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永久の時間の中で
素敵な未来に向かって
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モニターから宙の姿が消えても俺は暫くその残像を追うようにいつまでも見つめてしまっていた。
フーと溜息をつくと隣から視線を感じる。パーテーションの上から俺達の会話を見ていたレイが人の悪い顔で笑いコチラを見ているのが見えた。
日本語が全く分からなくても、どんな話をしていたのかは察したのだろう。宙の表情を見ていたら読めるというもの。彼は素直な性格だから。
さらに外交官のフランツは日本語も多少分かるので、レイの席に座り俺達の話を聞いていた。翻訳アプリと併用しつつ他の人に俺達の会話の解説をしている。
「トワ、お前職業間違えたのでは? お前こそ俳優かメンタリストをやれたよ。それか詐欺師」
俺はレイを睨む。
「失礼な。今宙に言った言葉は嘘偽りない本気の言葉だよ。ここにいる皆が宙を大事に想っているのも、彼を助けたいのも本当だろ?」
「まぁ、それはそうだが」
レイはニヤニヤとした顔を俺に向けてくる。他の人までも苦笑している。
あまり刺激のあることを聞けせたくないジョニーは今は寝かせていたからこそ言えた内容。ウォーレンだけは顔をしかめている。
「君達と同じさ俺も彼を愛している。とてもね。
だから誠実に向き合っているつもりだ。騙すなんて事はしない。
守りたいし救いたい。誰よりも。だって宙は大切な存在だ」
真剣に言っているのに皆は納得していないようだ。
「おやおや、そういう趣味が。まあ可愛よな。
ヒロシは。まっすぐで素直で……良い子だ。
お前がそそられるのも無理がない」
レイの言葉に俺はため息をつくしかない。
「そういう意味ではないよ。俺はゲイではない。
我々にとってかけがえのない存在だよ! 彼は。そう思わないか?」
そう宙は何よりも特別な存在。言葉にするのは難しいが、俺はキーパーソン同士だからだろうか? 特別な絆で繋がっているように思える。彼の痛み嘆きが喜びが自分の感情のようにも思えてきて。向き合っていると愛しさが膨れ上がってくる。
「その割に色々追い詰めて苦しめてきたのにか?」
ウォーレンの言葉に俺は顔を傾げる。彼はチラリと奥で眠っているジョニーを見る。
「俺が宙に何か酷いことする筈がないだろ?
今までもした事も無い。
厳しい事は言う事はするが、彼を傷つける為ではない。彼は仲間だ」
俺は真面目に答えているのに皆の反応はイマイチ。宙の痛み哀しみは俺の痛み哀しみも同然。傷付けるなんて事が出来る筈がない。それは自傷行為に等しい。
「怖い愛だな、最悪の世界にヒロシを散々追い詰めて狂わせ続けているのに?」
俺は仲間のその見当違いな言葉にため息をつく。
「それは宙に対してではないだろ?
オレが毀してきたのはサトウヒロシだ。
それもしたくてした事でもない。心も痛んではいるよ。とても……。
とはいえアレらのサトウヒロシは所詮シミュレーションの為に生み出したコピーにしか過ぎない」
俺は誤解を解消するためにハッキリと説明をする。
「あくまでもオリジナルの宙を助ける為のささやかな犠牲。宙が戻ってきてくれた時に最適な道を選べるように。
だからそっちの扱いに関しては勘弁してくれ。オリジナルの宙とは別物だから!」
そもそも宙は他のサトウヒロシらは全く違う。
俺はオリジナルとコピーを同列に語る皆に少しムカつく。先程俺をまっすぐ縋るように見つめてきた宙を思い出し微笑ましい気持ちになる。
俺以外の仲間達が二千十八年の段階で干渉する事で生み出されてしまった、異なる次元で生きるサトウヒロシたちが実はいる。
俺達は、過去に飛行機にいるメンバーがネットで接触した事で、その記憶をもった七人のサトウヒロシを生み出していた。
七月十一という時間の中でのみ繋がり会えるサトウヒロシとメンバー。そのサトウヒロシは何だかのエラーが発生してしまったのか、美術館の同じ場所に誘ってもモニターをつかったやり取りが出来ない。
接触者の端末でのみメッセージやメールという形でのみ連絡がつく。その為日本語が分かる俺や語学が堪能な外交官のフランツがサポートをしてやりとりを続けていた。
