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第十話 「告白」
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朝になった。
いつものように7時に井戸沢さんから電話がない。
僕の想像だけど、北海道の彼と一緒にいるんだ。
そう思う。
昨日の絶望だった一日よりはずいぶんマシだけど、井戸沢さんが僕以外の男と一緒にいることを想像するのが本当に辛い。
今まで、こんな気持ちになったことなかったのに。
何でだろう。
でもしつこく連絡を催促してはいけない。
昨日の件で、僕はめんどくさい子だと思われているのは明らかだからだ。
何でうまく振る舞えないのだろう。
感情をコントロールすることができれば、こんなバカみたいな行動をとることはない。
とりあえず、待とう。
朗報は寝てまて。
だいぶ元気になった僕は仕事では支障がなく、周りの方や取引先の方々に心配や迷惑をかけることはなかった。
昼過ぎに井戸沢さんからメッセージが入った。
「昨日はありがとうね。鈴木くんから返事があって嬉しかったよ。今日は今から、取引先の社長と遅くなった昼ご飯。夜は接待。その後は飲みに出かけると思うから夜は遅くなるから先に寝といてね。」
ムカッ。
このジジイ。
仕事の後は飲みに行くだと?
どうせ、おまえのことだからゲイバーで若い男漁りだろ?
北海道の彼をほったらかして、別の若い男かよ。
いいご身分だな。
どうぞ、ご勝手に。
井戸沢さん、たくさん若い男の子とお遊びください。
祈っていますよ。
あんたのアソコが枯れるまで。
「わかりました。楽しんできてくださいね。いい男の子がいるといいですね。たくさんの若い男の子と遊んでいる井戸沢さんは本当に素敵だと思います。僕も今日は普通の居酒屋に飲みに行こうと思います。ともに楽しい夜にしましょうね。」
送信済み。
これって嫌味なのか?
自然とこういう文章がスラスラかけてしまう。
僕って自分で思っている以上に性格が悪かったんだ。
井戸沢さんはどう思ったのか。
どうでもいっか。
今日は、前から連絡がありまくる66のカズさんと遊んでみようと思う。
「カズさん。僕、夜、暇なんですけど、空いていますか?」
「良太くん!?連絡があって、嬉しいよ!!全然、返信してくれないから嫌われちゃったんのか思っていたよ!!もちろん!!仕事あったけど、良太くんと遊べるんならほったらかして帰るよ。」
あっ。
連絡返してなかったんだ。
返してなかったことに気付いてもなかった。
仕事ほったらかしてって人としていいのかな。
惹かれないな。
夜、カズさんと梅田で待ち合わせした。
「良太くん!!久しぶり。元気だった。」
「はい。元気です。そんなに久しぶりでしたっけ?」
「もう。最後に会ったのは、お盆のときだから、一ヶ月以上たつよ。あんまり良太くん連絡くれないし、俺のこと興味ないのかと思っていた。」
「カズさん、優しいから好きですよ。今からどこに行きますか?」
「ホテル。ダメ?」
「えっ。別にいいですよ~。」
「本当にやった~!!行こう!!」
そんなに嬉しいんだ。
よくわからないな。
僕は全然やる気が出ないけど。
好きでもない人とやることに意味があるのだろうか。
まあカズさんが楽しければいいけど。
たまにはボランティアも悪くはない。
もしかしたら、楽しいかもしれないし。
ブーブーブー。
こんなときに電話が鳴る。
もちろん出ないけど、チラッとスマホの画面をみた。
井戸沢さんの名前がみえた。
は?
井戸沢さんは接待中だろ?
何で電話かけてくる?
