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18話
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校長室に案内された僕らは、校長先生よりも先にソファーに座り、校長先生は、入ってすぐ右手にある大きな食器棚の1番下の引き出しをあさっていた。
「お茶しか出せるものがないが、大丈夫か?」
「あ、はい。お構いなく」
「お構いなく……」
怯えている裕介の耳元に小声で声をかける。
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。校長先生ああ見えていい人だから」
お前の言っていることなんて信じられるか。裕介はそんな目をしていた。
まあ、裕介の言いたいことも分かる。校長先生はこの学校では唯一の戦争経験者だから、言動の1つひとつが怖いんだよな。
「お茶、熱いからゆっくり飲みなよ」
「あ、ありがとうございます」
僕らの前にある机に、もくもくと湯気のたっている湯呑みが置かれる。
試しに軽く触ってみる。脊髄反射で反応してしまうほどの熱さを実感した。
その間に校長先生は僕らの前に座った。
「それで、羽山さんの相談というのは?」
言いたいことは決まっているけど、いざ校長先生と面に向かえば、本当に言っていいのか考えてしまうな。
羽山のために学校を肝試しの舞台に使いたい。校長先生にそんなこと言えるか。さっきまでは大丈夫な気がするとか言っていたけど、全然大丈夫じゃない。なんでか怒られる未来しか見えなくなった。隣の裕介はまだ緊張で萎縮してしまっているし、僕から話すのが最適解だけど、僕も目の前の鬼に萎縮してしまっている。
あ、そうだ。羽山の手紙を見せれば、なんとかなるかもしれない。
「あの、この手紙を見てもらっても」
「手紙? 暗号……これがどうにかしたのかな」
「実は、夏休みが始まる前に羽山からこの石榴の本を預かっていたのです。この本の章とページ、行と文字。それをこの手紙の暗号に当てはめると手紙のような『今日の夜。学校で』になったのです。この言葉は、僕が終業式の日に羽山から夜の学校に誘われた時と同じなのです。だから、僕たちはこの手紙の送り主を羽山だと思っています。そして、クラスの確認できる限りではありますが、19人に同じ手紙が送られていました。羽山が最後の思い出に、学校で何かしようとしているのは分かっています。だから、僕らも羽山のためにひとつ思い出作りの手伝いをしたいのです」
口から出せる言葉を大体言ったけど、肝心の「お化け屋敷に使わせてください」は言えなかった。
今更、後付けて言ってもいいのかもしれないけど、今は許可が先だ。校長先生がいいと言ってくれれば、交渉の余地はあるってことで、これが最初からの作戦だったかのように振る舞っておこう。
「そうか。羽山は、夏休み中に転校することについて、友達もいないから大丈夫だと言っていたけど、そんなに寂しい子ではなかったか。いいだろう。ではまず、学校で何をしたいのか話してごらん」
「……あ、ありがとうございます」
お化け屋敷のこと言ってもいいのか。言うしかないけど、こんな真面目な雰囲気でふざけたようなお化け屋敷のことを言えない。裕介、何か良いふうに言ってくれないか。
裕介に視線を向けるも、俯いて熱々のお茶を息をかけながらそっと飲んでいた。
まさか裕介がここまで役に立たないとは思わなかった。連れてきた意義が問われるぞ。
「あ、あの……き、肝試しに……」
お化け屋敷というよりは肝試しの方がなんかいい気がした。
「肝試し……」
あ、これ。ダメなやつだ。
校長先生のオーラというか、威圧がいつもに増して垂れ流されている。裕介も飲んでいるてが震えて上手く飲めていないし。裕介置いて僕だけ逃げようか。あ、靴は靴箱だし、扉には鍵が閉められているんだった。逃げ場ないじゃん。終わった、僕と裕介は終わった。夏休み明けの初日に、廊下に立たされたという伝説を学校に残せるだけでもいいか。
「そういえば羽山さんは、この間も七不思議の検証とか言って学校に侵入してたからな。いい思い出になるかもしれないな。学校内を汚さない程度にだったら許可しよう」
絶対にダメな流れだったのに、何でか許可された。
校長室を後にして、僕と裕介はもう1度日吉神社に戻った。
解散したメンバーのほとんどは、まだ学校をお化け屋敷にできるかも決まっていないのに、お化けになるつもりでいた。家に帰ってお化けになる準備や、親の許可をとっていた。19人が16人になっているってことは、3人は許可どりに苦戦しているのだろうな。まあ夜の学校なんてそう簡単に許可できないよ。それが、学校行事ならまだしも、子供だけで行うのだからイタズラにしか見えてないよな。仕方ない。元々、幽霊役がたくさんいても仕方ないと思っていたから、このくらいの人数でいいのかもしれない。
あとは役割分担とどんな心霊現象を起こすかだ。急に決まったから、幽霊衣装を持っている人はいない。今から作るにも時間が足りない。今あるものだけでどうにかしないといけない。七不思議の中で僕らに再現ができそうなもの。体育館のボール、トイレの花子さんくらいだ。ここに、勝手に鳴り出すピアノを加えれば、怖さは倍増だ。校舎1階の倉庫に誰かを潜ませて、物音を立たせるのも悪くない。理科室でも何かしたいけど、うちの学校の人体模型は上半身だけだから動かすにもぎこちない。羽山に見られたら、1発で見破られそうだ。他に、使える部屋はないと思う。ほとんど教室だからだ。