一人はMedioDelMondoの交差点にあの時侵入させない事で救った筈。そのサトウヒロシは未来へと恐らく進んだのだろうが、【ありがとう。君のお陰で命が助かった。今度は俺が皆の助かる道を見つけるから! 明日また】というメッセージを最後に連絡は途切れた。その為その後の消息は不明。
連絡を取り合っていたリンダは無事明日に辿り点いたと、そう信じている。
そして事故の情報をあえて入れなかった他のサトウヒロシはMedioDelMondoで竜巻にあい、宙同様ループ現象に巻き込まれる事になった。
一人は事故を回避させた事で消えて、もう一人は与える情報を制限し宙同様に付き合っていくと、ほぼ同じ流れで世界が、おかしくなり精神的に不安定になっていき連絡が一切取れないようになった。
本人が狂ってしまったのか、高橋や鈴木の狂気に巻き込まれて身動きを取れなくなってしまったのかは不明。
それぞれ違うアドバイスを与え別の道を進ませる。しかしみな似た道を辿る。結果、今残っているのは二人のサトウヒロシ。ウォーレンとレイが担当してやり取りをいるだけあり、そのサトウヒロシは精神的にも安定していて色々役に立っている。そんな時に本物の宙が戻ったきてくれた。そう俺達の所に戻って来てくれると信じていたから、コピーのサトウヒロシで色々試した。
「しかし、コピーはいくらでも作れるからと思っていたが、これ以上作るのは止めた方がいいな」
レイの言葉に俺は頷く。
「まさかコピーの記憶が、オリジナルにも断片的に伝わっているとは……。
これ以上彼に負担はかけられない」
宙にうっかり何度も自己紹介したような事を言ってしまったが、それはサトウヒロシも含めた全員に対しての話。
宙がリセットしたのは実は一度だけ。あまりリセットを多用するのは危険だと知っていたから、コピーで色々で試していた。
ジョニーの担当していたサトウヒロシには異変が起こったすぐの段階で最悪な未来を示唆して不安を煽りリセットを多発させた。
結果、最短で半年という期間で鈴木と高橋が毀れるようになり世界も滅茶苦茶になっていった。
最終的に、そのサトウヒロシはかなり病んでいたのでリセットも選択出来ない程毀れてしまったのだろう。
俺が一人黙り込み宙の事を考えに耽っていると、強い視線を感じた。そちらを見るとウォーレンが俺を思い詰めたように見つめていた。
ふとウォーレンの表情を見て不安になる。少し不味い兆候も出てきたのか?
「ウォーレン?」
ウォーレンは俺が笑いかけても硬い表情のまま。
「前から聞きたいと思っていたが……お前は何度リセットした? 俺達を」
俺はその質問に苦笑しつつ誤魔化そうとする。皆も不安そうに俺を見つめているから。俺が今まで敢えて避けていた話題。
「君も理解しているだろ? リセットは良い抜け道のようで悪手でしかない。繰り返していく程世界は歪んいく。だから俺は……」
ウォーレンは距離を縮め目を細め俺にキツい視線を向けてくる。
「俺は一番仲間に恵まれているからかな? リセットに逃げる事はあまりしてないよ」
核である俺だけが行使出来る能力【リセット】。俺の一存で出来るだけにウォーレンは懸念してるのか? それとも……。
「……一度だけだ。本当だ。
レイ俺が嘘言ってないのは分かるだろ?」
レイに声にかけると頷いてくれる。レイは鋭くて嘘が通じないから。
ウォーレンが俺をいきなり抱き締めてきた。俺は戸惑いながらも落ち着かせる為に背中を撫でる。
「そこまで絶望する程お前は苦しんだというのか?
辛かったよな。その時何故俺はお前を支えられなかったのか……」
俺はその言葉に苦笑するしかない。
「もう大丈夫だ。最悪な時間は……終わった。もう遠い過去の話だ。俺も皆のお陰で逞しくなったし。
此処は平和だ。そうだろ? ここはもう信頼しあった仲間しかいない。だから大丈夫。
そして君がシッカリしてくれていたら……」
ウォーレンはより身体を近付けブースに入ってきて身体の密着を深める。レイが何が感じるものがあったのだろう心配するような視線を向けてくるが俺は大丈夫だと笑みを返す。
俺は抱き締めているウォーレンの耳に唇を近付ける。
「皆、君が頼りなんだ、俺達を守り支えてくれ。
リンダとの幸せな未来を築きたいだろ?
