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17話『謎の男』
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「――風の音って、する?」
俺の耳にはなんの音も聞こえない。
偵察能力が高いゼーラにそう問うが、ゼーラも首を横に振って答えた。
この感覚はつい先程――《魔石屋グロリアス》で経験したばかり。
「これは《音滅の魔石》の効果か?」
「なんなのそれ?」
「さっきネアのギルドに来る前、《魔石屋》に行ったんだ。そのお店の中にあった魔石だよ。範囲内の人間の声以外の音を全て消すっていう魔石……でもさっき店にあったはずなんだけど……」
アルフレッドが言っていた。魔石はこの世界に一つしかない物だと。だから強い魔石はその分高価な値段が付き、滅多に手に入らないとも教えてくれた。
俺は『収納』している《破防の魔石》を取り出し、魔力を込めた。
俺が今できる一番の防御方法。それに使い方を知るいい機会でもある。
魔力は注いだけど、今のところ変化は見当たらない。
「ゼーラ、下がってて」
正直音が消えた今、ゼーラの偵察能力は使い物にならない。実際にゼーラが敵の気配を感じ取れている様子はない。
それに周辺で待機してくれているはずのレナードとネアが出てきてくれる気配もない。
この状況に気付いてないんだろうか。あるいは《音滅の魔石》は俺たちのいるこの場所にしか効果が出ていないのか。
どちらにしろ、これは人為的な攻撃なのは間違いないと思う。
「まずいことになったね、ゼーラ」
「洞窟にいる時も私のせいでレッドウルフが襲ってきたし……」
「まぁ、別にゼーラが悪いわけじゃないよ」
とりあえずこの場を耐えるしかない。
音がない以上どこから敵が出てくるか分からない。
「――出てこい」
「これがアルトの能力……?」
こむぎとあさがおだけ出しておく。何かあった時、身代わりになってくれるはずだ。
そう思って警戒している時だった。
大きな翼と赤い肌をした、まるでドラゴンのようなものが突如上空に現れた。
音がなくとも感じ取れるその巨躯の上には一人の男がこちらを見下している。
その異常なまでに伝わってくる男の敵意に、俺はゼーラの前に出た。
「ほう、庇っているのか」
他の音がないせいで、男の声が鮮明に聞こえてきた。
「お前は一体誰なんだ?」
こむぎたちも本能的に男とドラゴン型の魔獣を警戒するが、地面から遠く離れた上空に留まっているせいでこむぎたちが攻撃しようとも多分届かない。
「私か。私はそうだな……? ――皇帝、とでも呼んでくれ」
客観的に見たら明らかな戦力差が俺たちの間には見えていた。
皇帝と呼ばれる男はこの地に降りてくる気配がない。敵意は感じるが、攻撃してくる様子もない。
「アルト、今のうちに逃げよう」
後ろにいるゼーラが服を小さく引っ張る。
ゼーラの言う通り、逃げるなら今しかない。こむぎたちで気を引いて、俺たちはこの場から離れる。それがこの状況に置ける一番の得策だと、俺と同様にゼーラも判断したんだと思う。
「聞こえているぞ? この《音滅の魔石》は誰の魔力で動いていると思っている? 私の声がお前たちに聞こえて、お前たちの声が私に届かないわけがなかろう」
「何が目的なんだ。そうやって上にいるだけじゃ分からないんだけど、、降りてきてくれる?」
ここに俺たちを閉じ込めた犯人は分かったが、閉じ込めた意図が分からない。
戦力差はあっちの方がはっきり分かっているはずだし、攻撃するなら既にしていてもおかしくない。
ましてやこちらは二人とも子供だ。そのうち一人は女の子で非戦闘系の天職だ。あちらが警戒してるわけもない。
俺の《無からの覚醒》にも限界がある。多分こむぎ、いやボスのレッドウルフ含めた全勢力で挑んでも、あのドラゴンを落とせるかすら分からない。
「私の目的はお前の持つ《破防の魔石》だ。お前も災難だったな。あの死に損ないに渡された石ごときでこの私とこうして対峙するなんてな」
「わざわざその石ごときでこんな場所まで追いかけてくるなんてさぞ暇だったんだね。でもこれ一万ゴールドで買ったからさ? せめてお金だけでもくれる? ただで渡すのは多分レナードに怒られるから」
「ほう、怒られたくないのならその人間を殺せばよかろう?」
「そもそも僕が君を殺せば魔石を取らずに済むって結論に至らなかった?」
「ははは、お前は面白い。気付いているのだろう? 私に勝てないことに。――安心しろ、私もお前が時間稼ぎをしていることに気が付いている」
そう言うと、男はドラゴンの背中に足踏みして合図した。その瞬間、ドラゴンはこちらに口から炎を吐いた。
まるで火炎放射器のような威力だ。
俺はゼーラを逆の方向で待機しているあさがおの場所へ押し飛ばす。そして俺の前にレッドウルフを壁として三匹出してドラゴンの炎を受け止めた。
「これが魔石の効果……」
見るとレッドウルフの間を貫通した炎が俺の前で完全に停止し、すぐに消滅した。
今は驚いてる場合でも、感心する場合でもない。
非戦闘職のゼーラをこの場から逃がす。
「――『魔力付与』ッ! ……あさがお! ゼーラを連れてここから離れろ!」
「なっ! アルト! あんたが殺されるわ!」
「そう思うんなら早くレナードとネアを連れてきて。頼んだよ」
あくまでこの空間は《音滅の魔石》で音が消えているだけ。結界のような壁があるわけではない。
俺の指示を聞いたあさがおは村のある方へと走った。『魔力付与(エンチャント)』は施した。今できる最善の手である。
「はぁ、《破防の魔石》が無かったらもう死んでたところだった……」
炎が熱くなかったのも、その魔石の効果なのだろうか。生きて帰れたら色々と試すしよう。
それより今は。
「お前の力に敬意を払って、この私がお前の相手をしてやろう」
目の前に降りてきたこの男をどうにかしないといけない。
俺の耳にはなんの音も聞こえない。
偵察能力が高いゼーラにそう問うが、ゼーラも首を横に振って答えた。
この感覚はつい先程――《魔石屋グロリアス》で経験したばかり。
「これは《音滅の魔石》の効果か?」
「なんなのそれ?」
「さっきネアのギルドに来る前、《魔石屋》に行ったんだ。そのお店の中にあった魔石だよ。範囲内の人間の声以外の音を全て消すっていう魔石……でもさっき店にあったはずなんだけど……」
アルフレッドが言っていた。魔石はこの世界に一つしかない物だと。だから強い魔石はその分高価な値段が付き、滅多に手に入らないとも教えてくれた。
俺は『収納』している《破防の魔石》を取り出し、魔力を込めた。
俺が今できる一番の防御方法。それに使い方を知るいい機会でもある。
魔力は注いだけど、今のところ変化は見当たらない。
「ゼーラ、下がってて」
正直音が消えた今、ゼーラの偵察能力は使い物にならない。実際にゼーラが敵の気配を感じ取れている様子はない。
それに周辺で待機してくれているはずのレナードとネアが出てきてくれる気配もない。
この状況に気付いてないんだろうか。あるいは《音滅の魔石》は俺たちのいるこの場所にしか効果が出ていないのか。
どちらにしろ、これは人為的な攻撃なのは間違いないと思う。
「まずいことになったね、ゼーラ」
「洞窟にいる時も私のせいでレッドウルフが襲ってきたし……」
「まぁ、別にゼーラが悪いわけじゃないよ」
とりあえずこの場を耐えるしかない。
音がない以上どこから敵が出てくるか分からない。
「――出てこい」
「これがアルトの能力……?」
こむぎとあさがおだけ出しておく。何かあった時、身代わりになってくれるはずだ。
そう思って警戒している時だった。
大きな翼と赤い肌をした、まるでドラゴンのようなものが突如上空に現れた。
