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41話 今生の別れ

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「俺もさあ、45歳以上の人にはこういうことは言わないけど、
さっちゃんならまだ間に合うからさ。」
「間に合わないよ。っていうか、欲しくないって思ってるからいいじゃん。
余計なお世話だよ。」
「さっちゃん、今日変だよ。」
「変じゃないよ。変なのはえなり君の方でしょ。」

しばらく沈黙が続いた。

「帰ろっか。」
「うん。」

さちこは「気分が悪いから帰る」とデート相手に意思表示したは生まれて初めてのことだった。

「わかった。お会計するから待ってね。」
「トイレ行ってくる。」
「じゃあトイレ出たらそのままエレベーターの前で待ってて。」
「うん。」

さちこは店を出て、トイレで涙を拭いてエレベーターホールに向かった。

彼はすでにボタンを押して待っていた。
エレベーターに乗るとあからさまに不機嫌に1階のボタンを八つ当たりするように押した。

「ご馳走様でした。」
「おう。」

さちこが後ろから声をかけると
彼は背を向けたままぶっきらぼうな返事をした。

自分から撒いた種なのに反省の色ひとつ見せないどころか逆ギレ気味の態度に
さちこはさらに腹が立ったが、
これで今生の別れと思うとせいせいしていた。

ビルから新宿駅までは行きよりも遠く感じた。
とぼとぼ下を向いて歩くさちこをほったらかすかのように
彼は早々前を歩いていた。

(そんなに不機嫌な態度するならとっとと先に帰れよ。)

二人の距離がどんどん離れて行った。

さちこは彼がそのまま帰るならそれでもいいと思った。
むしろ一人でゆっくり歩きたかった。

彼は20mほど先に進むと振り返り、さちこが追いつくのをじっとこちらを見て待っていた。

さちこが追いつくと彼はさちこの肩を抱き寄せて
「元気出して。」と言わんばかりに揺さぶってきた。

そんなことで機嫌が直るわけだもなく、
さちこは黙って駅まで歩いた。

「姐さん、こっちだから。ここまできたらわかるでしょ?」
「うん。ありがとう。」
「じゃあまたね~。」
「バイバイ。」

(またはないよ。)
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