君も楽しみなのでは? リンダの息子を引き取って三人で幸せに暮らす日がくるのを」
そう心に直接刻むように囁くと、ウォーレンの抱きしめている腕に力がこもる。
「分かっている。守ってみせる最後まで。俺が! 今度はお前を絶望の淵などに立たせない。俺が絶対に守ってみせる」
抱きしめる力は強いがそこに邪なモノは感じない。まだ大丈夫だろう。
俺はウォーレンを冷静に観察してそう判断をする。
ウォーレンの表情も、いつもの頼りになる男に戻っていた。
「頼りにしているよ。皆君がいるから安心して過ごせる」
俺達は背中をパンパンと叩き、離れさせた。
信頼しあい良い関係を築いていた残った飛行機の仲間。
しかしウォーレンが毀れていくことで此処は一気に恐怖の世界へと変わり限界を迎えた。
ウォーレンは何故か俺に傾倒していき執着を深めていった。思えば、何故かいつも近くにいるようになり、女性であるキャシーやリンダを近付かせなくなってきたのが最初の予兆だった。二人がオレを殺そうとしていたと皆に思わせて二人を排除してしまった。
そのまま言葉を巧みに人を操り巧妙に他を遠さげていく。異変に他の人も気がついた時は、恐怖が機内を支配していた……。
しかもこの一日がリスタートする時に最初から起きているメンバーであることもこの場合悪く働いた。戦闘能力も高いウォーレンに女性であるCAの二人が適う訳もない。
もう一人起きていたのはジョニー。弱虫な彼に何か出来る筈もない。殺人鬼や殺し屋の役もしていたくせに、そういう場面で全く役に立たなかった。逆らわない手下として動いていた始末。だから対処にも遅れた。
逆にこのビビりがよくあんなキレた役を演じ切ったと尊敬する。
レイとフランツは抵抗はしないで従うふりをして俺をギリギリまで助けようとしてくれていた。
その行動がウォーレンの気に触ってきたのだろう排除されていつの日か姿すら見えなくなった。
最終的には仲間全員が遺体となっている機内で、ウォーレンの常軌を逸した愛を一方的に与えられるだけの毎日となる。
起きたら自分のブースでは無いシートで目覚め、狂気で目を輝かせたウォーレンに微笑まれ頬を撫でられている。しかし恐怖のあまり叫ぶ事も出来ない。そんな悪夢を未だに見て苦しむことがある。今現在は遺体置き場になっていて、俺が監禁され続けたそのシートには近付く事も出来ない。
元々頭がキレて行動力もあり身体能力も高い分、狂うと最悪で厄介だった。
リセット後、リンダがレイプされ殺された時に俺は過去を思い出す。そこでショックで不安定となったリンダを慰める役割をウォーレンに与えた。
二人の接触を増やして機内結婚をさせる程まで深めさせ、それこそが彼の幸せと暗に刷り込ませるようにした。俺から意識を逸らす為にも。そしてリンダへの余計な敵意を弱める為。
前回俺の恋人にもなっていたキャシーもフランツと恋仲にして今回は距離をとっている。
バランスは大切だ。それを保ち続けていれば大丈夫。俺は皆を安心させるように微笑んだ。
宙は本当に良いタイミングで戻って来てくれたと言うべきかもしれない。
彼が仲間として帰って来てくれたことで目的が出来、諦めの空気が漂っていた機内に活気が戻った。そして最近はループ現象に巻き込まれた当初のように活発な意見が交わされている。
良い傾向だ。
「ヒロシから繋がるキーパーソンは見つからないな。なかなか難しい」
フランツの言葉に俺は笑う。
過去のキーパーソンは見つけやすいが過去から未来のキーパーソンは探すことは難しい。
自分の現象に直で繋がった世界としか繋がれず、そのメンバーを見つける事は至難の技。
俺も宙からのアクションがあってやっとその存在に気が付け、過去のキーパーソンを見つけられた。
散々試したが、二年以上離れたループ現象に巻き込まれた人とは相手が特定できても繋がれない。直に俺たちの現象と繋がりのある世界としか連絡はつかない仕組みになっているようだ。
そして過去への道は前のキーパーソンが脆弱な精神であったために完全に鎖された。残されたのは宙のいる未来から繋がる道のみ。
宙が見つかったのも奇跡なのだ。俺の作品で分かりやすく現象に巻き込まれた事と、宙が察しが良いことで俺に辿り着けた。
俺へ早い段階に接触出来た事も幸いだった。いや奇跡と言っても良い。その事からも宙が俺達にとって特別な存在で運命の相手と言っても良いと思う。
宙は元プログラマー。
彼の関わったどのシステムが次の現象を呼び込むのか特定は困難だ。
システムによりどのように関わり現象をおこすのか? 誰を何人一年後巻き込むのかなんて予測するのは難しい。
ましてはその中の誰がキーパーソンなのか調べる事は不可能に近い。彼の目の前にあるのは、何事も起こってない平和な世界だから。
