14 / 52
第1章
14話
しおりを挟む
俺はと言うと、何かまずいことでも言ってしまったのか? と、俯きながら静かに冷や汗を垂らしていた。
「吉野川さん!」
「は、はい!」
「どっちでもいい。何でもいい。って言うのが1番困るんです! どちらにするか決めてください!」
「はい……」
そこには2回りは下の女の子に、怒られる中年の姿があった。それは、勿論俺だ。
決めてと言われても、正直なところ本当に飲まないから分からないんだよな。
だけど、同じ解答はご法度。ムーがここまで怒っているのは初めて見た。(今日出会ったばかりだけど……)
「じゃ、じゃあ、ハーブティーで」
「はい、分かりました!」
満面の笑みを浮かべながら、ハーブティーを淹れる準備をしてくれていた。さっきのは一体何だったのだろうか。
ハーブティーができるまで時間があるから、俺が何故ハーブティーを選んだのか解説しよう。
それはとても簡単な問題。中年あるあると言っても過言じゃない問題。
単純に紅茶には利尿作用があるから、夜目覚めたくないと思っただけ。今も夜だけど!
ここ最近、トイレに起きることが多くなって、唾液腺マッサージとかして喉を潤していたけど、効果は少なかった。
まだまだ若いと自分勝手に信じていたが、身体は正直だ。身体は自覚しろと言っているのだろうな。
独り言に付き合って貰って申し訳ない。余談はこのくらいにして、今俺は何をしているかと言えば、ハーブティーを淹れてくれているムーを見つめていた。
だって、楽しそうに鼻歌を唄いながら、満面の笑みで湯を沸かしているんだぞ!
そんな姿を見ていたら、こっちにまで笑顔が移りそうだ。
見つめていた俺が悪いのか、ムーが不意にこちらに視線を向けて見事に目が合ってしまった。
やましいことはないけれど、目が合ってしまえば目を逸らす癖が付いていて、首が飛んでいきそうになるくらいの勢いで俺は外方を向いていた。
「あ、あの……」
そう言われてムーの方を見るが、今度はムーが逆の方を向いていた。
「そんなに見られると恥ずかしいので、違う方を向いて貰えますか?」
返す言葉も見つからず、何も言わないままムーに背中を向けた。
小さな声で、すみません。と言った声も聞こえたが、返答に至るまで時間を有しそうだったので言葉を返せなかった。
ムーに背中を向けたとこまではいいが、ここはワンルーム、即ち、キッチンの反対側はムーの生活スペース。
比較的女の子らしい物は少ないけれど、ベッドの上に服とか普通に置いてある。
本棚に本も並べられているが、どうも文字は読めないし、分厚いから楽しい本ではなさそうだ。
生活スペースを見つめるのも悪いと考えたが、少し上に目を向けると、そこは真っ暗な窓ガラスだから、反射してニコニコ笑ったムーの姿が写っていたのだ。
最早、目のやり場がない状態だった。
となると、最善の手は目を瞑ることだと思うが、何故か目がそれを拒否していた。
窓ガラス越しにムーを見ては目が合わない内に天井に目を向け、時折、ベッドや本棚を眺めていた。
「出来ました!」
目の運動もそろそろ限界が近づいてきた頃、待ちに待ったティータイムがやってきた。
半分暇を持て余していたから結構な勢いで振り向いたら、ムーに少し驚かれた。
熱々の淹れたてカモミールティーを口に流し込み、ひと息ついたところ、ニコニコ笑顔のムーがとろけそうにこちらを見つめていた。
「そんなに見られると恥ずかしいのだが」
「す、すす、すみません。人が来るのが久しぶりなのでつい嬉しくて……」
驚いたムーは顔を赤め、恥ずかしそうに両手を使って顔を隠していた。
俺は、その様子を見ながらカモミールティーを啜っていた。
手に持っていたティーカップを机の上に置き、まだ顔を隠しているムーに尋ねた。
「村人との交流は、魔女だからできないのか?」
その言葉を聞いてムーは、顔を隠していた両手を机の上に置き、落ち込んだ様子で俯いていた。
「昼間も言いましたが、私は魔女で、誰とも会えないし、避けられているのです。村長と息子さんだけが私と話してくれるのです」
