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第1章

2話

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また話が逸れる前に、神に覚悟を伝えて、俺の死因でも問いただそう。
もうどんな死因だったっていい。もっとポジティブに考えて、地球では死んでしまったけど、こちらでは何が何でも生き抜いてやる。
って言うのが覚悟だけど。

「なぁ、神の少女。例えどんな死に方をしたのだっていい。もう2度とそのヘマを踏みたくないから何で死んだのかもう1度聞いてもいいか?」

神の少女は、俺が立ち止まってから更に3歩進んだところでようやく止まった。こちらを振り返ることもなく、小声で呟いた。

「お前の覚悟は煩いくらい聞こえていたわい。そこまで知りたいなら言ってやらんでもないが……」

さっき迄とは違う小さな声で、更には都合の悪いタイミングで風が吹いてしまい、ここから先の言葉を聞き逃した。
勿論、俺は訊き返したが、神の少女は口を割ることはなく、静かに歩き出した。
そのせいでまた、静かな森に2人分の足音が響くだけの空間になってしまった。都合の悪い風よ、こう言う時に吹いてくれよ。

「お前。過去のことばかり聞いているだけでいいのか? 我はこの世界の神じゃぞ。この世界のことなら話せる限りは話してもいいのじゃぞ?」

2人分の足音しか聞こえない森で神は突然喋り出した。その声はさっきと同じような呟くくらいの大きさ。
突然のことで思考がフリーズしてしまったが、確かに、過去を聞き出すだけじゃなく、ここがどう言うところなのかもっと詳しく聞き出すのも必要だ。

「じゃ、じゃあ、ここの話をして貰いたい。ここはどう言う所なんだ?」

そう訊き返すと、まるで違う人物に代わったかのような元気な大声で、

「うむ、この我。この世界の神、フェーブ・ル・アールが教えて差し上げようぞ!」

「あぁ、頼む……」

このテンションの落差は何なんだ?
それよりもこの神、フェーブ・ル・アールとか言うのか。そう言われてみれば、こちらの話ばかりで神のことを神以外に知り得てなかった。
それにしても、地球神話でそんな名前聞いた事がないな。こいつ、本当に神なのか?
今のところ神っぽいところはないに等しい。

「おい! お前!」

「お前じゃない。俺にも名前くらいはある。吉野川学だ」

「煩いわ! 細かいことはどうでもいいのじゃ! それより、お主、初めに言ったがお主の頭の中の声は我にも届いているのじゃぞ! ちょっとくらいは気を付けんか」

そんなの初耳だ。初めに言ったと言っているがそんな描写少しでもあったか?
さっきから、何故か心が読まれていると思っていたが、まさか、心の声が聞こえているとは思いもしなかった。

「何を言っておるのだ。お主、初めの自己紹介、頭の中で呟いておっただけだっただろうに。よく見直して見い。ほれ、鉤括弧が付いておらんだろう」

確かに迂闊だった。何となく頭の中で考えていた文章だったため、口には出していなかった。
おいおい、待てよ。と言うことはつまり、俺の思考は全て見られるということなのか?
それは最悪だ。脳内悪口再生所での脳内再生ができなくなってしまう。俺の唯一と言えるストレス解消法だったのに。

「お主、最低な趣味を持っていたのだな。シンプルに引くわ~」

神が神らしくない言葉を使い始めた。頭の上に生えている耳もさっきまではピンと立っていたが、今は倒れきっている。

「む、そんなことより、この世界の説明はどうなった? 早く聞きたいのだが?」

こう言うことになった時は話を変えるのが1番だ。無駄話をするよりも有益な話を聞いた方が時間の有効活用になるからな。

「はーい、はーい、我はお主の続きの話を聞きたいがなぁ。脳内悪口再生所ではどんな事を言っていたのかのう。高校からでいいから3年間どんな事を言っていたか聞かせてほしいのう」

こいつ……。この脳内の言葉を聞かれてしまうの本当にどうにかならないのだろうか。厄介でしかない。こんなちんちくりんに聞かれるのが1番腹立たしい。
いけない、いけない。こんな言葉を聞かれてしまっているんだ。これからは頭の中で話をするのを減らそう。本当に減らそう。

目の前に立っている、フェーブ・ル・アールとか名乗る神が明らかにこちらを睨んでいた。大体の原因は分かっている。“ちんちくりん”そんな言葉を脳内で言ってしまったって所だろう。だか、これは非常にまずい。
こんな右も左も分からない土地で放置されるのだけは勘弁だ。サバイバル経験もなければ料理も碌にできない。進歩しすぎた現代に縋り過ぎていた自覚はあるけど、まさかこんなことになるとは誰も思わないだろ。

「お主。我のことを“ちんちくりん”と言ったかのう。我が神であることがまだ分からないか? その発言後悔させてやる」

そのスピードは人間のものではなかった。サッカーを体育でしている時の誰よりも早い速度。俺が衰えているだけかも知れないが、気が付けば、5歩くらいあった筈の距離が数10センチの距離になっていた。それに、神は完全に宙に浮いていた。顔が同じくらいの高さにあった。ジャンプとかそんなぬるいものではない。それはまるで瞬間移動だった。
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