蒼き流れの中で

白い黒猫

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十五章 ~毀れる足下~ キンバリーの世界

突きつけた決断

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 イサールは咎めるようなマグダレンの視線を感じながら、自分も彼女と同じ気持ちで咎められるべき対象ではないと訴えたくもなる。バーンソーレという人物は、ノリと思い付きで行動する所が困った所。
 前方から迫る敵を吹き飛ばしながら、ジッとバーンソーレの探査術の力を借り確認して悩むローレンスとキンバリーの様子を窺う。無鉄砲に即行動する二人でない所は助かった。

 花街の制圧が終わった所で、現在戦闘状態にあるのは三箇所。ベルナルド神官長が率いる職人ギルド制圧部隊。領城を攻めている二部隊、片方はパシリオ提督の部隊で堕人の海賊ジャグエ家の軍隊と戦っている。元海賊らを提督に任せイサールらは白い髪の堕人らが終結している離宮を攻めていた。堕人となった元海賊と、イサールらが亜種と呼んでいる白い髪の堕人は、今まで手を組みやってきたものの、それぞれべつの絆で結ばれているようだ。この状況下での協力体制は見られなかった。以前は元海賊も亜種を敬っている姿勢で接していたが、そこに敬意の心は元よりない。
 調査による見識は、亜種にとって巫を殺す事だけでなく堕とす事も復讐の一環で、堕とした者への仲間意識はないようだ。元海賊も亜種はあくまでも自分らが力を得るための道具としてしか考えているようで、互いに利用し合っていたにしか過ぎない。それぞれが相手が聖戦軍の勢力を程よく削ぎ良い盾となり、自分達が逃げ生き残る為の犠牲となることを望んでいる。そういった状況は聖戦軍にとっては助かったともいえるが、思った以上にそれぞれの個体数が多い。海賊の戦い方を熟知しているパシリオ提督をジャグエ家の者とぶつけたが、互いに手の内を知っている同士な事もあり膠着しているのが現実のようだ。
 ギルド街の制圧に向かっているベルナルド神官長の隊をそちらに合流出来たら一番良いのだが、街が広く神官長がしっかり慎重に作戦を進めているので手が離せない。とはいえその真面目で優秀な人物だからこそあの場を任せた。
 人数的に圧倒的に聖戦軍が有利にも思えるのだが、一般の巫の殆どは腐人といったまともな思考を持たない魔物としか戦った事がない。今回の戦いにおいて、初めて堕人と向き合うことになった者も少なくはない。鉱山と街での戦う各部隊の様子を踏まえて配備したのが今回の闘いだった。比較的経験の浅いメンバーを花街に向かわせ、経験が豊かなローレンスをそこにに添えた。ベルナルド神官長と共に職人街に向かった者は、それなりに実践経験も豊富な者達。その為に冷静さを失わず不意の攻撃にも慌てず対応し倒していっている。
 バーンの言うままに、花街を制圧した部隊を領城に向かわせれば、経験の浅い巫らがかえって足でまといとなる。
 その配置の意味を理解しているローレンスと、状況を読み察したキンバリーは、花街の巫をそこに残し、事後処理を任せ二人で向かう事にしたようで残る巫らに指示を与えている。

《パシリオ提督はこのままだと危険。その先の回路は壁が多くベントゥスが多いあの部隊には不利だ。今いる建物の出口を破壊して一旦退却させろ。結界石の共鳴エリアまで退避させてそこで部隊を再集結させ、別の経路からの進軍を試すべき》
 イサールはこの状況を遠くから見守っている友からの言葉に笑みを浮かべる。
《集結ね、君は誰と集結させる気だ?》
 マグダレンは黙ったままその先の言葉を聞きながら隣で術を放ち横から襲ってきた敵を焼く。普段は精神的に不安定にも思えるマグダレンが、戦闘時にはここまでの冷静さと集中力と戦闘力を見せる事には内心驚いていた。敵を察してから攻撃するまでの時間の速さ、そしてその攻撃の正確さ。イサールは共に戦いながら感心していた。イサールへの心話を共に感知していながら、その内容に気を取られることもなく目の前に繰り広げられる戦闘に確実に対応していっている。
《貴方の共にいるパラディンらと》
 マグダレンはその言葉に口角を上げ笑っているような表情をして、相手の力に圧され倒れた巫の前に反射結界を展開させてから、前に出て囮になるような動きで敵を誘い襲ってきた二体を倒す。
《なるほど》
《寧ろその戦場では彼らは貴方達の、足でまといですし》
 一番近い位置にある為に、確かにその合流が最も早く有効だろう。さらに武器を使わずに、直接術を放つ亜種らとの戦いは実践経験のあるパラディンらでも苦戦していた。彼らの予測を裏切る形で攻撃してくる相手との戦いに戸惑う彼らを守り補助しながらの戦闘は正直面倒だった。それに彼らが邪魔でイサールが本気出して戦えない。
《その上でローレンスらの二人を合流させる》
 イサールもとうに考えていた案をやはり相手は提案してくる。
《本気で言っているのか……》
《ローレンスは亜種との戦闘経験がある。彼らのように足手まといとはならないだろう》
 イサールはフーと息を吐く。
《しかし、君の娘は? 能力は高いが……》
 イサールはあえて名前ではなく関係性を示す言葉をかけ、反応をまつ。
《確かに彼女は未熟。しかし部隊全体を守って闘うのと、彼女一人守りながら戦うのはどちらを選びます? そこに彼女の能力が加わるのは戦略的には大きい》
 冷静すぎる返答いイサールは苦笑する。どういう表情で相手がこの言葉を言っているのかが想像できただけにそれ以上相手に追求する言葉は言えなかった。
《君は家族を守りたいのか? 危険に晒したいのか……》
 イサールは苦笑して部下らに指示を飛ばす。
《バーン。──、聞こえるか》
 隣でマグダレンが同行しているパラディンらに命令を下している。あれほど娘を危険に晒す事を嫌がるマグダレンが何の反論もせずに従い実行する様子にイサールはその関係性の異様さを改めて感じる。
 それが強き信頼によるものなのか、盲目的な追従の感情にくるからなのか、その判断が難しい。イサールは花街の二人に話しかける事にする。
《ローレンス殿、貴方は俺と合流してくれ!
 共に白き髪の堕人殲滅に動いてもらう》
《パシリオ提督は!》
 そう聞いてくるキンバリーにイサールは決定事項を説明する。キンバリーは息を強くはき気持ちを落ち着けているようだ。奮起する気持ち、恐れ、緊張そういった感情が繋げた心を通して伝わってくる。
《キンバリー。貴方がコチラの戦いに参加するかどうかは君の意思に任せる。とはいえ生半可な気持ちならば来るな。
 そこでの戦いと違い此方は甘い戦いではない。君の一瞬の油断が君をまた他の者を、危険に晒す事になる。それが嫌ならばそこに残り、花街での指揮を続けろ。来るなら覚悟をシッカリ決めた上で頼む》
 あえてイサールはキンバリーに厳しい言葉で選択肢を与える事にした。
 キンバリーはイサールの言葉に目を瞠り、そしてそのままジッと考え込んでいるようだ。緑の瞳がイサールのいる方角へ真っ直ぐ向けてくる。その眼でイサールはキンバリーの心の動きを察しため息をつく。
《共に戦います》
 キンバリーはイサールが、予想したままの言葉を返してきた。
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