44 / 115
シティーロースト
likeの意味で
しおりを挟む
何が楽しいかイマイチ分からないハロウィン騒ぎに街が盛り上がっていた十月も終わり、十一月に入り日本は少し落ち着きを取り戻す。
久しぶりに訪れたJayWalkerさんで煙草さんは、珍しく落ち込んでいた。というよりぶすくれているというのだろうか?
そして俺の顔みて申し訳なさそうに頭を下げる。
「清酒さん、申し訳ありません。私の力不足の為に」
俺は恐縮するふりをして頭を横にふる。
「いえいえ、逆に思った以上の健闘に驚いていた状態です」
納得行かないように俺をキッと見上げる。
「もうミスター珈琲は貰ったものと思っていたのに」
俺がなれる筈もないのに、煙草さんは絶対に俺がミスター珈琲となれると信じていたようだ。
「珈琲ならばいくらでも奢りますから、そんなに落ち込まないで」
煙草さんはその言葉に慌てて首を振る。
俺は結局四位という結果となった。その他の上位の人が皆いわゆるアイドル顔のイケメン。その中でこの俺はかなり頑張ったと思う。投票した人にも抽選で二千円分の珈琲カードが当たるということで、それなりに盛り上がっていたこの企画。気楽に参加した人は、写真の情報だけで選ぶのだからそうなるのも当然なのかもしれない。男も所詮顔なのだ。
「違いますよ! 賞品が目当てではないんです! 清酒さんこそが相応しいと思ったから!!
だから取材で会う人に会う人に清酒さんの事をアピールして投票お願いして、頑張ったんですよ!」
どうりで、妙に俺に入れてくれたと言ってくれている人の人数を遥かに上回る程票数が多かった筈である。ここでそんな活動が行われていたとは。しかしミスター珈琲なんて称号そこまで価値あるものとも思えないのだが……。
「ありがとうございます。煙草さん気持ちはすごく嬉しいです。
煙草さんのように俺がミスター珈琲と見てくれる人がいると思うとそれが良い刺激になって、これからも頑張らないという初心に戻れましたよ」
俺がそう言うと、煙草さんはハッとした顔をして照れる。
「いえ、逆ですよ。清酒さんと話すと私も、仕事をバリバリする元気もらえるんです」
恐らくこの子は、俺だけでなく色んな物から刺激をうけたり、楽しんだりしてエネルギーをチャージしているんだろうなと思う。
「本当の事です。この企画の時に、ちょっと怪我してしまったという事があっただけに、あの投票コメントの数々にものすごく力付けられたというか、助けられました」
あのコメントの数々は、本当に俺にとって大きな衝撃だった。あんな風に仕事において胸が熱くなった瞬間なんて無かったかもしれない。改めて営業の仕事というのを客観的に感じる事ができたし、俺なりに色々考えさせられた。
この時期にあったミスター珈琲のイベントは俺にとって、思っていた以上にその意味は大きかったかもしれない。うっかりそういう事を漏らしてしまった俺に煙草さんはフワリと笑う。
「私が推薦したのは清酒さんが素敵な人で、大好きだからなんです」
俺は思わずその言葉に固まってしまう。
「私だけじゃなくみんなも、清酒さんが大好きなんですよ! だからそういった言葉を清酒さんに向けて送ったんだと思います」
『like』の意味の好きという言葉は彼女の口癖のようなものというのを思い出す。一瞬でも変に考えた自分が少し恥ずかしくなる。
煙草さんはこういう天然なところがある。しかしそこが彼女の最大の魅力。
女の子らしいけど女っぽくはない。そこがこういう仕事においても話がしやすい所がある。男に媚売ってくるような相手だと、こうも俺もこうも気楽に会話を楽しめてないだろう。とはいえそのストレートすぎる言葉には戸惑う事も多い。
「あ、ありがとうございます」
煙草さんはこういう性格だからだろう。人の懐に飛び込む事が上手い。その為に、顧客を俺に紹介してくれる事もある。それは美容院だったり、設計事務所だったりと大口相手ではなかったものの、面白い世界との付き合いを広げることが出来ていた。しかしその時に彼女は俺をどのような言葉で薦めていたのだろうか? 今考えると怖い所がある。俺は実は高く上げられていたハードルの場所に知らずに踏み込んでいたのかもしれない。
「しかしあんな人が、ミスター珈琲なんて納得できません!」
まだ文句いっている煙草さんに笑ってしまう。
「いやいや、この子は実際ミスター珈琲の前にも、ブラジル君はこの子の方がピッタリだ! と評判になっていた人物なのですよ」
煙草さんはキョトンとした顔をする。
「まあ、マスコットのブラジル君には似ているかもしれませんが……。珈琲じゃなくてココアとかチョコレートドリンクというイメージよね」
ハハハと笑ってしまう。ミスター珈琲になった人物は、見た目は、女の子みたいなカワイイ男の子。確かに珈琲なイメージではない。
「まあ、そういう意味ではそうかもしれませんが……」
眉を寄せたその顔も、なんか惚けた感じで可愛らしい。
「ウチの会社では納得の結果なんですが。その子実はそう見えてタダモノではないですし。その子がいるとその店の売り上げが大幅にアップするという」
『そうなんですか』と興味なさげに煙草さんは呟いた。俺も白鶴部長に話聞いてなければ興味もなかったと思うが『伝説のバイト君』がまさかこういうタイプだとは思わなかった。とはいえ俺もコレがそうなのと思っただけでそれ以上の興味もなかったので話はまた別の話題へと移りそのままこのミスター珈琲の事は頭の奥へと追いやってしまった。そして別の雑談を楽しみ煙草さんと別れて会社へと戻る事にした。
久しぶりに訪れたJayWalkerさんで煙草さんは、珍しく落ち込んでいた。というよりぶすくれているというのだろうか?
そして俺の顔みて申し訳なさそうに頭を下げる。
「清酒さん、申し訳ありません。私の力不足の為に」
俺は恐縮するふりをして頭を横にふる。
「いえいえ、逆に思った以上の健闘に驚いていた状態です」
納得行かないように俺をキッと見上げる。
「もうミスター珈琲は貰ったものと思っていたのに」
俺がなれる筈もないのに、煙草さんは絶対に俺がミスター珈琲となれると信じていたようだ。
「珈琲ならばいくらでも奢りますから、そんなに落ち込まないで」
煙草さんはその言葉に慌てて首を振る。
俺は結局四位という結果となった。その他の上位の人が皆いわゆるアイドル顔のイケメン。その中でこの俺はかなり頑張ったと思う。投票した人にも抽選で二千円分の珈琲カードが当たるということで、それなりに盛り上がっていたこの企画。気楽に参加した人は、写真の情報だけで選ぶのだからそうなるのも当然なのかもしれない。男も所詮顔なのだ。
「違いますよ! 賞品が目当てではないんです! 清酒さんこそが相応しいと思ったから!!
だから取材で会う人に会う人に清酒さんの事をアピールして投票お願いして、頑張ったんですよ!」
どうりで、妙に俺に入れてくれたと言ってくれている人の人数を遥かに上回る程票数が多かった筈である。ここでそんな活動が行われていたとは。しかしミスター珈琲なんて称号そこまで価値あるものとも思えないのだが……。
「ありがとうございます。煙草さん気持ちはすごく嬉しいです。
煙草さんのように俺がミスター珈琲と見てくれる人がいると思うとそれが良い刺激になって、これからも頑張らないという初心に戻れましたよ」
俺がそう言うと、煙草さんはハッとした顔をして照れる。
「いえ、逆ですよ。清酒さんと話すと私も、仕事をバリバリする元気もらえるんです」
恐らくこの子は、俺だけでなく色んな物から刺激をうけたり、楽しんだりしてエネルギーをチャージしているんだろうなと思う。
「本当の事です。この企画の時に、ちょっと怪我してしまったという事があっただけに、あの投票コメントの数々にものすごく力付けられたというか、助けられました」
あのコメントの数々は、本当に俺にとって大きな衝撃だった。あんな風に仕事において胸が熱くなった瞬間なんて無かったかもしれない。改めて営業の仕事というのを客観的に感じる事ができたし、俺なりに色々考えさせられた。
この時期にあったミスター珈琲のイベントは俺にとって、思っていた以上にその意味は大きかったかもしれない。うっかりそういう事を漏らしてしまった俺に煙草さんはフワリと笑う。
「私が推薦したのは清酒さんが素敵な人で、大好きだからなんです」
俺は思わずその言葉に固まってしまう。
「私だけじゃなくみんなも、清酒さんが大好きなんですよ! だからそういった言葉を清酒さんに向けて送ったんだと思います」
『like』の意味の好きという言葉は彼女の口癖のようなものというのを思い出す。一瞬でも変に考えた自分が少し恥ずかしくなる。
煙草さんはこういう天然なところがある。しかしそこが彼女の最大の魅力。
女の子らしいけど女っぽくはない。そこがこういう仕事においても話がしやすい所がある。男に媚売ってくるような相手だと、こうも俺もこうも気楽に会話を楽しめてないだろう。とはいえそのストレートすぎる言葉には戸惑う事も多い。
「あ、ありがとうございます」
煙草さんはこういう性格だからだろう。人の懐に飛び込む事が上手い。その為に、顧客を俺に紹介してくれる事もある。それは美容院だったり、設計事務所だったりと大口相手ではなかったものの、面白い世界との付き合いを広げることが出来ていた。しかしその時に彼女は俺をどのような言葉で薦めていたのだろうか? 今考えると怖い所がある。俺は実は高く上げられていたハードルの場所に知らずに踏み込んでいたのかもしれない。
「しかしあんな人が、ミスター珈琲なんて納得できません!」
まだ文句いっている煙草さんに笑ってしまう。
「いやいや、この子は実際ミスター珈琲の前にも、ブラジル君はこの子の方がピッタリだ! と評判になっていた人物なのですよ」
煙草さんはキョトンとした顔をする。
「まあ、マスコットのブラジル君には似ているかもしれませんが……。珈琲じゃなくてココアとかチョコレートドリンクというイメージよね」
ハハハと笑ってしまう。ミスター珈琲になった人物は、見た目は、女の子みたいなカワイイ男の子。確かに珈琲なイメージではない。
「まあ、そういう意味ではそうかもしれませんが……」
眉を寄せたその顔も、なんか惚けた感じで可愛らしい。
「ウチの会社では納得の結果なんですが。その子実はそう見えてタダモノではないですし。その子がいるとその店の売り上げが大幅にアップするという」
『そうなんですか』と興味なさげに煙草さんは呟いた。俺も白鶴部長に話聞いてなければ興味もなかったと思うが『伝説のバイト君』がまさかこういうタイプだとは思わなかった。とはいえ俺もコレがそうなのと思っただけでそれ以上の興味もなかったので話はまた別の話題へと移りそのままこのミスター珈琲の事は頭の奥へと追いやってしまった。そして別の雑談を楽しみ煙草さんと別れて会社へと戻る事にした。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
夫の親友〜西本匡臣の日記〜
ゆとり理
現代文学
誰にでももう一度会いたい人と思う人がいるだろう。
俺がもう一度会いたいと思うのは親友の妻だ。
そう気がついてから毎日親友の妻が頭の片隅で微笑んでいる気がする。
仕事も順調で金銭的にも困っていない、信頼できる部下もいる。
妻子にも恵まれているし、近隣住人もいい人たちだ。
傍から見たら絵に描いたような幸せな男なのだろう。
だが、俺は本当に幸せなのだろうか。
日記風のフィクションです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる