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第1章

3話

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目の前には白色の蝶が2匹飛んでいる。緑と茶色しか見えていなかった視界に、青色が新たに見えていた。
そうだ、あの瞬間、神のパンチを腹に喰らったんだった。それで、倒れ込んで……なんて情けない。こんな少女のパンチを一発喰らったくらいで倒れ込むとは。と言うか、少女の力ではなかった。下手すれば内臓が破裂していたかも知れないくらいの衝撃があった。

「これで分かったかのう。我が神だと言うことが。ほれ、早く起きい、先を急ぐぞ」

青い空を埋め尽くすように俺の視界に見下す顔が入ってきて、汚い物を見る様な視線をこちらに向けていた。
それと同時に手も差し伸べてくれていた。

「あぁ、すまない。神の証明とは少し違うがフェブが人間でないことは分かった。俺は現世でも神なんて信じていなかったから、突然神だと言われてもよく分からないのだ。すまないな」

神の手を取って引き上げて貰うが、やはりもの凄いパワーだ。体重75キロの俺を軽々と引き上げてしまっている。
普通の人間なら、前後ろで足を構えることでバランスを取っているのだが、肩幅に足を広げて仁王立ちの姿勢で俺を引き上げてしまった。恐ろしい力だ。

「フェブではない。神と呼べ。お主みたいな20数歳の若者に呼び捨てで呼ばれるのは心底腹立たしいわい」

これは相当怒っている様だ。これからは気を付けよう。でも、心の中の言葉まで聞かれてしまっては気を付ける手段も少ないな。

その後は会話も殆どすることなく只管歩き、何分経ったのだろう。俺はもうヘトヘトに疲れていた。
元々勉強しか碌にしてこなかったから急な運動は体に毒だ。それに、高校卒業以降、運動どころか通勤も車だったから歩く距離も極端に減っていた。

「神よ! 少し休憩しないか? と言うか休ませてくれ。もう歩き過ぎて動けない」

近くに生えていた幹の太い木に掴まりながら神に言ったが、神は子供で、子供は風の子で、俺の身長の倍くらいの高さにある枝に飛び乗って、1回転してその枝の上に飛び乗ってしまった。腕組みをし、睨む様な視線でこちらを見下していた。

「なんじゃ! 弱々しいのう。そんなんじゃからモテないんじゃぞ!」

俺がモテるとかモテないとかの話は関係ないのでは?
そんなことより、神の足止めには成功したが、どれだけ時間を稼げるかが鍵だ。
最悪の場合、無理矢理連れていかれることもあるのだろう。
いかんいかん。休憩中とは言え、神に思考は覗かれているのだ、余計なことは考えないようにしなくてはならない。

もたれ掛かっている木の冷たさがヒシヒシと背中に感じて、まるで背中全体にアイシングをしているようで……

「冷たっ!」

視界がぼんやりとしていたが、今ので意識ははっきりした。
何が起きていたのかと言うと、木の上から神が、水を垂らしていた。それも、垂らしていたと言うよりは水道の蛇口を開けていたぐらいの威力。そのお陰で、俺の服はびしょ濡れになっていた。

「おい! 起きろ。そろそろ行くのじゃ!」

起こし方ってものがこの神にはないのか!
寝ている人に水を掛けるのは、急激な体温低下とショックで心臓に悪いのだからな!
これは態と心の中で大袈裟に言っている。
性格が悪いのかも知れないが、心の中の声が神に聞こえるので口で言うよりも効果が高いとみた。
こう、心の中で思っている言葉さえも神には聞こえてしまうのか。
本当に厄介だ。

対して、神は何も言わずに1人勝手に歩き出した。人1人がやっと通れるくらい狭い獣道を。

あれから暫く、同じ様な景色と言うか、森だから木しかない、木に覆われた道を歩いていた。もうそろそろ俺の体力は限界を迎えそうであり、道に剥き出しになっている木の根っこに引っ掛かっては、転びそうになるのを何度も繰り返していた。

もう本当に駄目だ。視界が歪み始めて、意識も朦朧としてきた。
幸いのことに、木々に埋め尽くされた空間にいるから、木を伝って辛うじて歩けていた。
時々、棘の付いた蔓の様なものに触れて、手に血が付いているが痛みというものが感じられない。極限まで疲労が蓄積していた。

「おい、着いたぞ」

あれから一言も喋らなくなった神が、久しぶりに喋ったと思えば「着いた」だと!
着いたって目指していた場所にか?
まだまだ木々に囲まれているが、休める場所があるのか?
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