そう言っていた顔は作り笑いで、俺にでも分かるくらいだからずっと1人で、どれだけ寂しく過ごしてきたのか安易に想像がついた。
俺からしてみれば魔女などおとぎ話だけの世界で、現実には存在しない生き物だと思っていた。
が、実際にこんな世界にやって来てしまったのだ魔女の1人2人いてもおかしくないと思えるようになってしまった。
だけど、俺の知ってる魔女はもっと魔法を使い、性格の悪いおばちゃんのイメージ。
ムーの様に、優しく魔法を一切使ってない人間が魔女な訳……
まさか、これまで優しくして来たのは全て罠で、俺はまんまと捕まってしまった鴨……
そんな訳はない。初めて出会った時も優しく笑ってパンをくれ、何も知らない俺を優しく送り出してくれて再会した今もこうして家にまで招いてくれて、温かいカモミールティーを淹れてくれた。そんな優しい人間が魔女な訳ない。
「ムー1つ訊きたいことがある」
「吉野川さん!」
「は、はい!」
「どっちでもいい。何でもいい。って言うのが1番困るんです! どちらにするか決めてください!」
「はい……」
そこには2回りは下の女の子に、怒られる中年の姿があった。それは、勿論俺だ。
決めてと言われても、正直なところ本当に飲まないから分からないんだよな。
だけど、同じ解答はご法度。ムーがここまで怒っているのは初めて見た。(今日出会ったばかりだけど……)
「じゃ、じゃあ、ハーブティーで」
「はい、分かりました!」
満面の笑みを浮かべながら、ハーブティーを淹れる準備をしてくれていた。さっきのは一体何だったのだろうか。
ハーブティーができるまで時間があるから、俺が何故ハーブティーを選んだのか解説しよう。
それはとても簡単な問題。中年あるあると言っても過言じゃない問題。
単純に紅茶には利尿作用があるから、夜目覚めたくないと思っただけ。今も夜だけど!
ここ最近、トイレに起きることが多くなって、唾液腺マッサージとかして喉を潤していたけど、効果は少なかった。
まだまだ若いと自分勝手に信じていたが、身体は正直だ。身体は自覚しろと言っているのだろうな。
独り言に付き合って貰って申し訳ない。余談はこのくらいにして、今俺は何をしているかと言えば、ハーブティーを淹れてくれているムーを見つめていた。
だって、楽しそうに鼻歌を唄いながら、満面の笑みで湯を沸かしているんだぞ!
そんな姿を見ていたら、こっちにまで笑顔が移りそうだ。
見つめていた俺が悪いのか、ムーが不意にこちらに視線を向けて見事に目が合ってしまった。
やましいことはないけれど、目が合ってしまえば目を逸らす癖が付いていて、首が飛んでいきそうになるくらいの勢いで俺は外方を向いていた。
「あ、あの……」
そう言われてムーの方を見るが、今度はムーが逆の方を向いていた。
「そんなに見られると恥ずかしいので、違う方を向いて貰えますか?」
返す言葉も見つからず、何も言わないままムーに背中を向けた。
小さな声で、すみません。と言った声も聞こえたが、返答に至るまで時間を有しそうだったので言葉を返せなかった。
ムーに背中を向けたとこまではいいが、ここはワンルーム、即ち、キッチンの反対側はムーの生活スペース。
比較的女の子らしい物は少ないけれど、ベッドの上に服とか普通に置いてある。
本棚に本も並べられているが、どうも文字は読めないし、分厚いから楽しい本ではなさそうだ。
生活スペースを見つめるのも悪いと考えたが、少し上に目を向けると、そこは真っ暗な窓ガラスだから、反射してニコニコ笑ったムーの姿が写っていたのだ。
最早、目のやり場がない状態だった。
となると、最善の手は目を瞑ることだと思うが、何故か目がそれを拒否していた。
窓ガラス越しにムーを見ては目が合わない内に天井に目を向け、時折、ベッドや本棚を眺めていた。
「出来ました!」
目の運動もそろそろ限界が近づいてきた頃、待ちに待ったティータイムがやってきた。
半分暇を持て余していたから結構な勢いで振り向いたら、ムーに少し驚かれた。