しかも宙からの接触となると、彼が予定のない行動で関わった事で生まれたコピーのキーパーソンとなるのだろう。しかしその事でオリジナルへ記憶の伝承という形で働きかけが出来る事が今回証明された。
他の二人のサトウヒロシで調査を同時に進めていたし、オリジナルが解明に乗り出した事でアタリもついていた。
そろそろ宙のアクションが何だかの反応となり返ってくる次期。
という事は宙から先に繋がる道が見えるのも時間の問題であった。
俺は宙との対話を終え、新しい展開を迎えられそうな事に気持ちも高揚していた。そして思い出す、話したばかりの宙の事を。
他の人より俺を一番信頼し慕ってくる様子が堪らなく可愛い。
ジョニーが可愛がっていたあのサトウヒロシとは大違いだ。アレは本当に目障りだった。
俺よりもジョニーなんかに懐くなんて。
年齢も近い事があったのだろう。二人の交わされたやり取りの数も群を抜いて多かった。
その為二人は仲良くなり、サトウヒロシはジョニーへまっすぐな友愛の感情を向け始めた。俺だけが日本語でやり取りしていて言葉は一番通じ合えるというのに。どんなにリセットさせて忘れさせても、その友情は変わらずジョニーとどこまでも仲良かった……。
二人で友人というレベルを超えた濃密なやり取りを繰り返し……呆れたものだ。たから毀してやった。ジョニー共々……。
しかし……ジョニーはどこまでも忌々しい。あの時、俺達を裏切っていただけでなく、今度は俺の宙に手を出そうとしているのは許せない。
先程も「ヒロシ、ヒロシ」と甘えた声を出して話しかけているのが不快だった。
やはり排除しておいた方が良いかも知れない……役に立たないどころか、宙に悪い影響を与えかねない。
宙は優しい慕ってこられた人を簡単に拒めない。断ち切ったといいつつ、未だにあの高橋の事を気にしている。早く毀れ切ればいいのに、ニュースに伝わるレベルの事件を繰り返しているらしい。その悩みを何故ジョニーにふと漏らした? 俺にすれば良いのに。
「ここから脱出出来たら……もう暫く飛行機に乗りたくはないな……」
フランツのつぶやきに皆が笑う。交信も終わったことで気ままな雑談タイムになっていたようだ。
「私もCAの仕事辞めたいな。自然豊かな所でのんびりしたい」
しみじみとそういうキャシーに頷きながら周りを見渡すリンダ。何故か俺を見ていたずらげに笑う。
「この仕事続けるにしても、このメンバーの乗った飛行機はいやね!
特にトワ!
貴方が乗ってきた飛行機はもう絶対に担当したくない!」
指さしてそんな事言ってくるリンダ。
その言葉に俺は苦笑するしかない。酷い言われようだ。この飛行機を降りたらどうしいのか? 皆の言葉を聞きながら俺も考える。
「俺は……無事脱出できたら宙と直に会って話をしたい。それこそ夜通しで、今回の事を検証して盛り上がりたい。美味しい酒をタップリ用意してさ」
そんな未来を夢見てそうつぶやくと皆は好意的に笑ってくれた。しかしウォーレンは顔を顰めている。それでハッとする。
「……勿論……皆とだよ。景色の良いロッジとかで皆でお祝いしたい」
そう言葉を加えておく。
「いいなそれ。ヒロシはやはり日本人だから日本酒を好むのかな? ワインも飲めるのかな?」
ジョニーの言葉に少し苛立ちを覚える。
「脱出の道が確実に見えてからそういう事を言え」
ウォーレンは能天気に話す皆に水を刺すうにそう言い放つ。こういう所が変に真面目で堅い。
楽しい未来の夢を語って少しは楽しんでも良いと思うが、この冷静さがメンバーのバランスをとってきている。狂わなければ一番頼りになる男なのだ。
俺がニッコリ微笑んで見せると、ウォーレンは俺に呆れたような表情を返してくる。返してくるのがこの表情なら大丈夫そうだ。まだまともなウォーレンであの時の狂気は欠片も見当たらない。
俺は先日こっそりと他の人に気づかれないようにレイへメッセージを送っておいた。
俺にとって思い出したくもない悽惨な出来事はあえて語らないが、ウォーレンがおかしくなったらこの世界は大変になる事は察してくれるだろう。
ウォーレンを逆に俺達がコントロールして支配するための協力を仰いでおいた。
先に情報を入れておくだけで、レイは今度は踊らされず上手くやってくれるだろう。それが彼の一番の役割で仕事なのだから。ジョニーを治療し回復させるという余計な事なんてしなくてもいい。
今回は早めに厄介だった二人を排除が出来た事で、かなり穏やかに物事を進められている。俺の方は最高に上手くやれている。
気がかりなウォーレンに異常が見られない事を確認してから俺は安堵した。
これでも宙、君との事に集中できる。
先程、皆でと言ったがそんなつもりは毛頭なかった。宙と二人の未来。なんて素晴らしい響きの言葉なのだろうか?
未来で俺達は直に逢い、未来を作れた事を喜びあう。
そして二人で抱き締めあい、いつまでも語り合う。誰にも邪魔されずに……。
その日が楽しみだ。
ねえ宙、君もそうだろ?
