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道は同じ 15
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「やっほー。来ちゃった」
驚いて僕は声が出なかった。まさか、野本の方が先にいるなんて。
いや待てよ。それはおかしいだろ。野本は、僕の知っている限りでは、亜難市に住んでいる。よほどの用事がなければ、こっちには来ないはずだ。ましてや、僕より先に駅に着くなんて、登久島駅にでもいない限り不可能だ。登久島駅以外でも、近くの駅にいるのなら可能だけど、1つは県庁に行くのに最寄りで、もう1つは住宅街が最寄りで、どちらとも共通しているのは、ろくな遊び場のないことだ。そんな場所によほどの用事があるとは思えない。それにそんな都合よく電車があるとも思えない。こんな片田舎の昼間の便は、せいぜい1時間に3、4本くらいだろ。4本だった場合、約25分に1回のペースだぞ。そう簡単に合ったりしないだろ。考えられるのは、僕の居場所を誰かから事前に聞いていたと言うことだろう。言いそうな奴には1人だけ心当たりがあるが、本人もここまで悪用をされているとは思ってもいないことだろう。それに、出身中学校を知っていれば、大体の駅は特定できる。どちらにしろ、野本の行動力を甘く見ていた。2回も人殺しをするやつが、そんな簡単なことをできないわけがなかった。まあ、家を知られているわけじゃないから、まだいいとしよう。いずれは家もバレるだろう。実家には親がいるから、迷惑はかけられない。だからと言って、引っ越しもそう簡単にはできない。もしかして、進学先は親まで騙す必要があるか。ああ、余計なことを考えすぎて、頭が痛い。
「颯太、大丈夫?」
「ああ、ごめん大丈夫だよ」
「顔色悪いよ。もしかして体調不良だった?」
それはきっと、野本とこうして対面しているからだろう。僕には野本が思っている感情とは違った、変な緊張感がある。そんなことを考えているだけで吐きそになってきた。トイレにでも行って今だけは逃げようか。
「大丈夫。それよりも、今日はどうするの?」
「うーん。特に考えていなかったな。ねえ、この辺で遊べる場所とかないの?」
遊ばずに帰ると言う選択肢はなさそうだ。
「この辺はないね。大学方面に行けば、何ヶ所かあるけど、徒歩だと難しいかな」
できるだけ僕の家からは遠くで遊ばないと。
「田舎だから仕方ないね。この辺公園とかはないの?」
「ほとんど住宅街だから、公園は近くにはないかな。これも大学方面か若しくは登久島方面に行かないとないね」
家の近くに公園と呼べるのか、と言う小さな滑り台とベンチしかない公園ならあるが、流石に案内はできない。
「そっか。じゃあ、自転車の後ろ乗せて」
「え⁉︎ ま、まだ、誰も乗せたことはないから、ちょっと不安。練習させてもらってからでもいい?」
「えー、仕方ないな。じゃあ、駅の中で語ろう」
「そうだね……」
それはそれでしんどいが、家にならなくて本当によかった。と言うか、今の僕には野本と語り合うほど余裕はない。話題もないし、隣に座られるとか、恐怖以外の何ものでもない。
「ねえ、何か面白い話をして」
でたよ。
こういうやつはすぐそんなことを言う。話すことに困ったら、すぐ人任せに言う。言われたって、こっちだって持ち合わせてないし、話の内容が面白くなければ、蛙化とか言って切り捨てて。何も話すことがないのなら呼び出すなよ。お前が何を面白いと思うかなんて、未だに分からないんだ。
ここは思い切って話題を変えよう。面白そうな話を考えるのが面倒だ。
「それよりも質問いい?」
「え⁉︎ あ、うん、いいよ。でも何で?」
「お互いまだ出会ったばっかで、知らないことの方が多いだろ? だから……もっと知りたいなって思って……」
過去に戻って来る前は平気で何度でも、野本のことを下の名前で呼んでいたけど、今だけはどうしても口が動かない。
「確かに。私も颯太のことをもっと知りたいな……」
僕はお前のことなら、好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きな歌に趣味まで大体知っている。何度も問題のように出されたし、間違えれば口を聞かないなんてことも多々あった。本当にめんどくさい性格だったよ。それがまたこうして、付き合うことになるとは。本当は付き合いたくなかったけど、生存のために仕方なくだ。
「じゃあ、交互に質問していこうよ」
「いいね。じゃあ、颯太から。どうぞ!」
「うーん。そうだな。ベタだけど、好きな食べ物は?」
答えは、フルーツ全般だ。
「うーん、好きな食べ物ね。難しいな……果物……フルーツは全般的に好きかな」
そこは変わらないんだな。
戻って来る前も、いつ訊いてもそれしか言わなかった。具体的なフルーツの名前が知りたかったのに、何も教えてくれなかった。
「じゃあ、今度は私の番だね。でも、私も颯太の好きな食べ物気になる。同じ質問になってしまうから、訊いた人も答えるのはどう?」
「それもそうだね。じゃあ、僕の好きな食べ物か。そうだな……ホットドッグにしておこう」
「へえーホットドッグが好きなんだ」
