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第1章

14話

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俺はと言うと、何かまずいことでも言ってしまったのか? と、俯きながら静かに冷や汗を垂らしていた。

「吉野川さん!」

「は、はい!」

「どっちでもいい。何でもいい。って言うのが1番困るんです! どちらにするか決めてください!」

「はい……」

そこには2回りは下の女の子に、怒られる中年の姿があった。それは、勿論俺だ。

決めてと言われても、正直なところ本当に飲まないから分からないんだよな。
だけど、同じ解答はご法度。ムーがここまで怒っているのは初めて見た。(今日出会ったばかりだけど……)

「じゃ、じゃあ、ハーブティーで」

「はい、分かりました!」

満面の笑みを浮かべながら、ハーブティーを淹れる準備をしてくれていた。さっきのは一体何だったのだろうか。

ハーブティーができるまで時間があるから、俺が何故ハーブティーを選んだのか解説しよう。
それはとても簡単な問題。中年あるあると言っても過言じゃない問題。
単純に紅茶には利尿作用があるから、夜目覚めたくないと思っただけ。今も夜だけど!
ここ最近、トイレに起きることが多くなって、唾液腺マッサージとかして喉を潤していたけど、効果は少なかった。
まだまだ若いと自分勝手に信じていたが、身体は正直だ。身体は自覚しろと言っているのだろうな。

独り言に付き合って貰って申し訳ない。余談はこのくらいにして、今俺は何をしているかと言えば、ハーブティーを淹れてくれているムーを見つめていた。
だって、楽しそうに鼻歌を唄いながら、満面の笑みで湯を沸かしているんだぞ!
そんな姿を見ていたら、こっちにまで笑顔が移りそうだ。

見つめていた俺が悪いのか、ムーが不意にこちらに視線を向けて見事に目が合ってしまった。
やましいことはないけれど、目が合ってしまえば目を逸らす癖が付いていて、首が飛んでいきそうになるくらいの勢いで俺は外方を向いていた。

「あ、あの……」

そう言われてムーの方を見るが、今度はムーが逆の方を向いていた。

「そんなに見られると恥ずかしいので、違う方を向いて貰えますか?」

返す言葉も見つからず、何も言わないままムーに背中を向けた。
小さな声で、すみません。と言った声も聞こえたが、返答に至るまで時間を有しそうだったので言葉を返せなかった。

ムーに背中を向けたとこまではいいが、ここはワンルーム、即ち、キッチンの反対側はムーの生活スペース。
比較的女の子らしい物は少ないけれど、ベッドの上に服とか普通に置いてある。
本棚に本も並べられているが、どうも文字は読めないし、分厚いから楽しい本ではなさそうだ。

生活スペースを見つめるのも悪いと考えたが、少し上に目を向けると、そこは真っ暗な窓ガラスだから、反射してニコニコ笑ったムーの姿が写っていたのだ。
最早、目のやり場がない状態だった。
となると、最善の手は目を瞑ることだと思うが、何故か目がそれを拒否していた。
窓ガラス越しにムーを見ては目が合わない内に天井に目を向け、時折、ベッドや本棚を眺めていた。

「出来ました!」

目の運動もそろそろ限界が近づいてきた頃、待ちに待ったティータイムがやってきた。
半分暇を持て余していたから結構な勢いで振り向いたら、ムーに少し驚かれた。

熱々の淹れたてカモミールティーを口に流し込み、ひと息ついたところ、ニコニコ笑顔のムーがとろけそうにこちらを見つめていた。

「そんなに見られると恥ずかしいのだが」

「す、すす、すみません。人が来るのが久しぶりなのでつい嬉しくて……」

驚いたムーは顔を赤め、恥ずかしそうに両手を使って顔を隠していた。
俺は、その様子を見ながらカモミールティーを啜っていた。
手に持っていたティーカップを机の上に置き、まだ顔を隠しているムーに尋ねた。

「村人との交流は、魔女だからできないのか?」

その言葉を聞いてムーは、顔を隠していた両手を机の上に置き、落ち込んだ様子で俯いていた。

「昼間も言いましたが、私は魔女で、誰とも会えないし、避けられているのです。村長と息子さんだけが私と話してくれるのです」

そう言っていた顔は作り笑いで、俺にでも分かるくらいだからずっと1人で、どれだけ寂しく過ごしてきたのか安易に想像がついた。

俺からしてみれば魔女などおとぎ話だけの世界で、現実には存在しない生き物だと思っていた。
が、実際にこんな世界にやって来てしまったのだ魔女の1人2人いてもおかしくないと思えるようになってしまった。
だけど、俺の知ってる魔女はもっと魔法を使い、性格の悪いおばちゃんのイメージ。
ムーの様に、優しく魔法を一切使ってない人間が魔女な訳……
まさか、これまで優しくして来たのは全て罠で、俺はまんまと捕まってしまった鴨……

そんな訳はない。初めて出会った時も優しく笑ってパンをくれ、何も知らない俺を優しく送り出してくれて再会した今もこうして家にまで招いてくれて、温かいカモミールティーを淹れてくれた。そんな優しい人間が魔女な訳ない。

「ムー1つ訊きたいことがある」
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