蒼き流れの中で

白い黒猫

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二章 ~幽囚の麗人~  カロルの世界

謎に埋もれた過去

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 トゥルボーはソーリスに次ぐ強いファクルタース能力を持つことで、若いものの皆から一目置かれている。気ままなところがあるものの、気さくで、その能力の高さを鼻にかけない所も皆から愛されている理由の一つなのだろう。ノービリスは強き力をもつ事がそのままノービリス内の地位となる。またその能力の高いノービリスにつくことが、この世界とってよき人生を生きるのに重要な事になるために、カロルやトゥルボーの周りには弱いノービリスは寄ってくる。それが力をもつもの定めというものである。
「おや、トゥルボー様、珍しいですねコチラにいらっしゃるとは」
 シルワはカロルに対しての態度とは打って変わって、優美な笑みをトゥルボーに向ける。丈の短い緑の上着に黒の柔らかいズボンを履き活動的な格好がよく似合っている。腰に光沢のある黄色の布を巻き垂らしている。動くときにより風を感じる事ができるのでそういった垂れる装飾品をつけるのをトゥルボーは好きだった。
「貴方の美しい顔を見たくてね」
 シルワに向かって、晴れやかな笑顔をトゥルボーは向ける。シルワは柔らかい陽だまりを思わせる美しい髪を緩やかに纏め、繊細な刺繍を施された衣装が良く似合っている。シルワの衣装を見ると、容姿が美しいとあまり派手に着飾る必要がないという事が良く分る。
 シルワは目を細めてニヤリ笑うトゥルボーを見つめなおす。こういう冷たい表情もまたそそるものがある。この知力とこの美貌、昔父ソーリスの恋人だったこともあるのも頷ける。
「授業の邪魔をしにきただけなのでしたら、出て行ってくださいますか?」
 大概の相手を虜にするトゥルボーの爽やかな笑顔も、シルワには通じないようだ。冷たい言葉を返されトゥルボーは肩をすくめる。
「父がコチラにいると思ってきたのですが」
 部屋に訪れた瞬間に、トゥルボーは父親の気を感じなかったのでここにいないことは分ったが、父親との付き合いも長いだけにシルワが一番その行動を知っている。
 部屋の奥にいるカロルはチラリとコチラを気にして興味ありげにトゥルボーを見ている。
「ソーリス様は先ほどまでいらっしゃいましたが、今は奥宮の方行かれたかと」 
 聞かない方が良かったかなと、トゥルボーは顔を顰めるしかない。 
「となるとしばらく会えそうもないので、今日は諦めます」 
 そう言い、去ろうとするトゥルボーをシルワは呼びとめる。 
「トゥルボー様、一つお願いがあるのですが」 
 ニッコリと微笑むシルワに、トゥルボーは違和感を覚える。穏やかに笑っているものの、その目はいつものように若いトゥルボーをからかうものではなく真面目な目をしているからだ。 
「珍しいですね、貴方が私のような若輩者に頼みごととは。素敵な事だと嬉しいのですが」 
 軽口で返してみるが、シルワは片頬をあげ目を細める。 
「ある意味素敵な事ですがね、我々ノービリスにとって」 
 トゥルボーは興味を覚え面白そうに笑い、腕を組みシルワの言葉を待つ。 
「貴方からソーリス様に言って頂けませんか? マレをそろそろ解放してはと」 
 トゥルボーはその言葉に笑みを引っ込める。遠くで聞いていたカロルの視線に気付きトゥルボーは遮音結界を貼る。子供の前でする話でもないような気がしたから。 
「貴方の口からそんな言葉を聴くとは思いませんでした。まだ時期早々でしょう。アレだけの罪を犯した人間ですから」 
 結界を張られた事で露骨に不満そうにコチラを睨んでくるカロルを目の端で感じながら、シルワに向き直る。 
「罪? 禁忌であるものの罪ではないですよ、あの事は。現に過去に同じ事を行った人は何人もいますが、誰も裁かれていません。痛すぎる代償を払う亊にはなりましたが」 
 シルワの口からそんな言葉が出てくる事に、正直トゥルボーは驚いていた。 
「今までの行った者とは、その意味の大きさは違うでしょうに。父の名誉も傷つけたことで良く思っていない者も多い、寧ろあそこで父に守られていたほうが安全でしょう」 
 その言葉になぜかシルワは冷たく笑う。 
「守る? 『壊す』の間違いではなくて」 
 シルワの言っている意味を、トゥルボーは眉を顰める。 
「父はあれほどの事をしたマレを、それでも大事に感じ守っている。貴方は父がマレを子供の作れない身体にしてしまった事をまだ怒っているのですか?」 
 シルワは、クスリと笑う。 
「子供ね……最高の仕事をしてくれたマレにソレ以上を望む気はないです。一番怒りを感じているのは、最高の楽しい玩具をソーリス様に独り占めされている事ですかね」
 その言葉に、トゥルボーはシルワの恐さを感じる。あまりさらに深く突っ込んだ事を聞くべきではないと判断しあえて言葉を続ける事を止める。 
「そういう冗談はさておいて、マレの事を心配しているのは本当ですよ。可愛い弟子ですし」 
 やや退いているトゥルボーに、毒を弱めた笑みを浮かべる。 
「シルワ殿は、何をそこまで気にされているのですか」 
 その言葉にシルワは、顎に手をやり珍しく考え込むように黙る。 
「……真っ直ぐで誇り高い人物に、世界から遮断された世界で無為に過ごさせるのは長すぎるかなと。元気でいれば良いのですが」 
 シルワにしては珍しく憂いを秘めた遠い目をした。 
「外に出すのは無理でも、誰か話し相手を作ってあげることを、お勧めして貰えませんか?」 
 頷いてみたものの、トゥルボーはマレの事を父親に進言するのは躊躇うものがあった。 
「貴方の意見の方が、父は聞くのではないですか?」 
 その言葉にシルワは苦笑し首を横にふる。 
 トゥルボーは長らく姿を見ていないマレの事を思い浮かべる。自分よりもずっと年下なのに、大人びた冷めた印象的な瞳をもつ綺麗な子供だった。特異の能力もあり頭もよい人物で、マレの出現に皆色めき立った。失われた力がこの世界に復活したと。
 父もマレを可愛がり、マレはソーリスの隣で穏やかな笑みを浮かべ立っていた印象が強い。
 マレはもともと何を考えているのかは分らない所があったものの、父の信頼も一心に受け、いい関係を築いていたと思った。何故あんな事になったのか? おそらくは一番間近で見ていたシルワは知っているはずだが、聞くことが怖いものがあった。そもそも父ソーリスの恋人だったシルワ、現在最も寵愛を受けているマレ、そして父ソーリスの関係がどういうものなのが、トゥルボーには読みきれないものがある。 
 グダグダと考える事は性に合わない。トゥルボーはそのあと当たり障りのない話題をして、その場を去ることにした。 
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