音がなくとも感じ取れるその巨躯の上には一人の男がこちらを見下している。
その異常なまでに伝わってくる男の敵意に、俺はゼーラの前に出た。
「ほう、庇っているのか」
他の音がないせいで、男の声が鮮明に聞こえてきた。
「お前は一体誰なんだ?」
こむぎたちも本能的に男とドラゴン型の魔獣を警戒するが、地面から遠く離れた上空に留まっているせいでこむぎたちが攻撃しようとも多分届かない。
「私か。私はそうだな……? ――皇帝、とでも呼んでくれ」
客観的に見たら明らかな戦力差が俺たちの間には見えていた。
皇帝と呼ばれる男はこの地に降りてくる気配がない。敵意は感じるが、攻撃してくる様子もない。
「アルト、今のうちに逃げよう」
後ろにいるゼーラが服を小さく引っ張る。
ゼーラの言う通り、逃げるなら今しかない。こむぎたちで気を引いて、俺たちはこの場から離れる。それがこの状況に置ける一番の得策だと、俺と同様にゼーラも判断したんだと思う。
「聞こえているぞ? この《音滅の魔石》は誰の魔力で動いていると思っている? 私の声がお前たちに聞こえて、お前たちの声が私に届かないわけがなかろう」
「何が目的なんだ。そうやって上にいるだけじゃ分からないんだけど、、降りてきてくれる?」
ここに俺たちを閉じ込めた犯人は分かったが、閉じ込めた意図が分からない。
戦力差はあっちの方がはっきり分かっているはずだし、攻撃するなら既にしていてもおかしくない。
ましてやこちらは二人とも子供だ。そのうち一人は女の子で非戦闘系の天職だ。あちらが警戒してるわけもない。
俺の《無からの覚醒》にも限界がある。多分こむぎ、いやボスのレッドウルフ含めた全勢力で挑んでも、あのドラゴンを落とせるかすら分からない。
「私の目的はお前の持つ《破防の魔石》だ。お前も災難だったな。あの死に損ないに渡された石ごときでこの私とこうして対峙するなんてな」
「わざわざその石ごときでこんな場所まで追いかけてくるなんてさぞ暇だったんだね。でもこれ一万ゴールドで買ったからさ? せめてお金だけでもくれる? ただで渡すのは多分レナードに怒られるから」
「ほう、怒られたくないのならその人間を殺せばよかろう?」
「そもそも僕が君を殺せば魔石を取らずに済むって結論に至らなかった?」
「ははは、お前は面白い。気付いているのだろう? 私に勝てないことに。――安心しろ、私もお前が時間稼ぎをしていることに気が付いている」
そう言うと、男はドラゴンの背中に足踏みして合図した。その瞬間、ドラゴンはこちらに口から炎を吐いた。
まるで火炎放射器のような威力だ。
俺はゼーラを逆の方向で待機しているあさがおの場所へ押し飛ばす。そして俺の前にレッドウルフを壁として三匹出してドラゴンの炎を受け止めた。
「これが魔石の効果……」
見るとレッドウルフの間を貫通した炎が俺の前で完全に停止し、すぐに消滅した。
今は驚いてる場合でも、感心する場合でもない。
非戦闘職のゼーラをこの場から逃がす。
「――『魔力付与』ッ! ……あさがお! ゼーラを連れてここから離れろ!」
「なっ! アルト! あんたが殺されるわ!」
「そう思うんなら早くレナードとネアを連れてきて。頼んだよ」
あくまでこの空間は《音滅の魔石》で音が消えているだけ。結界のような壁があるわけではない。
俺の指示を聞いたあさがおは村のある方へと走った。『魔力付与(エンチャント)』は施した。今できる最善の手である。
「はぁ、《破防の魔石》が無かったらもう死んでたところだった……」
炎が熱くなかったのも、その魔石の効果なのだろうか。生きて帰れたら色々と試すしよう。
それより今は。
「お前の力に敬意を払って、この私がお前の相手をしてやろう」
目の前に降りてきたこの男をどうにかしないといけない。
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