、資料を棚に戻した時、自分か【C】のゾーンにいる事を思い出す。
 
 【CR】 で思い出す人の名前の名前を思い出す。

 【クラーテール】

 ここには咎人の資料が全てある。つまりヤツが何をしたのかその資料を見れば分かるということ。

クラーテールということは、スペルは【Crater】となる筈。
【クラーテール】と心で唱えながら資料の入ったファイルを探していく。
【Curpressus】まで調べたが資料は見つからない。

「何を探している?」
 突然声をかけられカロルは慌てる。
 下を見るとここの責任者の一人である男がカロルに、嫌な笑みを浮かべ見上げていた。
 カロルの事が気に入らないらしく、いつもカロルの仕事の仕方にイチャモンをつけてくる。
 書類の分類の仕方、入れ方、運び方等細かい所まで注意してきて苦手な男。
「いえ、片付けていただけです」
 とはいえ、身体に下げている袋にはもう書類はないので説得力もない。
「お前の資料を探しているなら【C・A・L・O・R】だからアチラだぞ!
 といって勝手に破棄するなんて事は許されないぞ」
 カロルは相手を睨みつける。そうここにはカロルの資料もある。過去のムシャクシャしてやったアミークス地区の無人の小屋や畑の放火。暴れたことの器物破損。シワンらへの殺人未遂。それらが秘される事もなくシッカリ調査され纏められた資料がここにはあった。
 それを見つけて、中を読みカロルは愕然とした。過去の自分がたまらなく恥ずかしくなり猛省するしかなかった。
 改めて冷静な資料として自分の犯した罪を見せられると、過去の自分がいかに問題だらけで酷かったのか見せつけられたからだ。
「書類を消失させる事に何の意味が? そうした事で罪は無かったことにはなりませんから。
 俺……いや私の資料は先日読ませて頂きました。シッカリ読んだ上で自戒しています」
 相手はカロルの言葉に意外そうな顔を返す。
「ならば。誰の資料を探していた? 原理主義者共の資料か?」
 カロルはフーとため息をつく。
 ここで無駄に探す時間を持つより、聞いた方が早いと感じたので勇気を出し言葉にする。
「クラーテールという人物の事を知りたいから調べていました」
 相手は驚いたように目を見開く。
「クラーテールッ? あの……クラーテール様の事か?」
 やはりこの男をクラーテールに敬称をつけて呼ぶ。
「どこにあ……りますか?」
 相手の男は怪訝そうな顔をする。
「ここをどこだと思っている? ここにあるのは犯罪者の資料だけだ。
 クラーテール様の資料がここにある訳ないだろ?」
 カロルは首を傾げる。
「だって、アイツは、ち……ソーリス様を裏切り……世間を騒がした……」
 ボンヤリ聞いていた情報を並べると、相手ため息をつく。
「罪深い事はしたかもしれないが。犯罪者ではないだろ。
 倫理的には大きな問題かもしれないが、世間ではよくある事だ。
 クラーテール様の地位と、ソーリス様に関わりの深い問題だったから大騒ぎになった」
 そう言って相手は、カロルを見てやや言いにくそうに目を逸らし頭を掻く。
「まぉ、お前にとっては面白くはない事かもしれないが……。
 でも考えてみろ! 后というのはあくまでも契約の関係だ。他の人と身体の関係を持ったからと浮気にもならない」
 浮気だけ? 何故クラーテールの存在はここまで人から責められている感じなのか? マレが奥宮に幽閉されたのか? 皆マレの事を罪人だという。
カロルは悩む。
「ずっと想い合っていた二人が共に生活していた。間違えも起こすだろう。二人とも若いし……」
 マレは父上と想い合っているのでは無いのか? カロルは即座にそう思い相手の言葉を、頭の中で否定する。
 父親ソーリス以上に素晴らしい人物なんてこの世界にいるはずもない。クラーテールという人物の横恋慕なのだと。カロルはそう自分に言い聞かせる。

 その後マレの名前もこっそり倉庫内で探したがやはり同じようにそのファイルは見つからずホッとした。
 逆に余計にそう【罪人つみびと】と言われる事の意味が分からなかった。


 カロルの中で、二つの事がグルグルと周り悩ませる。

 パッセルは何故、死ぬような事になったのか?
  
 【クラーテール】とは何者なのか? マレとクラーテールがそこまで人から言われる事の意味は何なのか?

