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第1章

20話

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第2候補と言うから親近感のある仕事だと思いきや、農作物や加工品、その他武器などを街中で売る普通の商人だと。

「どうかな? がっくん細かいこととか好きだから商いに向いていると思ったんだけど!」

細かいことが好きな人はいないだろう。
好きと言うよりかは、気になりすぎてイライラし始めるからしているだけだ。

「コミュニケーションを取るのが苦手な俺に商人ができるとでも?」

怒っている訳ではないが、焦って言葉を詰まらせる勝瑞の姿は少し見ものだった。
「気を取り直して、次行こう」そう言ってはいたが、第2候補の時点でこれなら第1候補も碌なものではなさそうだと感じていた。

「コミュニケーションを上手くするには、場数を踏むしかないんだよ。何度も何度も練習と努力してようやくできるようになるものだよ」

ど正論だけど、その以前にやらかしてその人とコミュニケーションを取ることができなくなるから練習と努力はすることができなくなってしまうんだ。
そう反論したかったが、言うと余計にややこしくなりそうだから何も言わず、形的には無視したようになっていた。
勝瑞も何も言わず、気まずい雰囲気がこの場には漂っていた。

そのまま少しの時間を過ごして、歩き続けていた2人は次の仕事候補の所へと着いた。

「がっくん。次はここだよ。ここはね簡単に言うと薬局だよ! がっくに、ぴったしだと思わない?」

ぴったりね……。そりゃ、死ぬ前は調剤薬局で働いていたからぴったりと言うよりかは、前と何も変わらないと言う方が正しい。

文明が栄えていないこちらの世界では、俺の知識が活躍できるほど薬の種類はないだろう。
あったとしてもせいぜい、漢方の知識程度だろう。

「しっつれーしまーす!」

勝瑞の元気の良すぎる声が建物内に響くが反応はない。
こちらの世界での薬局は、どんなものかと思っていたがやはりここは異世界だ。
見たこともないアンプルのような容器に色とりどりの水薬のようなものが入っている。
丁寧に並べられてはいるが、種類はそう多くはない。

「メチコさん今いないみたいだから、薬の説明を知っている限りだけどするよ」

そんな言葉を頭の片隅で聞きながら、目の前にあったピンクと赤が混じったような色の容器を左手に取った。
すると、持っている容器の上に文字が浮かび出した。
その文字は、元の世界ではよく使われている薬の名前で“ロキソプロフェン”と文字が浮かんでいた。
そんなこともあって勝瑞の話を碌に聞いていなかったが、「そのポーションは、怪我とか病気の時の万能薬だよ」と、そう言われて目線を勝瑞に向けるも、文字は消えることなく浮かんでいた。

このことから考えられるのは、この文字は目に直接表示されている。
現代科学でそんなことは可能か?
間違いなく不可能だ。

左手に持ったポーションを元の位置に戻すと、浮かんでいた文字は消え去っていた。
もう一度持つと、また同じように文字は現れた。
不思議だけど、懸念が1つ。
中心部に表示されるから視界が不良だ。
幸いにも左手は利き手ではないので、物を持つ機会も少ない。
もしこれが右手だったなら、物を持つたびにこんな文字が表記されては困る。

それよりも、このことは勝瑞に言うべきだろうか?
まだ何がどうなっているのか分からない現状で、軽々しく相談ができない。
帰って一度神に訊いてからにしよう。

「がっくん、大丈夫? 何か変だよ?」

こいつ、案外勘がいいのだな。
誤魔化す上手い言葉を見繕うのは時間がかかる。
それなら半分嘘で半分本当の話。

「普通に疲れたんだよ。昨日も色々あってあまり眠れてないし、今日は元運動バカに散々走り回されたからな」

皮肉をふんだんに込めたつもりだったけど、そう言えば、勝瑞は能天気野郎だった。
だから、効果は全くと言えるくらいなかった。

「いい運動になってよかったね、がっくん。運動不足だからこれからも頑張らないと!」

皮肉を皮肉で返された。
屈辱的だけど、言い返す気力はなく呆れた様子を態と浮かべて溜息を軽く一度だけ吐いた。

「がっくん。疲れているならいい薬があるよ。この黄色い薬は疲れを取れるんだよ」

そう言われて渡された薬を左手に持つと、“シグマビタン”と文字が浮かんでいた。
“シグマビタン”ビタミンB群の配合薬だな。
確かに疲労回復には効果的だろう。

「疲れてるんじゃないの?」

勝瑞がそう言ったのには理由がある。
それは、俺がポーションを飲まずにずっと手に持っているからだ。
覚悟を決めようにも、どうしても深く考え込んでしまい、飲むことができなくなっていた。
べ、別に怖いくはないからな!

これまで散々、異世界の食べ物を食べてきたのだ。何を怖がることがある。
遂に意を決して、ポーションの蓋を開けた。
ニヤケ顔を浮かべながら静かに見守る勝瑞。
もう飲むしかない。
覚悟を決めて、黄色の液体を口の中に流し込んだ。
どんな味がするのだろうと思っていたが、味は“無味”だった。
怖がっていた自分が馬鹿みたいだった。
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