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HApPy EnD?

新しい日常

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 自由気侭でガサツな俺と温厚で几帳面な渉夢。真逆な二人だが昔から不思議と気があった。誕生日も同じだから産まれた病院も同じ。オギャーとこの世に出た時からの付き合いという事で、ずっと一緒だった。

 政治家や経営者だらけの不死原と十一の家に生まれながら芸術の道を選んでいるという事で、他の一族から少し離れた立ち位置で二人で同じ空気を吸い同じ景色を見て過ごして来た。
 村社会の腐れ縁とかいう関係じゃなくて、互いが純粋に好きで認め合っているから続いてきた関係。
 一年ズレたとはいえ、同じくクソな現象に巻き込まれたのも偶然とかではないだろう。

 こんな事にアイツまで巻き込まれたと知った時は心配でたまらなかったが、逆に考えれば俺がまだ面倒見てやれる状況であることと、結果二人とも煩わしい村社会と精神的に距離を取れるようになったことは良かった点かもしれない。

 多少人から敬遠されている俺とは違って、顔も性格も良く、不死原の人間だというのに気さくな事で誰からからも愛されていた渉夢。
 一つだけ大きな欠点があった。それは女を見る目が無い。
 明らかに問題を抱えていそうな女に引っかかる。ミステリアスな女性と闇抱えている女は違うと、何度も言っているのに変な女を捕まえてくる。
 ガキっぽい俺とは違って、精神的に落ち着いていて大人で、頭も良い筈なのに女という生き物が良く分かっていない。
 純粋過ぎる性格で人の暗部というのが見えてない。だからこそ、あんな透明感のある美しい作品を描けるのかもしれないが、それが唯一で最大の難点。

 一年前までは、そういった厄介な女を俺が上手く排除してきていた。
 しかし俺がいなくなった後、そんな女にまた引っかかっていた事に対して怒りしかなかった。渉夢に対してではなく、相手の女に対してのこと。
 俺は冷蔵庫からビールを出してプルトップを開け一口飲む。
 そして缶をもったまま玄関を出て、家の後ろにある納屋に向かった。
 納屋の中では、屠殺される豚のように天井から逆さに吊るされている女が無様に身体のよじらせている。
 俺が来たことを察してガタガタ震えだす。
 ずっと逆さ吊りにしてやったので、体の負担も相当できているはず。
 目も充血し顔も浮腫んで赤くなっており、呻きながら顔を苦痛で歪ませている。
 腕は身体に沿うように結束バンドでガチガチに縛っているのでこの女ができるのはモゾモゾ体を動かすことだけ。
 女を見て俺は嗤う。
「ァ……ヴー、ヴー………」
 俺の姿に気が付き、女の目は恐怖で震える。
 言葉もまともに話せなくなって、意味不明な音だけを口と鼻から漏らす。豚のようなブヒブヒというような音を漏らすのみ。
 変にムカつくこと言われるのもウザいから、こういう状態の方が痛めつけることに集中できる。
 顔は腫れ上がり厚すぎる化粧が汗や涙で崩れて化け物のようになっていて醜悪の一言。
 この女が一年後、渉夢を追い詰め苦しめた。許せる訳がない。
 ここで俺がこの女を処分しても、この女が渉夢を利用するために近づくという未来は変わらない。
 俺の繰り返す時間と渉夢の時間はそう言う形では繋がっていない。そこがもどかしい。

 それだけにこの女に対しての怒りもより膨れ上がるだけ。
 探し出したこの女を攫ってきては思う存分痛めつけてから殺す。これが俺の最近するようになった日常の娯楽の一つ。

 簡単には殺さない、時間をかけてじっくりじっくりといたぶり、女ができる限り長く苦しむようにする。
 他の渉夢に手を出した女達に与えた罰よりも更に重めに。
 今回はちょっと殴りすぎたようで。反応が薄くなってしまった。
 しかし電動タッカーで釘を打ち込んでやると叫んで痛がるようになった。まだ楽しめそうだ。
 俺は殺さないように急所は外し手や足にバンバンと釘を打ち込んで行く。

「アッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッアッ……」

 打ったところがなんかのツボに入ったのか、女の身体は痙攣し壊れたオモチャのようにカタカタと震え始める。
 その様子に笑いが混み上がる。ボロボロで惨めな女の姿を見ながらしばらく感情のまま笑い続ける。
 渉夢の心の痛み苦しみはこんなものでは無い筈。俺はタッカーを手に更に女の腹に十数発釘を打ち込んでやった。
 さて、トドメを打つかと思った所で視界は暗転する。
 残念、時間切れ。

 俺は自分の家ベッドで目を覚ました。煩く鳴る目覚ましを止め伸びをする。
 さて今日はどうしようか? 最後殺るところまでいけなかった。あの女をまた攫ってきて痛めつけたい所だけど、滾った後だけに柔らかい甘いモノへの飢えを感じる。
 女を痛めつけた後は無性に渉夢と会いたくなる。
 俺のドロドロとした猛った感情を癒せるのは渉夢だけだから。
 今日は渉夢と一日過ごすことにしよう。
 
