Daddy Killer

リョウタ

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第二話 「次郎と愛加と良太」

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「9時ね。そろそろ出かけるわね。」

「愛加。日曜日なのに、お出かけなの?あっ。良太くんとデートなのね。」

「私、良太とは別れたの。」

「昨日、京都北区で住宅火災がありました。住人の50代男性井戸沢孝さんが住んでいたということですが、現在連絡がとれなくなっています。火は三時間後消し止められましたが、木造2階建ての住宅約550平方メートルが全焼しました。焼け跡から性別不明の1人の遺体が見つかりました。警察は遺体が井戸沢孝さんとみて身元の確認を進めています。」

テレビからニュースが流れ、愛加は恐ろしい形相でそのニュースをじっと観ていた。

「ガス漏れかしら、火事なんて恐いわね。愛加も料理するときは気をつけるのよ。って、良太くんと別れたの?母さん、聞いてないわよ。」

「言ってなかったっけ。」

「あんな優しい子。愛加とお似合いだったのに。そりゃ前の次郎くんの方がイケメンだし、気が利くし、自慢の彼氏だったと思うけど。」

「もう。どっちもいいの。鈴木たちのことは忘れて。とりあえず、私、出かけるから。」

そう言って、愛加は家を出た。

山本愛加。

30歳のOL。

大阪市内の会社に勤めている。

少し前まで、鈴木良太と付き合っていた。

別れたけど、今の良太の心境が知りたい。

良太に会わなくちゃ。

だって、あんなことがあったんだもの。

普通の精神じゃいられない。

私が助けてあげなくちゃ。

何度携帯にかけても、電源が入っていない。

良太の住んでいる大阪に行かなきゃ。

愛加は兵庫県の西宮で、両親と三人で暮らしている。

西宮から大阪までは、それほど時間がかからない。

愛加は良太が住んでいるアパートに着いた。

このアパートの三階に良太は住んでいる。

エレベーターがないので、階段で三階まで向かった。

三階に着くと、良太の部屋の前で男が立っていた。

「良太?あっ。次郎!!」

「愛加か。久しぶりだな。やっぱり良太と電話も繋がらないな。」

「部屋には、良太いたの?」

「いや。いない。てかいる気配もしない。」

「えっ。ほんとどこ行ったのよ。良太。」

「愛加の方こそ、良太と付き合っているだろ?良太のことなんか知らないのか?」

「あんなことが起こって、それどころじゃないでしょ?次郎はどこまで知っているの?」

「それは、俺の方が知りたい。愛加はどこまで知っている?」

次郎は、良太の三つ歳が離れた兄だ。

良太は、ブサイクなわけではないが、特別イケメンというわけではない。

しかし、兄の次郎は、顔が整っており、スポーツもそこそこでき、気配りもできて、女性にモテる。
たしかに私も、次郎と付き合っていたとき、すごく楽しかった。

でも、女癖が悪く、やきもちを焼くことが多かった。

何度も何度も別れようと思った。

そんなとき次郎は喫茶店でデート中、とんでもない相談をしてきた。

「愛加。ごめんな。俺、女癖悪くて。お前のこと、一番好きだけど、ついつい紹介してもらった子によくし過ぎてしまって、また浮気してしまって。」

「また、その話?もう、その話は前したから、いいわよ。嫌な話はやめましょう。気分が悪くなる。」

「いや~。それで話があるんだけど。」

「はぁー?」

「紹介したいやつがいるんだよ。」

「私と別れたいから、男を紹介するですって?ほんとあんた、人を舐めてるのもたいがいにしなさいよ?ぶっ飛ばすわよ?」

「いや~。ほんと、ごめん。そういうつもりじゃないんだけど、俺ってほんとダメなやつじゃん?だから、いいやつ連れてきたんだよ。お~い。良太!!」

私と次郎がいる席の三つほど離れた席に、パッとしない若い男がいた。

それが、良太だった。

「はじめまして、鈴木良太です。」

「えっ。鈴木って。もしかして、兄弟なの?」

「うん。俺の弟なんだ。たぶん愛加と良太ってお似合いだと思うんだ。愛加ってすぐ嫉妬するじゃん?俺、モテるし。だから、良太だったらあんまり女性関係ハデじゃないから、愛加も嫉妬しないと思うんだ。あと、良太もいつまでも独り身なの、心配だったし。」

「はぁ?弟のことが心配で私とくっつける?バカにしないでよ。あんたたちの顔なんか二度とみたくないわ!!」

そういって、愛加は怒って喫茶店から出ていった。

「すごい怒ってたけど、大丈夫なん?僕はどっちでもいいけど。」

「なんであんなに怒るのかな?俺はベストアイデアだと思ったけど、いちおう良太のスマホの連絡先、愛加にメッセージ入れとくからな。」

「え~。僕からはなんも送らへんで。何しゃべったらいいかわからへんから。」

私は、ホントにムカついた。

こんな話ってある?

別れたいからって自分の弟を使うなんて。

次郎はどうかしてる。

あの良太ってやつも。

普通兄が言うことにのこのこ従う?

ほんとバカじゃないの?

私は一週間くらい次郎に対する怒りが収まらなかった。

鈴木たちに対する嫌悪感しかなかったのだが、ふと考えが変わり始めた。

次郎は普段のデート中から、割と良太の話が多かった。

「俺の弟は不器用で泳ぐこともできないんだぜ。」

「弟のやつ、受験のときもどこ受ければいいかわからなかったから、俺がいく大学を決めてやった。」

「良太は、就職活動も自分一人でできなかったから、俺があいつに合いそうなとこ決めたんだぜ。」

「なんもできない弟だけど、俺と違って真面目で一生懸命なんだ。そういうところが好きなんだ。」

思い返してみると、良太の話ばかり。

私は、次郎が好きだっただけで、次郎の兄弟に興味があるわけじゃない。

話半分に聞いていたけど、これってブラコンね。

弟に執着しているように感じる。

そんな弟を私のものにするのが、楽しくなった。

だから、私は良太にメッセージを送ることにした。

「この前はごめんなさい。突然のことでびっくりして、急に怒ってごめんなさい。でも、よく考えたら、次郎とあなたは兄弟だけど、別の人間だし、もし良ければ、今度二人っきりでお話しする時間をください。今週の日曜日は空いています。」

「こんばんは。僕も日曜日空いています。どこに行ったらいいですか?」

なんて、簡素なメッセージ。

この子、私に興味ないんじゃない?

てかそもそも女に興味あるのかしら。

まあいいわ。日曜日ね。

良太と愛加は、大阪の梅田で朝10時に待ち合わせをした。

あ~。やっぱり仕事でもないのに、こんな朝早く大阪行くのめんどくさくなってきた。も~眠。

愛加は10時ちょうどに待ち合わせの場所に来た。

よく考えたら、次郎は時間にルーズだった。10分~15分の遅刻当たり前。それを計算して、行けばよかった。どうせ、兄弟から一緒でしょ。えっ。

すでに良太は愛加より早く待ち合わせ場所に来ていた。

「おはよう。良太くん。早いね~。」

「おはようございます。時間通りですよ。」

「いや~。だって、次郎は時間にルーズでしょ?だから、良太くんも同じかと思って、ちょっとびっくりしちゃった。」

「僕と次郎は全然違うんです。」

「良太くん、次郎のことお兄さんなのに、次郎って呼んでるの?変わってるね。」

「たしかにそうですね。僕のところ三人男兄弟ですけど、一番の上の太郎兄ちゃんには、お兄ちゃんって言ってます。親のいる前では、次郎兄ちゃんって言います。」

「あっ。なるほどね。次郎から少し聞いてるわ。お父さん、厳しい方なんですってね。次郎はよくお父さんとあなたの話をしていたわ。」

「えっ。僕なんか、話せる話題そんなにないと思うけど。」

良太は次郎からよく聞かせれていた通りの真面目なそうな青年みたい。

話をして、少し安心した。

てか、次郎の悪口をいうには、弟の良太を使うのが手っ取り早い。

今は余計なことを考えず、思いっきり次郎の悪口を良太に言いまくろうと私は思った。

良太は静かそうで、無口な子かと思ってたけど、話がとても合った。

何より、聞き上手。

好き勝手話さず、私がどう思っているかを察して、話をしてくる。

次郎は女の子にモテないって言ってたけど、顔は置いといて、聞き上手の男は需要があると思うけど。

朝は、梅田をブラブラ歩き、ランチはイタリアン。

カフェは、ケーキ屋さん。

次郎と違って、良太はイタリアンで文句言わないし、好き嫌いはないみたいだし、甘いものも大好き。次郎は甘いもの苦手だったから、気が合うじゃない。

ちょっと良太楽しくなってきた。

「夜はどうする?」

「僕はなんでもいいですよ。」

「あのね。普通夜くらいは男がリードするものよ。」

「そうですか?僕はそういうの求められていないような気がしていたので。」

「もう。いいわ。私が良太を男として、磨いてやるわ。そして、調子乗ってる次郎をガツンと言わせましょ。」

「え~。次郎って昔からすごいモテてるし、無理ですよ~。」
「無理じゃない。たしかに次郎は顔はいいわ。あと、女には全般的に優しいわ。すぐ浮気するわ。でも、良太くんもいいとこたくさんあるの、今日よくわかったわ。次郎に勝つのよ。わかった?」
「じゃあ、はいって言っときます。」

そんなやりとりをしているうちに私は次第に優しい良太に惹かれていった。

だけど、私は良太の心に抱えている圧倒的な闇に全く気がつくことがなかった。

今、思い返せば、私が言っていたことも良太に対してハッパをかけていたのかもしれない。

だからあんなことに。

つづく。
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