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45話
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体育館を後にした僕らは最後の理科室に向かっていた。
体育館から校舎の方へ歩いているときに、2人であることに気がついて目を合わせる。それは鍵を閉めてくればよかったということだ。前回に囚われすぎていた僕たちは、鍵を持っているにもかかわらず、西階段からの扉を開けっぱなしにしている。目の前には中央出入り口があるのにだ。
ここで僕が1人で行くと言えばかっこいいのかもしれないけど、そんな度胸は僕にはない。だって1人で夜の学校は怖いだろ。
「面倒だけど、周って行こうか」
羽山はため息を吐いて渡り廊下に座り込んだ。
この流れは、面倒だから行ってきて。と言われるパターンじゃないか?
「少し休憩しようか」
全く想像していない予想外の羽山の言葉に、僕は言葉を失って黙り込むことしかできなかった。
「大輔君も隣においで」
羽山に言われるがまま隣に座る。
「休憩って、時間があまりないんじゃないの?」
僕が聞くと羽山は、満面の笑みを浮かべながら答える。
「だってエネルギーが切れたんだもん」
「……そ、そうなんだ」
その顔を向けないでくれ。まともに見ることができないから。
羽山から目を逸らす僕に、羽山はとあるお菓子を差し出していた。それは、小学生には手が出しづらいぬーぼーだった。
たちまち僕は羽山に視線を向ける。
「本当に貰ってもいいの?」
「うん、いいよ」
「後から何か言うのは反則だからね」
「大輔君は私を何だと思っているの。そんなことしないから」
「そんなことをしない」と言われても、笑顔でものを渡されるのが何よりも怖いのだ。羽山が信用できる人間だとしても、それはまた別問題だ。
「じゃ、じゃあ、ありがたくいただきます」
「どうぞ」
この後何があろうとも、結局のところ誘惑には勝てないのだ。お菓子なら特に。
「久しぶりに食べるからおいしい」
「そっか。よかった。じゃあ、私の言うことを1つ聞いてもらおうか」
初めから予想はしてたけど、本当にこうなるとは。だから聞いたのに。羽山もとんだ嘘つきだ。
「何も言わないって約束したじゃんか」
「冗談だって。真に受けないでよ。でも、強いて言うのなら……最後まで付き合ってよ」
「う? うん。もちろん、そのつもりだよ」
「約束だからね」
何でか羽山は嬉しそうに笑顔を向けていた。可愛い笑顔だけど、七不思議の検証がそんなに楽しみか。僕は早く帰りたいよ。疲れたのもあるけど、羽山との時間をこれ以上作りたくないから。これ以上作ると別れが寂しくなりそうだから。
僕がぬーぼーを食べていると、羽山は次のお菓子を取り出した。これもまた小学生が買えるようなものではない、ポポロンだった。
「これも食べて」
「さっきみたいなことはなしだからね」
「もうしないって」
そう言われても、前科があるから信用しろと言う方が無理だ。
疑いの目を羽山に向けるけど、それを感じ取っていないのか、はぐらかしているのか、何もないような顔をしていた。完全にどこ吹く風だった。
「それじゃあ、いただきます……」
ポポロンを1つ摘んで口に入れる前に羽山の顔をもう1度眺める。何か企んだ顔をしていないか確認のために。
さっきと同じ顔。また何か企んでいるのか。でも掴んでしまった手前、食べるしかない。誘惑にはどう頑張っても勝てない。
「よし、食べたね」
「何も言わないって……」
「冗談だよ。ひひっ。大輔君揶揄うの楽しいね」
羽山は悪い顔をしていた。この顔を浮かべているときは大抵何か企んでいるのだ。お菓子を食べてしまったが最後、一生羽山の奴隷として扱われるのかもしれない。
ああ、くそ。ポポロン美味しいな。もう何も考えたくない。
結局僕はポポロンの2つ目を口にすることはできなかった。
西階段に戻って出ていった扉に鍵を閉めて、今度は理科室を目指した。
道中の羽山はスキップをするくらい楽しそうにしていた。前回は途中でリタイアしてしまったからよほど楽しみなんだな。
そんな僕らに終わりを告げるかのように、外で車の音がした。田舎で夜は車通りが少なく、校舎の中にいても運動場を走る車の音は聞こえてきていた。
「迎えが来ちゃったね。急ごうか」
羽山は軽くではあるけど廊下を走り出した。僕も付いて行くけど、内心では、校長先生が校長室から出てきませんようにと願っていた。
校長室から校長先生は出てこなかったけど、罪悪感だけは胸に残っていた。
「中に入る?」
羽山は理科室の前で何でか立ち止まっていた。
「入らない理由なくない」
「……そうだね!」
羽山はネジの回された時計のように突然活発に動いた。さっきの寂しそうな羽山は何だったのか。羽山が話してくれないから、僕に理由は分からない。
理科室に入ったら、羽山はさっきと同じ明るい様子で。
「人体模型は動いてないね」
怖がりもせずに人体模型に近寄っていた。
「うちの学校の人体模型じゃ、世の中にあるような心霊現象は起こせないよ。だって足がないんだから。上半身だけで追いかけられないよ」
人体模型に近づいていた羽山に僕も近づく。
「この人体模型にだったら、追いかけられても逃げ切れそうだよね」
なんせ腕もないから。あるのは肩と腹まで。ビンボーな田舎小学校の限界はこれだ。大人の世界は世知辛いな。
体育館から校舎の方へ歩いているときに、2人であることに気がついて目を合わせる。それは鍵を閉めてくればよかったということだ。前回に囚われすぎていた僕たちは、鍵を持っているにもかかわらず、西階段からの扉を開けっぱなしにしている。目の前には中央出入り口があるのにだ。
ここで僕が1人で行くと言えばかっこいいのかもしれないけど、そんな度胸は僕にはない。だって1人で夜の学校は怖いだろ。
「面倒だけど、周って行こうか」
羽山はため息を吐いて渡り廊下に座り込んだ。
この流れは、面倒だから行ってきて。と言われるパターンじゃないか?
「少し休憩しようか」
全く想像していない予想外の羽山の言葉に、僕は言葉を失って黙り込むことしかできなかった。
「大輔君も隣においで」
羽山に言われるがまま隣に座る。
「休憩って、時間があまりないんじゃないの?」
僕が聞くと羽山は、満面の笑みを浮かべながら答える。
「だってエネルギーが切れたんだもん」
「……そ、そうなんだ」
その顔を向けないでくれ。まともに見ることができないから。
羽山から目を逸らす僕に、羽山はとあるお菓子を差し出していた。それは、小学生には手が出しづらいぬーぼーだった。
たちまち僕は羽山に視線を向ける。
「本当に貰ってもいいの?」
「うん、いいよ」
「後から何か言うのは反則だからね」
「大輔君は私を何だと思っているの。そんなことしないから」
「そんなことをしない」と言われても、笑顔でものを渡されるのが何よりも怖いのだ。羽山が信用できる人間だとしても、それはまた別問題だ。
「じゃ、じゃあ、ありがたくいただきます」
「どうぞ」
この後何があろうとも、結局のところ誘惑には勝てないのだ。お菓子なら特に。
「久しぶりに食べるからおいしい」
「そっか。よかった。じゃあ、私の言うことを1つ聞いてもらおうか」
初めから予想はしてたけど、本当にこうなるとは。だから聞いたのに。羽山もとんだ嘘つきだ。
「何も言わないって約束したじゃんか」
「冗談だって。真に受けないでよ。でも、強いて言うのなら……最後まで付き合ってよ」
「う? うん。もちろん、そのつもりだよ」
「約束だからね」
何でか羽山は嬉しそうに笑顔を向けていた。可愛い笑顔だけど、七不思議の検証がそんなに楽しみか。僕は早く帰りたいよ。疲れたのもあるけど、羽山との時間をこれ以上作りたくないから。これ以上作ると別れが寂しくなりそうだから。
僕がぬーぼーを食べていると、羽山は次のお菓子を取り出した。これもまた小学生が買えるようなものではない、ポポロンだった。
「これも食べて」
「さっきみたいなことはなしだからね」
「もうしないって」
そう言われても、前科があるから信用しろと言う方が無理だ。
疑いの目を羽山に向けるけど、それを感じ取っていないのか、はぐらかしているのか、何もないような顔をしていた。完全にどこ吹く風だった。
「それじゃあ、いただきます……」
ポポロンを1つ摘んで口に入れる前に羽山の顔をもう1度眺める。何か企んだ顔をしていないか確認のために。
さっきと同じ顔。また何か企んでいるのか。でも掴んでしまった手前、食べるしかない。誘惑にはどう頑張っても勝てない。
「よし、食べたね」
「何も言わないって……」
「冗談だよ。ひひっ。大輔君揶揄うの楽しいね」
羽山は悪い顔をしていた。この顔を浮かべているときは大抵何か企んでいるのだ。お菓子を食べてしまったが最後、一生羽山の奴隷として扱われるのかもしれない。
ああ、くそ。ポポロン美味しいな。もう何も考えたくない。
結局僕はポポロンの2つ目を口にすることはできなかった。
西階段に戻って出ていった扉に鍵を閉めて、今度は理科室を目指した。
道中の羽山はスキップをするくらい楽しそうにしていた。前回は途中でリタイアしてしまったからよほど楽しみなんだな。
そんな僕らに終わりを告げるかのように、外で車の音がした。田舎で夜は車通りが少なく、校舎の中にいても運動場を走る車の音は聞こえてきていた。
「迎えが来ちゃったね。急ごうか」
羽山は軽くではあるけど廊下を走り出した。僕も付いて行くけど、内心では、校長先生が校長室から出てきませんようにと願っていた。
校長室から校長先生は出てこなかったけど、罪悪感だけは胸に残っていた。
「中に入る?」
羽山は理科室の前で何でか立ち止まっていた。
「入らない理由なくない」
「……そうだね!」
羽山はネジの回された時計のように突然活発に動いた。さっきの寂しそうな羽山は何だったのか。羽山が話してくれないから、僕に理由は分からない。
理科室に入ったら、羽山はさっきと同じ明るい様子で。
「人体模型は動いてないね」
怖がりもせずに人体模型に近寄っていた。
「うちの学校の人体模型じゃ、世の中にあるような心霊現象は起こせないよ。だって足がないんだから。上半身だけで追いかけられないよ」
人体模型に近づいていた羽山に僕も近づく。
「この人体模型にだったら、追いかけられても逃げ切れそうだよね」
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