 パッセルは居ないものの一人で街の食堂に行き、肉料理を食べ、パッセルとの会話を思い出す。

『あ、あのさ……クラーテールという奴。
 カロルは何も知らないのに恨んだり憎んだりするのは間違えてない?
 色々事情あるかもしれないし、会って話してみたら良いやつかもしれないじゃん』

 マレへの愛、クラーテールという人物への不信・不満を口にしていまカロルに対してパッセルが言ってきた言葉。
 いつもただ聞いていただけのパッセルがある日を境にクラーテールに対してだけ積極的に意見を言うようになった。どちらかと言うと擁護するような。
 今にして思えば不思議である。まぁ最初からそんなに悪い事をしたとは思えないといった発言をしていたが……。何かを彼は訴えていた。会って話をするべきだと。

 そして最期にクラーテールの名をカロルに伝えてきた。本来なら共に任務にあたっている仲間に伝えるべき所、カロルに態々心話を飛ばしてきた。
 何故なのか? 

 そんな事を考えながら食事をしていると、後ろに座った男の背中がカロルに当たる。
 カロルは不快さを示すために振り返ると相手は申し訳なさそうに頭を下げる。しかしカロルが元の姿勢に戻ると背中を付けてくる。

【太陽の子カロル様ですよね? そのままの姿勢で話を聞いて下さい】
 触れた身体を通して心話が聞こえてくる。
【貴様、何者だ?】
【パッセルの弟です】
 カロルは一度振り返り男の顔を見る。体格はよいが銀髪に淡い茶色の目をした男がコチラを見て頭を下げている。
 パッセルとは異なり色素の薄い感じの男を睨んでからカロルは正面に向き直る。
【パッセルの兄弟が何の用だ? 俺に】
 カロルは相手が離れた事にホッとしながら言葉を返す。互いの存在と位置を認識すると心話はしやすくなる。
【兄の死に納得いかなくて……貴方を頼ってきました】
 カロルは肉を口に放り込み眉を寄せる。今日のシチューに入っている肉は鹿だとか言っていた。その為か少し癖がある。
【ならば公安本部に申し出ろ! 俺なんかよりシッカリ対応して貰えるぞ!】
【無理です! 兄を殺した犯人は公安の人に護られているので俺には手出しも出来ない。しかし貴方の力を持ってしたら貴方なら倒せる】
 相手の男の言葉にカロルの心にどす黒い怒りが広がるのを感じた。その怒りは心話をしている最中の相手にも伝わった筈。
そのどう取ったのか変わらないが相手は話をまくし立てるように続けてくる。
【兄を殺した相手はクラーテールという人物です】
 カロルはその言葉に笑ってしまう自分を感じ。怒りを爆発させない為にもそうするしかなかった。
【貴方にとっても許せない人物なのでは無いですか? ソーリス様をとんでもない形で裏切り恥をかかせた……】
 カロルは激しく立ち上がり、プレートをひっくり返し、男の方を向くことも無くそのまま食堂を飛び出した。
 突然の事に頭が混乱していたから、落ち着きたかった。森の方に出てカロルは何度も深呼吸をする。

 自分はどうすれば良い? カロルは考える。男の事を公安の上司に訴える。それが一番正しい行動だろう。
 だが自分が今思い悩んでいる事を一気に解決する良いチャンスなのではないのか? カロルの頭にそんな考えが頭に浮かぶ。

 ※   ※   ※

 数日後、カロルはパッセルの弟を名乗った男の姿を見つける。
 そしてカロルから今度は接触する。
【話を聞かせてくれ! クラーテールという奴の話を】
 離れた所から心話でそう話しかけた。男の口にニヤリと上がるのをカロルは褪めた目で見つめていた。
【アイツは最初から怪しかった。逃げて来たというけど、きっとそれなりの事をして追われてしまったに違いない
 案の定受け入れたらソーリスさまに擦り寄り、あっという間に高い地位を得て……】
 相手はベラベラといかにクラーテールというやつが社会の悪でしかないのかを語り出す。
【そんな話はどうでも良い。用件をさっさと話せ!
 何故パッセルがソイツと関わりを?
 クラーテールはアミークスでしかない。訓練を受けていたパッセルがやられるわけないだろ】
 カロルの言葉に相手は一瞬黙り込む。
【何か良からぬ事を考え侵入していたのでしょう。
 アイツが卑怯者だから。背後から襲ったからです】
【ふーん】
 カロルはあの時パッセルと心話を繋いでいた状態の時を思い出し、拳を握り締める。
【クラーテールの奴は我々の踏み込めない場所で公安に保護されていまして……】
【……ほう】
【でも。貴方なら呼び出せる】
 色々聞き出したいが、心話では感情を抑えるのに必死で簡単な言葉しか返せなかった。
【俺が?】
 色々聞き出したいが、心話だと色々漏れすぎる。相手にあえてしゃべらせる。
【貴方の呼び出しなら、アイツも応じる……太陽の子の貴方様の呼び出しならば】
【何処にいる? ソイツは】
  男はどうでもよい事を続けそうなので、カロルは冷静を装いそう切り出した
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