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第四種接近遭遇
無邪気って実は邪鬼だらけ?
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『煙草と清酒なんて凄いコンビができたね』
初めて会った時に清酒さんが、私に言っていた言葉を思い出す。『清酒と猪口』『清酒と煙草』どちらの方が、よりコンビ感があるのだろうか?
頭の中で、清酒が並々と注がれたお猪口と徳利のある光景が浮かんでくる。少し離れた所にある灰皿にのった煙を出した煙草。そんな情景を振り払うように頭を横に振る。
「ウチにも君みたいな感じの面白い名前の子がいてね、タバちゃ~ん」
編集長が視線を私に向けてきたので、私は我に返り自分の名刺を手に近付く事にした。
「煙草わかば と申します。
マメゾンさんの担当窓口もさせていただいています。
これからもお世話になると思いますので、宜しくお願いいたします」
笑顔で挨拶し名刺を渡したが、猪口さんはチラリと名刺を見ただけ。興味なさげにすぐに名刺入れにしまう。
「宜しくお願いします~」
そして名前に対するコメントもなく、頭を少しだけ下げただけだった。名刺を返してくることもない。
珍名同士だからなのだろうか? こういう風に私の苗字をスルーされたのは初めてで軽く唖然とした。
編集長と田邊さんに視線を戻し自分の話題を再開しようとする。清酒さんが手の甲で猪口さんの腕を軽く叩く。
「猪口くん、彼女がこの会社の担当者の煙草わかばさん。名刺を!
申し訳ありません、本当に礼儀知らずで」
清酒さんは後半は私の方をむいて謝ってくる。
清酒さんのせいでもない。この子の言動からもまだ子供なのだと察する事が出来た。私は『気にしてない』と首を横にふる。おずおずと、名刺入れをポケットから出そうとする猪口さんを編集長は制する。そして自分の持っていた名刺を私へと渡す。
「ボクはいらないから、コレをタバちゃんにあげるよ! 紙も勿体無いからコレもエコだね」
猪口さんは、目の前で名刺をいらないと他の人に手渡した編集長を見て傷付いた顔をする。
一見失礼な事をしているようだが、編集長なりの新社会人へ行った指導の一つなのだろう。
礼儀がなってないヤツには、それなりの対応しかされないと教えたのだ。
それに編集長は結構シビアな所があり、名刺の取捨は容赦ない所がある。
笑顔で送り出した後に今後仕事に使えない相手だと即処分してしまう。そういう事もあり早めに処分を行っただけなのかもしれない。そうでもしないと、名刺も溜まって大変な事もあるのだろうが。
猪口さんによって微妙な空気になり、編集長も田邊さんも仕事に戻る為に離れていく。清酒さんと私は眼を合わせつい苦笑してしまった。
恋人同士だからという訳ではない。もう仕事上でも三年ほど付き合ってきて、このやり取りをしてきた。
言葉もあえて交わさず視線と頷きだけで充分なのだ。
私と清酒さんを珈琲サーバーのある給湯室へと向かう。今日は後ろから新人の猪口さんもついてくる。
さっきの事でむくれてしまったのか、何かを話してくるという事もなく黙ったまま。
いかにも『拗ねてます。傷付いてます』というその表情。社会人がとうよりも二十歳超えた人間がするとは思えない程幼い。
どうしたものかと思う所もある。しかし部外者である私が指摘する事ではない。清酒さんも、呆れているのだろうが客先で叱るのも控えたのだろう。
私達はあえて触れずいつもの在庫の確認の会話を交わす。
「そういえば記事読みましたよ! 面白かったです。私も行ってみたいなと思うお店も幾つかありました」
「ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです。でもいざ印刷されたモノを読むと照れくささもあり私はあまり読めてないんですよね。
まあゲラとかで散々読んだから問題はないのですが」
いつものように、欠品しているものを追加して、珈琲セットしてという変わらぬ行動。
第三者がいる事で会話が台詞っぽくて態とらしいし余所余所しい。
清酒さんが新しく入った珈琲を、私に手渡し、お礼を返しす。それもいつもの流れ。
猪口さんが清酒さんを不思議そうに見上げる。
「え? 私には? 珈琲入れてくれないの?」
猪口さんのその言葉に、二人で唖然としてしまう。そして清酒さんは大きく溜息をつく。
「君はココに何しにきたの? 立場分かってるのかい?」
自分が振る舞われる方の立場でなく、振る舞うほうの立場だと分かってないようだ。
言葉が通じてなかったようで、唇を尖らせて不満そうである。しかし直ぐに何か思いついたようにニッコリと甘えるように清酒さんに笑ってくる。
「だったら、この後、何処かでお茶をしていきませんか?」
その子の眼を見て、なんとなく気付く。猪口さんって、結構清酒さんを気に入っていて、アプローチをかけてる事に。私は思わず眉を寄せてしまう。
「そんな暇ない。それに午後から君も高橋さんと外出だろ!」
冷たく断る清酒さんに少しホッとした。
「え~、真鍋さんは連れていってくれましたよ! じゃあ、今度行きましょうね!」
尚も食い下がってくる猪口さんに、私は逆に驚いてしまう。そこまで、グイグイと場所も関係なく迫るって、若いのか元々の度胸なのか凄い。
チッ
清酒さんの舌打ちをする音が聞こえた。そういう音を出してくるのって珍しいなと清酒さんをつい見上げてしまった。
アレ? 顔はいつもの仕事モードの営業顔である。聞き間違えだったのだろうか?
「ね、約束ですよ!」
清酒さんはニッコリと笑い猪口さんを見る。
顔は微笑みを浮かべているようだけれど、眼が全然笑ってないように感じる。いや、確実に笑ってない。怒っているコレは。
いつもと違って凄く冷たい視線を猪口さんに注いでいる。それに気が付いていないのか猪口さんはニコニコと見上げている。
「そんな暇あるならば、仕事しようね」
「はい!」
良い子の返事を返す猪口さんに通じているのかどうか怪しい。
清酒さんは私をチラリと見て肩をすくめて苦笑した。イマドキな若者を教育するのって大変そうである。
私は未だに後輩なしの状況。寂しいと思っていたがこういうのを見るとそれで良かったと思ってしまった。
初めて会った時に清酒さんが、私に言っていた言葉を思い出す。『清酒と猪口』『清酒と煙草』どちらの方が、よりコンビ感があるのだろうか?
頭の中で、清酒が並々と注がれたお猪口と徳利のある光景が浮かんでくる。少し離れた所にある灰皿にのった煙を出した煙草。そんな情景を振り払うように頭を横に振る。
「ウチにも君みたいな感じの面白い名前の子がいてね、タバちゃ~ん」
編集長が視線を私に向けてきたので、私は我に返り自分の名刺を手に近付く事にした。
「煙草わかば と申します。
マメゾンさんの担当窓口もさせていただいています。
これからもお世話になると思いますので、宜しくお願いいたします」
笑顔で挨拶し名刺を渡したが、猪口さんはチラリと名刺を見ただけ。興味なさげにすぐに名刺入れにしまう。
「宜しくお願いします~」
そして名前に対するコメントもなく、頭を少しだけ下げただけだった。名刺を返してくることもない。
珍名同士だからなのだろうか? こういう風に私の苗字をスルーされたのは初めてで軽く唖然とした。
編集長と田邊さんに視線を戻し自分の話題を再開しようとする。清酒さんが手の甲で猪口さんの腕を軽く叩く。
「猪口くん、彼女がこの会社の担当者の煙草わかばさん。名刺を!
