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第一種接近遭遇
夢はランキング十位以内
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結婚する相手に求めるものは何か?
イケメンであること? 長身であること? 優しさ? 包容力? 経済力?
感性が合い、一緒にいて楽しめる。それに加え上記の条件を充たしているなら、それにこしたことはない。
しかし、私にはその条件より、さらに優先される項目がある。
『煙草を吸わない人』
『日本人苗字ランキング、上位の人。ただし鈴木は不可』
最初の項目は、嫌煙家である私の事を皆知っているだけに、誰もが納得してくれる。しかし二つ目は皆は苦笑いする。
「タバちゃんの場合、その苗字が絶滅危惧種なんだから! 逆に婿をとってでも守った方が良いよ」
といったような、無責任な事を言ってくる。
私の苗字が『煙草』という非常に珍しいモノだからだ。『小鳥遊』と書いて『たかなし』。そんなトンチが効いて素敵な名前なら良かった。
しかし『百害あって一利なし』な『煙草』が名前ってどうしたものかと思う。しかも私が嫌煙家であるから尚更である。
「いえいえ、私はこの世からスモーカーと煙草の名を殲滅する為に生きていますから」
私の本気の決意を皆笑う。
「そして、佐藤さんとか、田中さんとかと、結婚する。それで、この珍名から、オサラバするのが、小学生からの夢なの!」
そう高らかに宣言した後に、受付の所で来客があった事に気が付く。スーツ姿のその人物は、シッカリ聞かれていたのかコチラを見て笑っている。
私の働いている職場にコーヒーサーバーを置いている会社の営業マンの清酒さん。
彼も冗談のようだが、『清酒』が本当の苗字で、同じ悩みを抱える私の珍名仲間でもある。
珍名を持つもの同士ということで意気投合し、仕事の後に一緒に食事をしたりして結構仲は良い。
清酒さんは、この名前の癖にお酒がいっさい飲めない。だからディナーと言っても本当にご飯食べて会話を楽しむという平和な関係。
「マメゾンの清酒です。今日は、新しい味のご紹介も兼ねて立ち寄ったのですが、珈琲豆の在庫とか、大丈夫でしょうか?」
私の恥ずかしい宣言はスルーしてくれたようでホッとする。ニッコリと営業用スマイルで声かけてくる。私も業務用の表情を作って挨拶をする。
「珈琲はまだ大丈夫ですが、フィルターとカップが少なめで……」
そう言いながら、給湯室に清酒さんを案内すると、ニコニコと清酒さんはついてくる。通い慣れた場所でもある事。清酒さんは勝手に棚を覗き在庫をチェックしていき、足りないものを補充していく。
「豆はまだありますが、かなり減りが早い感じですよね? どうします? 早めに追加お持ちしましょうか?」
その言葉に私は悩む。最近は会議などが多かった事もあり皆の珈琲の飲む機会も多かった。それだけに豆も消費されたのかもしれない。しかし、単なる平社員の私がどの程度の豆を追加注文するか決める訳にはいかない。私は悩んで黙り込む。
清酒さんは珈琲がなくなったまま放置されていたガラスのサーバーとフィルターケースを洗い始めた。そこにカバンから出したフィルターと粉をセットし、新しい珈琲を入れていく。
最後の一滴を飲んだ者が、新しい珈琲を煎れ直す決まり。それなのに一杯にもならない量を残して放置する人が結構いるのだ。そんなウチの職場の男衆とはえらい違いである。水が飛び散り汚れたキッチン周りも拭いて綺麗にする。
営業という職業柄もあるのだろうか? 清酒さんはスーツ姿も決まっていて、ラフな格好の多い職場にいると、知的に見えてくる。それに加え、こういう心遣いをみせた行動をするから紳士に感じる。
アフターファイブでは、タメ口になるが、ガサツな感じにはならない。それがこの人のキャラクターなのかもしれない。
彼の切れ長の目が、ガラスのサーバーに落ちていく様子を静かに見つめている。珈琲の香りが二人を包む。
「まあ、まだありますし、この新商品の味を試してから検討していただけたらいいですよ。無くなる前に電話いただけたらすぐに持ってまいりますから。
