17 / 50
17話
しおりを挟む
学校に行くと職員室には誰もいなかった。全ての扉と窓には鍵がかかっていて、羽山と侵入した窓も流石に閉められていた。
これでは先生に話を通せないから、羽山を驚かすことができない。羽山との約束は18時。それまでに色々と準備をしないといけないのに。ここで頓挫してしまうのか。
羽山から連絡を受けている先生は、18時集合を知っているはず。なら、その直前に来るのが普通か。どんなに早くても17時といったところだろうな。羽山も多分だけど、10分か15分くらい早めにこの場に集まるはずだ。そうなったら、準備する時間がない。どうにかできないか。羽山を驚かすために、全員で外で待機しているか。いや、リスクが高すぎる。いくら植木があるとは言え、14人が全員隠れるのは難しい。それに相手はあの羽山だ。簡単に出し抜ける相手ではない。
裕介とともに、植木のあたりを見ては隠れる場所を探していた。
「全員で植木に隠れられないわけではないけど、それだけじゃ面白みがないよね。もっと、全力で羽山を驚かしたいよな。驚いてくれるのか分からないけど……」
裕介は羽山が幽霊を苦手だってことを言ってもイマイチ信じてくれなかった。まあ、普段の様子からじゃ何も想像はつかないよな。でも羽山はビビリなんだ。見たら面白い者だぞ。
「そうだね。やっぱり校舎の中で驚かしたいよね。僕的にはトイレの花子さんと音楽室のピアノは外せないけど、誰かやってくれるかな」
「音楽室のピアノに関しては、真壁あたりに頼もうか」
「そうだね。真壁ピアノ上手いもんね」
「トイレの花子さんは、誰か受付けてくれる女子はいるだろうか?」
「あはは、難しいね。夜の学校のトイレで待機なんてしたくないもんね」
「その前に中に入らないと何も意味ないけどな」
「そうだね」
不意に目をやった校長室。窓にはカーテンが全面的にしてあったけど、微かにあった隙間から、灯りが漏れている気がした。もし電気がついているのなら、いるのは校長先生だ。でも、裏には車もなかった。自転車もない。校長先生の家がどこにあるのか知らないけど、徒歩圏内なのか。この間の時はどうだったか見てない。校長先生よりも僕らが先に帰ったし、親は運動場の方に車を停めていたし。車の確認なんてせずに帰った。
校長先生がこの学校にいる可能性はある。校舎の中に入れないなら、窓をノックするしかないけど、いいのか。ノックしても。でもするしかない。ここで躊躇して、ノックしなかったら、僕らの計画は頓挫する。
「裕介。どうにかなるかもしれない」
「どうにかって? 何をするつもりだ」
顔の前に拳を作って息を整える。落ち着きを取り戻そうとしている僕とは裏腹に、裕介は動揺を隠せないでいた。
「おい、まさか! そんな! 大輔。考え直せ!」
裕介悪い。僕はもう覚悟を決めた。この手を止めることはしない。
「よせ! 怪我するぞ!」
裕介は僕を止めようとしていたけど、僕は手を止めることなく校長室の窓ガラスを優しくノックした。
「え? 弱っ?」
「え? 弱って何?」
「え? だって、窓ガラス壊す気じゃ……」
「そんな、尾崎みたいなことしないよ」
「あれは夜でしょ」
「そうじゃなくて。ただの例えだよ。あんまり拾わないで」
そう言って見た裕介の顔は鬼でも見たかのように口が開いて、全身を小刻みに震わせていた。裕介の視界の先には鬼がいた。と言うか校長先生だった。カーテンの隙間から、睨みつける等に僕らを見ていて、勢いよくカーテンを開ける姿に腰を抜かしそうになった。窓は普通にガラガラと開けていた。
「こんな時間にどうした」
頼りにしていた裕介だったが、校長先生を前に震えながら萎縮して、言葉の1つも発することができていなかった。ここは僕が説明するしかないか。
「あ、あの校長先生……」
睨みをさらに利かす校長先生の顔は直視できなかった。
「……は、羽山のことで相談があるのですが……」
どう説明したら校長先生に伝わるのだろうぁ。校長先生がいた方がいいとか言っていたけど、何もよくなかった。やっぱり校長先生怖い。
「そうか。とりあえず中に入りな。扉開けるから、職員用の入り口にまわって」
窓とカーテンを閉めて、校長先生の姿は見えなくなった。
「とりあえず行こう」
「……あ、ああ」
裕介はロボットのように硬い動きになっていた。
怒られるのだと勘違いしているんだな。僕もあの時、同じくらい覚悟していったからよく分かるよ。でも、校長先生はそこまで悪い人じゃないよ。
校長室前から東階段を周り、職員用の出入り口前に向かった。僕らはゆっくりと、特に裕介がぎこちなく歩いていたから、先に着いたのは校長先生だった。
「入りな」
「はい、失礼します」
「……し、失礼します」
靴は犬にでも持ち去られたら困るからと、先生たちが普段使っている靴箱の開いているところに靴を入れた。
僕と裕介が校舎内に足を踏み入れると、校長先生は用心のために扉の鍵を閉めた。
ガチャッ! と音とともに、「ヒィッ」と裕介が声を上げた。廊下に響く叫び声。僕はその声の方が怖かった。
これでは先生に話を通せないから、羽山を驚かすことができない。羽山との約束は18時。それまでに色々と準備をしないといけないのに。ここで頓挫してしまうのか。
羽山から連絡を受けている先生は、18時集合を知っているはず。なら、その直前に来るのが普通か。どんなに早くても17時といったところだろうな。羽山も多分だけど、10分か15分くらい早めにこの場に集まるはずだ。そうなったら、準備する時間がない。どうにかできないか。羽山を驚かすために、全員で外で待機しているか。いや、リスクが高すぎる。いくら植木があるとは言え、14人が全員隠れるのは難しい。それに相手はあの羽山だ。簡単に出し抜ける相手ではない。
