9 / 22
道は同じ 9
しおりを挟む
「井上も変なやつに目をつけられているな。3組の友人にも一応野本の嘘だと思うって言っておくよ。俺は井上がそんなことをするやつじゃないって思っているから」
「ああ、ありがとう」
この噂が4組に来るまでにどれくらいかかるかが鍵だ。さっさと噂が広がる前に、僕のスマホは昨日の朝に壊れていると言うことを広めておこう。
トイレから教室に帰った僕は何人かの視線を浴びた。それは一瞬だったけど、この何人かは既に知っている可能性が高いな。それも女子が多い。女子に弁明をするのはほぼほぼ不可能だと思う。こうなれば、間接的に聞かせるしかないけど、それだけでは信じられんよな。どうにかして手を打ちたいが、今は打つてなしか。
「井上君。君スマホ壊したんだろ。どうだい、僕の華麗なパズル捌きは」
三河に話しかけられたが、こいつってこんなに性格の悪い奴だったか。でも、今の僕にはぴったりだ。
「くそ。お前、人がログインできていない時に、いい気になりやがって」
「水没なんてマジで終わってんな」
自分で作った設定なのに、時折、水没したと言うことを忘れそうになる時がある。
「あ、ああ、そうなんだよ。最悪すぎて、昨日は部屋から出られなかったよ」
トイレ終わりの僕に、視線を向けた女子ども聞いているか。僕は、野本とは会っていない。全て野本の嘘なのだ。
こんなことでは信用には値しないだろう。それでも、野本を陥れるためには十分だ。
1時間目が終わって、10分間の休み時間。僕を見る人が明らかに増えていた。噂は徐々にだけど広まりつつある。思ったより早く、噂が広まるかもしれない。だとしても、取れる行動は同じだ。植田と同じ道を歩むわけにはいかない。
2時間目が終わった休み時間。僕はとうとう女子に呼ばれた。それも、うちのクラスで1番大きなグループを形成している、代表格の根岸に。
話す内容は大抵分かっている。どうせ野本のことだろう。
「3組の女子に聞いたんだけど、告白して振られて、暴力を振るったって本当?」
ほら、やっぱり。
さて、どう答えたものか。最初から全否定をしても、信頼がない僕の言葉なんて、簡単には信じられないだろう。
「3組の女子? 僕、そもそも3組に友達すらいないんだけど……それに、昨日スマホが壊れたせいで、何もやる気が起きなかったし、人違いじゃないかな」
自虐を交えることで、気の張った空気を和らげ、やんわりとした空気の中に、しっかりとした否定を織り交ぜる。信用のない僕でも、真実を言っている可能性があると思わせることができる。
「だよね。3組の女子なんて碧ちゃん以外にいないもんね」
それは少し違う気がするが、ここは頷いておく。
「あんな完璧な子、好きにならない人はいないよね」
何とか話を穏便に終わらせることができたが、まだ完璧に誤解が解けたわけない。野本自身が仕掛けてくる可能性もあるから、警戒は怠らないようにしないと。
放課後までの休み時間に、僕を視線を向ける人は徐々に増えていってたが、根岸に呼ばれて以降、僕に直接話を聞いてくる人はいなかった。
放課後、僕はまたしても根岸に呼び出された。それも野本と植田の、いわくつき場所。体育館裏だ。根岸の隣には、見たこともない女子がいるし。
「あ、あの……話って何かな? 2時間目の時に話せることは話したけど……」
やはり信用のない僕の言葉では、信じるには値しなかったのか。これは厄介かもしれないな。
「井上に聞きたいことがあってな。この子のこと知っている?」
「いや。ごめん、知らない」
おかしいな。よくよく考えてみれば、僕は過去に戻って来たのだから、知らない人間なんていないはず。だけど、本当に知らない人間だ。
「この子、能見って言うんだけど……」
そう言えばそんな女子がいたな。一度も同じクラスになることはなかったから、顔をほとんど覚えていないけど、こんな顔だったけ? 僕の記憶上では眼鏡を掛けて、黒髪長髪で、地味な感じだった気がする。でも今は違う。眼鏡なんて掛けていないし、黒髪でなければ長髪でもない。時空が歪んだせいで、性格まで歪んでしまったのだろうか。
いけない、根岸の話を聞かなければ。
「彼女、野本さんから、井上に殴られたって相談を受けたらしい。菜々子なりに野本さんのために、話を聞いていたらしいけど、どうも野本さんの話の整合性を得られなくて変だなって思っていたんだって。ことの顛末を知っているのは、井上と野本さんだけだから、井上からも話を聞きたいって」
案外いい味方を手に入れたかもしれない。
「ことの顛末と言われても、昨日の朝にスマホを水没させてから、誰とも連絡が取れなくなったから、何がどうなっているのか。僕の方が聞きたいよ」
松島から、大体どんなことが起きているのか聞いているが、ここでは下手に言わない方がいいだろう。
「菜々子が言うには……」
根岸さんが説明するんだ。能見さんまだひと言も喋ってない。
「野本さんが井上から告白されて、振ったら呼び出されて顔を殴られたって。実際野本は、顔に大きめの絆創膏を貼って登校して、クラスのみんなには、階段から落ちたって言っているらしい。どこまでが真実だ?」
「ああ、ありがとう」
この噂が4組に来るまでにどれくらいかかるかが鍵だ。さっさと噂が広がる前に、僕のスマホは昨日の朝に壊れていると言うことを広めておこう。
トイレから教室に帰った僕は何人かの視線を浴びた。それは一瞬だったけど、この何人かは既に知っている可能性が高いな。それも女子が多い。女子に弁明をするのはほぼほぼ不可能だと思う。こうなれば、間接的に聞かせるしかないけど、それだけでは信じられんよな。どうにかして手を打ちたいが、今は打つてなしか。
「井上君。君スマホ壊したんだろ。どうだい、僕の華麗なパズル捌きは」
三河に話しかけられたが、こいつってこんなに性格の悪い奴だったか。でも、今の僕にはぴったりだ。
「くそ。お前、人がログインできていない時に、いい気になりやがって」
「水没なんてマジで終わってんな」
自分で作った設定なのに、時折、水没したと言うことを忘れそうになる時がある。
「あ、ああ、そうなんだよ。最悪すぎて、昨日は部屋から出られなかったよ」
トイレ終わりの僕に、視線を向けた女子ども聞いているか。僕は、野本とは会っていない。全て野本の嘘なのだ。
こんなことでは信用には値しないだろう。それでも、野本を陥れるためには十分だ。
1時間目が終わって、10分間の休み時間。僕を見る人が明らかに増えていた。噂は徐々にだけど広まりつつある。思ったより早く、噂が広まるかもしれない。だとしても、取れる行動は同じだ。植田と同じ道を歩むわけにはいかない。
2時間目が終わった休み時間。僕はとうとう女子に呼ばれた。それも、うちのクラスで1番大きなグループを形成している、代表格の根岸に。
話す内容は大抵分かっている。どうせ野本のことだろう。
「3組の女子に聞いたんだけど、告白して振られて、暴力を振るったって本当?」
ほら、やっぱり。
さて、どう答えたものか。最初から全否定をしても、信頼がない僕の言葉なんて、簡単には信じられないだろう。
「3組の女子? 僕、そもそも3組に友達すらいないんだけど……それに、昨日スマホが壊れたせいで、何もやる気が起きなかったし、人違いじゃないかな」
自虐を交えることで、気の張った空気を和らげ、やんわりとした空気の中に、しっかりとした否定を織り交ぜる。信用のない僕でも、真実を言っている可能性があると思わせることができる。
「だよね。3組の女子なんて碧ちゃん以外にいないもんね」
それは少し違う気がするが、ここは頷いておく。
「あんな完璧な子、好きにならない人はいないよね」
何とか話を穏便に終わらせることができたが、まだ完璧に誤解が解けたわけない。野本自身が仕掛けてくる可能性もあるから、警戒は怠らないようにしないと。
放課後までの休み時間に、僕を視線を向ける人は徐々に増えていってたが、根岸に呼ばれて以降、僕に直接話を聞いてくる人はいなかった。
放課後、僕はまたしても根岸に呼び出された。それも野本と植田の、いわくつき場所。体育館裏だ。根岸の隣には、見たこともない女子がいるし。
「あ、あの……話って何かな? 2時間目の時に話せることは話したけど……」
やはり信用のない僕の言葉では、信じるには値しなかったのか。これは厄介かもしれないな。
「井上に聞きたいことがあってな。この子のこと知っている?」
「いや。ごめん、知らない」
おかしいな。よくよく考えてみれば、僕は過去に戻って来たのだから、知らない人間なんていないはず。だけど、本当に知らない人間だ。
「この子、能見って言うんだけど……」
そう言えばそんな女子がいたな。一度も同じクラスになることはなかったから、顔をほとんど覚えていないけど、こんな顔だったけ? 僕の記憶上では眼鏡を掛けて、黒髪長髪で、地味な感じだった気がする。でも今は違う。眼鏡なんて掛けていないし、黒髪でなければ長髪でもない。時空が歪んだせいで、性格まで歪んでしまったのだろうか。
いけない、根岸の話を聞かなければ。
「彼女、野本さんから、井上に殴られたって相談を受けたらしい。菜々子なりに野本さんのために、話を聞いていたらしいけど、どうも野本さんの話の整合性を得られなくて変だなって思っていたんだって。ことの顛末を知っているのは、井上と野本さんだけだから、井上からも話を聞きたいって」
案外いい味方を手に入れたかもしれない。
「ことの顛末と言われても、昨日の朝にスマホを水没させてから、誰とも連絡が取れなくなったから、何がどうなっているのか。僕の方が聞きたいよ」
松島から、大体どんなことが起きているのか聞いているが、ここでは下手に言わない方がいいだろう。
「菜々子が言うには……」
根岸さんが説明するんだ。能見さんまだひと言も喋ってない。
「野本さんが井上から告白されて、振ったら呼び出されて顔を殴られたって。実際野本は、顔に大きめの絆創膏を貼って登校して、クラスのみんなには、階段から落ちたって言っているらしい。どこまでが真実だ?」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
彼ノ女人禁制地ニテ
フルーツパフェ
ホラー
古より日本に点在する女人禁制の地――
その理由は語られぬまま、時代は令和を迎える。
柏原鈴奈は本業のOLの片手間、動画配信者として活動していた。
今なお日本に根強く残る女性差別を忌み嫌う彼女は、動画配信の一環としてとある地方都市に存在する女人禁制地潜入の動画配信を企てる。
地元住民の監視を警告を無視し、勧誘した協力者達と共に神聖な土地で破廉恥な演出を続けた彼女達は視聴者たちから一定の反応を得た後、帰途に就こうとするが――
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる