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四章 ~力の代償~ カロルの世界
想いの先
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クレールスのフラーメンは案内された扉の前で大きく深呼吸をする。隣でシワンが不安げにフラーメンを見上げているのに気が付き安心させようとう、緑の瞳を細め笑いかけシルワンはぎこちない笑みでフラーメンに返す。シワンは無理して笑っているのではなく、彼なりに緊張しているフラーメンを元気つけようとしている笑顔である。能力は高いものの感情表現が不器用な子供で、言葉や表情よりも目で気持ちを伝えてくる。その優しいシワンの心に触れフラーメンは覚悟を決めその扉をノックし中へと入っていく。
そこには二人をどうしようもなく威圧させる風景が広がっていた。
広く、壁も天井も床も家具も白い部屋である為か、ソーリスの金の瞳の所為か、人を緊張させる事ではこの世界に一二を争うシルワまでがソーリスの横にいる為か、その部屋での居心地は良いものではなかった。通常あまり顔を合わせる事のないノービリスだけでなくブリームムであるソーリスに対面してシワンもスッカリ萎縮してしまったようだ。
フラーメンも、久しぶりにこのように顔を合わせることになったソーリスの壮美な顔を見上げる。以前は無条件で慕い従った存在で、今はチリリとした心に痛みを感じさせる存在。圧倒的な力でもってフラーメンの愛した存在を奪いさった人物。そんな感情が思わず表情に出てしまったのか、ソーリスはフラーメンの顔を見て一瞬嗤ったのを感じた。フラーメンは拳を握りしめ目を反らす。
「二人とも。怪我もなくて良かった。そしてあのような事態を引き起こした事については、申し訳なかった。息子のした事を許せとは言わない、何も無かった事にするつもりもない。アレにはちゃんと身をもって償わせる」
その言葉にフラーメンとシワンは正直戸惑う。ソーリスの口調は堂々としていて、謝罪しているようには聞こえないものの、ブリームムである人物がアミークスに対してそういった謝罪の言葉を語るのは前代未聞だからだ。しかも今回の事を厳重に口止めされる為に呼び出されたと思っていただけにフラーメンは困惑していた。フラーメンはシルワを見るとやはり、ソーリスがそのような言動をした事を面白くなさそうに見つめている。それもそうだろう、シルワはソーリスに対して敬意を払わぬ言動をとっているようで、実は一番の忠臣である。ソーリスの権威を損なうものを嫌悪する。平和的で信頼のある関係を築いてきたノービリスとアミークスの関係にヒビを入れかねない今回の事件を一番怒っているのは、恐らくはソーリスよりも、シルワだろう。
バタン
前触れもなくいきなり扉が開き、トゥルボーが平然と入ってくる。シルワは目を細め何か言いたげだったが何も言わなかった。トゥルボ-はそんなシルワにニコリと明るい笑みを向ける。そしてソーリスの横に立ち、父親と顔を見合わせ頷いてから、改めてノービリスの二人に視線を向け優しげに細める。
「弟がとんだ失礼を」
人好きする柔らかい笑みは、ソーリスやシルワとは異なり人を和ませる表情である。しかしどこかサバサバとしすぎていてソーリスとは別の意味で謝罪しているようには見えない。
「今回の件は事故のようなもの、私達も無事でしたので気にしてはおりません」
出来る限り穏便にすませようとするフラーメンにシワンはチラリと意外そうな顔で見あげてくるが何もいわなかった。ソーリスもそのように言ってきたフラーメンを面白そうに見つめている。ソーリスはニヤリと笑い何かを言おうとするのをシルワは遮る。
「いえ、アレをちゃんと躾られなかった我々の責任です。今後二度とこのような事がないようにタップリと時間をかけてお仕置きをしておきますので」
ニッコリと笑うシルワにフラーメンはゾッと背筋を振るわせた。
「カロル様はどのような処遇をうけることになるのでしょうか?」
フラーメンの言葉に、ソーリスはウーンと少し考えるような仕草をする。こういった大事な事でも直感だけで決めていく所がこのソーリスの恐ろしい所である。
「まあ、十年程放り込んでおけば、アイツも反省するだろう」
ソーリスは何てことないようにそんな言葉を継げてくる。シルワはその言葉に顔を顰める。
「甘いですね、貴方も。私は五十年程ぶっ込んでおいても構わないと思うのですが。出来たら死ぬまで」
「あいつもまだ若い。成長したら落ち着くだろう。それにあまり長く閉じ込めるとますます拗ねるぞ」
二人のやりとりに、シワンは唖然とした表情をしていたが、フラーメンは慌てる。
「待って下さい。カロル様の性格を考えると、孤立させた状態にさせてしまうとますます精神的に不安定になるように思います。もう少しカロル様の未来の為になる処置を」
最大の被害者であるとはいえクレールスでしかない人物がこのように進言するのもおこがましい話だが、フラーメンは怖かったのだ。カロルが。部屋の前にシワンと自分を睨みつけてきたカロルがある人物の表情と重なって。マレに誰よりも執着しそしてマレの心をも手に入れたあの人物の表情に。マレに好意をよせ近づくもの全てを牽制し、ソーリスにまでも噛み付いたあの人物に。カロルは二人に敵意を見せてきた。あの時の殺意も本気であるのをビシビシと肌に感じた。
何故、カロルがマレと知り合ってしまったのかは分からない。しかしカロルはマレに異常に執着しているのは、あの一瞬にやりとりで十分察する事が出来た。もしマレとこのような形で引き離されたら、それだけシワンに対して恨みを膨らませてくるのは確実である。
「大丈夫ですよ、ただボンヤリとした時間を過ごさせる気はありませんので。もう逃げられない分、今までサボった分の講義をしっかり受けてもらいますし、身体と心に刻みつけますので」
その言葉を聞きながらトゥルボーは、シルワとソーリスの様子を観察しつつ口を開く。
「それをシルワ殿一人がされるのも大変でしょう。学術関係の方はマレ殿に担当させては如何ですか? 勿論体調が戻ってからでもいいですが」
その言葉に、ソーリスは面白そうな顔をして、シルワは形の良い眉を顰める。フラーメンとしてもあのカロルの側にマレを置くという状況は喜べない。フラーメンが最も苦手とする人物にそっくりな性質の人物がマレの側にまた現れたという事実が怖い。ソーリスにしてもそうだ。マレを寵愛して可愛がっているとされているが、そんな優しい表現で済ませられない程執着している。
「カロルに欠けているモノは多い。しかしそれを一番、補えるのはマレではないのですか?」
流石にソーリスの息子だけあり、シルワの睨みにも一切動じる事なく、トゥルボ-は笑顔すら浮かべて言葉を続ける。その笑みは爽やかだが、意味ありげに笑うソーリスと、鋭い視線で睨み付けているシルワ、この二人を前にこのように平然といられる所は只者ではない。
「私は反対ですね。カロルはあらゆる意味で不安定過ぎます。そしてカロルが暴走したら、マレにそれを止める力がない」
牽制するようにトゥルボ-に視線をやり、シルワはソーリスに意見を述べる。フラーメンはシルワの言葉に頷きながら、祈るような気持ちでソーリスを見つめる。
ソーリスは、縋るように見つめてくるフラーメンにニヤリとした笑顔を返す。そしてシルワに視線を戻す。
「あの性格の人間を飼い慣らす事にかけては、マレはお前より上手いな」
シルワは鼻で笑う。
「飼い慣らしてこの結果、あの顛末ですか? 上手いとも思えませんが――」
ノービリス達の会話が解らす首を傾げシルワンの耳を、フラーメンは塞いであげたかった。明らかに子供の前でする話題ではない。その非難の視線にトゥルボーは気が付き苦笑する。
「まあ、その件は早急に決めなければならぬ話でもないですね。マレに意志を聞いてないですし。むしろ今回の事でアミークスに与えた動揺をいかに軽減させるかでしょう」
話題をトゥルボーが変えてくれた事にフラーメンはとりあえずホッとする。
「今回の件は、ソーリス様にとっても望まない事である事は、我々は皆理解しております。またカロル様のあの気質も分かっておりますので」
フラーメンの言葉にノービリスの三人は苦笑する。カロルが今までどれほど周りに迷惑をかけまくる問題児であったのか理解しているからだ。ソーリスやトゥルボーの注意には良い子の返事をし、シルワの小言は口をへの字にして顔をそらし、何の反省もしてこなかったカロルである。
アミークス居住区には封をつけ、カロルは入れないようにしたものの、森等で接触した時に問題を起こすのも一度や二度ではなかった。アミークスの間ではカロルを見かけたら極力視線に入らぬようにして逃げろという事が暗黙の了解である。
ソーリスは大きく一回息を吐く。そしてアミークスの二人に和らかい笑みを向ける。
「息子には、今までの事も含めて反省させる。とりあえず十年は、問題は起こる事はない。安心しろ」
フラーメンはその言葉に頭を下げるが、ソーリスの言葉の通り色々な意味で安心なんて出来ないのが正直な気持ちだった。
「我々が解決すべき問題だ。どちらにせよ、お前が心配する事も、すべき事もない」
ソーリスの言葉にフラーメンは必死に感情を押し殺し、無表情で頭を下げる。
シルワはヤレヤレといった顔で、トゥルボーとシワンは怪訝な表情で見つめていた。
「ソーリス様、私の可愛い部下を虐めないで下さい」
シルワの言葉にソーリスは眉を上げ、心外だと言わんばかりの表情をする。ソーリスは陰険なわけではない、ただ正直に感じた事をそのまま口にしただけだろう。フラーメンは苦笑するしかない。
マレはソーリスのモノだから、カロルにも誰にも手を出させる事はさせない。それをフラーメンに再認識させたかっただけなのだ。もう話す事もなかったのだろう。その後は大した内容もないやり取りをして、部屋を辞する事になった。
部屋を出る際に、シワンがシルワを少し睨むような視線を向けたのをフラーメンは気が付いた。目を細め笑うシルワにシワンは顔を背ける。シルワの表情はとにかく、シワンがそのような目で人を見ることなんて今までなかっただけに、フラーメンは眉を顰める。宮殿を出る回廊で様子のおかしいシワンに声をかける。
「どうかしたのですか? シワン」
シワンは顔をあげて何やら考えるような表情をするが、何も言わず首を横にふる。そのまましばらく無言で歩き続ける。
「……マレ様は大丈夫でしょうか?」
ようやく出てきたシワンらしい優しい言葉にホッとしてフラーメンは、その頭を撫でる。
「シルワ様が、治療して下さったので、もう心配はありません」
その言葉に顔は険しくなり。思い詰めたような表情をするシルワンに、フラーメンは出来るだけ優しい笑顔をつくり口を開く。
「これは事故だったのです」
シワンはその言葉に何の返事もしなかった。そして手の中の石をギュッと握った。まったく納得していない様子のシワンを観てフラーメンは溜息をつく。
そこには二人をどうしようもなく威圧させる風景が広がっていた。
広く、壁も天井も床も家具も白い部屋である為か、ソーリスの金の瞳の所為か、人を緊張させる事ではこの世界に一二を争うシルワまでがソーリスの横にいる為か、その部屋での居心地は良いものではなかった。通常あまり顔を合わせる事のないノービリスだけでなくブリームムであるソーリスに対面してシワンもスッカリ萎縮してしまったようだ。
フラーメンも、久しぶりにこのように顔を合わせることになったソーリスの壮美な顔を見上げる。以前は無条件で慕い従った存在で、今はチリリとした心に痛みを感じさせる存在。圧倒的な力でもってフラーメンの愛した存在を奪いさった人物。そんな感情が思わず表情に出てしまったのか、ソーリスはフラーメンの顔を見て一瞬嗤ったのを感じた。フラーメンは拳を握りしめ目を反らす。
「二人とも。怪我もなくて良かった。そしてあのような事態を引き起こした事については、申し訳なかった。息子のした事を許せとは言わない、何も無かった事にするつもりもない。アレにはちゃんと身をもって償わせる」
その言葉にフラーメンとシワンは正直戸惑う。ソーリスの口調は堂々としていて、謝罪しているようには聞こえないものの、ブリームムである人物がアミークスに対してそういった謝罪の言葉を語るのは前代未聞だからだ。しかも今回の事を厳重に口止めされる為に呼び出されたと思っていただけにフラーメンは困惑していた。フラーメンはシルワを見るとやはり、ソーリスがそのような言動をした事を面白くなさそうに見つめている。それもそうだろう、シルワはソーリスに対して敬意を払わぬ言動をとっているようで、実は一番の忠臣である。ソーリスの権威を損なうものを嫌悪する。平和的で信頼のある関係を築いてきたノービリスとアミークスの関係にヒビを入れかねない今回の事件を一番怒っているのは、恐らくはソーリスよりも、シルワだろう。