俺は今は遠くにいる宙に、心の中で語りかける。君にはこの想い伝わっているだろう。俺たちは半身のようなものだから。
なんか楽しくなってきた。こんなに未来に希望と夢を感じるのも久しぶりだ。
宙は俺にとって本当に特別な事を、改めて実感する。
そうだ! 飛行機を降りれたら、宙に家を贈ろう。他の人に一切干渉されず穏やかに宙が過ごせる場所を俺がデザインして……。
それも素敵なアイデアだ。夢はどんどん俺の中で広がっている。
何処かの島を一つ買って、そこに宙の家を建てよう。
俺だけが訪問出来るそんな場所で二人の未来を作る。なんかワクワクしてきた……。
俺は希望に満ちた未来を描きながらこの日は幸せな夢をみて眠りについた。
フーと溜息をつくと隣から視線を感じる。パーテーションの上から俺達の会話を見ていたレイが人の悪い顔で笑いコチラを見ているのが見えた。
日本語が全く分からなくても、どんな話をしていたのかは察したのだろう。宙の表情を見ていたら読めるというもの。彼は素直な性格だから。
さらに外交官のフランツは日本語も多少分かるので、レイの席に座り俺達の話を聞いていた。翻訳アプリと併用しつつ他の人に俺達の会話の解説をしている。
「トワ、お前職業間違えたのでは? お前こそ俳優かメンタリストをやれたよ。それか詐欺師」
俺はレイを睨む。
「失礼な。今宙に言った言葉は嘘偽りない本気の言葉だよ。ここにいる皆が宙を大事に想っているのも、彼を助けたいのも本当だろ?」
「まぁ、それはそうだが」
レイはニヤニヤとした顔を俺に向けてくる。他の人までも苦笑している。
あまり刺激のあることを聞けせたくないジョニーは今は寝かせていたからこそ言えた内容。ウォーレンだけは顔をしかめている。
「君達と同じさ俺も彼を愛している。とてもね。
だから誠実に向き合っているつもりだ。騙すなんて事はしない。
守りたいし救いたい。誰よりも。だって宙は大切な存在だ」
真剣に言っているのに皆は納得していないようだ。
「おやおや、そういう趣味が。まあ可愛よな。
ヒロシは。まっすぐで素直で……良い子だ。
お前がそそられるのも無理がない」
レイの言葉に俺はため息をつくしかない。
「そういう意味ではないよ。俺はゲイではない。
我々にとってかけがえのない存在だよ! 彼は。そう思わないか?」
そう宙は何よりも特別な存在。言葉にするのは難しいが、俺はキーパーソン同士だからだろうか? 特別な絆で繋がっているように思える。彼の痛み嘆きが喜びが自分の感情のようにも思えてきて。向き合っていると愛しさが膨れ上がってくる。
「その割に色々追い詰めて苦しめてきたのにか?」
ウォーレンの言葉に俺は顔を傾げる。彼はチラリと奥で眠っているジョニーを見る。
「俺が宙に何か酷いことする筈がないだろ?
今までもした事も無い。
厳しい事は言う事はするが、彼を傷つける為ではない。彼は仲間だ」
俺は真面目に答えているのに皆の反応はイマイチ。宙の痛み哀しみは俺の痛み哀しみも同然。傷付けるなんて事が出来る筈がない。それは自傷行為に等しい。
「怖い愛だな、最悪の世界にヒロシを散々追い詰めて狂わせ続けているのに?」
俺は仲間のその見当違いな言葉にため息をつく。
「それは宙に対してではないだろ?
オレが毀してきたのはサトウヒロシだ。
それもしたくてした事でもない。心も痛んではいるよ。とても……。
とはいえアレらのサトウヒロシは所詮シミュレーションの為に生み出したコピーにしか過ぎない」
俺は誤解を解消するためにハッキリと説明をする。
「あくまでもオリジナルの宙を助ける為のささやかな犠牲。宙が戻ってきてくれた時に最適な道を選べるように。
だからそっちの扱いに関しては勘弁してくれ。オリジナルの宙とは別物だから!」
そもそも宙は他のサトウヒロシらは全く違う。
俺はオリジナルとコピーを同列に語る皆に少しムカつく。先程俺をまっすぐ縋るように見つめてきた宙を思い出し微笑ましい気持ちになる。
俺以外の仲間達が二千十八年の段階で干渉する事で生み出されてしまった、異なる次元で生きるサトウヒロシたちが実はいる。
俺達は、過去に飛行機にいるメンバーがネットで接触した事で、その記憶をもった七人のサトウヒロシを生み出していた。
七月十一という時間の中でのみ繋がり会えるサトウヒロシとメンバー。そのサトウヒロシは何だかのエラーが発生してしまったのか、美術館の同じ場所に誘ってもモニターをつかったやり取りが出来ない。
