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人生最後の日の過ごし方
目の前の死
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私が人生最後に見る朝日。
ゆっくりと昇る太陽が、眠っていた街に命を与えているように、時間と共に景色は活気を帯びていく。
それに伴い私の人生の時間は時間と共に減っていっている。
大きく深呼吸をする。
時計を確認すると五時半過ぎなので今日の行動を予定通り進めて行くことにした。
バスルームにいき身体を浄め、備え付けのバスボムをいれてお風呂を楽しんだ。
エンディングリストの項目も残されたものはもう僅か。
素敵なホテルで美味しいワインを飲みながら過ごし、そして最高に素敵だと評判のモーニングを楽しむ。
私がこのホテルを選んだのは、隣の県ではあるが
、最期の地として選んだ慈悲心鳥崖へのアクセスがあることと、ここのモーニング。
【死ぬまで一度楽しむべきホテルモーニング。
ラグジュアリーな空間で過ごす至福の時間】
そんな特集で紹介されていた。
こだわり卵のトロトロっのオムレツに北海道の高級小麦とバターで作ったクロワッサン。
契約農家による有機野菜のコレだけでも大満足できるゴージャスサラダ。
この日の為に選んだ黒いワンピースを着て一階のレストランに向かう。
入口でお食事券を渡すと、スタッフは穏やかな微笑みを浮かべ私をテーブルへと誘ってくれる。
チョットしたセレブになったような気持ちにさせてくれるほどスタッフの所作が美しい。
座りやすいように下げてくれた椅子に腰掛け朝食を待つ。
まず運ばれてきたのはスムージー。
恐らくはセロリーなど癖のある野菜もはいっているようなのだが、それを数種類のフルーツの甘みと酸味が絶妙に作用していて美味しい一つの味を作り出していた。
飲むと爽やかな風味が口に広がり、美味しさと栄養と水分が身体の細胞に行き渡っていき目覚め生き返るような味わいだった。
今の私が口にすべきでは無いグレープフルーツもはいってはいるようだがそんな事ももう気にする必要はない。
次に運ばれてきたのは一品料理と言うくらい彩りが華やかでボリュームのあるサラダ。
その豪華な華やかさに私は感動する。
私が子供のように喜んでいるのを見て、給仕のスタッフはサラダに使われている野菜について丁寧な説明をしてからドレッシングを選ぶ流れになる。
和風、チーズ、オニオン、ニンジン、フルーツの中で私は悩んだ結果ニンジンを選択した。
スタッフが目の前でドレッシングをかけてくれる。
サラダにオレンジの色が載りますます華やかで素敵なものになった。
コレを選んで正解だったように思う。
新鮮で濃厚な旨みのあるサラダをいただいていると、メインであるオムレツが、焼きたてのパンと共に運ばれてきた。
滑らかな表面のオムレツは黄色に輝いておりその横にカリカリのベーコンとトマトやナス等のホット野菜が添えられている。
そしてボリュー厶のある層の存在感が強く前衛芸術品のようなクロワッサンからはバターと小麦の良い香りが漂っている。食べる前から私の視覚と嗅覚でも楽しませてくれた。
見た目だけでなく味も絶品で、食べるのに少し苦労するほどサクサクとしたクロワッサンは私が人生で食べたクロワッサンで最高の逸品に思えた。
どれもが心を踊らせてくれる程に美味しかった。
給仕の人との会話も楽しみながら、ご機嫌で食事をする私。
指先は昨日このホテルのネイルサロンで華やかに整えられている。
おそらく誰が見ても自殺志願者には見えないだろう。
そう私は死にゆく自分を全く憂いていないから。
ホテルの人とかに、慈悲心鳥崖に向かうなんて話すと変に勘ぐられてしまう。
だから崖の近くの慈悲心鳥神社で評判の御朱印を貰ってから、その先にある最近フォトジェニックと評判になっている常世漁村へ向かうという設定で会話をする。
「今日は天気も良いので、岬の方もきっと綺麗ですよ!
楽しんでこられてください。
そしてまたのご利用心よりお待ちしています」
私はその言葉に笑顔で頷きホテルを早めにチェックアウトした。
まずは駅に向かう。
最低限生活するために残していた荷物と私という存在を証明するようなクレジットカードや身分証明書やスマホをトランクにまとめ駅のコインロッカーに放り込む。
ある期間ロッカーを占有してしまうのは申し訳ないが、放置されたロッカーの荷物は期間過ぎると破棄される。
下手にゴミ箱等に荷物を捨てると、それが人の目に付いてしまった時に私の行為が人に発覚されてしまう危険性がある。
私は知り合いには自殺だと気取られることも無くひっそりと世界から去りたい。
だからこの方法をとることにした。
駅前からバスに乗って崖へ向かう。
本数は少なくバスは一時間に一本しかない。
観光なら帰りの足の心配をしないといけないところだが、今の私には帰りの事など気にすることは全くない。
最後に崖の近くにある慈悲心鳥神社をゆっくりお参りする。
天気も良い事もあり心地よい神社だった。
緑も豊かな為か東京のように嫌な暑さもない。
高台にあるために境内から見える海が輝いていて美しかった。
私は目を細めてしばらく魅入ってしまう。
こんなに美しい海に消えていくならば悪くないのかもしれない。
十一時超えたので私は深呼吸をして気持ちを決め動き出す。
崖は神社と道路を挟んで反対側の緑地の先にある。木々に囲まれたちょっとした緑道を通る。
崖付近に行くと向日葵の花か並ぶ花壇が左右で出迎えてくれた。
妙にリアルな夢と寸分違わない風景に妙な気持ちになる。
ネットで情報を調べ、Googleマップで、何度も見たせいだと自分に言い聞かせる。
この先にベンチと肩に鳥を乗せた侍の銅像がありここが自殺の名所だとパッと見思えないくらいちょっとした憩いの公園のような空間が広がっている。
そこも夢と同じ。
一つだけ違うのはそこに人が居たこと。
グレーの長いシャツに黒いジーンズを履いた男性がそこにいた。
長めの髪をゴムで縛っている。
夢で会ったフジワラとかいう男だ。
夢と違うのは、彼の服と二人の立ち位置。
フジワラが柵の外側にいて私が内側にいる。
「あっ……ぁなたは……」
その後ろ姿につい声を掛けてしまう。
フジワラはゆっくり振り向いて、私を見て驚いたように目を見開く。
相手が身体をコチラに向けた事で、無言で数秒見つめあってしまう。
フジワラは何故かその表情を和らげ私に向かって微笑んできた。
「やはり貴方は、こんなところで死ぬべきでは無いと思います。
生きてください」
静かな声でそう告げてから、フジワラは海に向かって身体を傾ける。
私が何か言葉を返す前にフジワラの身体は崖の下へと消えていった。
目の前で人が飛び降りた。
その事実に私はその場にへたり込む。
柵の所にいきフジワラが、どうなったのかを確認することも足に力が入らずに出来ない。
身体の震えが止まらず、その震えを抑える為に自分を抱きしめる。
しかし震えは止まらない。
どうするべきなのか? 人を呼んで人が落ちたことを知らせに行くべきなのだろう。
しかし私は立ち上がることも出来ずここを動けない。
スマホは駅のコインロッカーに入れてしまったからここには無い。
崖の下の風景は飛び降りようとした夢の中で散々見下ろしたからどんな感じなのか分かる。
助けを呼びに行った所であの男は助からないだろう。
夢? そもそもあの記憶は夢なのか? 初めてきたとは思えないここの記憶。そしてフジワラという男の事。
フジワラも私を見た反応が、見た事のある人を見た反応だった。
ーーーやはり貴方は、こんなところで死ぬべきではありません。生きてくださいーーー
フジワラが言った言葉がリフレインされる。
彼は初めて会った筈の私が自殺をしに来たことを知っている様子だった。
フジワラも同じ瞬間の記憶を持っていたとしたら、私が自殺しようとしているのを見て、彼は自分もここで死のうかという想いを抱いたのでは?
そんな考えも頭に浮かぶ。
私の行動が、人を死に追いやった?
そう考えてしまうと、心が更に恐怖に染まる。
激しい動揺から視界がボヤけ歪んでいく。
世界までが揺れていく。
蹲っている地面の石が細かく震えているのを見て、景色の揺れが精神的なものだけではない事に気がつく。
そして思い出す。夢の中のここで何が起こったのか。
思い出したものの何か出来るということも無い。
揺れを増しそれに耐えきれず崩れていく崖に這いつくばって恐怖に震える事しか出来ない。
今の私にはあの抱きしめてくれる腕も無い。
形を保つ事が出来なくなった地面が、私を飲み込むように崩れ落ちていく。
私の全身に岩が容赦なくぶつかり、私の身体を壊していく。
地面に叩きつけられたのと同時に上から大きな石が降ってきて私の身体を押し潰した。
ゆっくりと昇る太陽が、眠っていた街に命を与えているように、時間と共に景色は活気を帯びていく。
それに伴い私の人生の時間は時間と共に減っていっている。
大きく深呼吸をする。
時計を確認すると五時半過ぎなので今日の行動を予定通り進めて行くことにした。
バスルームにいき身体を浄め、備え付けのバスボムをいれてお風呂を楽しんだ。
エンディングリストの項目も残されたものはもう僅か。
素敵なホテルで美味しいワインを飲みながら過ごし、そして最高に素敵だと評判のモーニングを楽しむ。
私がこのホテルを選んだのは、隣の県ではあるが
、最期の地として選んだ慈悲心鳥崖へのアクセスがあることと、ここのモーニング。
【死ぬまで一度楽しむべきホテルモーニング。
ラグジュアリーな空間で過ごす至福の時間】
そんな特集で紹介されていた。
こだわり卵のトロトロっのオムレツに北海道の高級小麦とバターで作ったクロワッサン。
契約農家による有機野菜のコレだけでも大満足できるゴージャスサラダ。
この日の為に選んだ黒いワンピースを着て一階のレストランに向かう。
入口でお食事券を渡すと、スタッフは穏やかな微笑みを浮かべ私をテーブルへと誘ってくれる。
チョットしたセレブになったような気持ちにさせてくれるほどスタッフの所作が美しい。
座りやすいように下げてくれた椅子に腰掛け朝食を待つ。
まず運ばれてきたのはスムージー。
恐らくはセロリーなど癖のある野菜もはいっているようなのだが、それを数種類のフルーツの甘みと酸味が絶妙に作用していて美味しい一つの味を作り出していた。
飲むと爽やかな風味が口に広がり、美味しさと栄養と水分が身体の細胞に行き渡っていき目覚め生き返るような味わいだった。
今の私が口にすべきでは無いグレープフルーツもはいってはいるようだがそんな事ももう気にする必要はない。
次に運ばれてきたのは一品料理と言うくらい彩りが華やかでボリュームのあるサラダ。
その豪華な華やかさに私は感動する。
私が子供のように喜んでいるのを見て、給仕のスタッフはサラダに使われている野菜について丁寧な説明をしてからドレッシングを選ぶ流れになる。
和風、チーズ、オニオン、ニンジン、フルーツの中で私は悩んだ結果ニンジンを選択した。
スタッフが目の前でドレッシングをかけてくれる。
サラダにオレンジの色が載りますます華やかで素敵なものになった。
コレを選んで正解だったように思う。
新鮮で濃厚な旨みのあるサラダをいただいていると、メインであるオムレツが、焼きたてのパンと共に運ばれてきた。
滑らかな表面のオムレツは黄色に輝いておりその横にカリカリのベーコンとトマトやナス等のホット野菜が添えられている。
そしてボリュー厶のある層の存在感が強く前衛芸術品のようなクロワッサンからはバターと小麦の良い香りが漂っている。食べる前から私の視覚と嗅覚でも楽しませてくれた。
見た目だけでなく味も絶品で、食べるのに少し苦労するほどサクサクとしたクロワッサンは私が人生で食べたクロワッサンで最高の逸品に思えた。
どれもが心を踊らせてくれる程に美味しかった。
給仕の人との会話も楽しみながら、ご機嫌で食事をする私。
指先は昨日このホテルのネイルサロンで華やかに整えられている。
おそらく誰が見ても自殺志願者には見えないだろう。
そう私は死にゆく自分を全く憂いていないから。
ホテルの人とかに、慈悲心鳥崖に向かうなんて話すと変に勘ぐられてしまう。
だから崖の近くの慈悲心鳥神社で評判の御朱印を貰ってから、その先にある最近フォトジェニックと評判になっている常世漁村へ向かうという設定で会話をする。
「今日は天気も良いので、岬の方もきっと綺麗ですよ!
