今日の夜。学校で

倉木元貴

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33話

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 何をするのかは大体理解できた。でも、問題はどう監視を振り切るかだ。いくつかのグループに分かれて監視しているみたいだから、逃げようとしても次々に追手がやってくる。現実的に逃げるのには無理があるんだ。2人で相手にできる人数ではない。
 
「作戦とかあるの?」
 
「うん。ここを出た後は、私は中央階段を通って、1階まで降りる。大輔君も2階までは一緒。大輔君は2階で追手の人を「逃げられた」とでも言って足止めをしていて。そのあとは私を手分けして追いかけるってことで、1階に降りて。私はそのまま西階段の方に行って、外を通って中央階段に戻ってくる。大輔君は中央出入り口の鍵を開けておいて、先に2階に戻っていて。私も後を追いかけるから。合流できたら、今度は大輔君は3階に行って、教室で待機している人を連れ出して、3階の廊下以外のところで足止めしていて。私は2階の廊下を通って東階段から3階にいく。そこで音楽室にいる人を驚かす。音楽室に何人いるかはわからないけど、孤立させたら連絡は取れないだろうから、驚かすにはもってこいだと思うから」
 
 羽山が見たこともないような悪い顔をしていた。羽山を敵に回すと厄介だろうなって思っていたけど、厄介どころの話ではない。これは絶対に敵に回してはいけないやつだ。
 
「その後はどうするの?」
 
「近くにいる人から驚かす。大輔君は私を探すふりをして、2階と3階にいる人をあっちこっちに動かして」
 
 そんな重要な役回り僕にはできないぞ。
 
「ちょ、ちょっと待って」
 
 はしゃいでいる羽山を止めることは今まで2回してきたが、どちらも失敗した。今回もだ。
 羽山は「それじゃあ行こうか!」と元気よく叫んで、多目的室を後にした。その姿が不自然にならないように、僕も後についていく。
 2階と3階の踊り場で、「それじゃあ作戦開始」と羽山は小声で言って、階段を駆け降りた。駆け降りたと言うしかないのだけど、到底僕が捕まえられる動きではなかった。どこかの軍隊で訓練でも受けたのではないかと疑いたくなるくらい、軽々しく手すりを飛び越えて、飛び越えて、一瞬のすきに羽山は消えていなくなっていた。
 なんて運動神経だ。羽山が敵じゃなくてよかった。いかんそれよりも、2階の監視役を引きつけないと。さてどこに隠れているんだ。
 
「羽山に逃げられたー!」
 
 僕の叫び声を聞いてみんな出てきた。隠れていたのは3人。出てきたのは岡川剛、中村正人、阿部由貴。その中でも剛が何よりも驚いていた。
 
「なんだって! どこに行った?」
 
「階段を飛び降りるように降りていったよ。僕じゃあ静止できなかったよ」
 
「そうか、それは大変だったな。緊急事態だとみんなに言っておくよ」
 
 剛がトランシーバーを取り出して、連絡を入れよとした途端、トランシーバーが鳴り出した。
 
『羽山さんが西階段の方に向かって逃走中』
 
「俺らも西階段の方に行こう」
 
 正人がそう言って、3人は西階段の方に行こうとしていたが、剛が僕の存在に気づく。
 
「大輔は行かないのか?」
 
 足を止める3人。そのまま行ってくれればよかったのに。
 
「1階で何があるか分からないから、僕は中央階段から合流するよ」
 
「そうか、何かあったら大声で叫べよ」
 
「ああ」
 
 話し相手が剛でよかった。もしこれが裕介だったら、怪しまれているのだろうな。正人も何も口出ししなくてよかった。
 僕は階段を降りて、中央出入り口の鍵を開けた。
 羽山の指示では僕は2階に行けばいいんだっけ。こんな短時間で戻って、剛とかがいないといいけど。
 羽山が想定した通り、2階は閑散としていた。僕が2階に着いてから、そう待たないうちに羽山が現れた。現れた羽山は、手を動かして何やらジェスチャーをしていた。
 えっと……上に行けってことか。
 また羽山と別行動をして3階に上がった。
 ここでの僕の役目は、教室にいる人を連れていくこと。
 確か、椅子を引く音が聞こえたのが、僕らの教室だから、いるのはそこで間違いない。
 普段から使っている教室の前に着いて、深呼吸をして息を整える。
 
「誰かいる! 羽山が逃走したんだ!」
 
 ノックとともにそう呼びかけた。
 中からは、山口史恵と細川真紀の2人が出てきた。
 この2人だったら、この場所のままでもよかったんじゃないかと思う。まあ、配置とか何も知らなかったからそこは仕方ないか。
 
「聞いた。どうなったの?」
 
「まだ逃走しているみたいだ。2人も探すの手伝ってくれないか?」
 
「うん。分かった。緊急事態だもんね」
 
 どうやら2人はトランシーバーを持っていないみたいだ。これは好都合。
 
「西階段の方に羽山が逃げたみたいで、みんなそっちに行ってしまったんだ。だから僕らは中央階段で羽山を探そう」
 
「ひ、1人で……」
 
「大丈夫だよ。階段は吹き抜けになっているから、動かない限り近くにいるのと変わりないよ」
 
 2人の分断にも成功した。
 山口が1階、細川が2階。僕は無理を言って3階を見張ることにした。西階段の方から人の声も足音も聞こえないし、今が好都合。羽山に合図して、羽山は東階段から中に入る。
 羽山が音楽室に入って、真壁たちを驚かすとして、3階の廊下で見張っている僕が、音楽室に入っていく羽山を見逃したら、味方だとバレる。ここは屋上でも見にいくフリでもしようか。
 3階から階段の吹き抜けを通して、下に叫んだ。
 
「もしかしたら羽山は屋上のところにいるかもしれないから見てくるよ」
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