接触者の端末でのみメッセージやメールという形でのみ連絡がつく。その為日本語が分かる俺や語学が堪能な外交官のフランツがサポートをしてやりとりを続けていた。
一人はMedioDelMondoの交差点にあの時侵入させない事で救った筈。そのサトウヒロシは未来へと恐らく進んだのだろうが、【ありがとう。君のお陰で命が助かった。今度は俺が皆の助かる道を見つけるから! 明日また】というメッセージを最後に連絡は途切れた。その為その後の消息は不明。
連絡を取り合っていたリンダは無事明日に辿り点いたと、そう信じている。
そして事故の情報をあえて入れなかった他のサトウヒロシはMedioDelMondoで竜巻にあい、宙同様ループ現象に巻き込まれる事になった。
一人は事故を回避させた事で消えて、もう一人は与える情報を制限し宙同様に付き合っていくと、ほぼ同じ流れで世界が、おかしくなり精神的に不安定になっていき連絡が一切取れないようになった。
本人が狂ってしまったのか、高橋や鈴木の狂気に巻き込まれて身動きを取れなくなってしまったのかは不明。
それぞれ違うアドバイスを与え別の道を進ませる。しかしみな似た道を辿る。結果、今残っているのは二人のサトウヒロシ。ウォーレンとレイが担当してやり取りをいるだけあり、そのサトウヒロシは精神的にも安定していて色々役に立っている。そんな時に本物の宙が戻ったきてくれた。そう俺達の所に戻って来てくれると信じていたから、コピーのサトウヒロシで色々試した。
「しかし、コピーはいくらでも作れるからと思っていたが、これ以上作るのは止めた方がいいな」
レイの言葉に俺は頷く。
「まさかコピーの記憶が、オリジナルにも断片的に伝わっているとは……。
これ以上彼に負担はかけられない」
宙にうっかり何度も自己紹介したような事を言ってしまったが、それはサトウヒロシも含めた全員に対しての話。
宙がリセットしたのは実は一度だけ。あまりリセットを多用するのは危険だと知っていたから、コピーで色々で試していた。
ジョニーの担当していたサトウヒロシには異変が起こったすぐの段階で最悪な未来を示唆して不安を煽りリセットを多発させた。
結果、最短で半年という期間で鈴木と高橋が毀れるようになり世界も滅茶苦茶になっていった。
最終的に、そのサトウヒロシはかなり病んでいたのでリセットも選択出来ない程毀れてしまったのだろう。
俺が一人黙り込み宙の事を考えに耽っていると、強い視線を感じた。そちらを見るとウォーレンが俺を思い詰めたように見つめていた。
ふとウォーレンの表情を見て不安になる。少し不味い兆候も出てきたのか?
「ウォーレン?」
ウォーレンは俺が笑いかけても硬い表情のまま。
「前から聞きたいと思っていたが……お前は何度リセットした? 俺達を」
俺はその質問に苦笑しつつ誤魔化そうとする。皆も不安そうに俺を見つめているから。俺が今まで敢えて避けていた話題。
「君も理解しているだろ? リセットは良い抜け道のようで悪手でしかない。繰り返していく程世界は歪んいく。だから俺は……」
ウォーレンは距離を縮め目を細め俺にキツい視線を向けてくる。
「俺は一番仲間に恵まれているからかな? リセットに逃げる事はあまりしてないよ」
核である俺だけが行使出来る能力【リセット】。俺の一存で出来るだけにウォーレンは懸念してるのか? それとも……。
「……一度だけだ。本当だ。
レイ俺が嘘言ってないのは分かるだろ?」
レイに声にかけると頷いてくれる。レイは鋭くて嘘が通じないから。
ウォーレンが俺をいきなり抱き締めてきた。俺は戸惑いながらも落ち着かせる為に背中を撫でる。
「そこまで絶望する程お前は苦しんだというのか?
辛かったよな。その時何故俺はお前を支えられなかったのか……」
俺はその言葉に苦笑するしかない。
「もう大丈夫だ。最悪な時間は……終わった。もう遠い過去の話だ。俺も皆のお陰で逞しくなったし。
此処は平和だ。そうだろ? ここはもう信頼しあった仲間しかいない。だから大丈夫。
そして君がシッカリしてくれていたら……」
ウォーレンはより身体を近付けブースに入ってきて身体の密着を深める。レイが何が感じるものがあったのだろう心配するような視線を向けてくるが俺は大丈夫だと笑みを返す。
俺は抱き締めているウォーレンの耳に唇を近付ける。
「皆、君が頼りなんだ、俺達を守り支えてくれ。
リンダとの幸せな未来を築きたいだろ?
