蒼き流れの中で

白い黒猫

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二章 ~幽囚の麗人~  カロルの世界

支配の為の開放

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 回廊をこの世界で最も華やかな集団が歩いていく。黄金の髪と瞳をもつ艶やかなソーリスと、性格とは真逆の柔和な美しさをもつシルワ、若い瑞々しい魅力をもつトゥルボーとカロル、そしてそれに華をさらに添えるように銀の髪の楚々とした美しさをもつ若いマレの姿。しかしすれ違うノービリスは皆見蕩れるのではなく戸惑いの表情を見せていた。

 カロルはシルワがまだ一緒に居るのが気にくわないが、多分このままあの部屋に戻るのだろうし、仕事も終わったらならこのあとゆっくりマレと話が出来ると考えそのまま一緒に行動していた。
 すれ違う皆がマレの美しさに驚き、注目しているのをどこか誇らしげに感じながら、マレをそっと見上げる。静かな表情で真っ直ぐ前を見据え歩いている。
「今日は、本当に助かりました。感謝しています」
 シルワの言葉にマレは軽笑する。
「いえ。コチラこそあの子達を助けるチャンスを与えて下さって感謝しております」
 そう答えるマレにソーリスはニヤリと笑う。
「どうだ、マレ。満足したか?」
 マレは首を傾げソーリスを見上げる。
「可愛がっていた子供達との再会、そして久しぶりの力の開放。楽しめたのでは?」
 マレは苦笑し首をふる。
「いえ、正直楽しむ余裕など……」
 シルワはそのやりとりに目を細めるが、あえて口を挟まずに様子を見守る。
「ならば、欲求不満のままだろ? 久しぶりに暴れてみるか?」
 そう言いマレを強引に抱き寄せる。
「ソーリス様?」「父上?」
 怪訝な声を上げるシルワとトゥルボーにソーリスはニヤリと笑う。
「二人とも、まだ時間はあるな? 付き合え」
 そう言い捨てて、姿を消してしまう。転移術を使ったようだ。シルワはトゥルボーと顔を見合わせ、頷きソーリスを追いかけるように転移術を使い消えていく。カロルは時空の切れ目を追って転移する程の技能をもっていないために、消えようとする兄に縋ってついて行くことにした。
 辿りついたのは、森の奥にある澄んだ豊かな水を湛えた滝壺。カロルもお気に入りの場所である。水際で父とマレとシルワの姿も見える。シルワがソーリスと対峙するように立っている。
「ソーリス様、何をなさろうとしているのですか?」
「お前も、期待していたのでは? だからこそ小細工を」
 ソーリスの言葉にシルワは思いっきり眉を顰める。
「今回の事も、もう少し準備期間を得て行うべき事だったのに強引に進めるので、フォローさせて頂いただけでしょうに」
 シルワは、ニヤリと妖艶な笑みを返す。カロルも見た事ないほど激しい怒気を帯びたシルワをみて流石に退く。しかしソーリスはそんなシルワが怖くもないのか、鼻で笑う。
「マレ、お前も知りたいだろ? 今の己の力を。どのくらい見事に成長しているのか」
 その言葉にマレは、目を見開き警戒するようにソーリスから離れる。かといって庇っているシルワの方にはいかずに二人から等しい距離をとることで奇麗な三角形の立ち位置となる。カロルは、妙に緊張したシルワとマレの様子にどうして良いのか悩む。トゥルボーは何も言わずじっと三人を見つめている。
「ここなら、さっきと違って気兼ねなく開放できるだろ? やってみろ。見守ってやる」
 その言葉にマレは真っ直ぐソーリスを見つめながら頷く。そしてそのまま泉の方へと進む。マレは浸からずに水面の上を歩くように移動し中央で立ち止まり振りかえる。
「万が一の事を考え結界を貼っておけ」
 ソーリスがシルワとトゥルボーに指示を飛ばす。周囲の空気が変わる。トゥルボーが四人手前で滝壺を大きく包むように結界を貼ったのに対し、シルワはマレを中心に包むように滝壺の中に泉までも含んだ状態で結界を作成する。その事にトゥルボーは怪訝そうにシルワを見る。
 マレが瞳を閉じ、ゆっくりと深呼吸する。マレの身体がボワと光を放ち始める。カロルはルークスの力を帯びたマレのどこか神々しさを感じる姿に見惚れる。
 次の瞬間滝壺の水が波打ち次第に激しくなり、うねりマレを飲み込むように沸き上がっていく。マレの姿が噴き上げる水で見えなくなる。
「マレ!」
 動揺しカロルは父に縋るが、ソーリスは静かに暴れる水を見ているだけで何もしようとしない。シルワも慌てた様子もなく、冷静に結界を操り見守る。トゥルボーだけはカロル程ではないにしても、驚愕した様子だったが結界を狭めシルワを援助する。万が一シルワの結界が破れたときの補助をするつもりなのだろう。
「シルワ、余計な事をするな」
 その言葉の直後シルワの結界が弾けるように消滅する。カロルはトゥルボ-から後で聞いて分かったのだが、シルワが貼ったのはテラの能力者のみが作る事ができる吸収結界だったらしい。それで、コントロールしきれなくなっているマレの気を吸収し助けようとしたが、それをソーリスが排除したようだ。シルワは自分の結界を壊され、ソーリスを睨み付けた。結界に突然まともに力を受けることになったトゥルボーが少し眉を顰める。
「しかし」
 シルワは何かを言おうとしたタイミングで、滝壺の様子に変化が見える。無作為に動いていた水に動きが生まれゆっくりと収まっていくのが分かる。瞳に金の不思議な光を帯びたマレの姿がゆっくりと見えてくる。
 ソーリスは勝ち誇るかのようにシルワに向かって笑う。マレは光を帯びた姿のままでソーリスをジッと見つめている。
「流石だな、どうだ? 今の気持ちは」
 激しく肩を上下させ荒い息をしているマレは何も答えない。
「これくらいを余裕で支配できたなら、全てを開放してみるか」
 ソーリスの言葉に、マレは目を見開き身体を緊張させる。マレの身体から何か光の輪のようなものが外れるのをカロルは感じた。その瞬間に目の前の湖面が爆発する。カロルはとっさに見守る四人を守るように全面に結界を貼る。
 しかし、その前にトゥルボーとシルワが結界を張ったようで、マレを中心に滝壺を包むように球体の状態で力が暴れまくる。周囲への影響はなくなったものの、カロルはその中にいるマレが心配になり近づこうとするがソーリスに止められる。
「父上! マレが」
 非難の言葉を言うが父は眉一つ動かさずに滝壺を見つめている。何故かシルワが舌打ちをする。
「シルワ、お前の髪飾りが弾けたな、マレの力を甘くみていたとは」
 ソーリスの言葉にシルワは冷たい視線を返す。
「あくまでも、封印を解いてない状態での想定でしたので、こんな馬鹿な事を貴方がするとは思いもしませんでしたから! いきなりの全開放なんて」
 その言葉に、ソーリスは惚けたように笑う。シルワはそんなソーリスから滝壺へと視線を戻す。
「トゥルボー様、もう少し結界の範囲を広げて頂けますか?」
 シルワの言葉にトゥルボーが訝るようにシルワとソーリスの顔を交互に見る。
「貴方の結界が邪魔で、マレを補助できない。それとも私の結界がマレごときに破られると?」
 ソーリスが頷く事でトゥルボーは結界を広げる。シルワの結界が相変わらずマレの暴れる力を封じている。流石は最も強固の結界を貼る事が出来るというテラの結界である。シルワはニヤリとソーリスを見て笑ってから、自分の結界ごとマレを滝壺に落とす。
「シルワ殿! 何を!」
 トゥルボーの言葉など聞こえてないように、シルワはそのまますっかり水面下に沈めてしまう。そして何を考えているのか結界を一旦解除しそのまま水面下に押しつけるように結界を張り直す。
「シルワ! 貴様なにをする! マレが溺れる」
 怒るカロルに、シルワはフンと冷たく笑う。
「マレが溺れる事はありえません。それに水の中での方がマレは本領を発揮できるというもの」
 シルワの結界に阻まれているものの、水面下で激しく力が哮り立っているのが分かる。カロルはこの状況を唯一止める事ができる父へと救いを求めるが、ソーリスはただジッと湖面を見つめているだけ。
 水面が一際激しい光を帯びて、そのまま静かになる。

 ソーリスは目を細めそのままフワリと身体を浮かせ湖面へと移動する、そして水面に手を入れマレを引き上げ、濡れた身体を気にする事なく抱き地面の上に降ろす。まともに立つ事もできないようでマレはそのまま地面に座り込む。結っていた髪もすっかり解けてしまい背中と顔を被っている。地面についた手が震えている。ソーリスが与えた指輪が怪しい光を宿す。

 マレの事が心配でカロルは近づこうとするが、トゥルボーが首根っこを掴み阻まれる。文句言おうと見上げるが、トゥルボーは首をふり駄目だと告げる。
「途中で意識飛ばすかと思ったが、流石だな」
 ソーリスの暢気な言葉にマレが顔を上げキッと顔を上げる。
「どうだ? お前が求め手に入れた力の味わいは?」
 マレは、その言葉に唖然とした顔をソーリスに返す。そして首をふって顔を伏せからクククと力無く笑う。
「凄まじすぎて、酔いそうです」
 座り込んだままのマレの元にソーリスが屈みマレの顔を隠す髪をかきあげる。そして顎に手をやり自分の方を向かせる。
「それを楽しめ、そしてもっと酔わせてやる」
 ソーリスの凄艶な笑みに、マレは苦しそうに顔を顰める。
「シルワ、お前にマレの指導係を任せる。ファクルタースが完全に使いこなせるよう補助してやれ」
 シルワは目を細めニヤリと笑う。
「かまいませんが、条件があります」
 ソーリスもシルワを薄く笑いながら見つめる。『言ってみろ』と視線で言う。
「マレの封印に関する権利を私に譲渡すること、あと私の許可のない与気は止めて下さい」
 ソーリスは首を傾げる。
「一年だけ譲渡してやろう。しかし恋人の営み程度の交気は許せ」
 その言葉にマレの身体がビクリと震える。マレはソーリスとシルワのやりとりを探るように見つめている。シルワはそんなマレをみて目笑する。カロルはその三人の様子に何処か嫌な物を感じた。
「取りあえず、もう一度封を。必死で押さえ込むだけで精一杯の状態で、マレも辛いでしょう」
 シルワがマレの額に手をやり何だかの術をかける。そのままマレは崩れるように地面に倒れた。

~~~二章 完~~~
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