蒼き流れの中で

白い黒猫

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間章 ~狭間の世界2~

赤の導く未来

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 深い森の中にある河原に、二百人程の人が集っている。何か集会をしているというより、各々気ままに過ごしているようにも見える。しかしそこにいるどの人物の表情にも笑顔はない。方々をみて呆然としているか、頭を抱え泣いているか、怒りを込めて宙を睨み付けているか。

 青年も木にもたれるように座り怒りで小刻みに震える拳を必死で抑え、周囲にいる人の様子をジッと見守っていた。
 青年は川の所にいる二人の子供に眼を止める。黒い髪の少年と赤い髪の少女の二人は顔を寄せ合って何か話しをしている。まったく同じ顔をしているのに、その二人の個性はまったく違う。異なる髪と瞳の色をしているだけでなく、二人とも高い能力をもつものの真逆の能力を持つ。激しく感情的な少女に、冷静で柔和な少年。二人は、顔意外はまったく似ている所がないと言って良い程真逆の印象を与える。しかし二人が一緒にいる光景は何故かシックリしている。むしろ一緒にいることこそが、正しい姿に思える。少年は少女を宥めるように頭を撫で抱きしめる。怒りと憎しみといった感情を爆発させていた少女も次第に落ち着きを取り戻していっているようだ。そして少年の言葉を聞きながら、その瞳は何かの覚悟を決めたかのように力が入る。
 少年は少女のその赤い髪にキスをし、優しく抱く。

 青年の視線に気がついたのか、二人は同時に青年へと向き直る。こういうタイミングは恐ろしいほどいつも一緒で、青年はその度に戸惑いを覚える。
 他の者達から離れた場所に少年は青年を誘う。少年は二人きりで話をするつもりであったようだが、少女がそれを許さなかった。今は、そんな些細な事で揉めるわけにもいかない。この三人の中で秘密は必要ないだろう。青年は口を開く。
「話とは何だ?」
 誰もが戸惑い心乱している。青年も同様で、周りに誰も居なければ暴れて悪しき感情を撒き散らしたい所だ。しかし彼には、守らねばならぬ者がいる、まだするべき事もある。取り乱すわけにはいかない。目の前にいる二人の表情を改めて見つめる。少女の碧の瞳は、青年同様怒り悲しみといった感情で揺れているのに比べ、少年の深く蒼い瞳は森の奥にあった泉のように静かで落ち着いている。これはこの子供が、自分達に振りかかった出来事に心を全く乱されていないというのではなく、感情的で誰よりも激しい気質の妹が横にいるために冷静にならざるを得ないというのが実態だろう。またどんなに感情を弾けさせても隣にそこまで落ち着いた存在がいると気を静めざるを得ない。そうやって二人は絶妙なバランスを取って生きてきている。
「今後の事です」
 簡潔に少年は答える。過去ではなく、未来の話を切り出してくる冷静さに、青年も落ち着きを取り戻す。まだ成人の儀も迎えてないような幼い者がこれだけ気丈に振る舞っているのだ。青年はシッカリせねばならないと気を引き締める。ここにいる人間達には、もう戻るべき場所はない。さてどうするべきか? 青年は考える。
「といっても、無茶でも何でも、我々皆で戦い生き抜いていくしかないでしょうが」
 少年の言葉に青年はゆっくりと頷く。そうするしかないだろう。同じ気持ちであろう少女も同様に少年を見つめ頷く。少年は遠くを見るように蒼い目を細めた。
「二人に早々にやってもらいたいのは、移動の合間を見て戦闘の仕方を皆に教えてやってほしい。先ずは結界は全員完璧に使いこなせるようにして下さい」
 その言葉に流石に戸惑い、二人は顔を見合わせる。
「皆というのは?」
 確認の為に問う青年に、少年は真っ直ぐ視線を向けてきた。
「全員です。私も含めて。私は結界はマスターしているので、剣の使い方からで構いません」
 その言葉に、少女は眼を見開く。
「レニー、何を……」
「お前は、自分がどれほどの存在なのか分かっていて言っているのか? お前はいずれは法主《ほっす》となる人間だぞ」
 その言葉に少年は口角をあげ、笑みだけを返す。いや法主が亡くなった今、皆の上に立ち導けるのはこの少年しかいない。
「お前の手を血で穢れさせる訳にはいかない! お前は俺が守る」
 少女も同じ気持ちなのだろう、青年の言葉に頷く。しかし悲しそうに少年は笑う。
「最早、そういった過去の地位や価値観は無意味ですよ」
 今まで皆が生きてきた過去を無意味と言ってしまう少年に二人は言葉を詰まらせる。
「必要なのは、生き抜こうとする力、戦い抜く力それだけです」
 何も言えなくなっている二人に少年は言葉を続ける。
「私だけではない、戦えない者はこの先朽ちていくしかないでしょう」
 青年は首を横に激しくふる。そして少年の肩に手をやり揺さぶる。
「戦う? お前がどうやって! 防御結界を張って守るだけが精一杯だろ」
 言いつのる青年に向かって、少年は淡く笑い、肩におかれた手にそっと自分の手を重ね、肩から手を外させる。
「やり方次第では戦えますよ。私でも」
 そう言い、左に視線を向ける。少年の纏う気が揺れる。

 バキッ

 いきなり視線の先にあった枯れ木が裂けるように弾ける。そして少年が指さすとその枯れ木がいきなり燃え上がる。
 青年はとっさに、少女の方を見るが、彼女も驚いたようにその様子を見ている。
「お前がやったのか」
 青年の問いに、少女は首を慌てたように横に振る。しかし木を燃焼させた力は少年の能力ではありえなく、少女の力である。少女が力を使ったのでは無いことは、気が動いてない事からも分かったが、つい聞いてしまった。少年は自分の属性以外の力を使ってみせたのである。少年はそっと手を開き赤い石を二人に示す。
「そんなつもりで、その石を作ったのではない」
 力なく少女は呟く。少年は首を横にふり優しく少女に微笑む。
「私の力でも、何かを破壊する事はできますよ。それにお前が私に新しい力を与えてくれた。そんな顔するな! 喜んでおくれ」
 青年だけは、何が起こったのか分からなかった。
 途轍もない奇跡を目の当たりにして唖然としていた。同時にその奇跡とも言える現象は、希望を与えるというより、より修羅な道を少年に歩ませる事になるのも感じていた。
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