今淹れているのが春ブレンドです。かなり軽い口当たりになっているので、万人ウケしやすいかもしれませんね。タバさんは結構好きな味なのではないですか?」
いつも不思議に思っているのだが、清酒さんの淹れる珈琲は美味しい。同じこの珈琲メーカーで煎れてくれる筈なのにいつもより美味しく感じる。その事を素直に言うと、清酒さんは目を細めて嬉しそうに笑った。
「実はね、コツがあるんだ。始めに粉をセットした時に、下に垂れない程度にお湯を粉に垂らして少し蒸らす。その一手間で珈琲の味が格段に旨くなる」
狭い給湯室で二人っきりという事もあり、外で会っているときの言葉使いになってくる。
「へえ~そうなんだ! でもそれだけじゃないような気がする。清酒さん煎れる珈琲が美味しいのは」
清酒さんがフフと笑う。そしてふと笑いを引っ込める。
「ところでさ。さっきの話だけど、タバさんそんなに結婚したいの?」
スルーしてくれていたと思っていた話題を、清酒さんは持ち出してくる。私は盛大に大きなため息をついてから、肩をすくめる。
「結婚したいというよりも、煙草の苗字を捨てたいだけなの!」
散々、私の名前の事についての愚痴を聞いてきていた清酒さんは苦笑する。考えてみたら同じ珍名でも愚痴を言っているのは私だけ。清酒さんはそれを可笑しそうに聞いてくれていただけだ。
「まあその点、女性はいいよな、結婚したら名前を変えられるから」
確かに男性だったら、一生背負うしかない。その点は彼には同情をする。
私の哀れみの視線に気が付いて『ん?』という顔をするが、何故か悪戯気な顔で笑う。
「だったら、タバさん煙草の名を捨てて清酒になってみる?」
思いもしない言葉が清酒さんの口から飛び出した。
※ ※ ※
ちなみに、現在の苗字ランキングでは
佐藤さんが1位です
鈴木さんが2位
高橋さんが3位
田中さんが4位
渡辺さんが5位
伊藤さんが6位
山本さんが7位
中村さんが8位
小林さんが9位
となっています。さて、問題です十位は何でしょうか?
また何故か、煙草さんの中では、二位と三位の存在はスルーされています。その理由は追々と語っていけたらなと思っています。
イケメンであること? 長身であること? 優しさ? 包容力? 経済力?
感性が合い、一緒にいて楽しめる。それに加え上記の条件を充たしているなら、それにこしたことはない。
しかし、私にはその条件より、さらに優先される項目がある。
『煙草を吸わない人』
『日本人苗字ランキング、上位の人。ただし鈴木は不可』
最初の項目は、嫌煙家である私の事を皆知っているだけに、誰もが納得してくれる。しかし二つ目は皆は苦笑いする。
「タバちゃんの場合、その苗字が絶滅危惧種なんだから! 逆に婿をとってでも守った方が良いよ」
といったような、無責任な事を言ってくる。
私の苗字が『煙草』という非常に珍しいモノだからだ。『小鳥遊』と書いて『たかなし』。そんなトンチが効いて素敵な名前なら良かった。
しかし『百害あって一利なし』な『煙草』が名前ってどうしたものかと思う。しかも私が嫌煙家であるから尚更である。
「いえいえ、私はこの世からスモーカーと煙草の名を殲滅する為に生きていますから」
私の本気の決意を皆笑う。
「そして、佐藤さんとか、田中さんとかと、結婚する。それで、この珍名から、オサラバするのが、小学生からの夢なの!」
そう高らかに宣言した後に、受付の所で来客があった事に気が付く。スーツ姿のその人物は、シッカリ聞かれていたのかコチラを見て笑っている。
私の働いている職場にコーヒーサーバーを置いている会社の営業マンの清酒さん。
彼も冗談のようだが、『清酒』が本当の苗字で、同じ悩みを抱える私の珍名仲間でもある。
珍名を持つもの同士ということで意気投合し、仕事の後に一緒に食事をしたりして結構仲は良い。
清酒さんは、この名前の癖にお酒がいっさい飲めない。だからディナーと言っても本当にご飯食べて会話を楽しむという平和な関係。
「マメゾンの清酒です。今日は、新しい味のご紹介も兼ねて立ち寄ったのですが、珈琲豆の在庫とか、大丈夫でしょうか?」
私の恥ずかしい宣言はスルーしてくれたようでホッとする。ニッコリと営業用スマイルで声かけてくる。私も業務用の表情を作って挨拶をする。
「珈琲はまだ大丈夫ですが、フィルターとカップが少なめで……」
そう言いながら、給湯室に清酒さんを案内すると、ニコニコと清酒さんはついてくる。通い慣れた場所でもある事。清酒さんは勝手に棚を覗き在庫をチェックしていき、足りないものを補充していく。
「豆はまだありますが、かなり減りが早い感じですよね? どうします? 早めに追加お持ちしましょうか?」
その言葉に私は悩む。最近は会議などが多かった事もあり皆の珈琲の飲む機会も多かった。それだけに豆も消費されたのかもしれない。しかし、単なる平社員の私がどの程度の豆を追加注文するか決める訳にはいかない。私は悩んで黙り込む。
清酒さんは珈琲がなくなったまま放置されていたガラスのサーバーとフィルターケースを洗い始めた。そこにカバンから出したフィルターと粉をセットし、新しい珈琲を入れていく。
最後の一滴を飲んだ者が、新しい珈琲を煎れ直す決まり。それなのに一杯にもならない量を残して放置する人が結構いるのだ。そんなウチの職場の男衆とはえらい違いである。水が飛び散り汚れたキッチン周りも拭いて綺麗にする。
営業という職業柄もあるのだろうか? 清酒さんはスーツ姿も決まっていて、ラフな格好の多い職場にいると、知的に見えてくる。それに加え、こういう心遣いをみせた行動をするから紳士に感じる。
アフターファイブでは、タメ口になるが、ガサツな感じにはならない。それがこの人のキャラクターなのかもしれない。
彼の切れ長の目が、ガラスのサーバーに落ちていく様子を静かに見つめている。珈琲の香りが二人を包む。
「まあ、まだありますし、この新商品の味を試してから検討していただけたらいいですよ。無くなる前に電話いただけたらすぐに持ってまいりますから。
今淹れているのが春ブレンドです。かなり軽い口当たりになっているので、万人ウケしやすいかもしれませんね。タバさんは結構好きな味なのではないですか?」
いつも不思議に思っているのだが、清酒さんの淹れる珈琲は美味しい。同じこの珈琲メーカーで煎れてくれる筈なのにいつもより美味しく感じる。その事を素直に言うと、清酒さんは目を細めて嬉しそうに笑った。
「実はね、コツがあるんだ。始めに粉をセットした時に、下に垂れない程度にお湯を粉に垂らして少し蒸らす。その一手間で珈琲の味が格段に旨くなる」
狭い給湯室で二人っきりという事もあり、外で会っているときの言葉使いになってくる。
「へえ~そうなんだ! でもそれだけじゃないような気がする。清酒さん煎れる珈琲が美味しいのは」
清酒さんがフフと笑う。そしてふと笑いを引っ込める。
「ところでさ。さっきの話だけど、タバさんそんなに結婚したいの?」
スルーしてくれていたと思っていた話題を、清酒さんは持ち出してくる。私は盛大に大きなため息をついてから、肩をすくめる。
「結婚したいというよりも、煙草の苗字を捨てたいだけなの!」
散々、私の名前の事についての愚痴を聞いてきていた清酒さんは苦笑する。考えてみたら同じ珍名でも愚痴を言っているのは私だけ。清酒さんはそれを可笑しそうに聞いてくれていただけだ。
「まあその点、女性はいいよな、結婚したら名前を変えられるから」
確かに男性だったら、一生背負うしかない。その点は彼には同情をする。
私の哀れみの視線に気が付いて『ん?』という顔をするが、何故か悪戯気な顔で笑う。
「だったら、タバさん煙草の名を捨てて清酒になってみる?」
思いもしない言葉が清酒さんの口から飛び出した。
※ ※ ※
ちなみに、現在の苗字ランキングでは
佐藤さんが1位です
鈴木さんが2位
高橋さんが3位
田中さんが4位
渡辺さんが5位
伊藤さんが6位
山本さんが7位
中村さんが8位
小林さんが9位
となっています。さて、問題です十位は何でしょうか?
また何故か、煙草さんの中では、二位と三位の存在はスルーされています。その理由は追々と語っていけたらなと思っています。
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