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九章 ~鼓動の先~ キンバリーの世界
求めるモノは近くにある
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キンバリーは食事をしながら目の前に座るイサールの様子を伺う。
キンバリーとローレンスの前には肉と茹でた野菜が山盛り盛られた皿にスープにパンと様々な食事が並んでいるが、イサールの前には茹でた野菜とパンだけ。そして嬉しそうに上部をナイフでカットした茹で卵をスプーンで掬って食べている。
茹で卵をスプーンで食べるという発想もなかったキンバリーにしてみたらその様子はなんとも奇妙に見える。だいたい茹で卵なんて殻を剥いて頬張れば良いと思うのだが一口分入れては、その味を楽しんでいるようだ。
そして様子はなんとも優雅。いやこの男がそうでなかった時がない。盗賊を殺した時ですらその動く様子は優美だった。イサールと共に食事するようになり、テーブルでの飲食は手掴みで肉を食べるという事がしにくくなってしまった。
「ん? なにか?」
イサールは食べ終わった殻を皿に置きニッコリと話しかけてくる。
「卵は食べていいんだなと思って」
イサールは困ったように笑う。
共に行動するようになり、分かった事だが、イサールは肉を食べない。そういう社会で生きてきたようだ。共に野営していても一人パンとか果物を食べていた。キンバリーからしてみたら、よくそんな食生活でここまで巨大になれたと思う。それなりに大柄だと思うローレンスよりも身長は高い。そして肉は一度たりとも食べた事も食べたいと思った事もないと聞いて驚くしかない。
「本当の事を言うと、卵は食べるべきでない食材なんですけどね。
個人的に好物だから食べているんだ。子供の時食べてから病みつきになってね」
キンバリーはその言い分に呆れてしまう。今まで静かに食事をしていた、ローレンスも顔をあげる。
「戒律でしょ!! 破って大丈夫なの?」
イサールはクスクスと笑い肩を竦める。
「まあ戒律だったというべきかな? 元々は神に仕える者は死んだ肉なんて不浄なものを口にしたら魂が濁ると言う事で禁じられていた。
更にそう言った食生活が、能力を高めていく事になると信じられていた。しかしそれには科学的根拠は全くない。現に貴方達は肉を食してきているけど高い能力者を輩出してきている。我々も色々研究してみたものの食生活と能力の高さの因果関係は全く証明できていない。しかしその習慣だけが残った。破っても、ただ物好きの変人扱いで白い目で見られるくらいですね」
キンバリーはそれを聞いて、だったら肉も食べれば良いのにと思う。ローレンスは苦笑しながらも面白そうにその言葉を聞いている。
「肉も試してみない? 更に美味しいモノとの出会いになるかもしれないよ!」
差し出された皿にイサールは少し顔を顰める。
「流石にそこまでのチャレンジは出来ない。ここまで肉を食べずに生きてきた身体が肉を受けいれるかも怖い」
そう言われると強要出来ない、もしそれでお腹を壊されてもイヤである。引き戻した皿の肉にフォークを刺し口に放り込む。この地方の料理はスパイスが強くその刺激と肉の風味が絶妙に絡み合って面白い味わいを作りだしていた。キンバリーはこの街を出る前にスパイスを購入しておけば野営の時でもこの風味を楽しめるかなとそんな事を考える。そして食事をしながら食生活の話題を三人で楽しんだ。
「そうだ今の内、渡しておきます。お薬です。シスターマグダレンの為に用意させました。私の手からだと彼女は受け取らないでしょうから」
話題が終わったタイミングでイサールが懐から出した紙の袋をテーブルに置くローレンスは怪訝な表情を返す。
「ウチの者の為に余計な散財をさせてしまって申し訳ない。代金は支払う」
ローレンスにイサールは慌てて首を横にふる。
「いえ、コレは購入したものではなくて、作らせて届けさせたモノだから。
変なモノも入っていません。
材料は、霊桂木、天露、虎尾草、月蜜、茴芹、金紫蘇、大陸科の木、木苺の葉、そして青切紫蘇
――と聞いています」
ローレンスはその薬草の名を聞いて眉を寄せ、袋から薬の包を一つ取り出し、袋の上からその香りを嗅ぎ、目を細めランプに透かす。
「随分高価な材料を使わせたな。やはり代金は支払おう」
イサールは静かに顔を横に振る。
「私が勝手にやったことだから」
「……しかし、こういう症状に対して随分面白い配合だな」
イサールは首を傾げる。
「え? それぞれの効能から考えてもオカシナものは入っていませんよね?」
キンバリーはローレンスが何に引っかかったか分からず、今出てきた薬草の名前を思い出してみる。最初の方に言われたのは確かに高額で取引されているものの、効能には間違えは見当たらないし、比較的手に入りやすいモノはローレンスがよく使っているもののように思える。
「本来なら怪我の血止めに使う金花虎、そして木苺を乾燥した実ではなく葉を使うとは、随分面白い薬師を抱えているようだな」
イサールは探るようなローレンスの視線に何故かフッと笑う。
「薬師というか研究者です。私の友人ですが研究馬鹿というんですか? 忙しいのに暇さえあれば本を読み漁ったり暇つぶしに研究したりと睡眠を二の次にしてしまう困ったヤツで」
明るくそんな事を言ってくるイサールにローレンスはため息をつく。
「薬はあり難く頂こう。……あまりにもその薬の配合が私の近しい人のモノの癖に似ていたので」
ローレンスはいつもの穏やかな表情に戻り頷く。そして怪訝そうに見つめてきているキンバリーに微笑む。
「実は金花虎と木苺の葉は、私の母がよく使っていた組み合わせなんだ。だから気になってしまった。それに青霧紫蘇を入れたお茶が大好きだった」
月経で辛そうなマグダレンにローレンスがよく淹れてあげているお茶である。ホッとして心安らぐ味なのでキンバリーも大好きなもの。それがそんな意味を持つお茶だったというのをはじめて知りキンバリーは嬉しくなった。その人物には会ったは事ない。過去形でローレンスが話すという事は亡くなっているのだろう。ローレンスの母親と言うことはキンバリーにとっても血縁者という事になるだろう。
「あれお祖母ちゃんのお茶だったんだね!
会うことはできなかったけど、こうして感じる事が出来るのは嬉しい」
ローレンスはキンバリーの言葉にどこか寂しそうに微笑む。
「薬の知識もそうだが、キンバリー能力知識そういったものはお前もしっかりと受け継がれ生きている。そうして人は繋がっているものだ」
ローレンスはそう言ってキンバリーを撫でる。
「そろそろマグダも起きているだろう、この薬をもって様子を見に行ってこい」
キンバリーは頷き、薬の袋を手に二人の元から離れた。
キンバリーを見送ってからイサールはローレンスに向き直る。
「なんか申し訳ありません。あの薬で何か不快な想いをさせたようで。
貴方のお母親は……」
ローレンスは苦笑する。
「貴方が謝る事はなにもない。
母を亡くしもうかなり月日が経ったのに。俺も青いな」
ローレンスは顔を顰めるイサールは気遣うような視線を向ける。
「分かりますよ。私も亡くなってからもどこか母の影を求めている。親離れしてないというのではなく、それだけ特別な存在だから母親と言うものは」
ローレンスは、自分とは異なり幸せそうに母親を語るイサールが少し羨ましく感じた。
「それはお悔やみを、イサール殿の母君はご病気かなにか?」
イサールは頷く。その顔には哀しみはあっても後悔や怒りの感情は感じられない。納得し受け入れられる死だったのだろう。
「ブラザーローレンスのお母様もご病気で?」
イサールの聞き返してきた言葉にローレンスは心臓を冷たい手で触られたような感覚を覚えながら頭を横に振る。
「こちらは残念ながら穏やか死とは言えないかな。……まあ愛する者の手で逝けたから幸せな最期だったというべきでしょうが……」
ローレンスの怒りと哀しみに満ちた複雑な表情を、イサールは静かに何も言わずに見つめていた。二人の間に暫し沈黙がおりる。それを破ったのはローレンスの方だった。
「しかし、いつか会いたいものだな、先ほどの貴方の友人とやらに」
そう呟くローレンスにイサールは笑みを返す。
「是非会いにいってやってください。きっと彼もそれを望む。貴方に会いたいと。
貴方と違って自由に歩き回る事は出来ない、それだけにこうして世界を見て回っている貴方の話を聞きたがるでしょうね」
イサールはそう言い微笑んでから少し真面目な顔をする。
「ところで……先日、貴方は私に旅の目的を聞いてきましたが、逆に伺っても良いですか?」
ローレンスは顔を上げ、目を細める。
「貴方がたの旅の目的は何なのですか?」
イサールの言葉にハッとしたようにローレンスは黙り込み、そして苦く笑う。
「何かを求めているのか? というのとは違うのかもしれない。でも答えを探しているんだろう、それぞれご本当の自分に戻る為に」
イサールはその言葉に首を傾げる。
「先日おっしゃっていた人物を探しているのですか?」
ローレンスはその言葉に苦しげに顔を歪め横にふる。
「たぶん生きてきた中で抱え集めてきた『何故だ?』という事の答えを探しているんだと思う。生きているのならばもう一度会いたいというのも、その事のひとつなのだろう」
イサールはあまりにも抽象的なローレンスの言葉に不満を覚える様子もなく、しばらく何やら考え頷きく。何故かイサール楽しそうだ。
「でも、探しているものって、意外と遠くではなく近くにあるのかもしれませんね」
その言葉にローレンスは笑ってしまう。
「なんだ、旅をするのは無駄だと言っているのか?」
イサールはニコリと笑う。
「いえ、物事って近すぎると見えないのかもなと。離れることで色々と見えるもの。
俺も今その状態を楽しんでいますから」
イサールのどこか能天気な様子は、ローレンスをホッとさせる。読めない男だが、この男との出会いは三人にとって大きな意味があったように、ローレンスは思う。
そして先程、紙袋から一つだけ取り出しあえて戻さなかった薬の包みをそっと手で握る。
「答えは近くにあるか……」
その呟きに、イサールは視線を動かしローレンスの様子を伺う。しかしローレンスが何か答えを求めてその言葉を発したのではないと判断したのだろう。視線を戻し食事を再開させた。
キンバリーとローレンスの前には肉と茹でた野菜が山盛り盛られた皿にスープにパンと様々な食事が並んでいるが、イサールの前には茹でた野菜とパンだけ。そして嬉しそうに上部をナイフでカットした茹で卵をスプーンで掬って食べている。
茹で卵をスプーンで食べるという発想もなかったキンバリーにしてみたらその様子はなんとも奇妙に見える。だいたい茹で卵なんて殻を剥いて頬張れば良いと思うのだが一口分入れては、その味を楽しんでいるようだ。
そして様子はなんとも優雅。いやこの男がそうでなかった時がない。盗賊を殺した時ですらその動く様子は優美だった。イサールと共に食事するようになり、テーブルでの飲食は手掴みで肉を食べるという事がしにくくなってしまった。
「ん? なにか?」
イサールは食べ終わった殻を皿に置きニッコリと話しかけてくる。
「卵は食べていいんだなと思って」
イサールは困ったように笑う。
共に行動するようになり、分かった事だが、イサールは肉を食べない。そういう社会で生きてきたようだ。共に野営していても一人パンとか果物を食べていた。キンバリーからしてみたら、よくそんな食生活でここまで巨大になれたと思う。それなりに大柄だと思うローレンスよりも身長は高い。そして肉は一度たりとも食べた事も食べたいと思った事もないと聞いて驚くしかない。
「本当の事を言うと、卵は食べるべきでない食材なんですけどね。
個人的に好物だから食べているんだ。子供の時食べてから病みつきになってね」
キンバリーはその言い分に呆れてしまう。今まで静かに食事をしていた、ローレンスも顔をあげる。
「戒律でしょ!! 破って大丈夫なの?」
イサールはクスクスと笑い肩を竦める。
「まあ戒律だったというべきかな? 元々は神に仕える者は死んだ肉なんて不浄なものを口にしたら魂が濁ると言う事で禁じられていた。
更にそう言った食生活が、能力を高めていく事になると信じられていた。しかしそれには科学的根拠は全くない。現に貴方達は肉を食してきているけど高い能力者を輩出してきている。我々も色々研究してみたものの食生活と能力の高さの因果関係は全く証明できていない。しかしその習慣だけが残った。破っても、ただ物好きの変人扱いで白い目で見られるくらいですね」
キンバリーはそれを聞いて、だったら肉も食べれば良いのにと思う。ローレンスは苦笑しながらも面白そうにその言葉を聞いている。
「肉も試してみない? 更に美味しいモノとの出会いになるかもしれないよ!」
差し出された皿にイサールは少し顔を顰める。
「流石にそこまでのチャレンジは出来ない。ここまで肉を食べずに生きてきた身体が肉を受けいれるかも怖い」
そう言われると強要出来ない、もしそれでお腹を壊されてもイヤである。引き戻した皿の肉にフォークを刺し口に放り込む。この地方の料理はスパイスが強くその刺激と肉の風味が絶妙に絡み合って面白い味わいを作りだしていた。キンバリーはこの街を出る前にスパイスを購入しておけば野営の時でもこの風味を楽しめるかなとそんな事を考える。そして食事をしながら食生活の話題を三人で楽しんだ。
「そうだ今の内、渡しておきます。お薬です。シスターマグダレンの為に用意させました。私の手からだと彼女は受け取らないでしょうから」
話題が終わったタイミングでイサールが懐から出した紙の袋をテーブルに置くローレンスは怪訝な表情を返す。
「ウチの者の為に余計な散財をさせてしまって申し訳ない。代金は支払う」
ローレンスにイサールは慌てて首を横にふる。
「いえ、コレは購入したものではなくて、作らせて届けさせたモノだから。
変なモノも入っていません。
材料は、霊桂木、天露、虎尾草、月蜜、茴芹、金紫蘇、大陸科の木、木苺の葉、そして青切紫蘇
――と聞いています」
ローレンスはその薬草の名を聞いて眉を寄せ、袋から薬の包を一つ取り出し、袋の上からその香りを嗅ぎ、目を細めランプに透かす。
「随分高価な材料を使わせたな。やはり代金は支払おう」
イサールは静かに顔を横に振る。
「私が勝手にやったことだから」
「……しかし、こういう症状に対して随分面白い配合だな」
イサールは首を傾げる。
「え? それぞれの効能から考えてもオカシナものは入っていませんよね?」
キンバリーはローレンスが何に引っかかったか分からず、今出てきた薬草の名前を思い出してみる。最初の方に言われたのは確かに高額で取引されているものの、効能には間違えは見当たらないし、比較的手に入りやすいモノはローレンスがよく使っているもののように思える。
「本来なら怪我の血止めに使う金花虎、そして木苺を乾燥した実ではなく葉を使うとは、随分面白い薬師を抱えているようだな」
イサールは探るようなローレンスの視線に何故かフッと笑う。
「薬師というか研究者です。私の友人ですが研究馬鹿というんですか? 忙しいのに暇さえあれば本を読み漁ったり暇つぶしに研究したりと睡眠を二の次にしてしまう困ったヤツで」
明るくそんな事を言ってくるイサールにローレンスはため息をつく。
「薬はあり難く頂こう。……あまりにもその薬の配合が私の近しい人のモノの癖に似ていたので」
ローレンスはいつもの穏やかな表情に戻り頷く。そして怪訝そうに見つめてきているキンバリーに微笑む。
「実は金花虎と木苺の葉は、私の母がよく使っていた組み合わせなんだ。だから気になってしまった。それに青霧紫蘇を入れたお茶が大好きだった」
月経で辛そうなマグダレンにローレンスがよく淹れてあげているお茶である。ホッとして心安らぐ味なのでキンバリーも大好きなもの。それがそんな意味を持つお茶だったというのをはじめて知りキンバリーは嬉しくなった。その人物には会ったは事ない。過去形でローレンスが話すという事は亡くなっているのだろう。ローレンスの母親と言うことはキンバリーにとっても血縁者という事になるだろう。
「あれお祖母ちゃんのお茶だったんだね!
会うことはできなかったけど、こうして感じる事が出来るのは嬉しい」
ローレンスはキンバリーの言葉にどこか寂しそうに微笑む。
「薬の知識もそうだが、キンバリー能力知識そういったものはお前もしっかりと受け継がれ生きている。そうして人は繋がっているものだ」
ローレンスはそう言ってキンバリーを撫でる。
「そろそろマグダも起きているだろう、この薬をもって様子を見に行ってこい」
キンバリーは頷き、薬の袋を手に二人の元から離れた。
キンバリーを見送ってからイサールはローレンスに向き直る。
「なんか申し訳ありません。あの薬で何か不快な想いをさせたようで。
貴方のお母親は……」
ローレンスは苦笑する。
「貴方が謝る事はなにもない。
母を亡くしもうかなり月日が経ったのに。俺も青いな」
ローレンスは顔を顰めるイサールは気遣うような視線を向ける。
「分かりますよ。私も亡くなってからもどこか母の影を求めている。親離れしてないというのではなく、それだけ特別な存在だから母親と言うものは」
ローレンスは、自分とは異なり幸せそうに母親を語るイサールが少し羨ましく感じた。
「それはお悔やみを、イサール殿の母君はご病気かなにか?」
イサールは頷く。その顔には哀しみはあっても後悔や怒りの感情は感じられない。納得し受け入れられる死だったのだろう。
「ブラザーローレンスのお母様もご病気で?」
イサールの聞き返してきた言葉にローレンスは心臓を冷たい手で触られたような感覚を覚えながら頭を横に振る。
「こちらは残念ながら穏やか死とは言えないかな。……まあ愛する者の手で逝けたから幸せな最期だったというべきでしょうが……」
ローレンスの怒りと哀しみに満ちた複雑な表情を、イサールは静かに何も言わずに見つめていた。二人の間に暫し沈黙がおりる。それを破ったのはローレンスの方だった。
「しかし、いつか会いたいものだな、先ほどの貴方の友人とやらに」
そう呟くローレンスにイサールは笑みを返す。
「是非会いにいってやってください。きっと彼もそれを望む。貴方に会いたいと。
貴方と違って自由に歩き回る事は出来ない、それだけにこうして世界を見て回っている貴方の話を聞きたがるでしょうね」
イサールはそう言い微笑んでから少し真面目な顔をする。
「ところで……先日、貴方は私に旅の目的を聞いてきましたが、逆に伺っても良いですか?」
ローレンスは顔を上げ、目を細める。
「貴方がたの旅の目的は何なのですか?」
イサールの言葉にハッとしたようにローレンスは黙り込み、そして苦く笑う。
「何かを求めているのか? というのとは違うのかもしれない。でも答えを探しているんだろう、それぞれご本当の自分に戻る為に」
イサールはその言葉に首を傾げる。
「先日おっしゃっていた人物を探しているのですか?」
ローレンスはその言葉に苦しげに顔を歪め横にふる。
「たぶん生きてきた中で抱え集めてきた『何故だ?』という事の答えを探しているんだと思う。生きているのならばもう一度会いたいというのも、その事のひとつなのだろう」
イサールはあまりにも抽象的なローレンスの言葉に不満を覚える様子もなく、しばらく何やら考え頷きく。何故かイサール楽しそうだ。
「でも、探しているものって、意外と遠くではなく近くにあるのかもしれませんね」
その言葉にローレンスは笑ってしまう。
「なんだ、旅をするのは無駄だと言っているのか?」
イサールはニコリと笑う。
「いえ、物事って近すぎると見えないのかもなと。離れることで色々と見えるもの。
俺も今その状態を楽しんでいますから」
イサールのどこか能天気な様子は、ローレンスをホッとさせる。読めない男だが、この男との出会いは三人にとって大きな意味があったように、ローレンスは思う。
そして先程、紙袋から一つだけ取り出しあえて戻さなかった薬の包みをそっと手で握る。
「答えは近くにあるか……」
その呟きに、イサールは視線を動かしローレンスの様子を伺う。しかしローレンスが何か答えを求めてその言葉を発したのではないと判断したのだろう。視線を戻し食事を再開させた。
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――――――――――
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