君も楽しみなのでは? リンダの息子を引き取って三人で幸せに暮らす日がくるのを」
そう心に直接刻むように囁くと、ウォーレンの抱きしめている腕に力がこもる。
「分かっている。守ってみせる最後まで。俺が! 今度はお前を絶望の淵などに立たせない。俺が絶対に守ってみせる」
抱きしめる力は強いがそこに邪なモノは感じない。まだ大丈夫だろう。
俺はウォーレンを冷静に観察してそう判断をする。
ウォーレンの表情も、いつもの頼りになる男に戻っていた。
「頼りにしているよ。皆君がいるから安心して過ごせる」
俺達は背中をパンパンと叩き、離れさせた。
信頼しあい良い関係を築いていた残った飛行機の仲間。
しかしウォーレンが毀れていくことで此処は一気に恐怖の世界へと変わり限界を迎えた。
ウォーレンは何故か俺に傾倒していき執着を深めていった。思えば、何故かいつも近くにいるようになり、女性であるキャシーやリンダを近付かせなくなってきたのが最初の予兆だった。二人がオレを殺そうとしていたと皆に思わせて二人を排除してしまった。
そのまま言葉を巧みに人を操り巧妙に他を遠さげていく。異変に他の人も気がついた時は、恐怖が機内を支配していた……。
しかもこの一日がリスタートする時に最初から起きているメンバーであることもこの場合悪く働いた。戦闘能力も高いウォーレンに女性であるCAの二人が適う訳もない。
もう一人起きていたのはジョニー。弱虫な彼に何か出来る筈もない。殺人鬼や殺し屋の役もしていたくせに、そういう場面で全く役に立たなかった。逆らわない手下として動いていた始末。だから対処にも遅れた。
逆にこのビビりがよくあんなキレた役を演じ切ったと尊敬する。
レイとフランツは抵抗はしないで従うふりをして俺をギリギリまで助けようとしてくれていた。
その行動がウォーレンの気に触ってきたのだろう排除されていつの日か姿すら見えなくなった。
最終的には仲間全員が遺体となっている機内で、ウォーレンの常軌を逸した愛を一方的に与えられるだけの毎日となる。
起きたら自分のブースでは無いシートで目覚め、狂気で目を輝かせたウォーレンに微笑まれ頬を撫でられている。しかし恐怖のあまり叫ぶ事も出来ない。そんな悪夢を未だに見て苦しむことがある。今現在は遺体置き場になっていて、俺が監禁され続けたそのシートには近付く事も出来ない。
元々頭がキレて行動力もあり身体能力も高い分、狂うと最悪で厄介だった。
リセット後、リンダがレイプされ殺された時に俺は過去を思い出す。そこでショックで不安定となったリンダを慰める役割をウォーレンに与えた。
二人の接触を増やして機内結婚をさせる程まで深めさせ、それこそが彼の幸せと暗に刷り込ませるようにした。俺から意識を逸らす為にも。そしてリンダへの余計な敵意を弱める為。
前回俺の恋人にもなっていたキャシーもフランツと恋仲にして今回は距離をとっている。
バランスは大切だ。それを保ち続けていれば大丈夫。俺は皆を安心させるように微笑んだ。
宙は本当に良いタイミングで戻って来てくれたと言うべきかもしれない。
彼が仲間として帰って来てくれたことで目的が出来、諦めの空気が漂っていた機内に活気が戻った。そして最近はループ現象に巻き込まれた当初のように活発な意見が交わされている。
良い傾向だ。
「ヒロシから繋がるキーパーソンは見つからないな。なかなか難しい」
フランツの言葉に俺は笑う。
過去のキーパーソンは見つけやすいが過去から未来のキーパーソンは探すことは難しい。
自分の現象に直で繋がった世界としか繋がれず、そのメンバーを見つける事は至難の技。
俺も宙からのアクションがあってやっとその存在に気が付け、過去のキーパーソンを見つけられた。
散々試したが、二年以上離れたループ現象に巻き込まれた人とは相手が特定できても繋がれない。直に俺たちの現象と繋がりのある世界としか連絡はつかない仕組みになっているようだ。
そして過去への道は前のキーパーソンが脆弱な精神であったために完全に鎖された。残されたのは宙のいる未来から繋がる道のみ。
宙が見つかったのも奇跡なのだ。俺の作品で分かりやすく現象に巻き込まれた事と、宙が察しが良いことで俺に辿り着けた。
俺へ早い段階に接触出来た事も幸いだった。いや奇跡と言っても良い。その事からも宙が俺達にとって特別な存在で運命の相手と言っても良いと思う。
宙は元プログラマー。
彼の関わったどのシステムが次の現象を呼び込むのか特定は困難だ。
システムによりどのように関わり現象をおこすのか? 誰を何人一年後巻き込むのかなんて予測するのは難しい。
ましてはその中の誰がキーパーソンなのか調べる事は不可能に近い。彼の目の前にあるのは、何事も起こってない平和な世界だから。
しかも宙からの接触となると、彼が予定のない行動で関わった事で生まれたコピーのキーパーソンとなるのだろう。しかしその事でオリジナルへ記憶の伝承という形で働きかけが出来る事が今回証明された。
他の二人のサトウヒロシで調査を同時に進めていたし、オリジナルが解明に乗り出した事でアタリもついていた。
そろそろ宙のアクションが何だかの反応となり返ってくる次期。
という事は宙から先に繋がる道が見えるのも時間の問題であった。
俺は宙との対話を終え、新しい展開を迎えられそうな事に気持ちも高揚していた。そして思い出す、話したばかりの宙の事を。
他の人より俺を一番信頼し慕ってくる様子が堪らなく可愛い。
ジョニーが可愛がっていたあのサトウヒロシとは大違いだ。アレは本当に目障りだった。
俺よりもジョニーなんかに懐くなんて。
年齢も近い事があったのだろう。二人の交わされたやり取りの数も群を抜いて多かった。
その為二人は仲良くなり、サトウヒロシはジョニーへまっすぐな友愛の感情を向け始めた。俺だけが日本語でやり取りしていて言葉は一番通じ合えるというのに。どんなにリセットさせて忘れさせても、その友情は変わらずジョニーとどこまでも仲良かった……。
二人で友人というレベルを超えた濃密なやり取りを繰り返し……呆れたものだ。たから毀してやった。ジョニー共々……。
しかし……ジョニーはどこまでも忌々しい。あの時、俺達を裏切っていただけでなく、今度は俺の宙に手を出そうとしているのは許せない。
先程も「ヒロシ、ヒロシ」と甘えた声を出して話しかけているのが不快だった。
やはり排除しておいた方が良いかも知れない……役に立たないどころか、宙に悪い影響を与えかねない。
宙は優しい慕ってこられた人を簡単に拒めない。断ち切ったといいつつ、未だにあの高橋の事を気にしている。早く毀れ切ればいいのに、ニュースに伝わるレベルの事件を繰り返しているらしい。その悩みを何故ジョニーにふと漏らした? 俺にすれば良いのに。
「ここから脱出出来たら……もう暫く飛行機に乗りたくはないな……」
フランツのつぶやきに皆が笑う。交信も終わったことで気ままな雑談タイムになっていたようだ。
「私もCAの仕事辞めたいな。自然豊かな所でのんびりしたい」
しみじみとそういうキャシーに頷きながら周りを見渡すリンダ。何故か俺を見ていたずらげに笑う。
「この仕事続けるにしても、このメンバーの乗った飛行機はいやね!
