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ライトロースト

酒宴は続く

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 大学時代は、彼女同伴で友人と会うという事をよくしていた。大学という集団の中で自然に発生した恋愛だったから、そのままの人間関係が自然に続けられた為というのもあるのかもしれない。しかし社会人になってからはその彼女とも別れ、友人それぞれが忙しくなった事もあり、わざわざ友人とそれぞれの彼女と時間合わせてまでという事もなくなってしまった。それだけに、鬼熊さんと、鬼熊さんの彼氏との呑み会は、懐かしいようでいて新鮮だった。鬼熊さんが俺と初芽双方の知り合いだから自然にそう言う流れも出来たのだろうが、この中で最も知り合いが少ない鬼熊さんの彼氏である清瀬くんが一番居心地悪いのだろう。しかしというか、だからというか、この場においては彼が話題の中心になっていた。初芽はあまり自分の事を語るタイプではないし、俺があえてこの場で初芽と鬼熊さんに話したいこともない。むしろ自分にとって未知の業種であるプロサッカー選手である清瀬くんに話を聞きたくて、俺が積極的に話をふった結果でもある。それに言葉を投げ掛けたら、ポンポンと気持ちよく反応と答えを返してくれるからいじりやすかったとも言える。そして話は盛り上がりすぎて、気が付けばすっかり日も暮れていても話題は尽きずまだまだ呑み続けている。もってきたワイン三本はもうとっくに空けてしまい。日本酒とウィスキーと、呑むお酒が変わっていっている。俺は一人素面で過ごすのも、ややキツくなってきていた。

「昨年のヒデくんのアレ、素敵だった!」
 初芽はアルコール入ってきた所為か、普段よりテンションがかなり高くなっている。俺をバンバンと叩いたり、抱き付いてゆすったりと、立派な酔っ払いである。
 昨年二人でたまたまテレビで放映されていたのを観たのが彼が活躍した試合だった。それをおそらく彼女は言っているのだろうと、俺は検討つける。
「あの雨の中の君の激しいオーバーラップからのゴール、凄かったよな」
 俺の補足の言葉に、清瀬くんは照れながらも嬉しそうに笑う。彼も顔がお酒の所為で赤く、その表情もますます無邪気なモノとなっている。
 その試合で彼は雨の中、敵選手からボールを奪いそれを自らドリブルで持ち上がり、フォワードにパスし、そのままゴール前につめてフォワードのシュートがポストに跳ね返った所をゴールに捩じ込んだ。確かにアレは最高に恰好良かった。あんなガムシャラなプレーをしている男と同じにはおもえない程、今は鬼熊さんにもたれたり甘えるしぐさをとり可愛くなっている。
「ありがとうございます!」
 ニッカリと笑っていた清瀬くんの顔が、ふと真顔に戻りため息をつく。感情のふり幅が大きくなっているのもお酒の所為のようだ。
「でもあの試合点数取られたの俺のせいだっし……、」
 その試合は土砂降りの中での試合だった。ぬかるんだ中で相手フォワードと激しい攻防をしていて滑って転んだだけなのに、ファールをとられ相手にPKを与えてしまった。その事を言っているのだろう。
「あれはヒデくんのせいではない! 審判がバカなの~!」
 初芽はそう力説して机を叩くが清瀬くんは首をふる。彼は実力世界で生きている人物にありがちな、自己愛の強いタイプではないようだ。こうして誉められても、それを自慢して誇るという事をしない。かといって卑屈な訳でもなく、表情の明るさと口調のテンションの高さの割に話している内容が冷静である。
「だからといって、俺がチームのピンチを作ったのには変わりない。それにあのまま終わるのは癪だったし! だからやってやりましたよ!!」
 自分が招いた失点を何が何でも自分で挽回する。見た目の幼さとは異なり、かなり男臭い内面を感じた。その目標実現意欲の強さに、ちょっと羨ましさを感じる。
「でも、MVPは君だったという事は、それが評価なのでは?」
 俺の言葉に清瀬くんは苦笑する。
「決勝点決めた人が貰うもんっすから!」
 そして清瀬くんは、宙に視線を動かし何かを思い出したよにフフフフと笑う。
「それにあの時の主役、うちのマスコットに持っていかれちゃったし!」
 その言葉に三人ともブブっと噴き出してしまう。その試合は彼の所属する松川FCの勝利よりも、チームに所属するマスコットが試合後の式典で大転倒した事が話題になってしまったからだ。その転けっぷりが、宙に一回浮いてから回転しながらの落下とあまりにも派手で、ドラマチックというか絵的に見事であったから、しばらくTVやネットを賑わしていた。
「中の人、本当に大丈夫だったの?」
 初芽の質問に清瀬くんは思い出し笑いをしながら頷く。
「しばらく包帯していましたけどね~。あれ以来、ドルフィーくんの時は俺に絡んできてくれるんですよね~。
 Twitterでも俺との思い出、あることないこと語り、『ヒデの事大好き!』なんて事しきりに書いてくるから。お陰でドルフィーくんと彼女のドルフィーナちゃんと俺で三角関係になっているとからかわれてますよ! 言っちゃえばあちらの二体の中の人は男! つまり三人とも男で寒くないっすか? モーホーな三角関係って! しかも相手が人間でないし!」
 広報としては、MVPの勇姿を台無しにしたことを申し訳なく思い気を遣ったのだろう。しかしそれだけ構われているという所は、広報からも慕われているのだと感じた。ついその事を口にすると、清瀬くんは顔を真っ赤にする。
「そんなことないっすよ。弄りやすいだけで。清酒さんみたいにシュッとしてクールにカッコいいタイプだと絶対、そんな感じで弄られないっすよね~? 清酒さんの仕事している姿ってどんな感じなんすか! すっげ~聞いてみたい」
 いきなり話の矛先が俺に向けられる。性格なのだろうが、しっかり相手の顔見て話してくる人物なようだ。しかも社交辞令の煽てという感じで聞いてきたようではなく、「どうなんすか? どうなんすか?」と更に聞いてくるので、適当な相槌のようなごまかしの言葉をかえせず言葉に詰まり無意味に見つめあう。
 清瀬くんの瞳が、好奇心で輝いている。そんな彼のように人を楽しませるような仕事をしていない俺はどうしたものかと悩む。
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