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第52話 軍議と防衛兵力動員
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お姫様と女給を兵士の群衆の中から救助、収容した、安春曹長と栄伍長搭乗の九八式直協機は、それでも悠々と空に舞い上がり、北方のトゥンサリル城を目指した。
「お客が二人になったときは、偵察席の狭さのほか、重量にヒヤヒヤしたであります。」
栄が、窮屈になった偵察席から、安春に伝声管を通じて話し掛けた。
「二人の体重を合わせて30貫目もないだろう。対地攻撃のときに積む爆弾は、40貫目位はあるぞ。」
安春が、「心配は要らない。」とばかりに答えた。
「しかし、爆弾は両翼と胴体下に塩梅良く搭載されますから、偵察席にだけ同じ重さが加わるのは、操縦がし難くはないのでありますか。」
「なあに、平チャラさ。ほら、こんなこともできるぞ。」
栄の心配を他所に、安春は、機体を大きく左右に振ってみせた。
「うわぁ、曹長殿、そんなことをされるとマジ危ないので、止めてもらいたいであります。」
栄は「便乗者」のうち、メイドを胴体内に押し込め、お姫様を、後ろへ回した偵察席に座った自身の膝の上で支えていたので、結構大変だったのである。
「おお、スマンスマン。すぐにトゥンサリル城へ着くから、ちぃっと辛抱してくれ。」
安春は、笑いながらそう言った。
その頃、トゥンサリル城、デ・ノーアトゥーン港、ギムレー湾は、それぞれ大わらわだった。
直協機の報告では、敵は歩兵2千、騎兵1千、馬匹牽引砲兵100とされていたから、まず、ブリーデヴァンガル属領主府兵と、駐屯のミズガルズ王国兵を合わせても、直ちに動員できる兵力はせいぜい7、800程度と見られ、防御を城の南側に集中するとしても、絶対数が不足していた。
トゥンサリル城では、グリトニル辺境伯、庶務尚書ケッペル男爵、軍務尚書レンダール男爵、商務尚書ハーン准男爵の属領主府首脳と、急遽参集を要請された、第25航空戦隊桑園少将、山花大佐、稲積大佐、白石大佐、北東方面艦隊南郷大佐、大谷地中佐と陸軍第11戦車連隊第7中隊長朝日大尉が出席した、軍議が開かれていた。
そこでは、直協機が撮影したであろう偵察写真を待ちながらも、今後の方針が話し合われていたが、当然、属領主府側からは、敵艦隊を殲滅した時同様に、蛟龍搭載機による空襲で敵兵力を可能な限り消耗させることが要求された。
これに対し日本側からは、航空燃料や爆弾は有限であり、特に、陸上攻撃にも有用な6番(60㎏爆弾)は、先の艦隊殲滅戦で大量に消費されており、保有数の目減りの著しいことが強調され、空襲実施には消極的な意見が出された。
日本軍は、何よりもまだ本来作戦のことを考慮せねばならず、限りあるリソースを「無駄遣い」したくなかったのである。
また、ワイバーン・ハーピー襲来のときも、百隻に上る敵艦隊殲滅のときも、属領主府は、ほぼ何もしていないのであるから
「陸上戦闘くらいは自分で何とかしてくれ。」
というのが日本軍側の主張でもあった。
「なまじっか圧倒的な武力を見せたものだから、完全におんぶに抱っこだな、これは。」
思わず漏れた桑園の本音である。
また、属領主府側からしてみれば
「駐屯を認めたのだから、その土地の防衛には力を貸して当たり前。まして、空襲は日本軍に損害が出ないのであるから、出し惜しみは理解できない。」
という認識があるのも、当然と言えば当然である。
ここで、朝日大尉が一つ提案をした。
彼は、たかが尉官がこのような場で意見を言うのはどうか、とも思いながら述べた。
「それでは、我々陸軍部隊と海軍陸戦隊が防衛に力をお貸しする、ということで如何でありますか。ギムレー湾から全部隊を引き抜くのに不安はあるとしても、警備小隊程度の兵力を残し、あとは全力で本トゥンサリル城防衛に当たれば、戦車と野砲中隊を含めた連隊規模の兵力が動員できることになりますから、相当な敵兵力に対抗し得るものと思料されるのであります。」
桑園は
「大胆な提案だ。」
と思った。
陸上戦力のほぼ全てを投入しようというものだったからである。
「だがしかし、有効だ。」
桑園は考えた。
空襲ありきの方針ではなく、属領主府側にも防衛に参加してもらう、いわば正攻法での防衛戦、ということである。
一同が戦力を総合してみると、すでにデ・ノーアトゥーンに展開もしくはこちらに向かっている戦車、歩兵、陸戦隊を含め
三式中戦車 3輌
一式中戦車 3輌
九七式中戦車(新砲塔) 3輌
九七式中戦車(旧砲塔) 6輌
九五式軽戦車 2輌(3輌は、ギムレー湾残置)
九七式軽装甲車 3輌
特二式内火艇 3輌
機械化砲兵1個中隊(一式砲戦車2輌、九〇式野砲2門)
陸軍歩兵2個中隊(1個小隊はギムレー湾残置)
海軍陸戦隊半個中隊
といった陣容になった。
歩兵中隊には、重機関銃、軽機関銃、重擲弾筒のほか、大隊砲(九二式野砲)小隊が含まれていたので、歩兵銃(小銃)隊の人数は一般の歩兵中隊より少ないが、火力が充実した中隊編成になっていた。
ギムレー湾周辺にいる戦車隊と弾列隊、整備隊は、直ちに出発し、3時間半から4時間程度でデ・ノーアトゥーンへ到着するものと見込まれたが、問題は、機動力を持たない歩兵中隊の移動であった(野砲は牽引車あり。)。
自動貨車と馬車を総動員し、ピストン輸送する案があったものの、無駄な時間が多く、将兵にも負担が掛かることから、百一号型輸送艦2隻で、武器、弾薬共々一気に輸送することにした。
これであれば、中隊全兵力の輸送が、おおむね5~6時間で完了することになるので、直ちに準備がなされ、輸送実施となった。
また、デ・ノーアトゥーン外周城壁の外側に野戦陣地を構築することとされ、散兵線を展開するための塹壕のほか、塹壕のさらに外側へ、日本古来の防御施設である薬研堀(底が「V」字になっている。)が掘削されることになったが、これらの作業は、日本軍人だけでは到底人手が足りないため、属領主府側から、労働力として人夫が提供されることになった。
基本的な作戦構想は
・敵が比較的遠方にあるうちに、零戦と二式水戦、
零観、隼が低空飛行で敵を威圧するとともに機銃
射で損害を与える。なお、可能であれば指揮系統
に損害を与え敵を混乱に至らしめる。
・敵が射程距離に入り次第、野砲と戦車砲が砲撃を
開始する。この場合、敵の指揮系統、敵砲兵及び
騎兵を主目標とする。
・残りの銃砲も、射程距離に敵が入り次第、射撃を
開始する。
・敵が減耗した段階で戦車隊が蹂躙攻撃を行い、敵
の戦意を喪失させるとともに、敵の指揮系統が健
在であれば、これを壊滅させる。
というものであった。
敵が夜襲を行う可能性も考えられたが、偵察と接敵を万全のものとし、実際に夜襲があれば、野砲からの照明弾発射と水偵、艦攻からの照明弾投下で、敵を闇から引き摺り出す算段を行った。
ところで作戦会議の途中、直協機の帰還と、直協機による意外な人物救出の報がもたらされた。
「お客が二人になったときは、偵察席の狭さのほか、重量にヒヤヒヤしたであります。」
栄が、窮屈になった偵察席から、安春に伝声管を通じて話し掛けた。
「二人の体重を合わせて30貫目もないだろう。対地攻撃のときに積む爆弾は、40貫目位はあるぞ。」
安春が、「心配は要らない。」とばかりに答えた。
「しかし、爆弾は両翼と胴体下に塩梅良く搭載されますから、偵察席にだけ同じ重さが加わるのは、操縦がし難くはないのでありますか。」
「なあに、平チャラさ。ほら、こんなこともできるぞ。」
栄の心配を他所に、安春は、機体を大きく左右に振ってみせた。
「うわぁ、曹長殿、そんなことをされるとマジ危ないので、止めてもらいたいであります。」
栄は「便乗者」のうち、メイドを胴体内に押し込め、お姫様を、後ろへ回した偵察席に座った自身の膝の上で支えていたので、結構大変だったのである。
「おお、スマンスマン。すぐにトゥンサリル城へ着くから、ちぃっと辛抱してくれ。」
安春は、笑いながらそう言った。
その頃、トゥンサリル城、デ・ノーアトゥーン港、ギムレー湾は、それぞれ大わらわだった。
直協機の報告では、敵は歩兵2千、騎兵1千、馬匹牽引砲兵100とされていたから、まず、ブリーデヴァンガル属領主府兵と、駐屯のミズガルズ王国兵を合わせても、直ちに動員できる兵力はせいぜい7、800程度と見られ、防御を城の南側に集中するとしても、絶対数が不足していた。
トゥンサリル城では、グリトニル辺境伯、庶務尚書ケッペル男爵、軍務尚書レンダール男爵、商務尚書ハーン准男爵の属領主府首脳と、急遽参集を要請された、第25航空戦隊桑園少将、山花大佐、稲積大佐、白石大佐、北東方面艦隊南郷大佐、大谷地中佐と陸軍第11戦車連隊第7中隊長朝日大尉が出席した、軍議が開かれていた。
そこでは、直協機が撮影したであろう偵察写真を待ちながらも、今後の方針が話し合われていたが、当然、属領主府側からは、敵艦隊を殲滅した時同様に、蛟龍搭載機による空襲で敵兵力を可能な限り消耗させることが要求された。
これに対し日本側からは、航空燃料や爆弾は有限であり、特に、陸上攻撃にも有用な6番(60㎏爆弾)は、先の艦隊殲滅戦で大量に消費されており、保有数の目減りの著しいことが強調され、空襲実施には消極的な意見が出された。
日本軍は、何よりもまだ本来作戦のことを考慮せねばならず、限りあるリソースを「無駄遣い」したくなかったのである。
また、ワイバーン・ハーピー襲来のときも、百隻に上る敵艦隊殲滅のときも、属領主府は、ほぼ何もしていないのであるから
「陸上戦闘くらいは自分で何とかしてくれ。」
というのが日本軍側の主張でもあった。
「なまじっか圧倒的な武力を見せたものだから、完全におんぶに抱っこだな、これは。」
思わず漏れた桑園の本音である。
また、属領主府側からしてみれば
「駐屯を認めたのだから、その土地の防衛には力を貸して当たり前。まして、空襲は日本軍に損害が出ないのであるから、出し惜しみは理解できない。」
という認識があるのも、当然と言えば当然である。
ここで、朝日大尉が一つ提案をした。
彼は、たかが尉官がこのような場で意見を言うのはどうか、とも思いながら述べた。
「それでは、我々陸軍部隊と海軍陸戦隊が防衛に力をお貸しする、ということで如何でありますか。ギムレー湾から全部隊を引き抜くのに不安はあるとしても、警備小隊程度の兵力を残し、あとは全力で本トゥンサリル城防衛に当たれば、戦車と野砲中隊を含めた連隊規模の兵力が動員できることになりますから、相当な敵兵力に対抗し得るものと思料されるのであります。」
桑園は
「大胆な提案だ。」
と思った。
陸上戦力のほぼ全てを投入しようというものだったからである。
「だがしかし、有効だ。」
桑園は考えた。
空襲ありきの方針ではなく、属領主府側にも防衛に参加してもらう、いわば正攻法での防衛戦、ということである。
一同が戦力を総合してみると、すでにデ・ノーアトゥーンに展開もしくはこちらに向かっている戦車、歩兵、陸戦隊を含め
三式中戦車 3輌
一式中戦車 3輌
九七式中戦車(新砲塔) 3輌
九七式中戦車(旧砲塔) 6輌
九五式軽戦車 2輌(3輌は、ギムレー湾残置)
九七式軽装甲車 3輌
特二式内火艇 3輌
機械化砲兵1個中隊(一式砲戦車2輌、九〇式野砲2門)
陸軍歩兵2個中隊(1個小隊はギムレー湾残置)
海軍陸戦隊半個中隊
といった陣容になった。
歩兵中隊には、重機関銃、軽機関銃、重擲弾筒のほか、大隊砲(九二式野砲)小隊が含まれていたので、歩兵銃(小銃)隊の人数は一般の歩兵中隊より少ないが、火力が充実した中隊編成になっていた。
ギムレー湾周辺にいる戦車隊と弾列隊、整備隊は、直ちに出発し、3時間半から4時間程度でデ・ノーアトゥーンへ到着するものと見込まれたが、問題は、機動力を持たない歩兵中隊の移動であった(野砲は牽引車あり。)。
自動貨車と馬車を総動員し、ピストン輸送する案があったものの、無駄な時間が多く、将兵にも負担が掛かることから、百一号型輸送艦2隻で、武器、弾薬共々一気に輸送することにした。
これであれば、中隊全兵力の輸送が、おおむね5~6時間で完了することになるので、直ちに準備がなされ、輸送実施となった。
また、デ・ノーアトゥーン外周城壁の外側に野戦陣地を構築することとされ、散兵線を展開するための塹壕のほか、塹壕のさらに外側へ、日本古来の防御施設である薬研堀(底が「V」字になっている。)が掘削されることになったが、これらの作業は、日本軍人だけでは到底人手が足りないため、属領主府側から、労働力として人夫が提供されることになった。
基本的な作戦構想は
・敵が比較的遠方にあるうちに、零戦と二式水戦、
零観、隼が低空飛行で敵を威圧するとともに機銃
射で損害を与える。なお、可能であれば指揮系統
に損害を与え敵を混乱に至らしめる。
・敵が射程距離に入り次第、野砲と戦車砲が砲撃を
開始する。この場合、敵の指揮系統、敵砲兵及び
騎兵を主目標とする。
・残りの銃砲も、射程距離に敵が入り次第、射撃を
開始する。
・敵が減耗した段階で戦車隊が蹂躙攻撃を行い、敵
の戦意を喪失させるとともに、敵の指揮系統が健
在であれば、これを壊滅させる。
というものであった。
敵が夜襲を行う可能性も考えられたが、偵察と接敵を万全のものとし、実際に夜襲があれば、野砲からの照明弾発射と水偵、艦攻からの照明弾投下で、敵を闇から引き摺り出す算段を行った。
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