特にトワ!
貴方が乗ってきた飛行機はもう絶対に担当したくない!」
指さしてそんな事言ってくるリンダ。
その言葉に俺は苦笑するしかない。酷い言われようだ。この飛行機を降りたらどうしいのか? 皆の言葉を聞きながら俺も考える。
「俺は……無事脱出できたら宙と直に会って話をしたい。それこそ夜通しで、今回の事を検証して盛り上がりたい。美味しい酒をタップリ用意してさ」
そんな未来を夢見てそうつぶやくと皆は好意的に笑ってくれた。しかしウォーレンは顔を顰めている。それでハッとする。
「……勿論……皆とだよ。景色の良いロッジとかで皆でお祝いしたい」
そう言葉を加えておく。
「いいなそれ。ヒロシはやはり日本人だから日本酒を好むのかな? ワインも飲めるのかな?」
ジョニーの言葉に少し苛立ちを覚える。
「脱出の道が確実に見えてからそういう事を言え」
ウォーレンは能天気に話す皆に水を刺すうにそう言い放つ。こういう所が変に真面目で堅い。
楽しい未来の夢を語って少しは楽しんでも良いと思うが、この冷静さがメンバーのバランスをとってきている。狂わなければ一番頼りになる男なのだ。
俺がニッコリ微笑んで見せると、ウォーレンは俺に呆れたような表情を返してくる。返してくるのがこの表情なら大丈夫そうだ。まだまともなウォーレンであの時の狂気は欠片も見当たらない。
俺は先日こっそりと他の人に気づかれないようにレイへメッセージを送っておいた。
俺にとって思い出したくもない悽惨な出来事はあえて語らないが、ウォーレンがおかしくなったらこの世界は大変になる事は察してくれるだろう。
ウォーレンを逆に俺達がコントロールして支配するための協力を仰いでおいた。
先に情報を入れておくだけで、レイは今度は踊らされず上手くやってくれるだろう。それが彼の一番の役割で仕事なのだから。ジョニーを治療し回復させるという余計な事なんてしなくてもいい。
今回は早めに厄介だった二人を排除が出来た事で、かなり穏やかに物事を進められている。俺の方は最高に上手くやれている。
気がかりなウォーレンに異常が見られない事を確認してから俺は安堵した。
これでも宙、君との事に集中できる。
先程、皆でと言ったがそんなつもりは毛頭なかった。宙と二人の未来。なんて素晴らしい響きの言葉なのだろうか?
未来で俺達は直に逢い、未来を作れた事を喜びあう。
そして二人で抱き締めあい、いつまでも語り合う。誰にも邪魔されずに……。
その日が楽しみだ。
ねえ宙、君もそうだろ?
俺は今は遠くにいる宙に、心の中で語りかける。君にはこの想い伝わっているだろう。俺たちは半身のようなものだから。
なんか楽しくなってきた。こんなに未来に希望と夢を感じるのも久しぶりだ。
宙は俺にとって本当に特別な事を、改めて実感する。
そうだ! 飛行機を降りれたら、宙に家を贈ろう。他の人に一切干渉されず穏やかに宙が過ごせる場所を俺がデザインして……。
それも素敵なアイデアだ。夢はどんどん俺の中で広がっている。
何処かの島を一つ買って、そこに宙の家を建てよう。
俺だけが訪問出来るそんな場所で二人の未来を作る。なんかワクワクしてきた……。
俺は希望に満ちた未来を描きながらこの日は幸せな夢をみて眠りについた。
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