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第二種接近遭遇

煙草に火がついた

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 懐かしい人達が集う会場で楽しいのだが、一つ私を辟易させている事がある。
 煙草を吸う人がこの会場で多い事だ。部屋も禁煙ではなかったようで、その事が少し辛かった。そういう意味でも、部屋の角に逃げれたのは嬉しい。
 煙でまだ穢されてない空間で私は少しホッとする。
 そこで私と高橋くんは、懐かしい思い出話で盛り上がる。といっても高橋くんは、そんなにはしゃぐタイプでもない。
 穏やかな会話のやり取りで、そんなのんびりとしたテンポがまた心地よかった。二人で出かけた花火大会とか、遊園地でのエピソードとか話題も尽きることはない。
 話していて、私はあの時感じていたワクワクの気持ちが蘇る。
「わかばは凄いよな、東京に出て一人で頑張っているなんて」
 他愛ない思い出話で盛り上がったあとに、高橋くんはそんな事を言ってきた。私は首を横にふる。
「そんな事ないよ、立派に区役所に務めて頑張っている高橋くんの方がエライよ。
 お父さんも雅くんの仕事ぶりいつも褒めている」
 高橋くんは照れたように笑う。
「いや、俺の仕事なんて誰でも出来る事だから」
「そんな事ないよ。お父さん雅くんが担当になってから、仕事がすごくやりやすくなって助かっているって言ってたよ。
 雅くんだからこそ、そういう丁寧な仕事が出来ているという事でしょ?」
 高橋くんは、本当の事を言ったのに顔を真っ赤にしてモゾモゾとしてポケットをいじり出す。そこから煙草を取り出し、火をつける。
 コチラをみて「アッ」という顔になる。私の表情をみて察したんだろう。
「もしかして、わかばって煙草苦手だった?」
 私は曖昧な笑みを返す。
『私の前で吸わないで』
 嫌煙家だが、こういう時に井上イナイ先輩のように強くこんな言葉を言えない性格なのだ。
「……大丈夫……それにつけた煙草がもったいないから」
 慌てて灰皿で消そうとするのを私は止める。高橋くんは煙が来ないように風下に移動し一個はなれた椅子に座る。
「そういえば、お父さんも煙草吸ってないよね、その苗字なのに。
 でも、なんかさ俺、煙草買うときについ、わかばの家族の事思い出すんだよな」
 私は高橋くんの言葉にハハハハと笑ってしまう。思い出さざる得ないというのは良く分かる。

 私の家族は名前が『巫山戯ているのか?』と言われても仕方がない状態だからだ。
 父は『信正ノブマサ』といい、母は『望』という。自分達は『SHINSEI』と『ホープ』の煙草夫婦とからかわれたらしい。にも関わらず、私に『わかば』で弟が『平和ヒロカズ』という名前をつけた。
 決して両親が遊んだわけではない。
 私は四月の若葉の綺麗な時期に生まれた。若葉のようにあらゆる可能性を秘めた子供に育って欲しいと願って命名された。
 弟は終戦記念日に生まれたので平和な世界で幸せに育った欲しいと願った為。真剣に考えてつけたそうだ。かくして『SHINSEI』と『ホープ』と『わかば』と『ピース』という見事な『煙草一家』ができあがった訳である。

「つい『わかば』も興味をもって吸った事あるんだけど凄い味でビックリした」
 吸った事はないので、私には分からないが『わかば』って安いけれど不味いらしい。
 私は苦笑するしかない。嫌煙家で『煙草わかば』の名をもつ私。煙草好きの中からも倦厭されている『煙草』の『わかば』。なんとも微妙な関係である。ならばさっさと銘柄を廃盤にしてほしいところだ。
「なんかさ『わかば』って、あまり調整していないらしい。混じりっけのない煙草の草本来の味らしいね。それだけに通が好むとかも」
 高橋くんはそうフォローをしてくるけれど、私のむくれは治らない。私自身がマニアックな人好みの女と言われているような気になってしまう。
「まあ、私も苗字が『煙草』でなくなればいいだけ。苗字変われば、そういう事にイチイチ反応しなくてもすむようになるんだろうね」
 高橋くんは首を傾げる。
「あれ? なんか予定とかあるの?」
 私は肩をすくめる。
「そんなのないよ。今は色んな事がコレからという状況で先の事が見えない状態だし。でも、良かった」
 高橋くんが不思議そうにコチラをみている。それもそうだろう私が今支離滅裂な事をいっているのは自覚している。
 お酒が入るとどうもとりとめのない話をしてしまう傾向にあるようだ。
「良かったって何が?」
「今日、こうして雅くんと会えた事」
 私はそう言って高橋くんに微笑んだ。同意してくれるかと思ったが高橋くんはキョトンとして目を丸くしてコチラをみている。
「雅くんはどうであれ、私は今日こうして話をして良かった! 昔の私がなんで雅くんを好きになったのか思い出たよ。人を好きになった時のドキドキな気持ちも取り戻せた」
 高橋くんは、驚いたような顔をしていたけれど、フワリと笑う。
「俺も同じだよ。今日、こうしてわかばと会えた事がすごく嬉しかった。こうして話ができたのも……」
 私は高橋くんも同じように再会を喜んでくれた事は嬉しかった。
「お陰で、前に進める気がする。本当にありがとう」
 私は立ち上がり手を差し出し、握手を求める。
 高橋くんも同じように立ち上がり握手に答えてくれて私の手をギュウと握り返してくれた。
「あんたら、相変わらず仲が良いわね~」
 友人の田上ゆかりが近付いてくる。お酒が入っているためか顔も赤く、いつもより陽気でテンションが高い。
 私は彼女の方をむいて元気に頷く。
「友情を確かめ合ってたの!」
 何故かゆかりは、『え?』と怪訝そうな顔をして、高橋くんの方に視線をやる。
 高橋くんも何故か困ったような顔をしてゆかりに視線をやり見つめ合っていた。
「今日は本当に来て良かった。みんなと会って、あの怖れ知らずの時代の自分も復活!」
 私はそう言って、二人に抱きついた。
「チョット、わかば、酔っぱらってる?」
 私は首をブルンブルンと振る。
 お酒に酔っているからでなく、気分が高揚しているだけ。高校時代の友人と話をして若さとパワーを取り戻した。
 元彼である高橋くんとの純粋な時間を思い出す。その相手が以前と変わらずなかなか素敵な男性だった事も嬉しい。男を見る目がないと落ちこみ、なくしていた自信も取り戻した気がした。
「みんな大好きだというのを、改めて分かっただけ」
 そして抱きついていた高橋くんの背広から、煙草の香りを感じ私は顔を顰め離れる。
「あのさ、雅くん。煙草は辞めた方がいいよ。
 百害あって一利なし! 雅くんには煙草は似合わないから!」
 煙草という苗字の私がこういう事をいうのがオカシイのか、高橋くんは苦笑する。ゆかりは何故か大きく溜息をついた。
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