3 / 12
3話 正当な初面談
しおりを挟む入り口にケーキが並んだショーケースがあり、
その隣にレジがあり、セルフタイプのカフェであった。
「わあ、これめっちゃ美味しそう。」
さちこはしっとりとしたチョコレートクリームに覆われたケーキに
目を奪われて思わず言った。
「美味しそうだね。食べる?食べていいよ。」
「え、いいよ。食べる?」
「えっちゃんが食べるなら俺も食べる。」
「じゃあ食べようかな。」
彼は先にチョコレートケーキとドリンクを注文した。
「お会計ご一緒にされますか?」
店員が聞いた。
さちこは何となく
「あ、別でいいです。」
と言ったが、彼が
「いいよ。言って。」
と促した。
さちこの分も注文し、彼が会計したので
さちこは1000円札を差し出した。
「あ、いいよ。」
「いいの?ありがとう」
会社員ということだし、どんな職業かは詳しく聞いてないが
リモートワーク中にあれだけサボってラインする暇があるのだから
そんなに収入の高そうな職業に思えなかった。
だから何となく奢ってもらうのに遠慮してしまった。
席についてマスクを外した。
彼もマスクを外した。
彼は写真よりも若々しく硬派な顔立ちのイケメンだった。
声も話し方も落ち着いていて心地よかった。
ラインでは少しセックスの価値観についても語っていたが、
この日は一切しもい話をすることなく、真面目な話をしていた。
彼はさちこの話を楽しそうに聞いていた。
あっという間に3時間経ち、さちこはずっとトイレを我慢していたが
いよいよ膀胱が破裂しそうなぐらいになったので言った。
「トイレに行きたい。もう仕事戻る?」
「うん、じゃあそろそろ。」
店を出てフロアのトイレに行き、駅に戻った。
手ごたえはあったと思ったが、
手を繋いでこようとしないので不思議に思った。
(やっぱり私は彼にとってイメージと違ったのかな。
ちょっと喋りすぎたかな。
まあそれならそれで仕方ない。)
そう思っていると
彼は自分の乗る沿線を通り越してさちこを元の改札口まで送って行った。
「あら送ってくれるの?ありがとう。優しいね。」
「今度カラオケ行こうよ。」
「うん、行こう!じゃあまた予定連絡するね。」
「うん。」
(なんだ。やっぱ釣れてたではないか。
ただのまともな人ということだったのか。)
帰り際に手を繋いでこない男は久々だったので紳士的で好感度が上がった。
別れ際、さちこは思わず握手を求めた。
彼はさちこの手を握り返した。
顔がタイプの男に対しては身体が自然と反応するさちこであった。
ただ握手した瞬間、彼の手はとても冷たく厚みもなく貧相な感触だった。
「あ、手すごい冷たいね。」
「そう?」
「うん。今日は忙しいところありがとね。ごちそうさまでした。またね。」
「うん、またね。」
さちこは改札口を通り5歩ほど歩いて振り返ると
彼はこっちを向いて手を振っていた。
(やはり男はこうでなくっちゃ。)
待ち合わせにも10分前に着いていたし紳士的な彼に好意を寄せた。
帰りの電車からまたラインのやりとりが始まった。
彼はきっとセックスが丁寧なはず。
何となくそう思うさちこであった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
婚約破棄って、貴方誰ですか?
やノゆ
恋愛
ーーーその優秀さを認められ、隣国への特別留学生として名門魔法学校に出向く事になった、パール・カクルックは、学園で行われた歓迎パーティーで突然婚約破棄を言い渡される。
何故かドヤ顔のその男のとなりには、同じく勝ち誇ったような顔の少女がいて、パールは思わず口にした。
「いや、婚約破棄って、貴方誰ですか?」
お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。
さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。
“私さえいなくなれば、皆幸せになれる”
そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。
一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。
そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは…
龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。
ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。
よろしくお願いいたします。
※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。
〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。
藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。
バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。
五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。
バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。
だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。
転生伯爵令嬢は2度死ぬ。(さすがに3度目は勘弁してほしい)
七瀬 巳雨
恋愛
前世不慮の事故で亡くなった主人公は読みかけの小説の中へ転生した…。
その転生先は冒頭で命を絶ったヒロインの妹、ザイラ・ローリーだった。
ストーリーに影響しないように、令嬢生活を捨てヒロイン達に関わらないように生きてきたのに…なぜかストーリーは大幅に逸れに逸れて…
なぜかザイラはヒロインの運命の相手、フェルゲイン侯爵家の次男アイヴァンと政略結婚することになってしまった。
けれどもアイヴァンには既に恋人が居て…
ザイラの望みとは裏腹にトラブルに巻き込まれまくります。
恋愛多めにしたいですが、そこまで遠いかもです。
小説家になろう!様でも投稿させていただいてます。
https://ncode.syosetu.com/n7173iq/1/
永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
【完結済み】妹に婚約者を奪われたので実家の事は全て任せます。あぁ、崩壊しても一切責任は取りませんからね?
早乙女らいか
恋愛
当主であり伯爵令嬢のカチュアはいつも妹のネメスにいじめられていた。
物も、立場も、そして婚約者も……全てネメスに奪われてしまう。
度重なる災難に心が崩壊したカチュアは、妹のネメアに言い放つ。
「実家の事はすべて任せます。ただし、責任は一切取りません」
そして彼女は自らの命を絶とうとする。もう生きる気力もない。
全てを終わらせようと覚悟を決めた時、カチュアに優しくしてくれた王子が現れて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる