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シティーロースト
理性が感情に追いつかない
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「本当に大丈夫かな?」
「どう見ても、普通に寝てるだけだろ!」
「そうかな?」
「119 の人も大丈夫といったんだろ?」
「うん、脈も呼吸も普通で叩くと反応あるって言ったら大丈夫だっていうけど」
「なら、大丈夫だろ!」
男性二人が会話している声で目を覚ます。見えてきたのは俺の部屋の天井。起き上がると頭がズキリと痛み顔をしかめる。
「あっ、正秀さん! 大丈夫?」
清瀬くんが心配そうに俺に近づいてくる。そして俺はもう一人俺の部屋にいる人物を見て失礼だがギョっとする。 彼の名前は鈴木翔。清瀬くんの所属している松川FC のフォワードの選手だ。日本代表にも選ばれている名ストライカー。年棒何千万というスーパープレイヤーである。何故そんな人物が俺の部屋にいるのか? 清瀬くんが呼んだのだろうが、よりにもよってなんでそんな大物呼んでくるか? 一度清瀬くんの結婚式で受付していたから顔合わせた事あるが、それだけの関係である。敢えていうなら応援しているチームのサポーターと中心選手という関係。
「良かった~目を覚まして! ビール缶持ったままに倒れていたから心配だったんだ」
「だから、言っただろ、危ない感じには見えないって! ったく」
当たり前だが、鈴木翔が怒っている。以前ウッカリ飲んでしまった時もぶっ倒れしまい救急車を呼ぶ騒ぎまでとなり周りを大慌てさせた前科がある。今回も俺が酒を呑んでしまった事で清瀬くんを動揺させたのだろう。それでいきなり見知らぬ人間の部屋に呼び出された鈴木翔にとっては迷惑以外何物でもない状況である。
「鈴木さん、なんか申し訳ありません。お騒がせして」
謝る俺に、鈴木翔さんは困った顔をして頭をかく。
「嫌、アンタは悪くないだろ。酒ダメな奴に呑ませたのも、ただ寝ているアンタに大騒ぎしたのもコイツ! 俺の仲間が迷惑かけて悪かった。それより大丈夫か? 身体は?」
逆に謝られ、心配される。
「ええ、少し頭痛いですが大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ありません」
そんな俺を見て、鈴木翔は男らしく笑う。頭は少しではなくガンガン痛いけどそう言っておく。だいたい酒飲んだ後、俺はこうなり二日程頭痛に苦しめられる。
「ヒデの友達っぽくないタイプだな」
そう言ってくる鈴木翔に笑ってしまう。確かにこんなサラリーマンタイプは珍しいだろう。
「彼の奥さんの会社の同僚なん――」「あーこんな時間ヤバい!」
俺の言葉を遮るように清瀬くんが叫ぶ。時計を見ると九時チョット前。
「翔さん! お願い今から俺達を成田空港まで送って! 車で来たんだよね?」
「はあ?」
鈴木翔は清瀬くん見て口をボカンと開ける。
「この人の恋人が、十一時五分の飛行機でアメリカ行っちゃうの! だから最後に会わせてあげたいの、お願い!! 早くしないと間に合わなくなる!」
そう言いながら、もう鈴木翔の腕を掴んで玄関ねと引っ張っていく。
「ったく、俺をアッシーに使うのってお前くらいだぞ!」
五分後俺は恐縮しながら、鈴木翔の車に乗っていた。鈴木翔は清瀬くんが俺に酒飲ませたせいで空港に行けなくなりお別れ出来なくなったと判断したようだ。チームメイトの犯したミスをフォローせねばと俺の断りの言葉も聞かず部屋から引っ張り出され車に放り込まれてしまった。流石高収入だけあり、良い車でシートの座り心地は良い。しかし居心地は別の意味で悪い。
「だって、友達の人生の一大事。何もしないなんて出来ないですよ!」
助手席で何故か威張るように清瀬くんはそう言い張る。妙に張り切る二人のせいで、俺は断る事も出来ない。とはいえ間に合うのかはかなり微妙なのでスマートフォンで経路を調べていた。
「しかし、飛行機の時間十一時過ぎだよな、車だととてもじゃないけど間に合わないぞ。今日は日曜日だから道路混んでいるだろうから」