申し訳ありません、本当に礼儀知らずで」
清酒さんは後半は私の方をむいて謝ってくる。
清酒さんのせいでもない。この子の言動からもまだ子供なのだと察する事が出来た。私は『気にしてない』と首を横にふる。おずおずと、名刺入れをポケットから出そうとする猪口さんを編集長は制する。そして自分の持っていた名刺を私へと渡す。
「ボクはいらないから、コレをタバちゃんにあげるよ! 紙も勿体無いからコレもエコだね」
猪口さんは、目の前で名刺をいらないと他の人に手渡した編集長を見て傷付いた顔をする。
一見失礼な事をしているようだが、編集長なりの新社会人へ行った指導の一つなのだろう。
礼儀がなってないヤツには、それなりの対応しかされないと教えたのだ。
それに編集長は結構シビアな所があり、名刺の取捨は容赦ない所がある。
笑顔で送り出した後に今後仕事に使えない相手だと即処分してしまう。そういう事もあり早めに処分を行っただけなのかもしれない。そうでもしないと、名刺も溜まって大変な事もあるのだろうが。
猪口さんによって微妙な空気になり、編集長も田邊さんも仕事に戻る為に離れていく。清酒さんと私は眼を合わせつい苦笑してしまった。
恋人同士だからという訳ではない。もう仕事上でも三年ほど付き合ってきて、このやり取りをしてきた。
言葉もあえて交わさず視線と頷きだけで充分なのだ。
私と清酒さんを珈琲サーバーのある給湯室へと向かう。今日は後ろから新人の猪口さんもついてくる。
さっきの事でむくれてしまったのか、何かを話してくるという事もなく黙ったまま。
いかにも『拗ねてます。傷付いてます』というその表情。社会人がとうよりも二十歳超えた人間がするとは思えない程幼い。
どうしたものかと思う所もある。しかし部外者である私が指摘する事ではない。清酒さんも、呆れているのだろうが客先で叱るのも控えたのだろう。
私達はあえて触れずいつもの在庫の確認の会話を交わす。
「そういえば記事読みましたよ! 面白かったです。私も行ってみたいなと思うお店も幾つかありました」
「ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいです。でもいざ印刷されたモノを読むと照れくささもあり私はあまり読めてないんですよね。
まあゲラとかで散々読んだから問題はないのですが」
いつものように、欠品しているものを追加して、珈琲セットしてという変わらぬ行動。
第三者がいる事で会話が台詞っぽくて態とらしいし余所余所しい。
清酒さんが新しく入った珈琲を、私に手渡し、お礼を返しす。それもいつもの流れ。
猪口さんが清酒さんを不思議そうに見上げる。
「え? 私には? 珈琲入れてくれないの?」
猪口さんのその言葉に、二人で唖然としてしまう。そして清酒さんは大きく溜息をつく。
「君はココに何しにきたの? 立場分かってるのかい?」
自分が振る舞われる方の立場でなく、振る舞うほうの立場だと分かってないようだ。
言葉が通じてなかったようで、唇を尖らせて不満そうである。しかし直ぐに何か思いついたようにニッコリと甘えるように清酒さんに笑ってくる。
「だったら、この後、何処かでお茶をしていきませんか?」
その子の眼を見て、なんとなく気付く。猪口さんって、結構清酒さんを気に入っていて、アプローチをかけてる事に。私は思わず眉を寄せてしまう。
「そんな暇ない。それに午後から君も高橋さんと外出だろ!」
冷たく断る清酒さんに少しホッとした。
「え~、真鍋さんは連れていってくれましたよ! じゃあ、今度行きましょうね!」
尚も食い下がってくる猪口さんに、私は逆に驚いてしまう。そこまで、グイグイと場所も関係なく迫るって、若いのか元々の度胸なのか凄い。
チッ
清酒さんの舌打ちをする音が聞こえた。そういう音を出してくるのって珍しいなと清酒さんをつい見上げてしまった。
アレ? 顔はいつもの仕事モードの営業顔である。聞き間違えだったのだろうか?
「ね、約束ですよ!」
清酒さんはニッコリと笑い猪口さんを見る。
顔は微笑みを浮かべているようだけれど、眼が全然笑ってないように感じる。いや、確実に笑ってない。怒っているコレは。
いつもと違って凄く冷たい視線を猪口さんに注いでいる。それに気が付いていないのか猪口さんはニコニコと見上げている。
「そんな暇あるならば、仕事しようね」
「はい!」
良い子の返事を返す猪口さんに通じているのかどうか怪しい。
清酒さんは私をチラリと見て肩をすくめて苦笑した。イマドキな若者を教育するのって大変そうである。
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