バタン
前触れもなくいきなり扉が開き、トゥルボーが平然と入ってくる。シルワは目を細め何か言いたげだったが何も言わなかった。トゥルボ-はそんなシルワにニコリと明るい笑みを向ける。そしてソーリスの横に立ち、父親と顔を見合わせ頷いてから、改めてノービリスの二人に視線を向け優しげに細める。
「弟がとんだ失礼を」
人好きする柔らかい笑みは、ソーリスやシルワとは異なり人を和ませる表情である。しかしどこかサバサバとしすぎていてソーリスとは別の意味で謝罪しているようには見えない。
「今回の件は事故のようなもの、私達も無事でしたので気にしてはおりません」
出来る限り穏便にすませようとするフラーメンにシワンはチラリと意外そうな顔で見あげてくるが何もいわなかった。ソーリスもそのように言ってきたフラーメンを面白そうに見つめている。ソーリスはニヤリと笑い何かを言おうとするのをシルワは遮る。
「いえ、アレをちゃんと躾られなかった我々の責任です。今後二度とこのような事がないようにタップリと時間をかけてお仕置きをしておきますので」
ニッコリと笑うシルワにフラーメンはゾッと背筋を振るわせた。
「カロル様はどのような処遇をうけることになるのでしょうか?」
フラーメンの言葉に、ソーリスはウーンと少し考えるような仕草をする。こういった大事な事でも直感だけで決めていく所がこのソーリスの恐ろしい所である。
「まあ、十年程放り込んでおけば、アイツも反省するだろう」
ソーリスは何てことないようにそんな言葉を継げてくる。シルワはその言葉に顔を顰める。
「甘いですね、貴方も。私は五十年程ぶっ込んでおいても構わないと思うのですが。出来たら死ぬまで」
「あいつもまだ若い。成長したら落ち着くだろう。それにあまり長く閉じ込めるとますます拗ねるぞ」
二人のやりとりに、シワンは唖然とした表情をしていたが、フラーメンは慌てる。
「待って下さい。カロル様の性格を考えると、孤立させた状態にさせてしまうとますます精神的に不安定になるように思います。もう少しカロル様の未来の為になる処置を」
最大の被害者であるとはいえクレールスでしかない人物がこのように進言するのもおこがましい話だが、フラーメンは怖かったのだ。カロルが。部屋の前にシワンと自分を睨みつけてきたカロルがある人物の表情と重なって。マレに誰よりも執着しそしてマレの心をも手に入れたあの人物の表情に。マレに好意をよせ近づくもの全てを牽制し、ソーリスにまでも噛み付いたあの人物に。カロルは二人に敵意を見せてきた。あの時の殺意も本気であるのをビシビシと肌に感じた。
何故、カロルがマレと知り合ってしまったのかは分からない。しかしカロルはマレに異常に執着しているのは、あの一瞬にやりとりで十分察する事が出来た。もしマレとこのような形で引き離されたら、それだけシワンに対して恨みを膨らませてくるのは確実である。
「大丈夫ですよ、ただボンヤリとした時間を過ごさせる気はありませんので。もう逃げられない分、今までサボった分の講義をしっかり受けてもらいますし、身体と心に刻みつけますので」
その言葉を聞きながらトゥルボーは、シルワとソーリスの様子を観察しつつ口を開く。
「それをシルワ殿一人がされるのも大変でしょう。学術関係の方はマレ殿に担当させては如何ですか? 勿論体調が戻ってからでもいいですが」
その言葉に、ソーリスは面白そうな顔をして、シルワは形の良い眉を顰める。フラーメンとしてもあのカロルの側にマレを置くという状況は喜べない。フラーメンが最も苦手とする人物にそっくりな性質の人物がマレの側にまた現れたという事実が怖い。ソーリスにしてもそうだ。マレを寵愛して可愛がっているとされているが、そんな優しい表現で済ませられない程執着している。
「カロルに欠けているモノは多い。しかしそれを一番、補えるのはマレではないのですか?」
流石にソーリスの息子だけあり、シルワの睨みにも一切動じる事なく、トゥルボ-は笑顔すら浮かべて言葉を続ける。その笑みは爽やかだが、意味ありげに笑うソーリスと、鋭い視線で睨み付けているシルワ、この二人を前にこのように平然といられる所は只者ではない。