冷静に同じこと思ったのだろう。鈴木翔はそう状況を分析した。
「本当に申し訳ありません。巻き込んでしまって。多分スカイライナーで行くのが一番早そうです。ですから日暮里でまで連れていっていただけたら助かります」
「やっぱ、そうだよな。オッケーそっち向かう! で、それで間に合うのか?」
俺はディスプレイを見つめフーと息を吐く。
「出発時間二十分前に到着で ……ギリギリですね」
かなり際どい。早目に出国手続きしていたらもう会えない。
「そりゃ、本当にギリギリだな」
「向かった事は伝えるし! 美奈に引き留めてもらうように書いといたから!」
「それは止めて! 彼女に迷惑だから!」
そう慌てて止めるが清瀬はニヤリとコチラを振り返って笑う。
「大丈夫! その辺りは旨く誤魔化してもらうように書いてある」
そう言って送信ボタン押してしまう。
俺は会ったところでどうするのか? どんな言葉を送るのか? なんの心の準備も出来ないまま日暮里に到着する。鈴木翔さんに『頑張れよ』と何に対してか分からないエールを送られながら駅に走りスカイライナーへと飛び込む。気持ちだけは初芽へと走るが。俺の理性がそのスピードが追いついて来ない。
愛していると伝えるのか、別れをキッチリ告げて応援の言葉を贈るのか。それ以前に会えるのか? 清瀬くんが色々話しかけてきてくれたが、俺はイッパイイッパイになっていてちゃんとした会話にならなかった。
そして電車は空港に到着する。
二人でターミナルに向かって走り出す。身分証明手続きの時間ももどかしく、人の溢れる空港内を突っ走る。気持ちも整理できないままに。迷いも何もなく、元々の運動神経の良い清瀬くんは華麗に人混みの中縫うように走っていくが、俺は人にぶつかりながらターミナルを走っていく。
NY行きの飛行機の出発ロビーが見えてくる。そこに鬼熊さんの姿が見える。鬼熊さんは走ってくる俺達の姿を見て驚きの表情をする。しかしその隣に初芽はおらず鬼熊さんは一人で立っていた。やはり遅かったようだ。ズット道中悩み考えてきたことも吹っ飛び、ただショックだけが身体に走り頭の中も真っ白になった。
「どう見ても、普通に寝てるだけだろ!」
「そうかな?」
「119 の人も大丈夫といったんだろ?」
「うん、脈も呼吸も普通で叩くと反応あるって言ったら大丈夫だっていうけど」
「なら、大丈夫だろ!」
男性二人が会話している声で目を覚ます。見えてきたのは俺の部屋の天井。起き上がると頭がズキリと痛み顔をしかめる。
「あっ、正秀さん! 大丈夫?」
清瀬くんが心配そうに俺に近づいてくる。そして俺はもう一人俺の部屋にいる人物を見て失礼だがギョっとする。 彼の名前は鈴木翔。清瀬くんの所属している松川FC のフォワードの選手だ。日本代表にも選ばれている名ストライカー。年棒何千万というスーパープレイヤーである。何故そんな人物が俺の部屋にいるのか? 清瀬くんが呼んだのだろうが、よりにもよってなんでそんな大物呼んでくるか? 一度清瀬くんの結婚式で受付していたから顔合わせた事あるが、それだけの関係である。敢えていうなら応援しているチームのサポーターと中心選手という関係。
「良かった~目を覚まして! ビール缶持ったままに倒れていたから心配だったんだ」
「だから、言っただろ、危ない感じには見えないって! ったく」
当たり前だが、鈴木翔が怒っている。以前ウッカリ飲んでしまった時もぶっ倒れしまい救急車を呼ぶ騒ぎまでとなり周りを大慌てさせた前科がある。今回も俺が酒を呑んでしまった事で清瀬くんを動揺させたのだろう。それでいきなり見知らぬ人間の部屋に呼び出された鈴木翔にとっては迷惑以外何物でもない状況である。
「鈴木さん、なんか申し訳ありません。お騒がせして」
謝る俺に、鈴木翔さんは困った顔をして頭をかく。
「嫌、アンタは悪くないだろ。酒ダメな奴に呑ませたのも、ただ寝ているアンタに大騒ぎしたのもコイツ! 俺の仲間が迷惑かけて悪かった。それより大丈夫か? 身体は?」
逆に謝られ、心配される。