野本はホットドッグが苦手だ。食べられないわけじゃないけど、ホットドッグをわざわざ食べたいとは思わないらしい。僕はそっちの思考の方が分からない。
驚いて僕は声が出なかった。まさか、野本の方が先にいるなんて。
いや待てよ。それはおかしいだろ。野本は、僕の知っている限りでは、亜難市に住んでいる。よほどの用事がなければ、こっちには来ないはずだ。ましてや、僕より先に駅に着くなんて、登久島駅にでもいない限り不可能だ。登久島駅以外でも、近くの駅にいるのなら可能だけど、1つは県庁に行くのに最寄りで、もう1つは住宅街が最寄りで、どちらとも共通しているのは、ろくな遊び場のないことだ。そんな場所によほどの用事があるとは思えない。それにそんな都合よく電車があるとも思えない。こんな片田舎の昼間の便は、せいぜい1時間に3、4本くらいだろ。4本だった場合、約25分に1回のペースだぞ。そう簡単に合ったりしないだろ。考えられるのは、僕の居場所を誰かから事前に聞いていたと言うことだろう。言いそうな奴には1人だけ心当たりがあるが、本人もここまで悪用をされているとは思ってもいないことだろう。それに、出身中学校を知っていれば、大体の駅は特定できる。どちらにしろ、野本の行動力を甘く見ていた。2回も人殺しをするやつが、そんな簡単なことをできないわけがなかった。まあ、家を知られているわけじゃないから、まだいいとしよう。いずれは家もバレるだろう。実家には親がいるから、迷惑はかけられない。だからと言って、引っ越しもそう簡単にはできない。もしかして、進学先は親まで騙す必要があるか。ああ、余計なことを考えすぎて、頭が痛い。
「颯太、大丈夫?」
「ああ、ごめん大丈夫だよ」
「顔色悪いよ。もしかして体調不良だった?」
それはきっと、野本とこうして対面しているからだろう。僕には野本が思っている感情とは違った、変な緊張感がある。そんなことを考えているだけで吐きそになってきた。トイレにでも行って今だけは逃げようか。
「大丈夫。それよりも、今日はどうするの?」
「うーん。特に考えていなかったな。ねえ、この辺で遊べる場所とかないの?」
遊ばずに帰ると言う選択肢はなさそうだ。
「この辺はないね。大学方面に行けば、何ヶ所かあるけど、徒歩だと難しいかな」
できるだけ僕の家からは遠くで遊ばないと。
「田舎だから仕方ないね。この辺公園とかはないの?」
「ほとんど住宅街だから、公園は近くにはないかな。これも大学方面か若しくは登久島方面に行かないとないね」
家の近くに公園と呼べるのか、と言う小さな滑り台とベンチしかない公園ならあるが、流石に案内はできない。
「そっか。じゃあ、自転車の後ろ乗せて」
「え⁉︎ ま、まだ、誰も乗せたことはないから、ちょっと不安。練習させてもらってからでもいい?」
「えー、仕方ないな。じゃあ、駅の中で語ろう」
「そうだね……」
それはそれでしんどいが、家にならなくて本当によかった。と言うか、今の僕には野本と語り合うほど余裕はない。話題もないし、隣に座られるとか、恐怖以外の何ものでもない。
「ねえ、何か面白い話をして」
でたよ。
こういうやつはすぐそんなことを言う。話すことに困ったら、すぐ人任せに言う。言われたって、こっちだって持ち合わせてないし、話の内容が面白くなければ、蛙化とか言って切り捨てて。何も話すことがないのなら呼び出すなよ。お前が何を面白いと思うかなんて、未だに分からないんだ。
ここは思い切って話題を変えよう。面白そうな話を考えるのが面倒だ。
「それよりも質問いい?」
「え⁉︎ あ、うん、いいよ。でも何で?」
「お互いまだ出会ったばっかで、知らないことの方が多いだろ? だから……もっと知りたいなって思って……」
過去に戻って来る前は平気で何度でも、野本のことを下の名前で呼んでいたけど、今だけはどうしても口が動かない。
「確かに。私も颯太のことをもっと知りたいな……」
僕はお前のことなら、好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きな歌に趣味まで大体知っている。何度も問題のように出されたし、間違えれば口を聞かないなんてことも多々あった。本当にめんどくさい性格だったよ。それがまたこうして、付き合うことになるとは。本当は付き合いたくなかったけど、生存のために仕方なくだ。
「じゃあ、交互に質問していこうよ」
「いいね。じゃあ、颯太から。どうぞ!」
「うーん。そうだな。ベタだけど、好きな食べ物は?」
答えは、フルーツ全般だ。
「うーん、好きな食べ物ね。難しいな……果物……フルーツは全般的に好きかな」
そこは変わらないんだな。
戻って来る前も、いつ訊いてもそれしか言わなかった。具体的なフルーツの名前が知りたかったのに、何も教えてくれなかった。
「じゃあ、今度は私の番だね。でも、私も颯太の好きな食べ物気になる。同じ質問になってしまうから、訊いた人も答えるのはどう?」
「それもそうだね。じゃあ、僕の好きな食べ物か。そうだな……ホットドッグにしておこう」
「へえーホットドッグが好きなんだ」
野本はホットドッグが苦手だ。食べられないわけじゃないけど、ホットドッグをわざわざ食べたいとは思わないらしい。僕はそっちの思考の方が分からない。
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