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道は同じ 12
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「おはようございます。井上颯太さん。貴方は本日、2019年12月13日金曜日、午後07時04分45秒に死亡いたしました。享年は16歳です」
聞き覚えのある声を聞いて思わず反論した。
「何でだよ! 何で前回よりも早くに死んでいるんだよ! これじゃあ、やり直した意味がないじゃないか!」
尾形は何一つ表情を変えることなく僕に言った。
「私どもは、あくまでサポートするだけでございます。どの道に進むかを決めるのは、井上様ご自身でございます」
「どうすればいいんだよ。何をしても野本に殺されるじゃないか。何度殺されればいいんだよ……」
「すみません。私どもは助言さえもできないお約束ですので、どうかよく考えて、ご自分で模索してください」
人任せだ。いや、僕の人生なんだから、僕が決めて当然なのか。頭を悩ませていたが、次第に諦める気持ちに変わっていた。
「もう終わりか僕の人生は……」
自分でも分かっていた。野本のことで調子に乗っていたことを。平穏に過ごすつもりが、野本を退学まで追い込んだこと。関わらないと決めていたのに、結局関わってしまった。僕の行き先は間違いなく地獄だ。
「そんな井上様に朗報です。前回私の説明不足がございましたので、もう一度過去に戻ることが可能になったのです。もう一度人生をやり直してみませんか」
「もう一度やり直すことができるのですか?」
今度こそは野本に関わらないように……。
「ええ。私のミスがございましたので、特別サービスです」
これは2度とないチャンスだ。今度こそ、野本を飼い慣らしてやる。
「それで、説明不足というのは何ですか?」
「それは、我々の報酬についてです。前回は話すことなく過去に送ってしまいましたので、この場で改めてお話しします。我々への報酬は金銭ではありません」
こんなことをしておいて金銭を取らないというのか。変な話だ。
「ええ実に変な話だと思います」
今僕は声に出していたか?
「いえ。ここは生と死の間に当たる空間なので、私には心の声が聞こえるのです」
「それも初耳だけど……」
「それは大変失礼いたしました。お詫びと言っては何ですが、井上様のご希望する日時に戻られるように融通させていただきます」
「へえ、それはありがたい」
希望する日時か。野本の告白を回避するには、文化祭付近に戻るのが一番手っ取り早いが、もうどこで何をしていれば、野本と遭遇しないのだ。策を打って2回目を挑んだのに、あっさりと出会ってしまったんだ。出会わない方法なんてもうない。あいつさえいなければ……。
「尾形さん。中学3年生の頃に戻ることはできますか?」
野本の進学先は熟知しているから、僕が進路を変えればいんだ。そうすれば、僕の人生において野本と出会うことさえない。
「大変残念ですが、戻られる過去は高校以後になります。前回までは、中学生に戻ることもできましたが、時空の歪みが激しくなっているので、近い過去にしか戻れなくなってしまっています」
これじゃあ野本に出会うことは確実か。出会わないようにすることはできないのか。野本と出会わないように……。
「尾形さん。僕を10月27日の午後11時頃に送ってください」
「分かりました。それでは過去に戻ってしまう前に、途中になっていた我々の報酬についてお話しましょう」
そう言えば、そんなことを言っていたな。野本のことで頭がいっぱいだったせいで、忘れていた。
「我々への報酬は、あなたの記憶です」
「記憶? ってことは、記憶を消されるってことですか?」
「いえ、記憶を消したりはしません。井上様の記憶をコピーさせていただきたいだけです。コピーされた記憶は、悪用したりはいたしません。データをとるだけのために使用いたします。ご了承がいただけない場合は、契約破棄になりますが、どうされますか?」
そんなの決まっている。たかが記憶のコピーだ。記憶を消されるわけじゃないのに断る人間はいるのか。代償が安すぎる賭けに出ない人なんていない。
「大丈夫です。もう一度過去に戻らせてください」
尾形は不気味な笑顔を僕に向けた。そして、前回と同じように。
「それではレッツスタートオーバー」
その言葉を聞いた途端、僕はまた激しい頭痛に襲われた。そして、気持ち悪さと同時に次第に視界は渦を巻くように暗闇に移り変わり、目を開けると、そこには見覚えのある天井が写っていた。壁のポスター、本棚の並べ方。間違いない、ここは僕の部屋だ。日時は、10月27日、午後11時13分。大体言った通りの時間だ。
尾形もやればできるのだな。
野本からの告白は1週間後。どうするのかはもう既に決めてある。この1週間は、前回との変化を確認するための時間だ。そもそも、植田はまた同じクラスにいるのか。とか、そうじゃない場合は、僕は誰と友達になっているのか。能見さんの一件もあったし、そっちも確認したいな。明日の学校で、全部確認しよう。変わっていることがあるのなら、更新しとかないと。
聞き覚えのある声を聞いて思わず反論した。
「何でだよ! 何で前回よりも早くに死んでいるんだよ! これじゃあ、やり直した意味がないじゃないか!」
尾形は何一つ表情を変えることなく僕に言った。
「私どもは、あくまでサポートするだけでございます。どの道に進むかを決めるのは、井上様ご自身でございます」
「どうすればいいんだよ。何をしても野本に殺されるじゃないか。何度殺されればいいんだよ……」
「すみません。私どもは助言さえもできないお約束ですので、どうかよく考えて、ご自分で模索してください」
人任せだ。いや、僕の人生なんだから、僕が決めて当然なのか。頭を悩ませていたが、次第に諦める気持ちに変わっていた。
「もう終わりか僕の人生は……」
自分でも分かっていた。野本のことで調子に乗っていたことを。平穏に過ごすつもりが、野本を退学まで追い込んだこと。関わらないと決めていたのに、結局関わってしまった。僕の行き先は間違いなく地獄だ。
「そんな井上様に朗報です。前回私の説明不足がございましたので、もう一度過去に戻ることが可能になったのです。もう一度人生をやり直してみませんか」
「もう一度やり直すことができるのですか?」
今度こそは野本に関わらないように……。
「ええ。私のミスがございましたので、特別サービスです」
これは2度とないチャンスだ。今度こそ、野本を飼い慣らしてやる。
「それで、説明不足というのは何ですか?」
「それは、我々の報酬についてです。前回は話すことなく過去に送ってしまいましたので、この場で改めてお話しします。我々への報酬は金銭ではありません」
こんなことをしておいて金銭を取らないというのか。変な話だ。
「ええ実に変な話だと思います」
今僕は声に出していたか?
「いえ。ここは生と死の間に当たる空間なので、私には心の声が聞こえるのです」
「それも初耳だけど……」
「それは大変失礼いたしました。お詫びと言っては何ですが、井上様のご希望する日時に戻られるように融通させていただきます」
「へえ、それはありがたい」
希望する日時か。野本の告白を回避するには、文化祭付近に戻るのが一番手っ取り早いが、もうどこで何をしていれば、野本と遭遇しないのだ。策を打って2回目を挑んだのに、あっさりと出会ってしまったんだ。出会わない方法なんてもうない。あいつさえいなければ……。
「尾形さん。中学3年生の頃に戻ることはできますか?」
野本の進学先は熟知しているから、僕が進路を変えればいんだ。そうすれば、僕の人生において野本と出会うことさえない。
「大変残念ですが、戻られる過去は高校以後になります。前回までは、中学生に戻ることもできましたが、時空の歪みが激しくなっているので、近い過去にしか戻れなくなってしまっています」
これじゃあ野本に出会うことは確実か。出会わないようにすることはできないのか。野本と出会わないように……。
「尾形さん。僕を10月27日の午後11時頃に送ってください」
「分かりました。それでは過去に戻ってしまう前に、途中になっていた我々の報酬についてお話しましょう」
そう言えば、そんなことを言っていたな。野本のことで頭がいっぱいだったせいで、忘れていた。
「我々への報酬は、あなたの記憶です」
「記憶? ってことは、記憶を消されるってことですか?」
「いえ、記憶を消したりはしません。井上様の記憶をコピーさせていただきたいだけです。コピーされた記憶は、悪用したりはいたしません。データをとるだけのために使用いたします。ご了承がいただけない場合は、契約破棄になりますが、どうされますか?」
そんなの決まっている。たかが記憶のコピーだ。記憶を消されるわけじゃないのに断る人間はいるのか。代償が安すぎる賭けに出ない人なんていない。
「大丈夫です。もう一度過去に戻らせてください」
尾形は不気味な笑顔を僕に向けた。そして、前回と同じように。
「それではレッツスタートオーバー」
その言葉を聞いた途端、僕はまた激しい頭痛に襲われた。そして、気持ち悪さと同時に次第に視界は渦を巻くように暗闇に移り変わり、目を開けると、そこには見覚えのある天井が写っていた。壁のポスター、本棚の並べ方。間違いない、ここは僕の部屋だ。日時は、10月27日、午後11時13分。大体言った通りの時間だ。
尾形もやればできるのだな。
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