「私は反対ですね。カロルはあらゆる意味で不安定過ぎます。そしてカロルが暴走したら、マレにそれを止める力がない」
牽制するようにトゥルボ-に視線をやり、シルワはソーリスに意見を述べる。フラーメンはシルワの言葉に頷きながら、祈るような気持ちでソーリスを見つめる。
ソーリスは、縋るように見つめてくるフラーメンにニヤリとした笑顔を返す。そしてシルワに視線を戻す。
「あの性格の人間を飼い慣らす事にかけては、マレはお前より上手いな」
シルワは鼻で笑う。
「飼い慣らしてこの結果、あの顛末ですか? 上手いとも思えませんが――」
ノービリス達の会話が解らす首を傾げシルワンの耳を、フラーメンは塞いであげたかった。明らかに子供の前でする話題ではない。その非難の視線にトゥルボーは気が付き苦笑する。
「まあ、その件は早急に決めなければならぬ話でもないですね。マレに意志を聞いてないですし。むしろ今回の事でアミークスに与えた動揺をいかに軽減させるかでしょう」
話題をトゥルボーが変えてくれた事にフラーメンはとりあえずホッとする。
「今回の件は、ソーリス様にとっても望まない事である事は、我々は皆理解しております。またカロル様のあの気質も分かっておりますので」
フラーメンの言葉にノービリスの三人は苦笑する。カロルが今までどれほど周りに迷惑をかけまくる問題児であったのか理解しているからだ。ソーリスやトゥルボーの注意には良い子の返事をし、シルワの小言は口をへの字にして顔をそらし、何の反省もしてこなかったカロルである。
アミークス居住区には封をつけ、カロルは入れないようにしたものの、森等で接触した時に問題を起こすのも一度や二度ではなかった。アミークスの間ではカロルを見かけたら極力視線に入らぬようにして逃げろという事が暗黙の了解である。
ソーリスは大きく一回息を吐く。そしてアミークスの二人に和らかい笑みを向ける。
「息子には、今までの事も含めて反省させる。とりあえず十年は、問題は起こる事はない。安心しろ」
フラーメンはその言葉に頭を下げるが、ソーリスの言葉の通り色々な意味で安心なんて出来ないのが正直な気持ちだった。
「我々が解決すべき問題だ。どちらにせよ、お前が心配する事も、すべき事もない」
ソーリスの言葉にフラーメンは必死に感情を押し殺し、無表情で頭を下げる。
シルワはヤレヤレといった顔で、トゥルボーとシワンは怪訝な表情で見つめていた。
「ソーリス様、私の可愛い部下を虐めないで下さい」
シルワの言葉にソーリスは眉を上げ、心外だと言わんばかりの表情をする。ソーリスは陰険なわけではない、ただ正直に感じた事をそのまま口にしただけだろう。フラーメンは苦笑するしかない。
マレはソーリスのモノだから、カロルにも誰にも手を出させる事はさせない。それをフラーメンに再認識させたかっただけなのだ。もう話す事もなかったのだろう。その後は大した内容もないやり取りをして、部屋を辞する事になった。
部屋を出る際に、シワンがシルワを少し睨むような視線を向けたのをフラーメンは気が付いた。目を細め笑うシルワにシワンは顔を背ける。シルワの表情はとにかく、シワンがそのような目で人を見ることなんて今までなかっただけに、フラーメンは眉を顰める。宮殿を出る回廊で様子のおかしいシワンに声をかける。
「どうかしたのですか? シワン」
シワンは顔をあげて何やら考えるような表情をするが、何も言わず首を横にふる。そのまましばらく無言で歩き続ける。
「……マレ様は大丈夫でしょうか?」
ようやく出てきたシワンらしい優しい言葉にホッとしてフラーメンは、その頭を撫でる。
「シルワ様が、治療して下さったので、もう心配はありません」
その言葉に顔は険しくなり。思い詰めたような表情をするシルワンに、フラーメンは出来るだけ優しい笑顔をつくり口を開く。
「これは事故だったのです」
シワンはその言葉に何の返事もしなかった。そして手の中の石をギュッと握った。まったく納得していない様子のシワンを観てフラーメンは溜息をつく。
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