「ええ、少し頭痛いですが大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ありません」
そんな俺を見て、鈴木翔は男らしく笑う。頭は少しではなくガンガン痛いけどそう言っておく。だいたい酒飲んだ後、俺はこうなり二日程頭痛に苦しめられる。
「ヒデの友達っぽくないタイプだな」
そう言ってくる鈴木翔に笑ってしまう。確かにこんなサラリーマンタイプは珍しいだろう。
「彼の奥さんの会社の同僚なん――」「あーこんな時間ヤバい!」
俺の言葉を遮るように清瀬くんが叫ぶ。時計を見ると九時チョット前。
「翔さん! お願い今から俺達を成田空港まで送って! 車で来たんだよね?」
「はあ?」
鈴木翔は清瀬くん見て口をボカンと開ける。
「この人の恋人が、十一時五分の飛行機でアメリカ行っちゃうの! だから最後に会わせてあげたいの、お願い!! 早くしないと間に合わなくなる!」
そう言いながら、もう鈴木翔の腕を掴んで玄関ねと引っ張っていく。
「ったく、俺をアッシーに使うのってお前くらいだぞ!」
五分後俺は恐縮しながら、鈴木翔の車に乗っていた。鈴木翔は清瀬くんが俺に酒飲ませたせいで空港に行けなくなりお別れ出来なくなったと判断したようだ。チームメイトの犯したミスをフォローせねばと俺の断りの言葉も聞かず部屋から引っ張り出され車に放り込まれてしまった。流石高収入だけあり、良い車でシートの座り心地は良い。しかし居心地は別の意味で悪い。
「だって、友達の人生の一大事。何もしないなんて出来ないですよ!」
助手席で何故か威張るように清瀬くんはそう言い張る。妙に張り切る二人のせいで、俺は断る事も出来ない。とはいえ間に合うのかはかなり微妙なのでスマートフォンで経路を調べていた。
「しかし、飛行機の時間十一時過ぎだよな、車だととてもじゃないけど間に合わないぞ。今日は日曜日だから道路混んでいるだろうから」
冷静に同じこと思ったのだろう。鈴木翔はそう状況を分析した。
「本当に申し訳ありません。巻き込んでしまって。多分スカイライナーで行くのが一番早そうです。ですから日暮里でまで連れていっていただけたら助かります」
「やっぱ、そうだよな。オッケーそっち向かう! で、それで間に合うのか?」
俺はディスプレイを見つめフーと息を吐く。
「出発時間二十分前に到着で ……ギリギリですね」
かなり際どい。早目に出国手続きしていたらもう会えない。
「そりゃ、本当にギリギリだな」
「向かった事は伝えるし! 美奈に引き留めてもらうように書いといたから!」
「それは止めて! 彼女に迷惑だから!」
そう慌てて止めるが清瀬はニヤリとコチラを振り返って笑う。
「大丈夫! その辺りは旨く誤魔化してもらうように書いてある」
そう言って送信ボタン押してしまう。
俺は会ったところでどうするのか? どんな言葉を送るのか? なんの心の準備も出来ないまま日暮里に到着する。鈴木翔さんに『頑張れよ』と何に対してか分からないエールを送られながら駅に走りスカイライナーへと飛び込む。気持ちだけは初芽へと走るが。俺の理性がそのスピードが追いついて来ない。
愛していると伝えるのか、別れをキッチリ告げて応援の言葉を贈るのか。それ以前に会えるのか? 清瀬くんが色々話しかけてきてくれたが、俺はイッパイイッパイになっていてちゃんとした会話にならなかった。
そして電車は空港に到着する。
二人でターミナルに向かって走り出す。身分証明手続きの時間ももどかしく、人の溢れる空港内を突っ走る。気持ちも整理できないままに。迷いも何もなく、元々の運動神経の良い清瀬くんは華麗に人混みの中縫うように走っていくが、俺は人にぶつかりながらターミナルを走っていく。
NY行きの飛行機の出発ロビーが見えてくる。そこに鬼熊さんの姿が見える。鬼熊さんは走ってくる俺達の姿を見て驚きの表情をする。しかしその隣に初芽はおらず鬼熊さんは一人で立っていた。やはり遅かったようだ。ズット道中悩み考えてきたことも吹っ飛び、ただショックだけが身体に走り頭の中も真っ白になった。
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