Daddy Killer

リョウタ

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第十二話 「沖縄旅行はどうなるか?」

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結局、この日は井戸沢さんの家に泊まることにした。

明日は仕事もあるから、このまま井戸沢さんの家から通勤しなければならない。

僕は井戸沢さんの看病をするとか言っていたのに、何も食べ物を買ってきておらず、全部井戸沢さん任せになってしまった。

まるで思いやりがない。

夜遅く、コンビニに行って、ゼリーを買ってあげた。

そのゼリーを井戸沢さんの口に運んであげた。

僕が井戸沢さんにしてあげれたことはこれくらい。

あとは自分の欲求のままに迷惑をかけまくった。

でもいつもより弱っている井戸沢さんをみてかわいいなと思っている自分もいた。

朝、僕より先に井戸沢さんが起きていた。

朝ご飯の準備をしているようだ。

「おはよう。もう起きて大丈夫なの?熱あるんじゃないの?」

「おはよう。昨日、遅くまであんなことまでしてよく言えるね。鈴木君のおかげかわからないけど、熱がまた下がったよ。36度になったよ。僕より鈴木君は何ともないの?体しんどくない?」

「僕は頭が悪いから風邪なんか引かないよ。それだけが取り柄だから。勉強してこなくてよかった。」

「鈴木君って全然頭悪いと思わないんだけど、すごい悪知恵働くし。困った子だし。」

「それより早く大阪帰ろ。今週連休取るから仕事たくさん残ってるし、あっ。わざわざ昨日、泊まりに来る必要なかったね。連休ずっといるもんね。」

「自分から来といてそんなこと言う?熱下がったし、沖縄やっぱり行こうかな。取引先にも挨拶したいし。」

「えっ。やっぱ行くの?もう僕はこの家にいる気満々だったけど。若い男の子にも会いたいしね。」


「君の口は縫った方がいいかもね。鈴木君のせいで元気出てきたよ。とりあえず、東京の荷物を片付けることから始めなきゃね。鈴木君は仕事頑張ってね。」

僕は大阪の仕事に行った。

「やったな。」

「えっ。」

僕の頭の片隅から声がする。

そうだ。

あいつだ。

もう一人の僕。

Daddy Killer良太。

「これで作戦通りいけんじゃねーのか。」

「そうだね。やっぱり沖縄旅行行くことなっちゃったもんね。あれを決行しちゃったらさすがに井戸沢さんに会う顔がないもんね。ありがとね。あと二日後だもんね。沖縄旅行。」

「期待しているぞ。良太。」

僕の頭からふっと消えた。

うまいことやらなきゃね。

旅行二日前までは普通通り接するだったね。

前日になったらいきなり連絡を断つだね。

今日までは普通。

明日からサヨナラだね。

よし!!

昼と夜に井戸沢さんから電話があり、いつも通り接した。

問題は明日から。

ただ無視するのはつまらない。

何かやろう。

いつもと違うことを。

明日はいつもより帰るのが遅くなるはず。

仕事帰りにどっか行こう。

あっ。

そうだ。

以前、行ったゲイバーに行こう。

こういう業界の情報収集を全然したことなかったからいい機会だ。

ちょっと気になっているところもあるし。

思いっきり乱れようか。

次の日の朝、ミッション開始。

井戸沢さんからの電話だ。

当然、無視。

朝、昼、夜、何事もなく仕事を終わらす。

昼の電話も知らんぷり。

夜の電話も知らんぷり。

メッセージは明日になったら読んでよし。

Daddy Killer良太と一緒に楽しむ予定。

僕は夜、仕事を終えて以前、カズさんと行ったゲイバーに向かった。

「こんばんは。」

「あら。いらっしゃい。今夜は一人?まさるは一緒じゃないの?」

「ああ。カズさんですか。僕たち別に付き合ってないので。」

「まあ薄情な子ね。まさるはあんたの話たくさんしていたわよ。」

「ごめんなさい。あの人に全く興味がないんです。」

「あんた若いのにはっきり言うわね。可愛くないわ。で今日はどうしたのよ。おじさんを漁りにきたの?」

「それもありますけど、ちょっと前から興味あるところがあったんで、マスターに聞こうと思ったんです。」

「どこよ。おじさんがいっぱいいるゲイバー?うちがそうよ。うちで遊んでいきなさい。」

「そうじゃなくて、エッチなところ。南洋館ってとこ。」

「まあ大変。盛んね。あなた。場所が知りたいの?残念なことにこのお店に反対側にあるわ。」

「近いんですね。良かった。チャレンジしてみようと思って。」

「あんた大人しそうな顔してほんと心の中は野獣ね。怖いわ。キャッ。」

そうなのだ。

同性愛者が互いの性欲を吐き出す場所、南洋館に興味があったんだ。

こんな機会じゃないとなかなかいけない。

さあレッツゴーだ。

マスターに場所を案内してもらい、南洋館にきた。

少し緊張する。

料金表をみた。

若いと少し値段が安いみたいだ。

中に入ると、パッと見、ただの銭湯みたいに見える。

着替えるところがあって、温泉がある。

僕は温泉に入り、仕事の疲れを癒した。

温泉の中にもチラホラ僕より年上の男がいる。

こっちをみているような見ていないような。

なんとも言えない空気がある。

温泉から出て、タオル一枚羽織った僕はみんなが向かっている場所についていく。

そこがその場所のはずだからだ。

真っ暗の中、顔も見れない。

わかることはガタイだけ。

僕より大きいか小さいか。

それだけはわかる。

周りからたくさんの声と喘ぎ声が聞こえてくる。

想像していた通りだが、初めてだからどうしたらいいか目のやり場に困った。

僕がこの部屋に突っ立っていると、明らかに年上そうなお兄さんが、

「兄ちゃん、一人かい。向こうで個室があるんだ。一緒に行かないか。」

と誘ってくれた。

僕は言われるがままに、そのお兄さんについていった。

どうやらホテルのように個室があるらしい。

僕はこのお兄さんと遊んでもらった。

広島から出張で来ているお兄さんだった。

僕は少し事情を話した。

「明日、おじさんと沖縄旅行に行く予定なんですけど、やめようと思っているんです。」

「えっ。なんで?その人のこと嫌いなのか?」

「好きですけど、向こうは浮気ばっかりするので腹が立って。」

「君もこういうことしてるじゃん。どっちもどっちじゃないの?」

「そうなんですかね。僕は遊んでるだけ。向こうは全国各地の若い子と付き合ってるんですよ。」

「そのおじさんが言ってるだけじゃないの?複数の子と遊びじゃなくて付き合うのってけっこう大変だよ。家族持っていると時間も拘束されちゃうし、そんなにうまいことできないと思うけど。」

「だって、井戸沢さん、家族とは別々に暮らしているし。」

「あっ。そうなんだ。特殊な事情なんだね。俺も結婚してるから、出張に来る時しかこうやって遊べないから大変だよ。でも、付き合うとかはしないようにしているよ。相手にも悪し、妻にも悪しね。」

なんか僕はこの人と話して不思議だと思った。

同性愛者で既婚者がこんなにも多いということ。

いろんな考え方の人がいるということ。

世界は広いと考えさせられた。

でも僕は自分の考えを曲げない。

今日は乱れまくると決めているんだ。

僕はこの広島のお兄さんの部屋から出て行こうとした。

「あれ?朝まで一緒にいないの?」

「はい。ちょっとこの南洋館の中、もっと探検したいので行ってきます。」

「そっか。じゃあまた機会があったらよろしくね。」

僕はまた、広い暗い部屋に向かった。

おそらく今は真夜中の2時~3時。

明日の飛行機の出発時刻は14時。

あと12時間後か。

余計なことを考えるな。

忘れるんだ。

全て。

僕に向かってくる人たちは全てお相手した。

一人、二人、三人。

四人、五人、

もうわからなくなっていた。

誰が誰かわからない。

どうにもなれ。

僕もどうなってもいい。

どうでもいい。

もう終わったんだ。

全て。

井戸沢さんのことも。

さようなら。

井戸沢さん。

つづく。
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