「お茶しか出せるものがないが、大丈夫か?」
「あ、はい。お構いなく」
「お構いなく……」
怯えている裕介の耳元に小声で声をかける。
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。校長先生ああ見えていい人だから」
お前の言っていることなんて信じられるか。裕介はそんな目をしていた。
まあ、裕介の言いたいことも分かる。校長先生はこの学校では唯一の戦争経験者だから、言動の1つひとつが怖いんだよな。
「お茶、熱いからゆっくり飲みなよ」
「あ、ありがとうございます」
僕らの前にある机に、もくもくと湯気のたっている湯呑みが置かれる。
試しに軽く触ってみる。脊髄反射で反応してしまうほどの熱さを実感した。
その間に校長先生は僕らの前に座った。
「それで、羽山さんの相談というのは?」
言いたいことは決まっているけど、いざ校長先生と面に向かえば、本当に言っていいのか考えてしまうな。
羽山のために学校を肝試しの舞台に使いたい。校長先生にそんなこと言えるか。さっきまでは大丈夫な気がするとか言っていたけど、全然大丈夫じゃない。なんでか怒られる未来しか見えなくなった。隣の裕介はまだ緊張で萎縮してしまっているし、僕から話すのが最適解だけど、僕も目の前の鬼に萎縮してしまっている。
あ、そうだ。羽山の手紙を見せれば、なんとかなるかもしれない。
「あの、この手紙を見てもらっても」
「手紙? 暗号……これがどうにかしたのかな」
「実は、夏休みが始まる前に羽山からこの石榴の本を預かっていたのです。この本の章とページ、行と文字。それをこの手紙の暗号に当てはめると手紙のような『今日の夜。学校で』になったのです。この言葉は、僕が終業式の日に羽山から夜の学校に誘われた時と同じなのです。だから、僕たちはこの手紙の送り主を羽山だと思っています。そして、クラスの確認できる限りではありますが、19人に同じ手紙が送られていました。羽山が最後の思い出に、学校で何かしようとしているのは分かっています。だから、僕らも羽山のためにひとつ思い出作りの手伝いをしたいのです」
口から出せる言葉を大体言ったけど、肝心の「お化け屋敷に使わせてください」は言えなかった。
今更、後付けて言ってもいいのかもしれないけど、今は許可が先だ。校長先生がいいと言ってくれれば、交渉の余地はあるってことで、これが最初からの作戦だったかのように振る舞っておこう。
「そうか。羽山は、夏休み中に転校することについて、友達もいないから大丈夫だと言っていたけど、そんなに寂しい子ではなかったか。いいだろう。ではまず、学校で何をしたいのか話してごらん」
「……あ、ありがとうございます」
お化け屋敷のこと言ってもいいのか。言うしかないけど、こんな真面目な雰囲気でふざけたようなお化け屋敷のことを言えない。裕介、何か良いふうに言ってくれないか。
裕介に視線を向けるも、俯いて熱々のお茶を息をかけながらそっと飲んでいた。
まさか裕介がここまで役に立たないとは思わなかった。連れてきた意義が問われるぞ。
「あ、あの……き、肝試しに……」
お化け屋敷というよりは肝試しの方がなんかいい気がした。
「肝試し……」
あ、これ。ダメなやつだ。
校長先生のオーラというか、威圧がいつもに増して垂れ流されている。裕介も飲んでいるてが震えて上手く飲めていないし。裕介置いて僕だけ逃げようか。あ、靴は靴箱だし、扉には鍵が閉められているんだった。逃げ場ないじゃん。終わった、僕と裕介は終わった。夏休み明けの初日に、廊下に立たされたという伝説を学校に残せるだけでもいいか。
「そういえば羽山さんは、この間も七不思議の検証とか言って学校に侵入してたからな。いい思い出になるかもしれないな。学校内を汚さない程度にだったら許可しよう」
絶対にダメな流れだったのに、何でか許可された。
校長室を後にして、僕と裕介はもう1度日吉神社に戻った。
解散したメンバーのほとんどは、まだ学校をお化け屋敷にできるかも決まっていないのに、お化けになるつもりでいた。家に帰ってお化けになる準備や、親の許可をとっていた。19人が16人になっているってことは、3人は許可どりに苦戦しているのだろうな。まあ夜の学校なんてそう簡単に許可できないよ。それが、学校行事ならまだしも、子供だけで行うのだからイタズラにしか見えてないよな。仕方ない。元々、幽霊役がたくさんいても仕方ないと思っていたから、このくらいの人数でいいのかもしれない。
あとは役割分担とどんな心霊現象を起こすかだ。急に決まったから、幽霊衣装を持っている人はいない。今から作るにも時間が足りない。今あるものだけでどうにかしないといけない。七不思議の中で僕らに再現ができそうなもの。体育館のボール、トイレの花子さんくらいだ。ここに、勝手に鳴り出すピアノを加えれば、怖さは倍増だ。校舎1階の倉庫に誰かを潜ませて、物音を立たせるのも悪くない。理科室でも何かしたいけど、うちの学校の人体模型は上半身だけだから動かすにもぎこちない。羽山に見られたら、1発で見破られそうだ。他に、使える部屋はないと思う。ほとんど教室だからだ。
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