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四章 ~力の代償~ カロルの世界
思い惑うこの状況
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ソーリスは黄金の瞳を細めて満足気に笑いながら、ソファーに腰掛ける美しき愛しい人物の隣に座り、その腰に手を回し抱き寄せる。もう片方の手で、きめが細かく白く美しいその頬を愛撫するかのように撫でた。
「美しい、流石シルワだな。本当に最高だ」
ソーリスの感嘆の声にシルワは艶やかな笑みを浮かべる。緑の瞳が喜悦の色で輝いている。
マレはそのやりとりを聞きながら、頬を撫で顔を近づけてくるソーリスをぼんやりと見上げていた。マレの顎を持ち上げソーリスはその唇に深いキスを落としていく。人前でしかもシルワの前でされるキスは本来ならマレは嫌がるモノだったが、いかんせんこの時のマレは体調が悪すぎて何もする気になれなかった。
シルワはその様子を向かいのソファーで眺めながら『おやおや』と声をだし、手にしていた書類をめくる。
ソーリスが美しいと褒めたのはマレの事。今日のマレは光沢がある滑らかな濃紺の生地の上に、柔らかいシフォンの透けた生地が重ねられた清楚でありながら華やかなドレスに、緩く垂れるように結われた髪には衣装に合わせた色の宝石で飾られている。シルワがデザインした洋服で、髪も自らが結い上げたものである。ソーリスがシルワを褒めたのは、マレをここまで美しく飾り付けたシルワの手腕で、シルワがそれに笑顔で答えたのは自分の仕事が正当に評価されたからである。
色々二人に言いたい事もあったが、この二人に何を言っても無駄というのもありマレは大きく溜息をつく。
一日の周期とはズレたマレの生活リズムは考えていた以上にマレの生活を滅茶苦茶にしていた。
最初の日はたまたま、目の冴えた時間と昼間が合致していたから楽に思えたのだが、すぐに眠れない夜を体験することになる。その夜はシルワの用意した薬湯によって気絶に近い形で眠らされ、夜明け前に叩き起こされという生活を繰り返し、目の冴えた昼間というのがなかなか訪れず、太陽の下でマレはぼんやりと過ごす場合が多かった。
ソーリスに捕らわれていた時との大きな違いは、一日のスケジュールがシッカリと組まれていることで、夜明けを見終わったマレは必ず着替えさせられ髪も整えられる。日中は、作業が進もうが進まなかろうが関係なく課題を与えられた。日没後は服を脱がされ身体を清められ長い風呂の後、寝着を着せられベッドに強制的に寝かされる。
かなり強引な形ではあるが、そこまでしてくれている事には、マレはシルワに感謝していた。
しかし毎日嬉しげに、新しいデザインの洋服や寝着をもってきてマレに着せているシルワには、いささか辟易していた。誰が訪れるとか誰に見せるかというのでもない状況で、シルワはマレを髪までシッカリ結い上げアクセサリーまで使い着飾り、その洋服に合う場所にマレを座らせ満足そうにしているのを見ると、完全におもちゃにされているというのが分かってくる。しかもそれらは、サイズからもシルワの衣類でもなく新しく、マレの為に仕立てられたものであるようだ。シルワがマレとあの部屋で再会してから、わざわざ作らせたものなのだろう。マレがシルワに求めていたものとはかなり違った方向で準備を頑張っていた事に苦笑するしかない。
「私のマレは元々可愛いから、着せつけがいがあります」
シルワは目を細めて笑い、お茶を優雅な仕草で飲む。
そう呟くシルワに、ソーリスは鼻で笑い、長いキスですっかり顔を火照らせたマレの身体を淫らな手つきで撫でる。流石にその状態になりマレは身をよじり抵抗する。
「私のマレだと? コレは俺のモノだ」
シルワは澄ました表情で肩をすくめる。
「ソーリス様、いい加減にして下さい。こんな所で」
状況に耐えきれなくなったマレが思わず声を荒らげる。顔を赤くして睨み付けてくるマレを、ソーリスは顔を傾げるようにして見下ろす。
「やっと、まともな反応を示してくれたな。ここ最近は何の文句も反抗もしてこなかったから心配していたが、そんなお前らしい表情が出来るなら大丈夫だな」
その言葉にマレも絶句するしかない。まともにコミュニケーションすらとれないほど精神的に憔悴していた相手に、構わず手を出した事の方がオカシイとは思っていないようだ。抵抗できないマレに何かしてくる事は今に始まった事ではないのだが。
「ソーリス様、こういうときは包容力をもって見守ってあげるのが、大人の勤めだと思いますよ」
シルワが珍しく真っ当な事を言う。しかしそれまでの事をまったく止めずに面白そうに傍観していた人物の言葉だけに説得力に欠ける。ソーリスもそう思ったのだろう、目を眇めてシルワを見つめる。マレにしてみたら、二人で一緒に自分で遊んでいるようにしか見えない。マレは溜息をつき、サイドテーブルに置かれていたティーカップを震える手で持ち上げる。その様子を見ていたソーリスがカップを支えマレが飲むのを手伝ってやる。マレはまだ顔を赤らめているものの、目を覚まし落ち着いてきているのを確認してからソーリスはソッとマレに籠を渡す。様々なフルーツと花束と手紙の入った籠をマレは首を傾げて受け取る。
「そういえば、コレを預かった。今日は配気の日だったので聖殿に行ったら、赤毛の双子が俺にコレを手渡してきた」
マレは目を見開き、手紙をそっと出し両手で優しく握る。マレの脳裏に先日再会した可愛い子供達の姿が浮かぶ。アミークスである彼らが、ノービリスでしかもブリームムであるソーリスに声をかけるなんてかなりの勇気がいるはずだ。それだけでなく近寄ることすら難しい事である。
「回廊を歩いていたら、いきなり大声で声をかけてきてな。必死にこの籠を捧げて頼んできた」
マレはその言葉にその様子を思い浮かべ、顔を少し綻ばせる。しかしソーリスとシルワの視線に気が付き顔を引き締める。
「ありがとうございます。そしてあの子達が、失礼な事を。申し訳ありません」
ソーリスはフフと笑う。
「子供が人を想って一生懸命行動しているのを、怒る訳なんかないだろう? お前が体調を崩しているというのを聞いて、山で集めてきたんだろうお見舞いの品を。可愛いものだな」
マレは改めて籠の中を見つめ目を細める。
「サッサと力を制御しろ! 以前の仕事にも戻らせてやる。そうしたら、あの子達とも幾らでも会えるだろう」
マレはその言葉に、目を開きジッとソーリスの目を見つめる。
「……努力いたします」
そういう言葉だけを返し、目を伏せる。ソーリスは悠然と笑い、マレの頬をなでそのおでこにキスをして去っていった。ソーリスが去った出口を見つめるマレに、シルワはクククと笑う。
「そういう新しいエサを用意してきたわけですか、ソーリス様も」
シルワの言葉にマレはチラリと視線をむける。
「貴方はどうするのですか? ソーリス様の見え透いた手にのるつもり?」
マレは笑みをとりあえず作り、シルワに向き直る。
「それともあえて焦らして、ここでの自由を満喫するのも手ですよ。研究は此方でも続けられるようにしてあげますし。いえ最初からそのつもりで私は貴方をあの部屋から出しましたので」
ソーリスの用意した檻と、シルワの用意した檻どちらかを選べという言葉にマレは考える。表面的にはどちらも同じ生活が待っている。どちらの手をとるかの違いは万が一の事が起こったときにどういう処置をするのか? という事。どちらがマレの望む道を選んでくれるのか? マレはジッとシルワに目を注ぐ。
シルワは書類をソファーに置き近づきマレの隣に座り、そっと肩に手置いてくる。
「心配なのですよ。貴方がまた無茶をするのではないかと」
マレは苦笑し首を横にふる。そしてシルワの方を向き、直り目を見開き動揺した。シルワの顔が想った以上に近い位置にあったからだ。
「貴方を守りたいのですよ。貴方と貴方が守りたいと想うものも全て。だから私をもっと頼って下さい」
ただでさえ無い距離から迫ってくるシルワの顔に、思わず後ずさるが、そう広くないソファーだけにすぐに追い詰められた。体重をかけて乗りかかれ動くに動けなくなる。流石のマレも顔を赤らめ慌てるが、立場上シルワを蹴飛ばして抵抗する事も出来ない。シルワは妖艶な笑みを浮かべさらに顔を近づけてくる。シルワの身体から何とも香しき薫りが漂ってくるが、その香りに癒されるわけもなく、マレはどうしたものかと悩む。
「シルワ様、あの……」
マレの両頬を包むようにシルワの手が捕らえる。大抵のものはこの距離でシルワに微笑まれたら、理性をなくし惚ける所だが、マレは強張った表情を返す。必至に顔を逸らし二人の身体の間に手を挟み距離を作ろうと試みる。シルワはそんなマレを楽しそうに観察し、目の前にあるマレの形の良い耳を唇でそっと触れ舐めた。マレはピクリと身体を震わせる。
「私も貴方を愛しています」
耳元で囁かれる擽ったさに耐えながら、マレは少しずつ冷静さを取り戻していく。 この距離でいればシルワが自分に欲情しているのか否かは流石に分かる。
「子供をこうやってからかうのは止めてください」
マレは失礼にならない程度に、強くシルワの身体を押し返す。シルワはクククと笑いながら離れてくれた。
「こういう潔癖な所は変わってないのですね。もう少しソーリス様に抱かれて柔らかくなったと思っていたのですが」
大きく溜息をつくマレを、シルワは笑いながら手を伸ばし身体を起こすのを手伝う。
「そういう頑なで、意固地な所が、ソーリス様をさらに煽っているのが分からないのですか? 可憐に笑ってやり過ごす術も覚えないと、良いように遊ばれるだけですよ」
シルワは緑の目を細める。マレは反論を言いかけたが首をふり、話を変えることにした。
「私を助けたい、守りたい、とおっしゃられましたが、それは貴方が楽しみたいから、そして貴方がもっとも好奇心を動かされるモノだからでしょうに」
マレの言葉にシルワは肩をすくめる。
「まあ、そういう事ですね。だから私を楽しませて下さい。その範囲での馬鹿な事だったら尻ぬぐいはしてあげましょう。ただ度を超えた事したらそれなりの覚悟をしておいてくださいね」
そう言って、ツンとマレの胸を突く。そこにチリっとした痛みを感じる。シルワのかけた咎術の印章がシルワの気に反応したようだ。この部屋にいる限りは、ソーリスの咎術に加え、この咎術もうけたままになる。シルワの咎術がどれ程の効力があるものかは見えないが、何か想定外のことが起こり二つの咎術が重ねて発動させてしまう事だけは避けねばならない。
目の前で愉しげに笑うシルワをマレは静かに見つめる。
「ご期待に応えるように努力します」
ハッキリした返答をマレは避けた。裏の意味も込めて従順な言葉を返すマレに、シルワは満足そうに艶麗な笑みを浮かべる。
「貴方はやはり可愛い。抱きたい程まではないけれど、キスして抱きしめたいくらいには愛しいですよ」
マレは先程シルワから教えられたとおり、美麗な笑みだけを返しその言葉を流すことにする。思ったよりも冷静な反応を返したマレをシルワは少しつまらなさそうな表情をしたが、何も言わなかった。
「美しい、流石シルワだな。本当に最高だ」
ソーリスの感嘆の声にシルワは艶やかな笑みを浮かべる。緑の瞳が喜悦の色で輝いている。
マレはそのやりとりを聞きながら、頬を撫で顔を近づけてくるソーリスをぼんやりと見上げていた。マレの顎を持ち上げソーリスはその唇に深いキスを落としていく。人前でしかもシルワの前でされるキスは本来ならマレは嫌がるモノだったが、いかんせんこの時のマレは体調が悪すぎて何もする気になれなかった。
シルワはその様子を向かいのソファーで眺めながら『おやおや』と声をだし、手にしていた書類をめくる。
ソーリスが美しいと褒めたのはマレの事。今日のマレは光沢がある滑らかな濃紺の生地の上に、柔らかいシフォンの透けた生地が重ねられた清楚でありながら華やかなドレスに、緩く垂れるように結われた髪には衣装に合わせた色の宝石で飾られている。シルワがデザインした洋服で、髪も自らが結い上げたものである。ソーリスがシルワを褒めたのは、マレをここまで美しく飾り付けたシルワの手腕で、シルワがそれに笑顔で答えたのは自分の仕事が正当に評価されたからである。
色々二人に言いたい事もあったが、この二人に何を言っても無駄というのもありマレは大きく溜息をつく。
一日の周期とはズレたマレの生活リズムは考えていた以上にマレの生活を滅茶苦茶にしていた。
最初の日はたまたま、目の冴えた時間と昼間が合致していたから楽に思えたのだが、すぐに眠れない夜を体験することになる。その夜はシルワの用意した薬湯によって気絶に近い形で眠らされ、夜明け前に叩き起こされという生活を繰り返し、目の冴えた昼間というのがなかなか訪れず、太陽の下でマレはぼんやりと過ごす場合が多かった。
ソーリスに捕らわれていた時との大きな違いは、一日のスケジュールがシッカリと組まれていることで、夜明けを見終わったマレは必ず着替えさせられ髪も整えられる。日中は、作業が進もうが進まなかろうが関係なく課題を与えられた。日没後は服を脱がされ身体を清められ長い風呂の後、寝着を着せられベッドに強制的に寝かされる。
かなり強引な形ではあるが、そこまでしてくれている事には、マレはシルワに感謝していた。
しかし毎日嬉しげに、新しいデザインの洋服や寝着をもってきてマレに着せているシルワには、いささか辟易していた。誰が訪れるとか誰に見せるかというのでもない状況で、シルワはマレを髪までシッカリ結い上げアクセサリーまで使い着飾り、その洋服に合う場所にマレを座らせ満足そうにしているのを見ると、完全におもちゃにされているというのが分かってくる。しかもそれらは、サイズからもシルワの衣類でもなく新しく、マレの為に仕立てられたものであるようだ。シルワがマレとあの部屋で再会してから、わざわざ作らせたものなのだろう。マレがシルワに求めていたものとはかなり違った方向で準備を頑張っていた事に苦笑するしかない。
「私のマレは元々可愛いから、着せつけがいがあります」
シルワは目を細めて笑い、お茶を優雅な仕草で飲む。
そう呟くシルワに、ソーリスは鼻で笑い、長いキスですっかり顔を火照らせたマレの身体を淫らな手つきで撫でる。流石にその状態になりマレは身をよじり抵抗する。
「私のマレだと? コレは俺のモノだ」
シルワは澄ました表情で肩をすくめる。
「ソーリス様、いい加減にして下さい。こんな所で」
状況に耐えきれなくなったマレが思わず声を荒らげる。顔を赤くして睨み付けてくるマレを、ソーリスは顔を傾げるようにして見下ろす。
「やっと、まともな反応を示してくれたな。ここ最近は何の文句も反抗もしてこなかったから心配していたが、そんなお前らしい表情が出来るなら大丈夫だな」
その言葉にマレも絶句するしかない。まともにコミュニケーションすらとれないほど精神的に憔悴していた相手に、構わず手を出した事の方がオカシイとは思っていないようだ。抵抗できないマレに何かしてくる事は今に始まった事ではないのだが。
「ソーリス様、こういうときは包容力をもって見守ってあげるのが、大人の勤めだと思いますよ」
シルワが珍しく真っ当な事を言う。しかしそれまでの事をまったく止めずに面白そうに傍観していた人物の言葉だけに説得力に欠ける。ソーリスもそう思ったのだろう、目を眇めてシルワを見つめる。マレにしてみたら、二人で一緒に自分で遊んでいるようにしか見えない。マレは溜息をつき、サイドテーブルに置かれていたティーカップを震える手で持ち上げる。その様子を見ていたソーリスがカップを支えマレが飲むのを手伝ってやる。マレはまだ顔を赤らめているものの、目を覚まし落ち着いてきているのを確認してからソーリスはソッとマレに籠を渡す。様々なフルーツと花束と手紙の入った籠をマレは首を傾げて受け取る。
「そういえば、コレを預かった。今日は配気の日だったので聖殿に行ったら、赤毛の双子が俺にコレを手渡してきた」
マレは目を見開き、手紙をそっと出し両手で優しく握る。マレの脳裏に先日再会した可愛い子供達の姿が浮かぶ。アミークスである彼らが、ノービリスでしかもブリームムであるソーリスに声をかけるなんてかなりの勇気がいるはずだ。それだけでなく近寄ることすら難しい事である。
「回廊を歩いていたら、いきなり大声で声をかけてきてな。必死にこの籠を捧げて頼んできた」
マレはその言葉にその様子を思い浮かべ、顔を少し綻ばせる。しかしソーリスとシルワの視線に気が付き顔を引き締める。
「ありがとうございます。そしてあの子達が、失礼な事を。申し訳ありません」
ソーリスはフフと笑う。
「子供が人を想って一生懸命行動しているのを、怒る訳なんかないだろう? お前が体調を崩しているというのを聞いて、山で集めてきたんだろうお見舞いの品を。可愛いものだな」
マレは改めて籠の中を見つめ目を細める。
「サッサと力を制御しろ! 以前の仕事にも戻らせてやる。そうしたら、あの子達とも幾らでも会えるだろう」
マレはその言葉に、目を開きジッとソーリスの目を見つめる。
「……努力いたします」
そういう言葉だけを返し、目を伏せる。ソーリスは悠然と笑い、マレの頬をなでそのおでこにキスをして去っていった。ソーリスが去った出口を見つめるマレに、シルワはクククと笑う。
「そういう新しいエサを用意してきたわけですか、ソーリス様も」
シルワの言葉にマレはチラリと視線をむける。
