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10話『決着の時』

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 俺、もといアルトの体の年齢は十五歳。
 それに対して、兄のメノの年齢は十七歳。

 ――差は二歳。単純な数字のように見えるが、この二年は大きい。

 魔法を覚えたり、あるいは鍛えたりする二年の差は元いた世界の歳差よりも、才能だけでは解決できないほどにその価値は大きいのだ。


「――んじゃあ本気の勝負と行くかァ、アルト」


 この戦い......いや、この世界を生きていくと決めた時の本来の目的を思い出そう。

 ――俺は強くなって人を救う。

 二年ごときの差で言い訳しているようでは、今後目の前に立ちはだかるモンスターに勝てるはずもない。

 今の俺ではボスのレッドウルフに勝てるかどうかも怪しい。
 今はそんな曖昧な実力なのだ。


 だからこそ、今ハッキリさせる――、


「総力戦と行こうか、こむぎ」


 円の中にギリギリ収まったのはおよそ三十近いレッドウルフの漆黒の軍勢。

 それに加えて、こむぎの二回り近いボスレッドウルフも俺の後ろに控えている。

 名付けたこむぎたち五匹以外を呼ぶのはこの戦いが初めてだ。そいつらの実力を見るのにも、この戦いは丁度良い。

「本当に気持ち悪ィ力だなァ!」

「酷いですね、メノ兄さん。僕の代わりに戦ってくれる兵士たちに向かって」

「――はッ、条件変更だ、アルト! 俺様に負けたらその力のこと、知ってる限り全て吐けェ!」


 メノが叫ぶと同時に、再び無詠唱での広範囲攻撃が轟音を上げながら始まった。

 《無からの覚醒ネクロマンス》は魔力が尽きない限り、何度体を潰されようが元の形に再生するらしい。
 だから先程潰されたらこむぎやあじさいも、今は元に戻っている。だが、その分魔力消費も大きい。

 数を出して攻めるのも手ではあるが、結局潰されたら無駄な魔力の消費となって終わる。

 だからこそ早期決着が望ましい。

「――《魔力付与エンチャント》っ! あじさい、攻撃を避けてもう一度円から押し出せ!」

 メノの魔法は威力も範囲も強力だ。
 しかも対象が不要であの威力。《魔力付与エンチャント》して耐久値をあげたところで、あの力には到底敵わないと思う。

 だからこそ、速さで押し切るしかない。
 幸い、ここは屋敷の庭だ。メノが大きな攻撃をすればするほど砂埃が舞う。
 そしてその砂埃によって視界が狭くなる分、死角は広く多くなるはずだ。

「おいおい、こんなもんじゃねェよなァ! クソ落ちこぼれがァアあああ!」

「......くっ、なんて魔力量なんだ」

 二十秒近い重力攻撃の連打。それは止まることを知らないのか、なんなら段々と速度が上昇し始めた。

 三十いた俺の兵士も気付けば半分に減らされている。

 砂埃のせいで、俺まであさがおがどこにいるのか視認できない。だが、あさがおにのみ施した《魔力付与(エンチャント)》の感覚はまだあるので、おそらく潰されてはいない。

 どこか。死角からメノを狙っているはずだ。

 全てを指示するわけではない。
 その動きはレッドウルフの本能に近いのかもしれない。本来の捕食者としての、獲物を確実に捉える時の本能的な動き。

「はぁ、頭が痛い......」

 俺の魔力量ではそろそろ限界らしい。
 このまま倒れても負けになるんだ。もっと速度を上げて、早く決着をつけよう。

「行け」

 ――グラァァアアアアア

 後ろから響くのはボスレッドウルフの雄叫び。
 後方から放たれる衝撃波に周囲の砂埃は一気に消し飛んだ。

 晴れた視界にうっすら見えてきたメノ。――だが、視線を下に向けると体の半分が煙となったあじさいが地面に倒れていた。

 俺のメノに対しての唯一の攻撃手段と言ってもいいあじさいの攻撃は既に軽々と止められていたらしい。

「ちッ、この程度かよ。数で押せば勝てると思ってるおめェのお花畑に腹が立つぜ」

「はぁはぁ......ありがとうメノ兄さん」

「あァ? 何言ってんだァ?」

「メノ兄さんが死角を作ってくれたから、僕の兵士はメノ兄さんの背後を取れたよ――こむぎ、あとは任せた」

「なッ! 見えねェとこにいやがったのかァ!」


 ――魔力が完全に切れた。
 こむぎ以外のレッドウルフを消して、最後はあいつに任せる。
 《魔力付与エンチャント》も俺に魔力がないため、これ以上は発動できない。

 あとは力一杯押し出すだけだ。

「円の外に出せば、勝ち、だ......」

 まぶたが意識に反抗して閉じていく。

 そして意識が途切れる瞬間――兄さんの重力攻撃の音と、レナードの叫びながら駆けつけてくる音。そして勝負の終わりを告げるシーナの淡々とした声が、耳に入ってきた。



 どっちが勝ったんだろう。
 こむぎはちゃんとやってくれたんだろうか。


 俺はそれを見届けることなく――倒れてしまった。
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