楽しんでこられてください。
そしてまたのご利用心よりお待ちしています」
私はその言葉に笑顔で頷きホテルを早めにチェックアウトした。
まずは駅に向かう。
最低限生活するために残していた荷物と私という存在を証明するようなクレジットカードや身分証明書やスマホをトランクにまとめ駅のコインロッカーに放り込む。
ある期間ロッカーを占有してしまうのは申し訳ないが、放置されたロッカーの荷物は期間過ぎると破棄される。
下手にゴミ箱等に荷物を捨てると、それが人の目に付いてしまった時に私の行為が人に発覚されてしまう危険性がある。
私は知り合いには自殺だと気取られることも無くひっそりと世界から去りたい。
だからこの方法をとることにした。
駅前からバスに乗って崖へ向かう。
本数は少なくバスは一時間に一本しかない。
観光なら帰りの足の心配をしないといけないところだが、今の私には帰りの事など気にすることは全くない。
最後に崖の近くにある慈悲心鳥神社をゆっくりお参りする。
天気も良い事もあり心地よい神社だった。
緑も豊かな為か東京のように嫌な暑さもない。
高台にあるために境内から見える海が輝いていて美しかった。
私は目を細めてしばらく魅入ってしまう。
こんなに美しい海に消えていくならば悪くないのかもしれない。
十一時超えたので私は深呼吸をして気持ちを決め動き出す。
崖は神社と道路を挟んで反対側の緑地の先にある。木々に囲まれたちょっとした緑道を通る。
崖付近に行くと向日葵の花か並ぶ花壇が左右で出迎えてくれた。
妙にリアルな夢と寸分違わない風景に妙な気持ちになる。
ネットで情報を調べ、Googleマップで、何度も見たせいだと自分に言い聞かせる。
この先にベンチと肩に鳥を乗せた侍の銅像がありここが自殺の名所だとパッと見思えないくらいちょっとした憩いの公園のような空間が広がっている。
そこも夢と同じ。
一つだけ違うのはそこに人が居たこと。
グレーの長いシャツに黒いジーンズを履いた男性がそこにいた。
長めの髪をゴムで縛っている。
夢で会ったフジワラとかいう男だ。
夢と違うのは、彼の服と二人の立ち位置。
フジワラが柵の外側にいて私が内側にいる。
「あっ……ぁなたは……」
その後ろ姿につい声を掛けてしまう。
フジワラはゆっくり振り向いて、私を見て驚いたように目を見開く。
相手が身体をコチラに向けた事で、無言で数秒見つめあってしまう。
フジワラは何故かその表情を和らげ私に向かって微笑んできた。
「やはり貴方は、こんなところで死ぬべきでは無いと思います。
生きてください」
静かな声でそう告げてから、フジワラは海に向かって身体を傾ける。
私が何か言葉を返す前にフジワラの身体は崖の下へと消えていった。
目の前で人が飛び降りた。
その事実に私はその場にへたり込む。
柵の所にいきフジワラが、どうなったのかを確認することも足に力が入らずに出来ない。
身体の震えが止まらず、その震えを抑える為に自分を抱きしめる。
しかし震えは止まらない。
どうするべきなのか? 人を呼んで人が落ちたことを知らせに行くべきなのだろう。
しかし私は立ち上がることも出来ずここを動けない。
スマホは駅のコインロッカーに入れてしまったからここには無い。
崖の下の風景は飛び降りようとした夢の中で散々見下ろしたからどんな感じなのか分かる。
助けを呼びに行った所であの男は助からないだろう。
夢? そもそもあの記憶は夢なのか? 初めてきたとは思えないここの記憶。そしてフジワラという男の事。
フジワラも私を見た反応が、見た事のある人を見た反応だった。
ーーーやはり貴方は、こんなところで死ぬべきではありません。生きてくださいーーー
フジワラが言った言葉がリフレインされる。
彼は初めて会った筈の私が自殺をしに来たことを知っている様子だった。
フジワラも同じ瞬間の記憶を持っていたとしたら、私が自殺しようとしているのを見て、彼は自分もここで死のうかという想いを抱いたのでは?
そんな考えも頭に浮かぶ。
私の行動が、人を死に追いやった?
そう考えてしまうと、心が更に恐怖に染まる。
激しい動揺から視界がボヤけ歪んでいく。
世界までが揺れていく。
蹲っている地面の石が細かく震えているのを見て、景色の揺れが精神的なものだけではない事に気がつく。
そして思い出す。夢の中のここで何が起こったのか。
思い出したものの何か出来るということも無い。
揺れを増しそれに耐えきれず崩れていく崖に這いつくばって恐怖に震える事しか出来ない。
今の私にはあの抱きしめてくれる腕も無い。
形を保つ事が出来なくなった地面が、私を飲み込むように崩れ落ちていく。
私の全身に岩が容赦なくぶつかり、私の身体を壊していく。
地面に叩きつけられたのと同時に上から大きな石が降ってきて私の身体を押し潰した。
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