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第1章

34話

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今の話を聞かれたのか?
そんな不安に心が満たされそうになったのは、勝瑞が‘やばい’と言いたそうな顔をしていたからである。

「遂に来てしまったよ……」

そんな言葉をかけられれば誰だって不安しかない。
開いた扉から入ってきたのは、自衛隊の特別儀仗隊の服でも着ているのか? と勘違いさせるくらい綺麗な白い服を着た長髪の女性だ。
女性と呼ぶには若い様な、女の子と呼ぶには子供らしさが足りない様な、取り敢えずそのくらいの年齢の女性だ。
それ以外の情報は……美人だ。

「お待ちしておりました、ロキソ様。咳をしている患者というのはこちらの人です」

公賓級と言うのだからある程度想像をしていたけど、勝瑞の急に丁寧になる話し方にはなれないな。

「この人以外に発症している人間はいるのか?」

「確認できる限りでは2人です」

お待ちしておりました。と勝瑞が言うからものすごい医者か何かと思っていたけど、診察みたいなものは一切しないのだな。

「おい、そこの人間!」

患者に対してその声かけはないな。
医者としては0点に近いぞ。

「お前だ! 見ない顔だな。どこから来た人間なのだ?」

どうやら、「そこの人間」と言っていたのは俺に対してだったようだ。

「旅のものです。ですが、記憶を無くしているようで、どこから来たのかなど全く分からないのです」

勝瑞は咄嗟なのか、元からそうするつもりだったのか、怪しすぎる嘘をついた。
こんな簡単な嘘に引っかかる人間などいないだろうと、半笑いの表情を勝瑞に向けていたけど、その女の人は「そうか」その一言で終わった。
納得したと言う訳ではなく、自ら訊いてきたにも関わらず興味のない反応だった。

「今日のところはこれで帰る。明日また王都の医者がこちらに来るから、それまでこの薬でも飲んで様子を見てくれ」

メチコさんにそう伝えてロキソと名乗る女性は帰って行った。
ロキソが渡した薬をメチコさんが飲ませようとしていたけど、俺はそれを阻止した。

「どうしたんだい? 折角姫様がくれた薬なんだよ。こいつには勿体ないけど、飲ませるしかないんだよ」

すぐさま治療したい気持ちも分かる。俺だって人間の心はある。目の前で苦しんでいる人間がいながら、薬を飲ませるなとは言いたくない。
だけど、今回だけは違うと俺は勝手に思っている。

「メチコさん。今日は1日俺がプラノさんの面倒を見るから、俺に任せてくれないか?」

メチコさんは泣いていた。

「あんたのことを完全に信じる訳じゃないけどね、こいつはあの時の死に損ないだから、もし死んでも後悔はないよ……」

そう言ってこの部屋を去っていった。
再び勝瑞とプラノさんと3人になったところで、これからについて話し合った。
俺としては、フルティフォームさえ手に入れば検証が可能になるが、「面倒見る」と言った手前この場を離れることができない。
勝瑞もムーの所へは向かうつもりもないらしく、かと言ってプラノさんの面倒を見るのも嫌らしい。
本人は急変すれば対処できないと言っているが、面倒を見るのが嫌だけど断る理由がなく後付けで作った言葉にしか聞こえなかった。

「勝瑞、この店からは外に出ないから、薬を見て来てもいいか?」

渋々ではあったが勝瑞の了承を得て、俺は店内の全てのポーションを手に取った。
相変わらず目には変な文字が映っている。
だが、今はこれを有効活用せねば。
NSAIDs(エヌセイズ)ではない薬を探し当てれば痛みの軽減にはなるはず。
咳のし過ぎで胸痛を伴っているなら下手すれば肋骨が折れているかも知れない。

ここにある薬の大部分はプロピオン酸の薬だ。
俺の予想が当たっているなら殆どの薬は飲めない。
だが、俺は一度だけ見たことがある。ここの店でNSAIDsではない薬を。
今はそれを探しだす。
……あった……これが、これが“アセトアミノフェン”……プラノさん、あんたの助かる道が見えてきた気がする。

俺は慌てて2人のいる部屋へと入っていったが、プラノさんはもうぐったりとしていた。
反動で手に持っていたポーションを落としそうになったが、堪えてプラノさんの元へと駆け寄った。

「プラノさん!」

「がっくん、静かに。今寝ているだけだから。安心して脈はあるから」

嘘はつかないだろうが、一応脈をとってみると確かに触れた。勘ではあるが10秒に9回、即ち、54回/分はあった。
不整脈や病気じゃない限り心配はない数字だ。

「プラノさんが静かにしているうちに話を聞こうか、がっくん。僕に隠していることの全てを話して貰おうか」

笑っているような表情でも、内心の怒りが空気を読めない俺でも見えていた。
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