蒼き流れの中で

白い黒猫

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十二章 ~母と子と~ カロルの世界

世界の為に

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 カロルにとって外の世界ではもう一つ煩わしい事があった。それは高い能力をもつカロルに媚びを売り気に入られようとして、近づいてくる奴が多い事。
 皆十五年の月日幽閉されたカロルを憐れみ、そしてそんな決定をしたソーリスやシルワを批判する。いや批判ともいえない雑言。讒言にもならない内容。
「カロル様の程の人物に無為な時間を過ごさせるなんて信じられません」
「最近、シルワ殿の横暴ぶりは目に余るものがある。ソーリス様が大らかである事を良い事に好き放題ですよ」
「腹立たしいのはあのマレというアミークス。寵愛など今だけだというのに、あたかもノービリスでもあるかのように振る舞う。しかもソーリス様だけで飽き足らずトゥルボー様にまで誑かそうとしているとんでもない奴です。カロル様も気を付けて」
「マレは自分の血縁者を次々と后に差し出し成り上がろうとしている危険な人物だ」
 敵を作りやすいシルワが色々言われるのはカロルもまだ納得は出来た。しかしカロルに対してソーリスやトゥルボーそしてマレの陰口まで言ってくる所がその取り巻き連中の愚かな所だった。カロルもこの十数年の中で、シルワという人物についてかなり学んできていた事を理解していなかったようだ。逆らうと世にも恐ろしい存在となることとを身をもって知った。またソーリスが側近として手元に置き、マレやトゥルボーが一目置く存在である理由が見えてきていただけに、何の役にも立たず遊んでいるだけの彼らのそんな言葉は前以上に響かず不快でしかなかった。
 ウンザリとし、怒りを露わに反応すると、途端に怯え諂ってご機嫌をとるかのようにカロルを褒め称える態度を見せるところがまた苛立たせる。
 追い払い溜息をついていると、そんなカロルを笑って見ている人物がいた。イービスである。
「相変わらず、無能な馬鹿らに大人気だな」
 カロルは顔を顰める。イービスがさっき一緒にいた人物らと自分が同類と言われたような気がしたからだ。
 カロルとて、周りを見てないようで人はそれなりに見ている。カロルに擦り寄ってくる人達に愚かさも姑息さも。無能で能力もない癖に自意識強く、他社の功績を認めない。今の己の現状に不満を募らせて燻っているだけのヤツら。または強い存在に日和って生きているしかないヤツ。どちらにしても禄な存在ではない。
「アイツらとつるんでいるつもりはない。
 既に爵位をもつ者は皆、父上への忠誠心も高いし、忙しい。
 その点俺はまだ子供。暇も隙もあると思われているのだろう。俺がヤツらの口車にのるとでも思っているのか?」
 イービスはそんなカロルの言葉を聞き面白そうに首を傾げる。あんなヤツらのおべっかを喜ぶような奴だと思われているのだろうか? そう考えると面白くない。
「だろうな。まだ子供で、誰の下についている訳ではないので、今のうち取り込みたいというので必死なんだろうな。そんなヤツらの相手をさせられて、お前も大変だな」
 予想に反してカロルを馬鹿にしたような言い方はしてはこなかった。ソーリスが持つ一位ブリームムからイービスの父親の持つ十二位ドゥオデキムムの爵位をもつ者が、それぞれの配下とともに役割を果たしこの世界を動かしている。そしてその配下にもなれない者は芸術や工芸といった生産活動に携わり社会に貢献していくのだが、自らの才能もなく、またギルドといった組織を運営する能力もない者は社会からあぶれていくしかない。そんな役立たずの存在は社会の片隅でヒッソリと大人しく生きていれば良いのに、それが何故か己らの権利ばかりを求め騒いでくる。
「配下……俺はまだそんな仕事は何もしてないかもしれないけど、父上の求める世界を共に追い求めたい。だからまずなるなら父の配下だ。そしていずれ側近になれるように頑張りたい」
 イービスは珍しく好意的な笑みを浮かべる。
「頼もしい。お前がソーリス様の側に仕える、あの馬鹿らの良い牽制になる。
 それにトゥルボー様もシルワ様も爵位をお持ちだ、側近といいつつそれぞれお忙しくて本当の意味でソーリス様に寄り沿えない。
 だからこそソーリス様にはお前のような存在が必要なのだと思う。自由に動きソーリス様をサポートできる存在が」
 カロルはイービスの言葉に目を見張る。
「お前は父上の為に動かないという訳か?」
 イービスは笑う。
「もちろんお前と同じだ。ソーリス様の世界を支える一員でありたいと思う。しかし人一人で、出来る事は限られている。だからこそ俺は俺の出来る事をする。それだけだ」
 イービスがカロルに偉そうに自分を語るのはいつもの事なのだが、今日のイービスの言葉はカロルの心に素直に届く。
 イービスはもう実際政治の仕事をしてその道を進んでいる事に軽い嫉妬と憧憬を抱く。
「お前はどう支えるんだ? あのマレの元で何か学んでいるのもその為か?」
 イービスは小さく、だがしっかりと頷く。 
「お前も知っているだろうが、トゥルボー様が宮を新たに作られる。
 俺はそこで働きトゥルボー様と共にソーリス様を支える」
 兄がこの宮殿を離れるという事実を知りカロルは少なからずショックを受ける。最近トゥルボーが忙しそうにしているのにそんな事実が隠されているとは思いもしなかったからだ。
 その様子をイービスはじっと見つめている。
「そんな悲しい顔するなよ。むしろドゥオデキムムの宮殿よりも、お前とは近くなるから、新しい宮殿で働くようになっても俺はお前に会いにきてやるよ」 
 イービスのからかうような言葉にカロルは鼻に皺を寄せる。
「誰がお前と離れて悲しいと言った……何故マ、マレがその為の勉強を教える? まさかマレも」
 ただ言い返す為に続けた言葉だったが、口に出してから怖くなる。
「……マレ殿は政治や文化について詳しい。……シルワ様の元でソーリス様の補助をしてきた。だから、その準備を手伝っているようだ。とはいえシルワ殿が何よりも頼りにしている存在だから手放すとは思えない。それにソーリス様も手元から離す気はないだろう」
 カロルはその話を聞き少しホッとする。同時にもう一つの事に気がつく。
「あの、テラの能力のアミークスも新しい宮殿にいくのか?」
 イービスは首を傾げる。
「お前と一緒に勉強しているあのアミークスだよ」
 カロルの言葉に『ああ』と言葉を発して頷く。
「シワンか、彼は若いけれど優秀な男だから。しかもマレの資質を良い意味で引いているから頼もしいよ」
 イービスの呑気な言葉にカロルは顔を顰める。
「なんであんな奴が、マレの資質をひくなんて言われるんだ?」
 顔を不快そうに歪めているカロルにイービスは苦笑する。
「彼はマレの血縁者だからね。ソーリス様の后もそうだけど、顔とか似ているだろ?」
 似ているも何も、あまりジックリと顔も見てないからカロルは返事に詰まる。
「でも……顔は俺の方がマレに似ていないか?」
 カロルの言葉にイービスは笑う。
「……まあ、そうかもしれないけど、お前は何ていうかファルクタースが強すぎてソーリス様の血の方が強く感じる」
 その言葉は言葉で嬉しかったのでカロルは少し照れて下を向く。
「ま、そんな事はどうでもいい。お前にちょっと気にしていて欲しい事がある」
 イービスが少し口調も真面目にそんな事をいってきたのでカロルもニヤケてしまっていた顔を引き締める。
「お前も何となく気付いているとは思うけど、最近不穏な動きが出てきている」
 全く気付いていないとは言えないのでカロルは黙って頷く。
「お前に近づいてきている奴らもその一環だからそりゃ気付くだろうな」
 イービスはニコリと笑いカロルを見る。それで何となくカロルは納得する。
「最近のアイツらは不満や批判ばかりだ。恩恵だけは受けているのに訳が分からない」
以前とは異なり、ハッキリとソーリスらを批判する言葉が増えてきている事。カロルも何となく気になってはいた。
「お前にまとわりついてくる奴らは、どういう状況でも不満を抱えているのだろう。でも裏に原理主義者らがつくとなると厄介な事となる」
 原理主義者。それはソーリス以前のノービリス至上主義体制の復帰を求め支持する集団。
「奴らは何が不満なのか」
 カロルの言葉にイービスは笑う。
「まあ、どんな社会においてもある点パーセントの怠け者が生まれる事は仕方がないらしい。
 とはいえそいつらの扱いは色々と悩ましい問題。
 アイツらは馬鹿だし。自分の先祖の栄光に縋り、今の自分の事がまったく見えていない」
 カロルは同意して頷く。前は能力より血筋の方が重きを置かれていたらしい。今ソーリスの政治に不満を募らせているのは以前権力を儀っていた家系の子孫。
「ソーリス様の政治はこんなにもシンプルで分かり易く過ごしやすいのにそれが理解できていていない。
 社会に貢献し役にたつことをすれば、一人前と認められ恩恵も受けられる。
 しかし奴らは何も役に立たないのに恩恵だけを求めてくる」
 カロルは無能なやつらの様子を思い出し、思いっきり顔を顰める。無能な奴は野垂れ死ねとまでは言わないので、それなりの保護をうけ生活はさせてはもらってはいる。
 そういう状況なのにそいつらは分不相応なヒラヒラの煌びやかな恰好をして、お茶やお酒を飲みながら一日文句を言っている。
 そういう生活を、真面目に働いている人によって支えられているというのに。
「奴らは、異様に変化改革を恐れる。自分達の立場が変化する事が怖いからだ。
 今回トゥルボー様が宮を構える事、そして后が出産に当たって何か行動を起こしてくる可能性がある。
 お前が生まれそうな時も、色々と馬鹿な動きをしたらしい。もしそういうのを察知したら俺なりトゥルボー様に教えて欲しい」
 カロルはいつになく真剣な顔でお願い事をしてくるイービスに驚く。
「え? 俺がそんな事を?」
 イービスは碧の眼を真っすぐカロルに向け頷く。
「お前だから出来るんだ。爵位をもつ者は忙しくてそんな事にかまけてられない。
 俺はドゥオデキムムの息子でトゥルボー様の配下。
 奴らにとって逆に一番警戒される存在。
 その点お前には油断もしてくるし彼らは愚かにも利用できると舐めてきている」
 カロルは『お前だから出来る』という言葉に心臓がドキっと震える。喜びの感情で。
 今までイービスの事が何で気に入らないのか、彼のいう事に何故ムカついてきたのか? その理由に今気が付いた。
 自分に近いようでいて、一足先に仕事をして社会の役に立っている所が悔しかったのだ。
 しかし今日からは違う、自分も共に仕事をして父親を支えられるのだ。カロルはイービスに『任せてくれ』と力強く頷いた。

※  ※   ※

 イービスは、研究所のシルワの人の悪い笑みを受けながら苦笑いをする。
「貴方もなかなかお子様の扱いが上手くて助かります」
 肩を竦め、デスクの前にある椅子に腰かける。
「シルワ様かマレ殿から命じた方が良かったのでは?」
 シルワはフフと笑う。
「命じられてやるのではなくて、自分から何か動いて仕事をさせる事が大事なのですよ。
 動物に芸を教えるのと同じ。喜んで仕事をさせて成果出したらヨシヨシと誉めてご褒美をあげる。それを繰り返す事で良い駒となる」
 イービスは黒い笑みを浮かべるシルワの表情に少し寒気を覚える。
「でも、良かったのですかね。カロルをアイツらとつるませる事は別の意味で危険な気もしますが」
 シルワは目を細めイービスに視線を向ける。
「面白い事に、あの子はソーリス様とトゥルボー様に対して盲目的という程傾倒している。それは理論とか意思とか無関係にあの子の奥深い所に刻みつけられた感情。
 だからこそアイツらの意思がそれに反するものである限りあの子は転ばない。
 それにあの子は色々と搔きまわすのが得意ですから、その能力をそこで発揮してもらいたいもの」
「まあ愛しのマレ殿もコチラ側にいる……」
 イービスは頷き、そしてもう一つ気になる事を思い出す。
「ところで何故、カロルにあの子供達との関係を明確に伝える事は避けさせたのですか?
 そうすることでカロルはよりあの子達を自分と近い存在と感じ親しみを覚えたのでは」
 シルワは笑みを引き少し悩む表情をする。
「私の勘ですかね。そうしない方が良いと感じたので。
 あの子のマレに対する感情が謎すぎる。
 崇拝しているソーリス様の寵愛を受けているから興味を持ち愛しているというのではなくて、妙な執着を持ち動いている。
 自分よりも近い存在を知ると、ややこしい感情を示しそうで」
 イービスは自分がマレと仕事している時に見せた、あの殺気も籠ったような視線を思い出し考える。
「あの度の超えた感情は何なのでしょうね。まさか恋愛感情とか言いませんよね」
 シルワは苦笑して顔を横にふる。
「それこそ、遺伝子に組み込まれた【何か】なのか……。ソーリス様にしてもマレに今までにない程執着と独占欲を発していますし……それに加えて」
 イービスは大きく溜息をつく。
「トゥルボー様までが、そこに加わらなくて良かったです」
 シルワは吹き出す。
「トゥルボー様は平和主義というか、ソーリス様とは違ってトラブルやもめ事を面倒がりますので。
 それなりにマレに興味は覚えているようですが手を出すまではしないでしょうね。
 でも私は見てみたい。私の腕の中で快楽に身体を震わせながら縋り求めてくるマレの姿を。
 可愛いのでしょうね~ベッドの中のマレ。ソーリス様どころでなくトロットロになるまで愛し尽くしてあげたい。
 そしてあのファクルタースを堪能したい」
 すこしウットリとした表情でとんでもない事を言っているシルワをイービスは睨む。ソーリスとシルワが恋人であったものの何故別れたのか? ドチラも綺麗で若い子が好きで、その相手を抱きメロメロとなるまで愛する事を好む。
 無意識にしているか態としているかの差はあるものの、そういう行為のの際その場支配し相手を精神的にも肉体的にも屈服して事を楽しむらしい。
 少しヤンチャだった人間も、一度関係を持っただけで相手はシルワに対して従順な犬と化す。
 それがあるので、イービスはシルワとは適度な距離感を保つことを心掛けている。
 そういう意味でも自分の相手がトゥルボーで良かったとイービスは考える。
「頼みますから、そういう事は止めて下さい。貴方がすると冗談にもならない」
 シルワは『それは、どうしましょうか』とコロコロと楽しそうに笑った。
「だったらカロルを指導のついでに抱いたらどうです?
 顔は綺麗で悪くないですよ。ファクルタースも美味しいでしょうに。
 手っ取り早く貴方に素直な存在になって一石二鳥では?」
 シルワは何故か美しい形の眉を寄せ嫌そうな顔をした。好みがかなり厳しいのもシルワという人物らしかった。
 余計な事はもう言わず、真面目に仕事の話をしたほうがよさそうだと、イービスは他の報告作業に戻り執務室から離れる事にした。
 部屋を出てこの異様に気疲れした心をどうしようかとも思う。そして頭に浮かぶ友の顔。今研究所にもいることだし、丁度良い。シワンが仕事しているであろうエリアへと歩き出した。

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