知らん。
今はこのおじさんの相手で忙しい。
僕は井戸沢さんの電話に出ず、カズさんに案内されるまま、ホテルに行った。
二時間後、ホテルから出た。
カズさんにこれから飲みに行こうと誘われたが、あまりにも楽しくなさ過ぎたため、一刻も早くこのおじさんから去りたかった。
カズさんと井戸沢さん。
おそらく同じ50代のおじさんにも関わらず、こんなに満足度が違うなんて。
テクニックとかじゃない。
気持ちなんだろう。
好き。
愛している。
簡単に言える言葉だけど、愛とはなんて強い感情なんだ。
薬物に匹敵するほどの中毒性の高い感情。
こんな恐ろしいものが人間の中にあることが信じられない。
帰りの電車に向かう途中、またスマホが鳴った。
「はい。」
「鈴木君。もう帰ってるの?外にいるの?」
「僕、飲みに行くって言ってましたよね?今から帰るところです。井戸沢さんこそ、お仕事中じゃないんですか?」
「接待中だったけど、ちょっと君のことが気になったか電話したんだよ。何もなくて良かったよ。金曜日の夜に京都に戻るよ。鈴木君。週末はうちにくるかい?」
「他の彼氏の邪魔にならなければ、お邪魔させてもらいます。もうすぐ電車に乗りますので、おやすみなさい。」
「…。うん。おやすみ。」
なんか僕は一言多くなってしまう。
井戸沢さんが言っていた「何もなくて」ってどういう意味だったんだろ?
まさかね。
でも僕のことを気にしてくれていたなんて、すごく心があたたかくなる。
幸せな感情でいっぱいになった。
井戸沢さんが北海道から帰ってくる金曜日まで、とても穏やかな気持ちで過ごせた。
金曜日は、大阪での仕事を終えて、帰宅もせずにそのまま井戸沢さんの京都の家に向かった。
僕は井戸沢さんに家に着いた。
出張から帰ってきたばかりの井戸沢さんは驚いていた。
「えっ。鈴木君。もう来たの?僕、全然、あと片付けとか終わってないよ!!」
僕は井戸沢さんの言葉なんか無視した。
井戸沢さんに飛びかかった。
思いっきり、抱きしめたかった。
たった二週間会わなかっただけで、こんなにも愛おしい気持ちが強くなっていたなんて。
スーツ姿のおじさんの体を素っ裸にし、僕はずっと強く強く抱きしめていた。
言葉なんていらないんだ。
余計なことばっかり言う僕の口と挑発ばっかりしてくる井戸沢さんの口。
どっちもいらない。
本当のことは体で確かめ合うしかないだろ?
そりゃ一晩中、眠ることも許されない激しい夜になることはおのずとわかること。
次の日の朝、当然、二人は夜寝ていないので、ずっと寝てる。
昼になって、目を覚まし、まず、二人でコーヒーを飲むことにした。
このとき、初めてまともな会話をした。
「今日、これからどうする?鈴木君は明日帰るんだろ?」
「うん。明日の夜、帰る。それまではずっといる。」
「そっか、今からドライブでも行く?」
「どこ行くの?京都は僕も知り合いがいっぱいいるから、滋賀まで行くかい?琵琶湖をドライブとかどうだい?」
「うん!!楽しみ!!」
井戸沢さんは社長だからかセダンに乗っていた。
有名な会社のプラウンに乗っていた。
車には興味はないが、井戸沢さんとの大好きな井戸沢さんとのドライブは楽しみだ。
琵琶湖に向かうまでの道中、僕は楽しくていっぱい話した。
自分の話や窓から見える景色で思うことを全部。
井戸沢さんも自分の話をたくさんしてくれた。
家族のこと。
親のこと。
仕事のこと。
井戸沢さんは京都の繊維関係の中小企業の社長だ。
三代目の社長らしい。
二代目のお父さんが大変厳しい方で、長男である井戸沢さんは厳しく育てられた。
井戸沢さんのお父さんは二年前、他界されたらしく、それから三代目の社長になった。
北海道から沖縄まで取引先が全国規模にあり、一年を通して半分以上は出張になる。
京都の家にいることも少なくなるし、井戸沢さんの次男が大阪の大学に行っているので、去年大阪で分譲マンションを購入にした。
井戸沢さんの奥さんの希望のマンションにしたそうだ。
こういう趣味があるため、奥さんには罪悪感を感じているようだ。
大阪のマンションには奥さんと息子さんが二人で住んでおり、たまに井戸沢さんが帰るっといった感じだ。
井戸沢さんの長男と長女は自立しているので、一人暮らしをしている。
長男が大阪で公務員をしているということに驚いた。
うちのゴミと一緒だったからだ。
長女が銀行でつとめている。
教育をしっかりされている家庭だと思った。
僕の家もそうだったんだけど、兄は両方とも勉強できたけど、僕は全然だったから、親の教育のせいかな?
井戸沢さんの話にとても共感できたのはお父さんがとても厳しかったこと。
僕は話した。
自分の父親のことを。
とても厳しい人だということを。
でも。
「えっ。お父さん。警察官の偉いさんだったの?びっくりだよ。僕とこんなことしてていいの?お父さんに怒られるよ?」
と茶化すばかり。
琵琶湖に着き、僕と井戸沢さんは近江牛を食べた。
「夜のことを考えて精をつけなきゃね。」
この人の頭の中はそればっかりだなと嬉しくなった。
帰りの京都に戻る車の中、なんか気まずい雰囲気になった。
井戸沢さんはソワソワしている。
わかっている。
僕とやらしいことがしたくてソワソワしているんじゃない。
他の彼氏だろ?
スマホに一切触れていなかった。
ずっと電話がメッセージが鳴り続けているのだ。
いつも井戸沢さんは、僕のいる前でも平然と全国各地にいる彼氏か愛人か知らないけど、各地の男どもと電話している。
前も僕が井戸沢さんの家に泊まりに来た時も、
「ちょっと鈴木君、静かにしててね。東京の友達に電話するね。おはよう。昨日は夜、メッセージ送れなくてごめんね。ちょっと夜飲みに行ってて帰るのが遅かったんだ。違う違う。そういうお店には行ってないよ。ホントだよ。ホント。早く会いたいね。」
っていうような電話を何人もしてるんだ。
僕にもしてることは他の人にも当然している。
こんなこともう耐えられないよ。
先のことを考えるとしんどいんだよ。
こんな目先だけの快楽。
何にもならないよ。
僕のためにならない。
今日、伝えよう。
僕の気持ちを。
夜、井戸沢さんの京都の家に着いた。
帰って早々、僕は井戸沢さんに抱きついた。
「えっ。鈴木君。怒ってたんじゃないの?車の中でずっと黙っていたし。」
「違う。もう辛いから。井戸沢さんの本当の僕の気持ちを伝えようと思って。」
「どうしたの?僕との関係やめるの?」
「うん。やめる。もう別れる。僕は井戸沢さんが他の男と仲良くしているのが我慢できない。ホント許せない。だから終わった方がいい。このままだったら井戸沢さんを傷つけてしまいそうでこわいんだ。」
井戸沢さんも強く僕を抱きしめてくれた。
「僕はどうしようもないダメなやつだね。鈴木君を苦しめてごめんね。鈴木君がしたいようにしたらいいよ。僕には止める権利もないからね。ただ一つだけ言わせてくれる。僕が好きな鈴木君のところ。鈴木君って9月3日が誕生日だったんでしょ?何で言わなかったの?普通言うでしょ?自分の誕生日って。」
「誕生日を言うと、物をねだっているみたいでイヤだったから。僕は井戸沢さんにそんなの期待してないから。」
「そこだよ。僕が鈴木君の好きなところ。僕が仲良くしている子たちはみんな言ってくるよ。誕生日に○○が欲しいって。僕は一人につき5万円までって決めているけど、鈴木君にも良いものを用意しているんだ。」
「何を?」
「新聞の折り込みチラシにあったんだ。ジャパントラベルんルン。」
「旅行会社のチラシ?この赤くマークしているの何?」
「11月の特売キャンペーン。沖縄旅行or北海道旅行三泊四日49800円、ホテルハイグレードどう?どっちが行きたい?」
「5万円までだから49800円。ちょうどだね。北海道は絶対イヤ!!ちょっと前、井戸沢さんが男といたところなんか行きたくない。沖縄に行ったことないから行ってみたいかな。」
「わかった。沖縄だね。早速明日、予約しとくからね。」
「じゃあ僕と井戸沢さんはその旅行が終わったら、終わりってことでいい?」
「そういうことになるのかな。じゃあそれまで楽しもう。」
僕と井戸沢さんの正式な期間が決まった。
11月の沖縄旅行。
それが終われば、井戸沢さんとは終わる。
あと約二ヶ月。
ほっとしたような悲しいような。
僕の心は井戸沢さんの優しさに触れ、終始穏やかだった。
つづく。
いつものように7時に井戸沢さんから電話がない。
僕の想像だけど、北海道の彼と一緒にいるんだ。
そう思う。
昨日の絶望だった一日よりはずいぶんマシだけど、井戸沢さんが僕以外の男と一緒にいることを想像するのが本当に辛い。
今まで、こんな気持ちになったことなかったのに。
何でだろう。
でもしつこく連絡を催促してはいけない。
昨日の件で、僕はめんどくさい子だと思われているのは明らかだからだ。
何でうまく振る舞えないのだろう。
感情をコントロールすることができれば、こんなバカみたいな行動をとることはない。
とりあえず、待とう。
朗報は寝てまて。
だいぶ元気になった僕は仕事では支障がなく、周りの方や取引先の方々に心配や迷惑をかけることはなかった。
昼過ぎに井戸沢さんからメッセージが入った。
「昨日はありがとうね。鈴木くんから返事があって嬉しかったよ。今日は今から、取引先の社長と遅くなった昼ご飯。夜は接待。その後は飲みに出かけると思うから夜は遅くなるから先に寝といてね。」
ムカッ。
このジジイ。
仕事の後は飲みに行くだと?
どうせ、おまえのことだからゲイバーで若い男漁りだろ?
北海道の彼をほったらかして、別の若い男かよ。
いいご身分だな。
どうぞ、ご勝手に。
井戸沢さん、たくさん若い男の子とお遊びください。
祈っていますよ。
あんたのアソコが枯れるまで。
「わかりました。楽しんできてくださいね。いい男の子がいるといいですね。たくさんの若い男の子と遊んでいる井戸沢さんは本当に素敵だと思います。僕も今日は普通の居酒屋に飲みに行こうと思います。ともに楽しい夜にしましょうね。」
送信済み。
これって嫌味なのか?
自然とこういう文章がスラスラかけてしまう。
僕って自分で思っている以上に性格が悪かったんだ。
井戸沢さんはどう思ったのか。
どうでもいっか。
今日は、前から連絡がありまくる66のカズさんと遊んでみようと思う。
「カズさん。僕、夜、暇なんですけど、空いていますか?」
「良太くん!?連絡があって、嬉しいよ!!全然、返信してくれないから嫌われちゃったんのか思っていたよ!!もちろん!!仕事あったけど、良太くんと遊べるんならほったらかして帰るよ。」
あっ。
連絡返してなかったんだ。
返してなかったことに気付いてもなかった。
仕事ほったらかしてって人としていいのかな。
惹かれないな。
夜、カズさんと梅田で待ち合わせした。
「良太くん!!久しぶり。元気だった。」
「はい。元気です。そんなに久しぶりでしたっけ?」
「もう。最後に会ったのは、お盆のときだから、一ヶ月以上たつよ。あんまり良太くん連絡くれないし、俺のこと興味ないのかと思っていた。」
「カズさん、優しいから好きですよ。今からどこに行きますか?」
「ホテル。ダメ?」
「えっ。別にいいですよ~。」
「本当にやった~!!行こう!!」
そんなに嬉しいんだ。
よくわからないな。
僕は全然やる気が出ないけど。
好きでもない人とやることに意味があるのだろうか。
まあカズさんが楽しければいいけど。
たまにはボランティアも悪くはない。
もしかしたら、楽しいかもしれないし。
ブーブーブー。
こんなときに電話が鳴る。
もちろん出ないけど、チラッとスマホの画面をみた。
井戸沢さんの名前がみえた。
は?
井戸沢さんは接待中だろ?
何で電話かけてくる?
知らん。
今はこのおじさんの相手で忙しい。
僕は井戸沢さんの電話に出ず、カズさんに案内されるまま、ホテルに行った。
二時間後、ホテルから出た。
カズさんにこれから飲みに行こうと誘われたが、あまりにも楽しくなさ過ぎたため、一刻も早くこのおじさんから去りたかった。
カズさんと井戸沢さん。
おそらく同じ50代のおじさんにも関わらず、こんなに満足度が違うなんて。
テクニックとかじゃない。
気持ちなんだろう。
好き。
愛している。
簡単に言える言葉だけど、愛とはなんて強い感情なんだ。
薬物に匹敵するほどの中毒性の高い感情。
こんな恐ろしいものが人間の中にあることが信じられない。
帰りの電車に向かう途中、またスマホが鳴った。
「はい。」
「鈴木君。もう帰ってるの?外にいるの?」
「僕、飲みに行くって言ってましたよね?今から帰るところです。井戸沢さんこそ、お仕事中じゃないんですか?」
「接待中だったけど、ちょっと君のことが気になったか電話したんだよ。何もなくて良かったよ。金曜日の夜に京都に戻るよ。鈴木君。週末はうちにくるかい?」
「他の彼氏の邪魔にならなければ、お邪魔させてもらいます。もうすぐ電車に乗りますので、おやすみなさい。」
「…。うん。おやすみ。」
なんか僕は一言多くなってしまう。
井戸沢さんが言っていた「何もなくて」ってどういう意味だったんだろ?
まさかね。
でも僕のことを気にしてくれていたなんて、すごく心があたたかくなる。
幸せな感情でいっぱいになった。
井戸沢さんが北海道から帰ってくる金曜日まで、とても穏やかな気持ちで過ごせた。
金曜日は、大阪での仕事を終えて、帰宅もせずにそのまま井戸沢さんの京都の家に向かった。
僕は井戸沢さんに家に着いた。
出張から帰ってきたばかりの井戸沢さんは驚いていた。
「えっ。鈴木君。もう来たの?僕、全然、あと片付けとか終わってないよ!!」
僕は井戸沢さんの言葉なんか無視した。
井戸沢さんに飛びかかった。
思いっきり、抱きしめたかった。
たった二週間会わなかっただけで、こんなにも愛おしい気持ちが強くなっていたなんて。
スーツ姿のおじさんの体を素っ裸にし、僕はずっと強く強く抱きしめていた。
言葉なんていらないんだ。
余計なことばっかり言う僕の口と挑発ばっかりしてくる井戸沢さんの口。
どっちもいらない。
本当のことは体で確かめ合うしかないだろ?
そりゃ一晩中、眠ることも許されない激しい夜になることはおのずとわかること。
次の日の朝、当然、二人は夜寝ていないので、ずっと寝てる。
昼になって、目を覚まし、まず、二人でコーヒーを飲むことにした。
このとき、初めてまともな会話をした。
「今日、これからどうする?鈴木君は明日帰るんだろ?」
「うん。明日の夜、帰る。それまではずっといる。」
「そっか、今からドライブでも行く?」
「どこ行くの?京都は僕も知り合いがいっぱいいるから、滋賀まで行くかい?琵琶湖をドライブとかどうだい?」
「うん!!楽しみ!!」
井戸沢さんは社長だからかセダンに乗っていた。
有名な会社のプラウンに乗っていた。
車には興味はないが、井戸沢さんとの大好きな井戸沢さんとのドライブは楽しみだ。
琵琶湖に向かうまでの道中、僕は楽しくていっぱい話した。
自分の話や窓から見える景色で思うことを全部。
井戸沢さんも自分の話をたくさんしてくれた。
家族のこと。
親のこと。
仕事のこと。
井戸沢さんは京都の繊維関係の中小企業の社長だ。
三代目の社長らしい。
二代目のお父さんが大変厳しい方で、長男である井戸沢さんは厳しく育てられた。
井戸沢さんのお父さんは二年前、他界されたらしく、それから三代目の社長になった。
北海道から沖縄まで取引先が全国規模にあり、一年を通して半分以上は出張になる。
京都の家にいることも少なくなるし、井戸沢さんの次男が大阪の大学に行っているので、去年大阪で分譲マンションを購入にした。
井戸沢さんの奥さんの希望のマンションにしたそうだ。
こういう趣味があるため、奥さんには罪悪感を感じているようだ。
大阪のマンションには奥さんと息子さんが二人で住んでおり、たまに井戸沢さんが帰るっといった感じだ。
井戸沢さんの長男と長女は自立しているので、一人暮らしをしている。
長男が大阪で公務員をしているということに驚いた。
うちのゴミと一緒だったからだ。
長女が銀行でつとめている。
教育をしっかりされている家庭だと思った。
僕の家もそうだったんだけど、兄は両方とも勉強できたけど、僕は全然だったから、親の教育のせいかな?
井戸沢さんの話にとても共感できたのはお父さんがとても厳しかったこと。
僕は話した。
自分の父親のことを。
とても厳しい人だということを。
でも。
「えっ。お父さん。警察官の偉いさんだったの?びっくりだよ。僕とこんなことしてていいの?お父さんに怒られるよ?」
と茶化すばかり。
琵琶湖に着き、僕と井戸沢さんは近江牛を食べた。
「夜のことを考えて精をつけなきゃね。」
この人の頭の中はそればっかりだなと嬉しくなった。
帰りの京都に戻る車の中、なんか気まずい雰囲気になった。
井戸沢さんはソワソワしている。
わかっている。
僕とやらしいことがしたくてソワソワしているんじゃない。
他の彼氏だろ?
スマホに一切触れていなかった。
ずっと電話がメッセージが鳴り続けているのだ。
いつも井戸沢さんは、僕のいる前でも平然と全国各地にいる彼氏か愛人か知らないけど、各地の男どもと電話している。
前も僕が井戸沢さんの家に泊まりに来た時も、
「ちょっと鈴木君、静かにしててね。東京の友達に電話するね。おはよう。昨日は夜、メッセージ送れなくてごめんね。ちょっと夜飲みに行ってて帰るのが遅かったんだ。違う違う。そういうお店には行ってないよ。ホントだよ。ホント。早く会いたいね。」
っていうような電話を何人もしてるんだ。
僕にもしてることは他の人にも当然している。
こんなこともう耐えられないよ。
先のことを考えるとしんどいんだよ。
こんな目先だけの快楽。
何にもならないよ。
僕のためにならない。
今日、伝えよう。
僕の気持ちを。
夜、井戸沢さんの京都の家に着いた。
帰って早々、僕は井戸沢さんに抱きついた。
「えっ。鈴木君。怒ってたんじゃないの?車の中でずっと黙っていたし。」
「違う。もう辛いから。井戸沢さんの本当の僕の気持ちを伝えようと思って。」
「どうしたの?僕との関係やめるの?」
「うん。やめる。もう別れる。僕は井戸沢さんが他の男と仲良くしているのが我慢できない。ホント許せない。だから終わった方がいい。このままだったら井戸沢さんを傷つけてしまいそうでこわいんだ。」
井戸沢さんも強く僕を抱きしめてくれた。
「僕はどうしようもないダメなやつだね。鈴木君を苦しめてごめんね。鈴木君がしたいようにしたらいいよ。僕には止める権利もないからね。ただ一つだけ言わせてくれる。僕が好きな鈴木君のところ。鈴木君って9月3日が誕生日だったんでしょ?何で言わなかったの?普通言うでしょ?自分の誕生日って。」
「誕生日を言うと、物をねだっているみたいでイヤだったから。僕は井戸沢さんにそんなの期待してないから。」
「そこだよ。僕が鈴木君の好きなところ。僕が仲良くしている子たちはみんな言ってくるよ。誕生日に○○が欲しいって。僕は一人につき5万円までって決めているけど、鈴木君にも良いものを用意しているんだ。」
「何を?」
「新聞の折り込みチラシにあったんだ。ジャパントラベルんルン。」
「旅行会社のチラシ?この赤くマークしているの何?」
「11月の特売キャンペーン。沖縄旅行or北海道旅行三泊四日49800円、ホテルハイグレードどう?どっちが行きたい?」
「5万円までだから49800円。ちょうどだね。北海道は絶対イヤ!!ちょっと前、井戸沢さんが男といたところなんか行きたくない。沖縄に行ったことないから行ってみたいかな。」
「わかった。沖縄だね。早速明日、予約しとくからね。」
「じゃあ僕と井戸沢さんはその旅行が終わったら、終わりってことでいい?」
「そういうことになるのかな。じゃあそれまで楽しもう。」
僕と井戸沢さんの正式な期間が決まった。
11月の沖縄旅行。
それが終われば、井戸沢さんとは終わる。
あと約二ヶ月。
ほっとしたような悲しいような。
僕の心は井戸沢さんの優しさに触れ、終始穏やかだった。
つづく。
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