「貴方はどうするのですか? ソーリス様の見え透いた手にのるつもり?」
マレは笑みをとりあえず作り、シルワに向き直る。
「それともあえて焦らして、ここでの自由を満喫するのも手ですよ。研究は此方でも続けられるようにしてあげますし。いえ最初からそのつもりで私は貴方をあの部屋から出しましたので」
ソーリスの用意した檻と、シルワの用意した檻どちらかを選べという言葉にマレは考える。表面的にはどちらも同じ生活が待っている。どちらの手をとるかの違いは万が一の事が起こったときにどういう処置をするのか? という事。どちらがマレの望む道を選んでくれるのか? マレはジッとシルワに目を注ぐ。
シルワは書類をソファーに置き近づきマレの隣に座り、そっと肩に手置いてくる。
「心配なのですよ。貴方がまた無茶をするのではないかと」
マレは苦笑し首を横にふる。そしてシルワの方を向き、直り目を見開き動揺した。シルワの顔が想った以上に近い位置にあったからだ。
「貴方を守りたいのですよ。貴方と貴方が守りたいと想うものも全て。だから私をもっと頼って下さい」
ただでさえ無い距離から迫ってくるシルワの顔に、思わず後ずさるが、そう広くないソファーだけにすぐに追い詰められた。体重をかけて乗りかかれ動くに動けなくなる。流石のマレも顔を赤らめ慌てるが、立場上シルワを蹴飛ばして抵抗する事も出来ない。シルワは妖艶な笑みを浮かべさらに顔を近づけてくる。シルワの身体から何とも香しき薫りが漂ってくるが、その香りに癒されるわけもなく、マレはどうしたものかと悩む。
「シルワ様、あの……」
マレの両頬を包むようにシルワの手が捕らえる。大抵のものはこの距離でシルワに微笑まれたら、理性をなくし惚ける所だが、マレは強張った表情を返す。必至に顔を逸らし二人の身体の間に手を挟み距離を作ろうと試みる。シルワはそんなマレを楽しそうに観察し、目の前にあるマレの形の良い耳を唇でそっと触れ舐めた。マレはピクリと身体を震わせる。
「私も貴方を愛しています」
耳元で囁かれる擽ったさに耐えながら、マレは少しずつ冷静さを取り戻していく。 この距離でいればシルワが自分に欲情しているのか否かは流石に分かる。
「子供をこうやってからかうのは止めてください」
マレは失礼にならない程度に、強くシルワの身体を押し返す。シルワはクククと笑いながら離れてくれた。
「こういう潔癖な所は変わってないのですね。もう少しソーリス様に抱かれて柔らかくなったと思っていたのですが」
大きく溜息をつくマレを、シルワは笑いながら手を伸ばし身体を起こすのを手伝う。
「そういう頑なで、意固地な所が、ソーリス様をさらに煽っているのが分からないのですか? 可憐に笑ってやり過ごす術も覚えないと、良いように遊ばれるだけですよ」
シルワは緑の目を細める。マレは反論を言いかけたが首をふり、話を変えることにした。
「私を助けたい、守りたい、とおっしゃられましたが、それは貴方が楽しみたいから、そして貴方がもっとも好奇心を動かされるモノだからでしょうに」
マレの言葉にシルワは肩をすくめる。
「まあ、そういう事ですね。だから私を楽しませて下さい。その範囲での馬鹿な事だったら尻ぬぐいはしてあげましょう。ただ度を超えた事したらそれなりの覚悟をしておいてくださいね」
そう言って、ツンとマレの胸を突く。そこにチリっとした痛みを感じる。シルワのかけた咎術の印章がシルワの気に反応したようだ。この部屋にいる限りは、ソーリスの咎術に加え、この咎術もうけたままになる。シルワの咎術がどれ程の効力があるものかは見えないが、何か想定外のことが起こり二つの咎術が重ねて発動させてしまう事だけは避けねばならない。
目の前で愉しげに笑うシルワをマレは静かに見つめる。
「ご期待に応えるように努力します」
ハッキリした返答をマレは避けた。裏の意味も込めて従順な言葉を返すマレに、シルワは満足そうに艶麗な笑みを浮かべる。
「貴方はやはり可愛い。抱きたい程まではないけれど、キスして抱きしめたいくらいには愛しいですよ」
マレは先程シルワから教えられたとおり、美麗な笑みだけを返しその言葉を流すことにする。思ったよりも冷静な反応を返したマレをシルワは少しつまらなさそうな表情をしたが、何も言わなかった。
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