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40話 虎の尾を踏んだ男
しおりを挟む新宿駅で晩御飯を食べて帰ろうということになり、
彼が昔よく行ったことがある北海道の食材を使った料理屋に行った。
高層ビルの高層階で、一面の窓ガラスに向いたカウンター席に案内された。
都心の夜景が一望できて、とてもロマンチックな気分になるはずだが、
相手がえなり君であるし、
今日のゴタゴタでとてもそんな気分にはならなかった。
さちこは夜景好きなので写真をパシャパシャとスマホに収めていた。
「ほら、もうちょっとこっちに寄ったら綺麗に撮れるよ。」
彼はさちこの椅子を自分の方に手繰り寄せようとした。
(そんなわかりやすい口実使ってんじゃねえよ。誰が寄るもんか。)
「うん、ここで大丈夫。」
「そ?大丈夫なの?」
「うん。」
写真を撮り終わり、さちこは食べたいものを食べたいだけ注文した。
彼はビール、焼酎、日本酒とチャンポンしてかなり酔っていた。
「最近どう?」
「最近?トレードやめようかと思って。
作家を目指す一環としてまずブログ始めてみようかと思ってるの。」
「なんで?」
「トレードは自分の中で違うなってわかったから。
もう充分頑張ったし。」
「ふーん。でもブログなんかさ、色んな人に批評されるよ。
いいことばっかりじゃないから。悪いこと言ってくる人のが多いよ。」
「うん。覚悟してる。でもやってみたいの。」
「ふーん。で、さっちゃんはどうなりたいの?」
「どうなりたいって?」
「さっちゃんはさあ、結局旦那と別れたくないんでしょ?」
「まあ、別れたいけど、経済的に助かってるから
今すぐ別れたいとは思わないよ。」
「じゃあ子供作ればいいじゃん。」
「は?なんで?子供はもう歳だし無理よ。」
「そんなことない。まだ大丈夫。」
「いやいや、そもそももう欲しいと思わないからいいの。」
「そんなことないよ。」
「そんなことないって。なんでえなり君がわかるの?
私はこの歳になるまですごくいっぱい考えてきて答え出たんだよ。
やっと自分の中で結論が出たのに、えなり君にわかるわけないじゃん。」
「俺はさあ、さっちゃんは子育てに向いてる女性だと思う。
子育てって何年もかかるもんじゃん。
長年何かに一生懸命取り組むのが向いてる人だと思うから。
子育てをやり切ったら何か見えるものがあるんじゃない?」
(うるせえよ。)
さちこはすごく腹が立った。
何も知らないくせに
自分の価値観を押し付けてくる彼に相当言い返したかった。
しかし、こういう奴にもう会うことはないし、
私が反論したところで理解できる寛容さもないのだから
時間の無駄だと思った。
(言い返したいけど言っても無駄。気力と時間がもったいない。)
返す言葉が見つからず、俯いて黙っていると
自然と我慢していた大粒の涙がポロポロと太ももに落ち始めた。
こっそり涙を拭っていたが、とうとう鼻水が出始めて鼻をかんでいると、
彼はようやくこちらの異変に気づいたようで、言い訳し始めた。
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