熱々の淹れたてカモミールティーを口に流し込み、ひと息ついたところ、ニコニコ笑顔のムーがとろけそうにこちらを見つめていた。
「そんなに見られると恥ずかしいのだが」
「す、すす、すみません。人が来るのが久しぶりなのでつい嬉しくて……」
驚いたムーは顔を赤め、恥ずかしそうに両手を使って顔を隠していた。
俺は、その様子を見ながらカモミールティーを啜っていた。
手に持っていたティーカップを机の上に置き、まだ顔を隠しているムーに尋ねた。
「村人との交流は、魔女だからできないのか?」
その言葉を聞いてムーは、顔を隠していた両手を机の上に置き、落ち込んだ様子で俯いていた。
「昼間も言いましたが、私は魔女で、誰とも会えないし、避けられているのです。村長と息子さんだけが私と話してくれるのです」
そう言っていた顔は作り笑いで、俺にでも分かるくらいだからずっと1人で、どれだけ寂しく過ごしてきたのか安易に想像がついた。
俺からしてみれば魔女などおとぎ話だけの世界で、現実には存在しない生き物だと思っていた。
が、実際にこんな世界にやって来てしまったのだ魔女の1人2人いてもおかしくないと思えるようになってしまった。
だけど、俺の知ってる魔女はもっと魔法を使い、性格の悪いおばちゃんのイメージ。
ムーの様に、優しく魔法を一切使ってない人間が魔女な訳……
まさか、これまで優しくして来たのは全て罠で、俺はまんまと捕まってしまった鴨……
そんな訳はない。初めて出会った時も優しく笑ってパンをくれ、何も知らない俺を優しく送り出してくれて再会した今もこうして家にまで招いてくれて、温かいカモミールティーを淹れてくれた。そんな優しい人間が魔女な訳ない。
「ムー1つ訊きたいことがある」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
ビフレスト ~どうやら異世界転移をしたみたいです~
とやっき
ファンタジー
思いもよらぬ異世界転移をした主人公。
適当な日々を過ごしながら、少しずつ異世界の生活をエンジョイしていく・・・。
残念だが、そんなにうまくはいかない。
次々と事件や女の子や魔王に巻き込まれて、多難な日々が幕を開けたのであった。
(というわけで、よくあるチートな能力を持った主人公が、徐々にハーレム作っていく異世界転移ものです)
◇
2018/ 7 / 25
投稿再開しましたが、アルティメット不定期更新です!
やりすぎハイスペックの手が空いたときにこっそり書いて投稿します。
本編、読みやすいように努力します(ルビ多めとか)
え? 内容? そんなものはテキト・・・いえ、何でもありません。
更新は超不定期更新です。
下部にヒロインと初登場の話数を書いてます。
あ、ネタバレ注意?
ヒロイン
ドジっ子駄勇者(第2話登場)
魔王の妹な魔法使い(第4話登場)
口数少ない貧乳エルフ(第4話登場)
見た目ロリなドラゴン(第18時登場)
爆乳お姫様(第21話登場・2章の閑話で先に登場)
従順な侍女(第13話登場)
Sな死霊術師(第13話登場・1章の閑話で先に登場)
登場予定のヒロイン
男性苦手な水神(3章~4章くらいに登場?)
人懐っこい猫魔王(4章~5章くらいに登場?)
ちょいヤンデレ雪娘(4章~5章くらいに登場?)
だいたいこんな感じを予定してます。これからも頑張っていきますので、宜しくお願いいたします!
異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました
雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。
女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。
強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。
くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる