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第101話 主砲一斉打ち方、はじめ
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その日の午後、出雲と利尻は、目標であるブリーデヴァンガル島南西海岸油田沖の大島、中島を45度2万mに望見する海域に達した。
砲熕射撃、つまり艦砲射撃のうち、今は昼間であるから昼間射撃となり、実戦であるから戦闘射撃になる。
戦闘ラッパが高らかに鳴り響くと、将兵たちは一斉に飛び立ち、それぞれの受け持ちに従って移動物その他を固縛し、甲板舷側のスタンション、ハンドレールを倒し、昇降口を閉鎖して、主砲、機銃、噴進砲など、それぞれ自分の配置へ飛び込む。
出雲の主砲は、36㎝連装砲塔4基で、全部甲板に2基4門、中部甲板に2基4門があり、それぞれ前群、後群に分かれており、前群、即ち一、二番砲の砲台長を特務大尉が務め、それぞれの砲塔の分隊である一、二分隊長兼任であった。
後群の三、四分隊長も同じく三、四番砲塔の砲台長で、それぞれ戦闘時には、二、四番砲塔の測距儀がある将校塔に砲台長として配置に着き、砲戦を観測し、同時に「独立打方」の砲側照準に備えていた。
兵学校卒の士官ではなく、水兵上がりの特務士官が砲台長を務めていることに、このポストの実務的重要さが現れている。
各砲塔の砲塔長は兵曹長または特務少尉で、各砲塔の尾栓後方中央砲塔指揮室で左、右の各砲に号令を掛けるが、伝令が一人付いていた。
ほかの砲塔配置員は、先任上等兵曹の旋回手、上等兵曹の射手がいて、後は左右それぞれの砲に共通・同数で下士官の一番砲手、水兵の2番・3番・4番砲手、水兵の照尺手、伝令、下士官の換装室長ほか1名で、計20名である。
さらに弾庫には下士官の弾庫長以下18名、火薬庫には下士官の火薬庫長以下18名が配置されていて、砲塔1基つき、56人~58人がいて、これで一個分隊を編成しており、先の特務大尉が分隊長を務めていた。
それぞれの主砲塔では、砲塔長が配置状況を一瞥すると、伝令に命じ、指揮所に
「〇番配置ヨシ」
と報告させた。
続く
「試動!」
の号令で、直ちに砲可動水圧弁が開かれ、旋回は水圧発動機を可動にし、俯仰角は水圧起動弁を開くことで「戦闘」下令即応となる。
出雲の前檣楼(前部艦橋)のトップに、円筒型の方位盤射撃所と檣楼射撃指揮所があって、その後方に360度回転する九四式測距儀が据えられ、その上部に二号一型電探のアンテナが取り付けられている。
この方位盤射撃所は、黒部砲術長が指揮を執り、旋回手は先任衛兵伍長の定山上等兵曹が務めていた。
二番、四番砲塔の天蓋上に備えられた測距儀は、左右各120度の範囲で回転し、砲戦側に向き、捉えた目標を測距して発令所に諸元を送ることになる。
前檣楼の九四式測距儀は上下像合致式で、測手2名、旋回手、発信手、伝令各1名の計5名が配置され、更に、測距指揮所にも測的長以下4~5名が配置に着き、目標発見時は、4~5万m付近から測距が始められる。
したがって、目標である大島の測距は、早い段階から始められたことになる。
主砲発令所(射撃盤)は、前部艦橋喫水線下部にあり、分厚い防御甲鈑に守られており、測距指揮所から、各種の射撃諸元が発令所射撃盤に入って来る。
測距指揮所の測的盤から、一定時間ごとに測定された自艦の進路、速度、風向、風速、的針、的速度(この場合は相対速度)、内外角、自艦と的との移動距離等を発令所の射撃盤に送る。
発令所では、主砲発令所長の指揮の下で、射撃盤長以下10名近い将兵が大型の射撃盤(機械式計算機)の各諸元ハンドルに取り付き、測的盤から諸元を受け、的針、的速、方向、天候、気象(湿度)、風速、風向、地球自転速度(転向力)、四基ある主砲の潜差、ラジアン角が計算され、方位盤と砲側に送られる。
本来であれば、正確に測定された緯度における地球自転速度(転向力)が加味されるところ、異世界とあって、太陽高度からはじき出した仮の緯度を基にした計算であるため、正確さは未知数であった。
いずれにしても、普段、大きさがせいぜい300mの的を目標としていたから、差し渡し1㎞ほどの大島は、文字どおり大きな目標と言って良かった。
出雲は、大島を右に見て航行し、距離を1万5千mとして即座に攻撃できる体勢に持ち込んだ。
「測距ヒト・ゴ・マル。」
鳴り響くラッパに各砲塔員が満を持している。
そこへ砲術長の
「一斉打方。」
が下令された。
各砲塔長は、発令所からの指示で左右砲の発射準備を確認し
「左右砲ヨシ。」
を発声、伝令が通信盤の「発射準備ヨシ」のボタンを押した。
射手と旋回手は、方位盤から伝えられる府仰角、旋回角度を標示する角度受信器の基針(赤)を追針(白)が追い越さないように、神経を集中してハンドルを操作し、追針を基針に合致させた。
その瞬間「打ち方はじめ」のラッパが鳴り響き、同時に受信器の警笛が2秒間「ピーッ」と鳴って、受信器盤面の右の赤灯、左の青灯がパッと点滅すると、発砲の瞬間である。
この時、方位盤射撃指揮所では、右手にチョークを持ち弾着時計を見つめて待機していた水兵長が
「発砲!」
と叫びながら、射距離に当たる目盛りにチョークで目印を付けた。
出雲の主砲弾は、初速が秒速780mなので、距離1万5千mの弾着飛行時間は、19秒ほどになる。
弾着時計は、飛行秒時を刻々と刻む。
「初弾ヨーイ…ダーンチャク!」
時計員が弾着を告げる。
この一瞬に神経を集中し砲術長は、観測、苗頭修正を行う。
弾着の水柱が、大島の向こう側、やや右に上がった。
全弾、距離を遠く(全遠)、相対速度を遅く取っていたことになる。
砲術長は、直ちに下令
「下げ6、左寄せ3急げ。」
第二射発砲、時計員が
「下げ左寄せ苗頭修正弾、ヨーイ…ダーンチャク!」
と報告と同時に、大島に6つの着弾による爆発が見られた。
パチパチパチ…
時ならぬ拍手に白石が振り向くと、命中弾を見たグリトニル一行が拍手をしていた。
これには特に意味はなく、素直に砲撃を称賛しているらしかった。
「さて、あと何発でセイレーンとやらを壊滅できるか。」
白石は、あまりよく見えないが、双眼鏡で大島の方を見遣って呟いた。
砲熕射撃、つまり艦砲射撃のうち、今は昼間であるから昼間射撃となり、実戦であるから戦闘射撃になる。
戦闘ラッパが高らかに鳴り響くと、将兵たちは一斉に飛び立ち、それぞれの受け持ちに従って移動物その他を固縛し、甲板舷側のスタンション、ハンドレールを倒し、昇降口を閉鎖して、主砲、機銃、噴進砲など、それぞれ自分の配置へ飛び込む。
出雲の主砲は、36㎝連装砲塔4基で、全部甲板に2基4門、中部甲板に2基4門があり、それぞれ前群、後群に分かれており、前群、即ち一、二番砲の砲台長を特務大尉が務め、それぞれの砲塔の分隊である一、二分隊長兼任であった。
後群の三、四分隊長も同じく三、四番砲塔の砲台長で、それぞれ戦闘時には、二、四番砲塔の測距儀がある将校塔に砲台長として配置に着き、砲戦を観測し、同時に「独立打方」の砲側照準に備えていた。
兵学校卒の士官ではなく、水兵上がりの特務士官が砲台長を務めていることに、このポストの実務的重要さが現れている。
各砲塔の砲塔長は兵曹長または特務少尉で、各砲塔の尾栓後方中央砲塔指揮室で左、右の各砲に号令を掛けるが、伝令が一人付いていた。
ほかの砲塔配置員は、先任上等兵曹の旋回手、上等兵曹の射手がいて、後は左右それぞれの砲に共通・同数で下士官の一番砲手、水兵の2番・3番・4番砲手、水兵の照尺手、伝令、下士官の換装室長ほか1名で、計20名である。
さらに弾庫には下士官の弾庫長以下18名、火薬庫には下士官の火薬庫長以下18名が配置されていて、砲塔1基つき、56人~58人がいて、これで一個分隊を編成しており、先の特務大尉が分隊長を務めていた。
それぞれの主砲塔では、砲塔長が配置状況を一瞥すると、伝令に命じ、指揮所に
「〇番配置ヨシ」
と報告させた。
続く
「試動!」
