今日の夜。学校で

倉木元貴

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17話

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 学校に行くと職員室には誰もいなかった。全ての扉と窓には鍵がかかっていて、羽山と侵入した窓も流石に閉められていた。
 これでは先生に話を通せないから、羽山を驚かすことができない。羽山との約束は18時。それまでに色々と準備をしないといけないのに。ここで頓挫してしまうのか。
 羽山から連絡を受けている先生は、18時集合を知っているはず。なら、その直前に来るのが普通か。どんなに早くても17時といったところだろうな。羽山も多分だけど、10分か15分くらい早めにこの場に集まるはずだ。そうなったら、準備する時間がない。どうにかできないか。羽山を驚かすために、全員で外で待機しているか。いや、リスクが高すぎる。いくら植木があるとは言え、14人が全員隠れるのは難しい。それに相手はあの羽山だ。簡単に出し抜ける相手ではない。
 裕介とともに、植木のあたりを見ては隠れる場所を探していた。
 
「全員で植木に隠れられないわけではないけど、それだけじゃ面白みがないよね。もっと、全力で羽山を驚かしたいよな。驚いてくれるのか分からないけど……」
 
 裕介は羽山が幽霊を苦手だってことを言ってもイマイチ信じてくれなかった。まあ、普段の様子からじゃ何も想像はつかないよな。でも羽山はビビリなんだ。見たら面白い者だぞ。
 
「そうだね。やっぱり校舎の中で驚かしたいよね。僕的にはトイレの花子さんと音楽室のピアノは外せないけど、誰かやってくれるかな」
 
「音楽室のピアノに関しては、真壁あたりに頼もうか」
 
「そうだね。真壁ピアノ上手いもんね」
 
「トイレの花子さんは、誰か受付けてくれる女子はいるだろうか?」
 
「あはは、難しいね。夜の学校のトイレで待機なんてしたくないもんね」
 
「その前に中に入らないと何も意味ないけどな」
 
「そうだね」
 
 不意に目をやった校長室。窓にはカーテンが全面的にしてあったけど、微かにあった隙間から、灯りが漏れている気がした。もし電気がついているのなら、いるのは校長先生だ。でも、裏には車もなかった。自転車もない。校長先生の家がどこにあるのか知らないけど、徒歩圏内なのか。この間の時はどうだったか見てない。校長先生よりも僕らが先に帰ったし、親は運動場の方に車を停めていたし。車の確認なんてせずに帰った。
 校長先生がこの学校にいる可能性はある。校舎の中に入れないなら、窓をノックするしかないけど、いいのか。ノックしても。でもするしかない。ここで躊躇して、ノックしなかったら、僕らの計画は頓挫する。
 
「裕介。どうにかなるかもしれない」
 
「どうにかって? 何をするつもりだ」
 
 顔の前に拳を作って息を整える。落ち着きを取り戻そうとしている僕とは裏腹に、裕介は動揺を隠せないでいた。
 
「おい、まさか! そんな! 大輔。考え直せ!」
 
 裕介悪い。僕はもう覚悟を決めた。この手を止めることはしない。
 
「よせ! 怪我するぞ!」
 
 裕介は僕を止めようとしていたけど、僕は手を止めることなく校長室の窓ガラスを優しくノックした。
 
「え? 弱っ?」
 
「え? 弱って何?」
 
「え? だって、窓ガラス壊す気じゃ……」
 
「そんな、尾崎みたいなことしないよ」
 
「あれは夜でしょ」
 
「そうじゃなくて。ただの例えだよ。あんまり拾わないで」
 
 そう言って見た裕介の顔は鬼でも見たかのように口が開いて、全身を小刻みに震わせていた。裕介の視界の先には鬼がいた。と言うか校長先生だった。カーテンの隙間から、睨みつける等に僕らを見ていて、勢いよくカーテンを開ける姿に腰を抜かしそうになった。窓は普通にガラガラと開けていた。
 
「こんな時間にどうした」
 
 頼りにしていた裕介だったが、校長先生を前に震えながら萎縮して、言葉の1つも発することができていなかった。ここは僕が説明するしかないか。
 
「あ、あの校長先生……」
 
 睨みをさらに利かす校長先生の顔は直視できなかった。
 
「……は、羽山のことで相談があるのですが……」
 
 どう説明したら校長先生に伝わるのだろうぁ。校長先生がいた方がいいとか言っていたけど、何もよくなかった。やっぱり校長先生怖い。
 
「そうか。とりあえず中に入りな。扉開けるから、職員用の入り口にまわって」
 
 窓とカーテンを閉めて、校長先生の姿は見えなくなった。
 
「とりあえず行こう」
 
「……あ、ああ」
 
 裕介はロボットのように硬い動きになっていた。
 怒られるのだと勘違いしているんだな。僕もあの時、同じくらい覚悟していったからよく分かるよ。でも、校長先生はそこまで悪い人じゃないよ。
 校長室前から東階段を周り、職員用の出入り口前に向かった。僕らはゆっくりと、特に裕介がぎこちなく歩いていたから、先に着いたのは校長先生だった。
 
「入りな」
 
「はい、失礼します」
 
「……し、失礼します」
 
 靴は犬にでも持ち去られたら困るからと、先生たちが普段使っている靴箱の開いているところに靴を入れた。
 僕と裕介が校舎内に足を踏み入れると、校長先生は用心のために扉の鍵を閉めた。
 ガチャッ! と音とともに、「ヒィッ」と裕介が声を上げた。廊下に響く叫び声。僕はその声の方が怖かった。
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