 俺はシャワーを寝汗を流し、サッパリしてから車に乗って渉夢の家に向かう。
 今日の渉夢は十一の家の奴から頼まれたイラストを作成していて一日家に居る。
 まだ朝の六時前だが気にしない。
 俺は合鍵で遠慮なく渉夢の家に入っていく。
 この時間の渉夢はソファーにいる。頼まれたイラストのアイデアを作るためにスケッチブックに向かって作業したまま眠ってしまっているから。
 もうそれなりに名のあるプロの画家なんだからこんな、チンケな身内の仕事引き受けなくても良いのにと思うのに人の良いコイツは受けてしまう。
 この土地の奴らは身内である渉夢を逃さないと言わんばかりに、こういった仕事を依頼したり、子会社の役員にしたりしている。
 良く言えば強い同胞愛とも言えるが、田舎にありがちな血族への忌々しい執着だ。この地域での役割という枷をつけて縛り付けてくる。
 手から落ちてしまったスケッチブックを拾いテーブルに置きソファーの前にもたれるように座り近くで眠っている渉夢を見つめる。
 男のわり綺麗な顔していると思う。実際女ウケもよく、すごくモテる。
 でも渉夢の魅力は顔の造作ではない。何処までも真っ直ぐで純粋なその性格。
 あっそれと薄くちょうど良い筋肉のついた身体も好きかもしれない。とても唆る。
 特に俺が好きなのは繊細で精巧なガラス細工のような内面を映し出す瞳。この瞳で見つめられると溜まらない気分になる。
 そんな瞳が無性に見たくなり瞼に優しくタッチする。
 「んっ」短く声が出て、瞼がゆっくり開く。明るい茶色の瞳が現れて俺の姿を映し見開らく。
「あれ? 残刻? なんで?」
 俺を見て渉夢は驚いた顔をする。そりゃそうだろう。今日は朝早くに新幹線に乗って東京に行く予定だったから、そんな顔されても当然。
「台風来てるっていうし、ダリいからバックれた」
 東京に行って台風の所為で、俺は死んだ。
「え?! まあ、台風もひどいようだから仕方がないか」
 雨に打ち付けられている窓の方に渉夢は視線を向ける。
「で、腹減ったから、ここに来た。
 メシつくって!」
 渉夢はフフッと笑う。
「簡単なものしか出来ないよ! 昨日買い物し忘れたから」
「構わねえよ適当で」
 二人で笑いあって並んで台所に向かう。互いの家の何処に何があるのか熟知しているので、渉夢がメシ作っている横で、俺は珈琲を淹れる。
「台風、今夜はここにも来そうだから、買い出しに行っといた方がいいかな」
「一緒行こう! どうせ今夜は台風で家に閉じ込められるだけ。だったら酒買って飲み明かそうぜ!」
 死んでしまったことで、渉夢を護ることができなくなった事は悔やまれるが、こうして終わらない時を渉夢と気ままに過ごせる事は悪くは無い。
 簡単なと言っていたが、おにぎりに、鶏肉のソテーに具沢山の味噌汁にサラダとわりかしちゃんとした朝食が出来上がっている。
 俺がわざわざ渉夢の家に食事に行くようになったのは、一人にさせるとご飯を食べる事を忘れる事があるから。人の世話を焼くのは好きなのに、自分のことには無頓着。
 実際この日俺が朝来なかったら、渉夢は起きたら珈琲だけをいれて夕方近くまで何も食べずに仕事してしまう。
「うま! お前の作る料理は最高!」
「大袈裟な」
 渉夢は本気で喜んでいる俺に呆れたような顔を返している。
「心底そう思っているよ!
 お前の料理も、お前も、俺は溜まらなく好きなんだよ!
 もうさ……俺の嫁になれよ」
 たまに、こうして口説いてみる。一年前以前の時間では出来なかったこと。関係を壊したくないから。それにそんな感情を抱き渉夢の近くに居ることは村の奴らが許さない。
「何、馬鹿な事言ってるんだよ!」
 渉夢は冗談を言っているのだと思っているのだろう。まだこの時までは笑っている。

 さて今日はどのパターンで楽しむか? 
 このまま冗談として他愛ない健全な時間を楽しむのか? 
 本音をさらけ出して渉夢の優しさに付け込んで抱きしめながらキス程度の接触で我慢しつつ、戸惑う様子を楽しむか?
 強引に押し倒し無理やり抱いてしまうか? 

 この渉夢には何をしようがリセットされたら無かったことになるから、この瞬間を楽しめば良いだけ。
 それに何れを選んだとしても、優しい渉夢は俺を拒絶することはしない。愛をそのままの形で受けと返してくる訳では無いが、俺の想いは理解して受け入れてはくれる。

 ふと震えたスマホをみる。一年後の渉夢から連絡が来ていた。佐藤とかいう女と結婚したとふざけた事が書いてある。
 籍とかいれるわけではないが、教会で二人だけで式を簡単に挙げたという。
 なんでそんな自殺をしようとしている危ない女と付き合おうなんて考えるのか?
 俺が、あの女に気のある素振りを態と見せておいたから渉夢は手を出さないだろうと思っていたが甘かったようだ。
「佐藤周子か……ウゼェな……今度コイツも殺りにいくか」
 幸いな事に朝一の東京行きの新幹線のチケットもある。先ずは女の居所を調べて……。
 向かいに座って珈琲を飲んでいた渉夢が首を傾げる。
「ん? 何か言った?」
「いや、連絡メールがウザかったから」
 渉夢は少し眉を寄せる。
「なんでそんな言い方を。真斗さんからだろ? あの人はどれだけ今回の展示会のことでもーー」
 渉夢が説教モードに入ってしまったようだ。
 佐藤とかいう女の事は、今はいい。
 時間だけはたっぶりあるから居所を調べてから、捕まえてどう痛めつけるかは、後で考えることにしよう。それより……。
「分かってるって、頼りにして甘えているからこそ軽口も出てくるだけで……。
 それよりもさ……」
 俺は立ち上がり渉夢の横に座る。そして肩に手を回し笑いかけた……。
 
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