蒼き流れの中で

白い黒猫

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四章 ~力の代償~ カロルの世界

大人の時間

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 闇の中、天蓋付きのベッドの辺りたけがボワッと鈍く輝いている。ベッドを覆う布に二人の影が映り、それが抱き合い蠢いている。
 ソーリスは、激しいシルワのキスを受けながら、お返しとばかりに男らしい長く太い指でシルワの下半身を攻め、体内をかき乱す。シルワは、与える事で感じているのか、与えられて感じているのか、分からないが何時になく燃えているようだ。緑の瞳はギラギラとした光を帯び、夢中といった様子でソーリスとキスを交わし、その手でソーリスのモノを仕掛けてくる。乱れているシルワの様子と巧みな愛撫にソーリスのモノもいきり立ってくる。そのままシルワを押し倒してと考えていたら、シルワはキスを止め身体を少し離しソーリスを見て艶やかに笑う。ソーリスの肩を持ち、腰を少し浮かせ自らの身体を落としソーリスを体内へとくわえ込む。思わず声を上げたソーリスに満足気に笑いそのまま身体動かし始めた。いつもは綺麗に整えられている髪も抱き合う事で乱れ、それがシルワに怪しい魅力を加えていた。
 暫くはその快楽をソーリスは味わっていたが、おもむろにシルワの腰を掴み今度はソーリスが下からシルワを責め立てた。愛しあうというより、喧嘩のように相手を責めあうだけの二人のまぐわい。
 頑丈なはずのベッドが軋む。二人の激しい息遣いと身体のぶつかり合う音だけが部屋に響いた。二人が同時に達した所で部屋に暫し静寂が落ちる。事が終わり、そのまま抱き合い余韻を楽しむという事を二人はしない。シルワはさっさと離れ、側にあった布で身体を拭き、ガウンに袖を通しソファーに腰をおろす。紐を外し乱れた髪を手で軽く整え器用に纏めた。ソーリスはまるで猫が毛繕いして興奮を抑えているようなその様子を面白そうに見つめていた。
「どうした? お前らしくなく感情的になっているな」
 チロリとソーリスに冷たい視線を向ける。
「貴方が、マレを抱けなくて欲求不満かもしれないと思って来てあげたのではないですか」
 ソーリスは声を出して思わず笑ってしまう。ソーリスからいくら求めても、その気がなければ一切応じる事のないシルワである。突然訊ねてきて、キスをしてしかけてきたという事は、シルワがそうしたかったからに過ぎない。
「そういう事を気にかける性格ではないだろ。何を苛立っている?」
 シルワは大きく息を吐く。
「結局、カロルは、罰を受けるどころか、逆に最高にご機嫌な空間を手に入れただけというのはね」
 ソーリスも立ち上がりベッドから出て裸のままテーブルの所に行き、ボトルに入った液体を二つのグラスに注ぐ。シルワは立ち上がる事もしないで座ったまま、ソーリスからグラスを受け取る。
「マレは、引き受けたという事か。まあ当然だろうな、アイツの性格だと」
 シルワは大きく溜息をつく。ソーリスもソファーに座り背もたれに両手をのせた状態で寛いだ姿勢をとる。
「マレは本来、理性的で冷淡なタイプの筈なのに、ああいう我が儘な人間にはどうしてああも甘くなってしまうのか……貴方の我が儘には心動かさないというのに」
 チラリとソーリスを意味あり気に見つめニヤリと笑う。その表情にソーリスは苦笑する。 
「そりゃそうだろう、カロルはクラーテールにそっくりだからな。お前はクラーテールの事は普通に可愛がっていたのに、何故カロルをそこまで嫌がる」
 シルワは首を横にふる。
「クラーテールは真っ直ぐで可愛いです。我が強いというのも根本が違います。クラーテールの行動は全て人の為、マレの為の行動で、カロルは自己満足の為の行動です」
「そこまで、理解しているならば、それを矯正してやるのが、講師たるお前の務めだろ」
 ソーリスが言葉にシルワは思いっきり顔を顰める。
「それは命令ですか?」
 ソーリスは朗笑だけを返す。その表情にシルワは諦めたように溜息をつく。
「ついでといっては何だが、もう一つ頼みたい事が」
 シルワは怪訝そうに眉を寄せる。ソーリスがあえて口にして頼み事をしてくる時は碌な事がないからだ。
「クラーテールが、境界で妙な動きをしているようだ。馬鹿な事はしないだろうが、釘を刺しておいてくれないか」
 シルワの目が途端に冷たいものになる。
「それこそ、貴方がなされば良いでしょうに。クラーテールと貴方はまんざら他人という訳ではないのだから」
 ソーリスがフフと笑い首を横にふる。
「だからこそ、余計に手出ししにくい。俺が接触を試みたらアイツは俺を燃やそうとしてくるだろう」
「良いのはないですか? それくらい受けてあげても。それで貴方は死にはしない。貴方に傷を残せればあの子の気も少しは晴れるでしょうから。いっそマレを返すと言えば機嫌も一気に治りますよ」
 あまりのシルワの言葉に流石にソーリスは苦笑する。
「それこそ、お前の望まぬ展開でないのか?」
 シルワは不思議そうな顔をする。
「私は別にそこはどちらでも構いません。どちらにせよ、研究を続けたいマレは私の側にいることは変わりないです、あわよくばもう一度……」
 ソーリスは美麗な顔を思いっきりしかめシルワに向き直る。
「まさか、またタブーを繰り返させる気か?」
 シルワは否定はしないが、笑う。
「残念ながら、それはもうないな。私の印章が他者との交気を禁じているし、今の状況でマレが危険を冒さないだろう。守るべきものを作ってしまった段階で、二人とも私にしたがうしかない」
 シルワはつまらなそうな顔をして、天井を見上げる。
「貴方のそのマレだけに対する執着は何です? まさか愛だなんていいませんよね?」
 ソーリスはその言葉に悩む素振りをする。ある程度答えが見えている癖に、シルワとの会話を楽しむ為にそういう事をしているのだ。
「お前の両親の気持ちが、何となく分かるという感じかな?」
 その言葉にシルワの表情が固まる。
「馬鹿馬鹿しい」
 吐き捨てるような、シルワの言葉にソーリスは人の悪い笑いを浮かべる。
「何故そんな顔をする? その両親の壮大なるロマンにより、お前は生まれたというのに?」
 シルワは伽の儀式によらず生まれてきた事に劣等感を抱いているだけに、ソーリスを思いっきり睨み付ける。結婚という戯れの末に生まれてきた子供が、選ばれた二人の交わりによって生まれるノービリスに比べ圧倒的に能力が劣るのは仕方がない事だが、シルワにはそれが許せなかったようだ。それゆえに高い頭脳と美貌を武器に強いファクルタースをもつ人物に取り入り交気により能力を高め、地位を登り詰めていった。
「子供としてはいい迷惑ですよ。本人達は楽しくてよいのでしょうが」
 忌々しげに言うもののその言葉にいつもの棘はない。シルワの親は愛情深い人物だったので、シルワにも深い愛情を注いできた。それだけに親に対する感情が複雑なようだ。
「お前という、最高に美しくそして皮肉れた面白い人物を生み出したという意味では、その愛も捨てたものではないなと俺は思うがな」
 ソーリスの言葉に、シルワはポカンと見上げ笑い出す。
「まあ、その最高の部下を手にしている貴方にとっては良かったというべきでしょうね」
 手をソーリスの方に伸ばし抱きしめるように顔を近づける。
「なんだ、まだ足りなかったのか?」
 シルワは妖艶に笑い首をふる。
「貴方のファクルタースを味わいたいだけ」
 ソーリスは目を細め、シルワに口づける。そのままゆっくりと舌を絡めながら気も絡めていく。互いの身体の細胞に互い存在にと浸蝕していくような独特な感覚を二人は楽しむ。シルワは性行為よりも、交気の行為のほうをより求め楽しむ傾向にある。ソーリスとの交わりはそれだけシルワの能力を高める事にもなるからだ。
 長いキスが終わりシルワは頬を火照らせ潤んだ瞳でソーリスを見上げる。見たものの下半身に疼きを誘う表情だが、慣れもありソーリスはただ楽しげな笑みだけを返す。
「まだ、足りないのか? さすが『ファクルタース喰らい』と呼ばれるだけあるな」
 その言葉に、シルワはフフフと笑う。
「流石に貴方のファクルタースは多少飽きてきましたね」
 企むように笑うシルワの頬を撫でながら、ソーリスは目を細める。
「なんだ、次はトゥルボーあたりでも狙うのか? アレに手を出すのはもう少し待て、せめて伽を終わらせてからにしろ」
 シルワはその言葉を意外そうに聞きつつ、面白そうにソーリスを見上げニヤリとする。
「それも美味しそうですが、マレのファクルタースの方をもっと味わいたいですね。貴方が余計な事をしてくれているからつまみ食いもできない」
 ソーリスは思いっきり顔を顰める。馬鹿な執着心だと分かっているが、たとえシルワであってもマレのファクルタースも身体も触らせたくなかった。ソーリスの脳裏に、マレが伽の儀を行っている姿が浮かび上がっていく。淡々とした様子でそれを行っているマレには熱さとかいった要素はないものの、相手をしている人物の喜悦に満ちた目がソーリスには不快に映った。
 黙ってしまったソーリスに対して、シルワは苦笑をもらす。
「貴方が飽きるまで待たせてもらいますか」
 ソーリスはゆっくりとシルワに視線も戻す。瞳が剣呑な妙な光りを帯びている。
「待つだけ無駄だ、アレを手放す気はない」
 ソーリスの低い声が部屋に響いた。


~~~四章 完~~~
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