裕介とともに、植木のあたりを見ては隠れる場所を探していた。
「全員で植木に隠れられないわけではないけど、それだけじゃ面白みがないよね。もっと、全力で羽山を驚かしたいよな。驚いてくれるのか分からないけど……」
裕介は羽山が幽霊を苦手だってことを言ってもイマイチ信じてくれなかった。まあ、普段の様子からじゃ何も想像はつかないよな。でも羽山はビビリなんだ。見たら面白い者だぞ。
「そうだね。やっぱり校舎の中で驚かしたいよね。僕的にはトイレの花子さんと音楽室のピアノは外せないけど、誰かやってくれるかな」
「音楽室のピアノに関しては、真壁あたりに頼もうか」
「そうだね。真壁ピアノ上手いもんね」
「トイレの花子さんは、誰か受付けてくれる女子はいるだろうか?」
「あはは、難しいね。夜の学校のトイレで待機なんてしたくないもんね」
「その前に中に入らないと何も意味ないけどな」
「そうだね」
不意に目をやった校長室。窓にはカーテンが全面的にしてあったけど、微かにあった隙間から、灯りが漏れている気がした。もし電気がついているのなら、いるのは校長先生だ。でも、裏には車もなかった。自転車もない。校長先生の家がどこにあるのか知らないけど、徒歩圏内なのか。この間の時はどうだったか見てない。校長先生よりも僕らが先に帰ったし、親は運動場の方に車を停めていたし。車の確認なんてせずに帰った。
校長先生がこの学校にいる可能性はある。校舎の中に入れないなら、窓をノックするしかないけど、いいのか。ノックしても。でもするしかない。ここで躊躇して、ノックしなかったら、僕らの計画は頓挫する。
「裕介。どうにかなるかもしれない」
「どうにかって? 何をするつもりだ」
顔の前に拳を作って息を整える。落ち着きを取り戻そうとしている僕とは裏腹に、裕介は動揺を隠せないでいた。
「おい、まさか! そんな! 大輔。考え直せ!」
裕介悪い。僕はもう覚悟を決めた。この手を止めることはしない。
「よせ! 怪我するぞ!」
裕介は僕を止めようとしていたけど、僕は手を止めることなく校長室の窓ガラスを優しくノックした。
「え? 弱っ?」
「え? 弱って何?」
「え? だって、窓ガラス壊す気じゃ……」
「そんな、尾崎みたいなことしないよ」
「あれは夜でしょ」
「そうじゃなくて。ただの例えだよ。あんまり拾わないで」
そう言って見た裕介の顔は鬼でも見たかのように口が開いて、全身を小刻みに震わせていた。裕介の視界の先には鬼がいた。と言うか校長先生だった。カーテンの隙間から、睨みつける等に僕らを見ていて、勢いよくカーテンを開ける姿に腰を抜かしそうになった。窓は普通にガラガラと開けていた。
「こんな時間にどうした」
頼りにしていた裕介だったが、校長先生を前に震えながら萎縮して、言葉の1つも発することができていなかった。ここは僕が説明するしかないか。
「あ、あの校長先生……」
睨みをさらに利かす校長先生の顔は直視できなかった。
「……は、羽山のことで相談があるのですが……」
どう説明したら校長先生に伝わるのだろうぁ。校長先生がいた方がいいとか言っていたけど、何もよくなかった。やっぱり校長先生怖い。
「そうか。とりあえず中に入りな。扉開けるから、職員用の入り口にまわって」
窓とカーテンを閉めて、校長先生の姿は見えなくなった。
「とりあえず行こう」
「……あ、ああ」
裕介はロボットのように硬い動きになっていた。
怒られるのだと勘違いしているんだな。僕もあの時、同じくらい覚悟していったからよく分かるよ。でも、校長先生はそこまで悪い人じゃないよ。
校長室前から東階段を周り、職員用の出入り口前に向かった。僕らはゆっくりと、特に裕介がぎこちなく歩いていたから、先に着いたのは校長先生だった。
「入りな」
「はい、失礼します」
「……し、失礼します」
靴は犬にでも持ち去られたら困るからと、先生たちが普段使っている靴箱の開いているところに靴を入れた。
僕と裕介が校舎内に足を踏み入れると、校長先生は用心のために扉の鍵を閉めた。
ガチャッ! と音とともに、「ヒィッ」と裕介が声を上げた。廊下に響く叫び声。僕はその声の方が怖かった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
太郎ちゃん
ドスケベニート
児童書・童話
きれいな石ころを拾った太郎ちゃん。
それをお母さんに届けるために帰路を急ぐ。
しかし、立ちはだかる困難に苦戦を強いられる太郎ちゃん。
太郎ちゃんは無事お家へ帰ることはできるのか!?
何気ない日常に潜む危険に奮闘する、涙と愛のドタバタコメディー。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐︎登録して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
佐藤さんの四重奏
makoto(木城まこと)
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――?
弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。
第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる