蒼き流れの中で

白い黒猫

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十一章 ~自由という名の~ キンバリーの世界

求めていたのと別の決着

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 神王が恐慌状態でまともに話せなくなった事で白けてしまった場も、一人動いたことでガロアに視線が集まる。それを受けて満足そうな様子のガロア。
「聖者様。この度はわが国の者が数々のご無礼を働いた事を代表して謝罪いたします。
 私共が責任もってその男から貴方様が求める答えを聞き出し、ご報告させていただきます。
 我々は貴方がたにこれ以上の失礼を行うつもりはありません。どうか怒りを収めて下さい」
 そう謝意のあるような表情で話し始めるガロアに対してのゼブロでの反応は次の三通りだった。一つは矢による激痛で話など聞いていないもの。
 一つは期待し救いを求める表情をしたもの。
 そして残りはあからさまに不快や苛立ちの表情を示した。神王の側近は特にたえきれなかったようだ。
 怒気を孕んだ顔で睨みつけるだけでなく口を開く。
「ガロアァ~!貴様! 愚かな。この逆賊が! 恥を知れ! そんな奴らに諂い擦り寄るとは! 何を考えてる!」
 その言葉にガロアは憂いを秘めたように見える顔を返す。周りにいた者らも次々と囃し立てる。
 まるで子供の喧嘩である。しかもその男が言う程諂っている訳でもなく、むしろ尊大である。
 喚いている男達の言葉でキンバリーは成程と思う。
 この国での外交は相手よりも上位の立場で強気に押し通すそれがモットーなようだ。
 政治とかに詳しくないキンバリーだったが、彼らのやり方がいかに稚拙なのかはそれでも理解できた。
 駆け引きもなにもない、単に横柄でいるだけで対話が進むわけがない。
「むしろその男の方こそが恥を知るべきでしょう。
 国に害をなしているのは誰なのか?
 今のこの状況をみて分かるでしょう。神の遣いであられる聖者様へ数々のご無礼を働き、この国を今まさに危険に晒したのは、そこで力もなく座り込んでいる無能な男」
 目を細め神王に冷たい視線を向けガロアはそう言い切る。
 自分の父親であり最高権力者である人物へ敬称すら付けず語る。
 ガロアの横にいつも控えていたロアと呼ばれていた男が立ち胸を張る。
「分からないのか? 今ゼブロに必要なのは、その男のような直情的で愚鈍な行動をする人物ではなく、能力もあり理性的に皆を導ける存在」
 偉そうにそう言い放ち、その視線をガロアに向け目を伏せる。
 相変わらずこの二人のこういったやり取りはキンバリーには下手な三文芝居にしか見えない。
 しかしゼブロにおいては、そんな態とらしい演目でも通じるようだ。皆がこの危機を打開してくれる頼れる存在と、彼を認識したようだ。
 ガロアよりも上位にあると思われる王子までも、ガロアを見て縋らんばかりである。
 ゼブロ陣営にとって絶望的と思われるこの状況で唯一の救いに見えているようだ。
 キンバリーにはこの国にとって違ったタイプの厄介な王が生まれるだけのようにしか見えなかった。
「お前もその男同様、愚か者なのか? 
 もうその男はお前に権力など与えるだけの力はない。どうするのだ? 
 どこまでも仕え運命を共にするならばそれでよし……」
 目を細めそう訊ねるガロアの言葉に側近は、ただ腰を抜かす。周囲を拒絶しブツブツと自分の世界にはいってしまっている神王からそっと離れガロアに向かい頭を深々と下げた。
 この状況で内輪な会話をしている所を、このように他国の訪問者に晒しても良いものか? ともキンバリーは思う。
 あと、心話はこの国のこのメンバーで使うには危険だろう。気持ちを繋いでいるだけに余計な本心を晒しやすい。こういう自己愛が強く、自意識過剰で未熟な人同士ですると相手には言わない方が良い感情や想いまでも伝えてしまい冗談にならない事となる。
 また、ガロアにとってダライの使者の前で新指導者を名乗り、聖者も認めた王位の継承であることを示したいのだろう。
 キンバリーらが何も口を挟まないのを良いことに、何とも馬鹿なやり取りは続いていく。
 ガロアはゼブロの人達を掌握する事は成功したようだ。側近だった男も次々と神王を見切ってガロアに着くことに決めたようだ。
 分かりやすくガロアに諂った笑みを向ける。直前まで呼び捨てで罵った相手にする態度でもない。
 そしてキンバリーらにはどうでも良い話が延々と続き、ようやく話はあの石の話へと移っていく。その間、イサールはローレンスと心話で何だかの会話をし、ダライのパラディンらとも意思の統一を図っているようだ。
 そういう意味ではこの無駄とも思える時間も意味はあるようだ。
 マグダレンは何も言わずにゼブロのやり取りではなくジッとイサールを探るように見詰めている。
「ガロア様この石は……神王様いや、この男がヤミという人物から譲り受けたもの。
 この石により神の力を持つ貴方様方への牽制にも使えて、さらに神の血筋をもつ存在の間引きするにも便利だからと使っていました」
 そんな事は既にガロアも分かっていたのだろう、つまらなさそうため息をつく。
「そのヤミと言う人物は何者だ? そして無償で石を贈って来たわけではなかろう?」
 今度は元側近も加わり劇が続く。
「その人物が何者かはわかりません。一人では無く、様々な人物が現れ皆ヤミと、名乗っています。個称ではなく組織の名前のようです」
「何を条件にその石を貰った? 金か? 宝石か?」
 キンバリーはこの機会を最大限に生かし、己の地位を確立しているガロアに微妙な気分になる。ローレンスやイサールは取り敢えずこの場の主役を彼に譲ったようで、口をはさまない。
「巫です。奴らは巫を必要としていたので」
 予想はしていたのだろうが、バラディンらは顔を顰める。
「何をもって様々な姿で現れるそいつらを同じヤミであると判断した?」
 コチラが当然疑問に思った事を、ガロアはシッカリ聞いてくれるところをからも、彼の頭の良さは伺える。いや、寧ろガロアは既に把握している事だが、あえてキンバリーらに聞かせる為に対話をしているのだろう。
「皆、単なる巫には有り得ない不思議な能力を持ち、さらに皆赤い眼と白い髪をしていました」
 その言葉にダライのパラディン達はその特徴の示す存在を知らなかったのだろう。四人は冷静に聞いていたが、キンバリーの真横にいたマグダレンとローレンスの表情が強ばる。イサールをみると片笑をして、気遣うようにマグダレンとローレンスに視線を向ける。
「愚かな、巫でありながら堕人の手先となるとは」
 ローレンスの低く響いた言葉に、部屋は静まりかえる。魔の物の存在は世界共通の敵。それと手を組んだとなると世界を敵に回した事となる事に、今さらゼプロは気がついたようだ。
「本当に愚かな話です。同じ王家の人間として私も恥ずかしいです。
 しかし、それは神王が独断で行っていた事、我々も今分かった事実です。どうか早計に決断をされないでください。
 首謀者であるこの男やその事実を知る者は貴方がたに引き渡します。
 私が王となったからには、そのような愚行はこの国の者にはさせませんし、捜査にも全面協力いたしますので」
 ガロアは慌てて取り澄ました様子で、そう訴え頭を下げる。
「知らなかったね……」
 イサールはそう呟き、ダライのパラディンに視線を向ける。パラディンらの明らかに疑心の眼をガロアに向けている。
 キンバリーやマグダレンの眼も冷たい。その様子に流石のガロアも狼狽えた表情を見せる。
「皆さんの眼が大変な節穴か、国の事に恐ろしい程関心がないか……」
 王族でありながら、目の前で散々使われていた石について何も知らないとは、無能か嘘つきの二択となる。
 ガロアは皆の視線から目を逸らした。イサールとダライのパラディンらは、心話で何だかの議論を交わしているようだ。
 ゼブロ陣営のやり取りとは異なり外部からそのやり取りが見えないだけに、ガロアらは不安そうにその様子を見守っている。
 逆にその様子が、さらに彼らの不安を煽り、両者の立場の差を与えている。
 時々『なるほど』とか口に出しつつゼブロの人達に視線を向けイサールはしっかりと相手を支配している。
 ガロアとは完璧に役者の格が違う。一気に脇役へと転落したガロアの顔色は先ほどより白く見えた。
「貴方がたを信頼していないわけではなく、これは世界的な問題。他国からの調査団を受け入れてもらう。
 勿論貴方がたの方でもちゃんと調査はして欲しい。誰もが納得できる良き報告を待っている。
 政治に関して、我々は口に出すつもりはない。国の状況を憂い、民を救いたいというガロア殿が頑張ってくれるようなので、期待している」
 イサールは目を細め華やかに笑った。ガロアは引き攣った笑みで応えた。
 彼が望んだ道とはややズレた形で決着をつけた事は面白くはないのだろう。しかしキンバリーらによるこの国で仕事は終了した。
 奇妙な石や白髪で赤目の堕人の問題は調査や追跡は進むだろうが、それ以外の事に関しては何も変える事も出来ずに終わってしまった事にキンバリーは何ともいえない気持ちになった。
 ガロアが支配する国が、良い国となるとは全く思えない。
キンバリーは、いささか狂ってしまった予定をどう軌道修正するべきか悩んでいる様子のガロアをジッと探るように見詰めることしか出来なかった。
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