の号令で、直ちに砲可動水圧弁が開かれ、旋回は水圧発動機を可動にし、俯仰角は水圧起動弁を開くことで「戦闘」下令即応となる。
出雲の前檣楼(前部艦橋)のトップに、円筒型の方位盤射撃所と檣楼射撃指揮所があって、その後方に360度回転する九四式測距儀が据えられ、その上部に二号一型電探のアンテナが取り付けられている。
この方位盤射撃所は、黒部砲術長が指揮を執り、旋回手は先任衛兵伍長の定山上等兵曹が務めていた。
二番、四番砲塔の天蓋上に備えられた測距儀は、左右各120度の範囲で回転し、砲戦側に向き、捉えた目標を測距して発令所に諸元を送ることになる。
前檣楼の九四式測距儀は上下像合致式で、測手2名、旋回手、発信手、伝令各1名の計5名が配置され、更に、測距指揮所にも測的長以下4~5名が配置に着き、目標発見時は、4~5万m付近から測距が始められる。
したがって、目標である大島の測距は、早い段階から始められたことになる。
主砲発令所(射撃盤)は、前部艦橋喫水線下部にあり、分厚い防御甲鈑に守られており、測距指揮所から、各種の射撃諸元が発令所射撃盤に入って来る。
測距指揮所の測的盤から、一定時間ごとに測定された自艦の進路、速度、風向、風速、的針、的速度(この場合は相対速度)、内外角、自艦と的との移動距離等を発令所の射撃盤に送る。
発令所では、主砲発令所長の指揮の下で、射撃盤長以下10名近い将兵が大型の射撃盤(機械式計算機)の各諸元ハンドルに取り付き、測的盤から諸元を受け、的針、的速、方向、天候、気象(湿度)、風速、風向、地球自転速度(転向力)、四基ある主砲の潜差、ラジアン角が計算され、方位盤と砲側に送られる。
本来であれば、正確に測定された緯度における地球自転速度(転向力)が加味されるところ、異世界とあって、太陽高度からはじき出した仮の緯度を基にした計算であるため、正確さは未知数であった。
いずれにしても、普段、大きさがせいぜい300mの的を目標としていたから、差し渡し1㎞ほどの大島は、文字どおり大きな目標と言って良かった。
出雲は、大島を右に見て航行し、距離を1万5千mとして即座に攻撃できる体勢に持ち込んだ。
「測距ヒト・ゴ・マル。」
鳴り響くラッパに各砲塔員が満を持している。
そこへ砲術長の
「一斉打方。」
が下令された。
各砲塔長は、発令所からの指示で左右砲の発射準備を確認し
「左右砲ヨシ。」
を発声、伝令が通信盤の「発射準備ヨシ」のボタンを押した。
射手と旋回手は、方位盤から伝えられる府仰角、旋回角度を標示する角度受信器の基針(赤)を追針(白)が追い越さないように、神経を集中してハンドルを操作し、追針を基針に合致させた。
その瞬間「打ち方はじめ」のラッパが鳴り響き、同時に受信器の警笛が2秒間「ピーッ」と鳴って、受信器盤面の右の赤灯、左の青灯がパッと点滅すると、発砲の瞬間である。
この時、方位盤射撃指揮所では、右手にチョークを持ち弾着時計を見つめて待機していた水兵長が
「発砲!」
と叫びながら、射距離に当たる目盛りにチョークで目印を付けた。
出雲の主砲弾は、初速が秒速780mなので、距離1万5千mの弾着飛行時間は、19秒ほどになる。
弾着時計は、飛行秒時を刻々と刻む。
「初弾ヨーイ…ダーンチャク!」
時計員が弾着を告げる。
この一瞬に神経を集中し砲術長は、観測、苗頭修正を行う。
弾着の水柱が、大島の向こう側、やや右に上がった。
全弾、距離を遠く(全遠)、相対速度を遅く取っていたことになる。
砲術長は、直ちに下令
「下げ6、左寄せ3急げ。」
第二射発砲、時計員が
「下げ左寄せ苗頭修正弾、ヨーイ…ダーンチャク!」
と報告と同時に、大島に6つの着弾による爆発が見られた。
パチパチパチ…
時ならぬ拍手に白石が振り向くと、命中弾を見たグリトニル一行が拍手をしていた。
これには特に意味はなく、素直に砲撃を称賛しているらしかった。
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